帰らずの森に入った望虹たち。
「ほ、本当に迷路だね……」
「星明かりどころか月明かりも殆ど入ってこないな……」
その異様に入り組んだ木々が作り出す天然の迷路と殆ど光が入ってこない故の暗さに言葉を飲んでいた。
「止まっててもしかたないよ。とにかく進もう」
「はい、私もそう思います」
奈津稀と螢華にそう言われ、再び前に進み始めた望虹達。それぞれの顔にはなにか覚悟の様なものが浮かんでいた。
歩き始めて何時間か過ぎ、日付も変わった頃、望虹達は小高い丘のようなところにいた。そこだけなぜか木が生い茂ることなく空が見えていて、月明かりや、星が綺麗に見ることができた。そして、明らかに異質だった。この暗い迷路みたいな森の中でたった一カ所、光が差し込む場所。何かある。その考えは望虹達全員が持っていた。
「『彼らが眠りし場所』ってもしかしてここのことなのかなぁ?」
「これだけあからさまに開けてるとそうとしか思えないな」
「でもこれが罠であることも捨てきれないからしばらく待っていないみたいなら別の場所に行こう」
「はい、でも罠って?」
「こういう居そうなところでわざと襲わないで、安心させたところで先に進ませそこを襲ったり?」
「なるほど、それで気を緩めたところを襲うと楽にしとめられるってことですね」
「そういうこと」
奈津稀は納得したように答え、柚㮈もそれを肯定した。
「確かに、そのように考えるとその可能性も十分あるかと思われます」
「そうだな、15分くらい経っても何も起こらないようなら移動しよう」
「そうだね」
螢華も柚㮈の案に賛成し、こんな状況でもしっかり分析できる哲夜がこれからの行動を考え、それを望虹が賛成した。
「じゃあ、休憩がてらここにしばらくいよう」
柚㮈がそう言って適当な岩に腰を降ろす。それに倣って望虹たちもばらばら座り出す。そしてふと、望虹があることに気がついた。
「あれ? ここの地面、乾いてる……」
望虹は自分達が今まで歩いてきた地面が湿っていて何度も滑りそうになっていたことを思い出す。
「それは当然だろ。これだけ開けてれば太陽光もしっかり当たるし、それで地面も乾くだろうからな」
「うん、まあそうなんだけど。なんか違う気がするんだよね……」
地面が乾いてることが不思議ではなのだが何か違うと言う望虹。この手の望虹の直感はよく当たるため無視することは出来ない。しばらくそのことについて考えてはみたが望虹の違和感に特に思い当たることがなかったためそれを一度やめてまた奥に進むことにした。
そのときまだ望虹達は気付いていなかった、気配なく陸から、空から忍び寄ってきている影に。そして、望虹が自分の上着のポケットに入れた箱に流れ星のように光が入ってきていることに。
「ちょっと待って」
それは突然奈津稀から発せられた声だった。
「どうしたの?」
望虹が振り返り奈津稀に聞く。
「さっきから鳥や動物の声が全然聞こえなくなってるんだけど」
そう奈津稀に言われ始めて気付いた。さっきまでこの森の不気味さを増大させていた夜行性の鳥や動物の鳴き声が聞こえない。そればかりか時々望虹達を驚かしていた動物の気配すらなくなっていた。何かが来るかも、そう望虹が思ったとき横から木を次々と倒すような音が聞こえ、白く胴体が長い獣が望虹めがけて飛びかかってきた。
「望虹下がって!」
その声と共に奈津稀が望虹の前に出て相手の勢いを使ってそのまま投げ飛ばした。奈津稀がその獣とにらみ合っていると
「後ろ! 危ない!」
という柚㮈の声が聞こえ、それに反応した哲夜が奈津稀の後ろから来た体に蛇を巻き付けた亀と向かい合った。その手には木で出来た短刀が握られている。
「あれは、白虎と玄武でしょうか? ということは……」
二体の獣の正体を見破った螢華は空を見上げる。するとそこには長い体を持った龍と朱い体の鳥が彼女達の上を回って飛んでいた。
「皆さん、聞いてください! あれは中国の古い思想である四神と呼ばれるものです。それぞれ季節や方位などを司る守り神のはずです!!」
「でもじゃあなんであたし達を襲って来るの!?」
「それは私に聞かれましても……」
返答に困った螢華を見た望虹は
「白虎さん! 他の四神の皆さん!! 聞いてください。なんであなた達はあたし達や、いままでここに来た人達を襲っているの?」
と四神に呼びかけを始めた。
「おい、あれに言葉が通じるのか?」
哲夜がもっともなことを望虹に聞く。
「通じるよ、あたしがそう思ってるから。思いは必ず通じるよ」
「ふっ、望虹らしい」
実に望虹らしい返答に哲夜は思わず笑みを漏らし
「じゃあ、俺たちもやるか。奈津稀、構えを解け」
と奈津稀に指示を出しながら自分も短刀をしまった。
「教えて、白虎さん、あなたたちに何があったの? なんでこんなことしてるの?」
「黙れ、貴様らには関係ない」
低い重い声が望虹の頭に響く。
「白虎さんが返してくれたよ! やっぱり言葉は通じてる」
と望虹は嬉々として振り返るが
「俺は何も聞こえなかったぞ」
「私もです」
誰一人として白虎の声を聞いた人はいなかった。
「ほう、我の声が聞こえるのか。貴様には素質がありそうだ」
「素質? それってどういうこと!?」
よくわからない白虎の言葉に聞き返すが
「貴様は知らなくていい。我には永遠に人を襲い、生を得るしか方法がないのだ。貴様も我の活力となれ」
そう言った白虎は再び望虹に向かって飛びかかった。
「っ!」
とっさのこと過ぎて奈津稀は反応することができない。哲夜も体勢的に望虹を守るのは間に合わなかった。
望虹が白虎に頭から飲まれようとしている。他のメンバーはそれをただ見ていることしかできない。
「望虹!!」
哲夜が叫ぶ。それでも、白虎が何かを変えるわけでもない。ただ望虹を食わんと口を大きく開ける。
そして望虹が食べられることに恐怖して目を瞑ったとき……
望虹の上着のポケットから光が溢れ出し
望虹を包み込んだ。