SPEAR OF DEATH   作:夜廻

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珍しき連日更新。駆け抜けたから文章拙いかもかも。


第九槍

カツカツと廊下に二つの足音と鎧の擦れる音が響く。俺とストレアのものだ。俺達は今、決闘者用の控え室に向かっている。そして控え室の扉の前に来たとき、その扉が開いた。

 

「……アンタか。来ていたんだな。」

 

「まぁな。強者同士の決闘だ。見に来ない道理は俺には無ぇ。」

 

扉の主はキリトだった。その後ろにはアスナもいる。

 

「何しにきたんだ? もしかして慰めにでも来てくれたのか?」

 

恐らくキリトは勝負の後直ぐに控え室に戻ったのだろう。だから俺が此処に来た訳も知らない。

 

「故あってヒースクリフと決闘する事になってな。お前が使っていた部屋を宛がわれたんだよ。」

 

「アンタがヒースクリフと?」

 

「此処ではなんだ。中で話そう。」

 

後ろのストレアも退屈そうだからな。

 

それから俺とキリトは此処に至る経緯と先程の戦いについて話した。その間ストレアとアスナは痺れを切らしたのか二人で乙女談義を繰り広げている。

 

「それで……勝てるのか? ヒースクリフに。」

 

「さぁな。戦ってみなきゃわからんさ。……まぁ、負ける気はしねぇけどな。」

 

そう言って笑って見せる。彼方からは兜のせいで此方の表情は見えないが、キリトは察してくれたようでキリトも共に笑う。

 

嘘だ。流石にGM権限を使われたら否応なしにでも負ける。あの一瞬の事でキリトもヒースクリフを疑問に思い始めたと思うが、出来ればその答えに辿りついてほしくはない。まだ時期が早すぎる。然るべき時に辿り着いて欲しいものだがね。

 

とはいえ、全く対策が無い訳ではない。俺にもGMの権限について知識がある。少し…いや、大分製作に口出ししていたからな。後に茅場が色々と追加や変更をしていたら形無しだが、絶対に使っているだろう権限は予測出来る。先ずはヒースクリフの体力バーが黄色または半分以下になったところを見たことが無いという点だ。恐らく不死属性を自分に付与しているのだろう。そして先程の決闘で見たあの一瞬。あれは俺の知識には無いが恐らく動きのアシストをするような何かだろう。手の内を知っている俺に対しては頻繁にこれを使って来るであろうから要注意だ。

 

とまぁこんな感じか。俺が無いわけでは無いと言った対策については後に話す。さて、こんな事をしている間に25分が過ぎた。俺はコンソールからある槍を持ち出す。

 

「その槍……見たこと無いな。 クエスト報酬か?」

 

「それは企業秘密だ。まぁ見てろよ。ヒースクリフに一泡吹かして来てやるよ。」

 

俺の言葉にキリトは笑うと、「楽しみにしてるよ。」そう言い残しアスナと共に控え室を出ていった。

 

「……ねぇ、セタンタくん。」

 

これまでアスナと会話の花を咲かせ、俺とキリトの会話を静観していたストレアが口を開いた。

 

「なんだ?」

 

俺は後ろにいるストレアに向き直る。そして其処にはニコニコしながら此方を見るストレアが。

 

「なんだお前、いつにもなくニコニコしやがって。」

 

「いやぁ、ほら。セタンタくんって私以外と殆ど喋んないじゃん? キリトくんと話していたとき、楽しそうだったから。」

 

「それがどうしたんだよ。」

 

「いやね。セタンタくんの新しい一面が見れて今日は吉日だねって。」

 

……まったくこのAIは。人を観察対象みたいな言い方しやがって。……まぁ、此方としても嬉しいものだ。最初出会った頃は殺戮兵器見たいに表情なんて無かったてのに、今じゃこんなに表情豊かなAIになっちまって。こうやって良い方向に成長させる事が出来たのは幸いだったな。

 

わしゃわしゃとストレアの頭を撫でる。そして闘技場の中央へと足を進める。

 

「セタンタくん!!」

 

またかと思い後ろを向く。ストレアは此方に満面の笑みを浮かべこうおれに言い放った。

 

「がんばってね! セタンタくん!」

 

俺はその応援に兜の中で笑うと何も言わず歩き出し、ハンドサインのみで返答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか。突然の申し入れ、すまなかったね。」

 

「良く言うぜ。キリトとの決闘、このイベントも、全部てめぇの手の内の癖によ。」

 

俺の受け答えにヒースクリフは笑うと次の言葉を繋いだ。

 

「さて、勝負の形式は初撃決着モードでいいかな?」

 

「その前にだ。ヒースクリフ。俺から一つ提案をさせて貰おう。」

 

俺の言葉に茅場は片眉を上げ、怪訝な顔つきで此方の言動を迎える。

 

「お前はこのイベントを決闘と言ったな。なら、何かを賭けて戦わなければ決闘とは言えない。」

 

「成る程、つまり君は戦うならお互いに何かを賭けようという訳だな。良いだろう、元は君は此方の都合で決闘に強制参加させた身。君の要望を受けようじゃないか。」

 

このやり取りを聞いていた観客は大いに歓声を上げ盛り上がる。

 

「なら、俺がお前に勝った暁には━━━━━」

 

その瞬間。爆音とも呼べる風が闘技場を通り過ぎ、セタンタの賭けたものを聞いたのは当事者のヒースクリフだけであった。

 

その要望を聞いたヒースクリフは一息笑うとコンソールを開き、決闘の申請を行った。

 

「━━━━ふっ。良いだろう。その代わり君がもし私に負けた場合。我がギルド『血盟騎士団』に入団して貰おう。」

 

俺は申請された決闘を承諾し、カウトダウンが始まると共に槍を構える。

 

「言ってろ。どうせ俺が勝つ。」

 

ヒースクリフは盾から剣を抜き構えた。

 

「……さっきの剣とは違うんだな。」

 

「耐久値が落ちていたのでね。変えさせてもらった。」

 

「そうか。」

 

カウントが零になり、ブザーが鳴る。

 

それと同時に飛び出し一瞬にしてヒースクリフとの距離が縮まる。そして槍の鋒をヒースクリフの喉仏へと吸い込ませる。

 

「……チィ!」

 

だが寸での所でヒースクリフが防ぎ難を逃れる。明らかに決まっていた攻撃を防ぐ。アシストの線は確定だな。

 

直ぐ様すれ違いに様に踏み込み相手の剣の間合いから脱っしヒースクリフの剣撃を避ける。そしてまたヒースクリフに突っ込みそれが盾によって防がれる。これを幾度となく繰り返す。

 

「随分と安直な攻撃だね。以前君と戦った時とは大違いだ。」

 

これを話すと言うことは周りには聞こえていないのであろう。

 

「どうだろうな。油断してるとアホ面かく羽目になっても知らねぇぞ。」

 

そう言って槍を素早く横に薙ぐ。不意の攻撃にヒースクリフは少し動きが遅れて盾を槍の来る側面に移動させ防ぐ。だが、衝撃までは殺しきれず横に吹き飛ばされる。そして間髪入れずに状態を崩した奴に槍を突き立て眉間を狙う。だが、奴は槍の側面に剣を当て矛先の軌道をずらし直撃を免れた。だが、頬の部分を深く抉りHPを奪っていく。

 

「……くっ!!」

 

ヒースクリフは飛び退き距離を取ろうとする。だが、それをさせる俺ではない。

 

「させるかよッ!!」

 

自慢の速さで二段突きを行い追撃を試みる。が、その全て防がれおまけにヒースクリフは既に体勢を立て直していた。

 

「……流石、神盾(ゴットガード)と呼ばれているだけの事はあるな。」

 

「そちらこそ、最前線を一人で担っていただけはある。」

 

「いつの話をしているんだよ。その当時のまんまだと思っているのなら認識を改めた方が良いぜ。さもないと痛い目を見ることになる。」

 

「当然、私はそんな事思っちゃいないさ。……さて、来るが良い。君の攻撃、全てを防いで見せよう。」

 

喋り過ぎだと言わんばかりにヒースクリフが盾を構える。だが、先程との構えとは違いやや前傾姿勢だ。奴め、前に出るつもりか。

 

ジリジリとヒースクリフが距離を縮めて来る。時間は既に4分を過ぎ、残り30秒となった。恐らく、この一合で勝負は決する。

 

どれだけ硬い盾でも、使い続ければ壊れるのと同じように、剣や槍も同じく壊れる。だが、ものには壊れ方というものがある。切断、粉砕。色々あるが過去に世界一硬いといわれるガラスがあった。このガラスは耐熱、銃弾。あらゆる衝撃に対して耐性をもっており正しく最強の盾といえる代物だった。だが、そのガラスはいとも簡単に壊されてしまう。壊されたガラスには大きな穴が開いていた。

 

その最強の盾を壊した人物はあるものを使った。それは杭。一点に衝撃を与え続け穴を開けるというもの。たったそれだけの事で最強を誇った盾は盾という機能を壊されてしまった。

 

このSAOでは、アイテム然り武具然り、その機能が失われる、或いは破壊されればポリゴンと化して消えていく。

 

つまりどういう事か。このSAOで上層のプレイヤーが使う武器は大抵耐久値が高く到底壊せるものではない。だが、ある部位に、一点に衝撃を与え続ければ現実世界よろしく、この世界でも突くものであればそれに"穴が開く"。斬るもので斬ったならばそれは"へし折れる"。

 

今の茅場のGM権限の穴。それは武器の耐久値。この初撃決着モードでは体力が黄色に突入するか、持ち手の武器が壊れたら負け。茅場は不死属性を纏っているため勝つならばそれしか方法が無い。だが、相手の武器を破壊するためには、それ相応の頑丈さが必要だ。

 

だからこの槍を用意した。不壊剣(デュランダル)の原典となったこの槍、不毀の極槍(ドゥリンダナ)ならばヒースクリフの『神盾(ゴットガード)』も破れる。

 

今までよりも強くヒースクリフに突進する。狙うは盾の中心。そこを強く突き穴を開ける。そうすれば盾としての機能が失われ盾は破壊されるだろう。

 

「うらぁッ!!」

 

突き出した槍の鋒と盾の中心部が激突する。暫しの拮抗があったがそれはヒースクリフによって流され、キリトの時のような状況になる。

 

「盾の耐久値。観点は良かったが君が相手だから対策をしていてね。……対策をしていなければ私の敗けだったよ。」

 

ヒースクリフはそう言い、片手の剣を俺に突き出す。

 

勝負は決した。誰もがそう思った。だが、セタンタが剣を体を無理矢理捻り避ける事によってそれは覆される。

 

「ハッ! 俺の方は何も考えなかったとでも思ったかよ! だがなこっちも策は用意しているんだぜ!」

 

もしも、茅場の使う武具に俺への対策として不壊属性がGM権限で付与されていた場合。普通ならば茅場が知り得ないものを持っていない限り絶対に勝てない。だが、俺には茅場の知り得ないものを持っている。

 

不毀の極槍の剣の部分で、ヒースクリフが突きだして来た剣の鍔と刃の根元に斬りつける。そして発動する。己の心意を。

 

「何ッ!? 」

 

カラン、とヒースクリフの刃が地面に落ちる。そしてそれはポリゴンと化し、ブザーが鳴り響いた。

 

軍配は俺の方へと上がった。俺の心意システム、『現実(リアリティ)』。俺の身体能力、攻撃、事象が現実のそれと同じになる能力。如何にGM権限がSAOで最強でも、現実では何の意味も成さない。ある意味で、茅場晶彦に現実を叩き付けた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 




セタンタの心意システムの詳細は第七槍にて。

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