「主砲斉射!!!」
長門さんの通る声が響き渡りました。
同時に、ッッドン!!! と熱風を撒き散らして、私の砲塔も火を噴きます。
しかし砲弾の軌道を見送ることなく、砲撃の反動で曲芸師よろしく後ろに一回転を決めた私は海に顔面を激突させました。
そりゃそうです。
私の体格で41センチ砲を撃てばそうなります。なのでこれも慣れっこです。
顔から落ちるのはさすがに堪えますが、最悪のパターンではないので良しとします。
「吹雪ナイスショット!」
敵に当たってたんですね、わかりませんでした。
川内さんの称賛に、私はうつ伏せのまま親指を立てて応えます。ホントは早く起き上がりたいけど無理です。
だってこの艤装、重いんです。とんでもなく。
さっきまで足が震えていましたから。恐怖ではなく、武者震いでもなく、荷重的な理由で。
私が装備してるというより、『41センチ連装砲(吹雪付き)』ですねもはや。
ヘタに立ち上がろうとすると確実に腰を痛めるので、そっと膝をついてそのまま垂直に持ち上げます。
慎重に、慎重に。
「……」
慎重に……。
「……」
……。
「……」
……。
「……ヲッ」
あ、今完全にヲ級さんと目が合いました。
間違いなく合いましたよ、二度見されましたもん。
そして早速艦載機を発艦してますね。動けない私にとっては命の危機です。
「吹雪ちゃん!」
このピンチに気づいた睦月ちゃんが凄い勢いで突進してきます。やめて睦月ちゃん嫌な予感がする私まだ中腰なんだ。
とはいえ背に腹は変えられません。ヲ級さんの爆撃を浴びるくらいなら、甘んじてこのタックルを受けましょう。
私が爆撃される寸前、睦月ちゃんが私のお腹に全力で肩をぶつけてくれました。
ふんぶぁ゙!!! とかいう今まで発したことのない声が出ました。たぶん女の子が出しちゃいけない声です。
「吹雪ちゃん大丈夫!?」
全然大丈夫じゃないです。
「私が囮になってヲ級を引き付けてくるね!」
そんな満面の笑みで宣言されたら引き止められないじゃないですかいってらっしゃいませ。
……。
……。
さて、ここで私の艤装の話をします。
コイツ、とにかく大きいです。そして重いです。膝が震えるほどに重いです。そのくせ水に浮きやがるんです。どうなってるんでしょうね。
威力は申し分ないです。戦艦の装甲も軽く貫通します。
はい。
さてさて、睦月ちゃんに突き飛ばされた後の状況ですが。
私は今、先程は免れた最悪のパターンとやらに嵌まっています。
具体的には仰向けの姿勢です。
艤装が浮き輪みたいになって、その上に上半身を乗せています。裏返された亀ってこんな気分なんでしょうね。手も足も地面……じゃなくて海面につかなくて、完全にお手上げの状態です。
なんで睦月ちゃんはこの状況で私を放置したのかな? 天然さんなのかな?
「……」
……。
「……」
……。
「……ッ」
タ級さんと目が合いました。というか現在進行中で見つめ合ってます。絶体絶命です。
「…………フッ」
あの野郎(野郎ではないけど)、鼻で笑いやがりました。
艦娘でありながら、艤装を着けていながら、無傷でいながら一歩も動けない私を笑いやがりました。
私が立てていたら、風穴空けるどころか粉微塵にしてやるんですが。まぁ逆の立場なら私も同じことをするでしょうし、今回は許してあげます。
結局タ級さんはスルーしていきました。無害だと思われたんですかね? 行っちゃったらそれはそれで寂しいです。
……。
……。
それはそうとして、暑いです。
見上げなくても広がる青空。燦々と元気な大陽。
日光浴と言えば聞こえはいいですが、完全に天日干しです。早く戦闘終わらないですか?
いかがはせむ。
そうして私がぼんやりしていると、ふと影が差しました。
雲で日が隠れたのか涼しくなって好都合、なんて呑気に考えていられるのもその時だけでした。
恨めしく照りつける大陽は雲を一つも侍らせていなくて、代わりに雲のようにふわふわと、人が浮いていたのです。
いや訂正、ゆっくり落ちてきてます。まさに私の真上に。しかもよくよく見れば見覚えのある背格好、後ろで短く束ねた黒髪。
見覚えというか、完全に私ですね。
あれ、艦娘って落ちてくるんですか? 海の中からひょっこり出てくるものだとばかり思っていました。
気を失ってるのか落ちてきた彼女をキャッチすると、そっと砲塔の上に着地させます。
……。
何ですかこのシュールな絵面は。
首だけ横に向けて彼女を観察します。うん、私ですね。コスプレした姉妹艦ではなさそうです。
ゆっくりと無い胸が上下してるところを見るに、やはり気を失ってるだけのようです。あとはとりわけおかしなところはありません。
ただ一つだけ奇妙なことは。
この吹雪は、駆逐艦みたいな装備をしていたことです。