救われなかった少年   作:(TADA)

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後編

10月のある日。周子は仕事がオフだったから家でテレビを見ていた。

ドラフト会議。

プロ野球の球団が欲しい選手を指名する新人選手選択会議だ。今年の注目は天才投手と言われる不知火。どこが交渉権を獲得するか野球好きのアイドルである姫川友紀も騒いでいた。だが、それが周子がドラフト会議を見る理由ではなかった。彼が居ればテレビの前でかぶりつきで見ていたかもしれないが、彼が選ばれることは絶対にない。

それは彼が怪我をしているからではない、彼がこの世から消え去ってしまったからだ。

彼は死んだ。自宅で遺体で発見された。

発見したのは仕事の相談しに行った周子の両親だった。周子の両親は娘に言われるまでもなく、彼を助けるつもりだった。

ベッドで呼吸をせずに眠っている彼を周子の両親は救急車を呼んで病院に搬送した。搬送先の病院はくしくも彼の母親が亡くなった病院だった。

そこで正式に彼が亡くなっている事が判明した。死因は睡眠薬を多量に摂取したことによる事故死。警察もそう発表した。

周子は最初に両親からその連絡を受けた時、何を言っているのか理解できなかった。理解したくなかったという方が正しい。

連絡を受けたその日に急いで京都へと戻った。故郷に戻った郷愁に浸ることもなく周子は彼の実家へと向かった。彼の実家には周子の両親が待っていた。

久しぶりの再会を喜ぶわけでもなく、連絡しなかった娘を怒るわけでもなく、両親は彼の亡骸へ周子を案内した。

お葬式の準備をしている葬儀屋を見ながら、周子は彼と再会した。棺桶に入っている彼と再会した。

彼の死に顔は眠っているようで、次の瞬間には起きて挨拶をしてくるような表情だ。

周子の両親が何か言っていたようだったが、周子には何も聞こえなかった。

信じられなかった。信じたくなかった。

だが、現実はどこまでも無情で。彼が起きることは二度とないことを周子は冷静な部分で理解していた。

だから両親からお葬式やお墓の話になった時に周子が全額出すと言った。

いつもなら周子のやることに文句を言う両親も、周子の真意を悟ったのか否定しなかった。

彼に親族はいない。父親は行方不明でその親族とも絶縁状態。母親も亡くし、その親族もいない。だから喪主は周子が務めた。

仕事に穴を開けてしまうことになったが、新人アイドルだったのが幸いして時間はあった。

彼の葬式にやってきたのは、彼がいた明訓高校から代表として監督と彼とバッテリーを組んでいた少年の二人。二人とも彼の亡骸を見て泣いていた。謝りながら泣いていた。

そして彼の実家の立つ土地の地主の代表として、周子と同じ事務所のアイドル小早川紗枝がやってきた。彼の葬式の喪主を務めている周子をみて驚いた紗枝が彼との関係を聞いてきた。周子はただ「幼馴染」とだけ答えた。紗枝は彼の家庭状況を知っていたのか、それだけで引き下がった。

葬式の最中も周子は泣くことはなかった。ただ、彼が死んだと言う現実受け入れられなくて。

ようやく彼が死んだと理解できたのは彼が火葬されて骨になり、骨壷に彼の遺灰を移している時だった。それから周子は泣いた。自分でも信じられないくらい泣いた。そして謝った。謝り続けた。

周子は両親に頼んで彼の骨壷を東京の墓地に埋めることにした。彼の母親も同時に改葬して同じお墓に入れてあげようと思った。葬式代、彼と彼の母親の戒名料、そして東京で用意する墓地と墓石の代金で周子が使う当てがなくて溜めていた貯金はなくなった。

だが周子に後悔はない。

周子はドラフト会議が始まる前の特集番組を流しながら、部屋の隅に置いてある彼と彼の母親の骨壷。そして彼と彼の母親の戒名が刻んである位牌が置いてある。

周子は考える。彼は本当に事故死だったのか。

警察は遺書がなく、事件性もなかったから事故死とした。

周子は別にそれに文句はない。ただ、周子は彼は自殺したのではないかと思っていた。

注意深い彼が睡眠薬の量を間違えるわけがない。そして彼には自殺をする理由がある。

生き甲斐(野球)を失い、夢(プロ)も失い、心の支え(母親)も同時に失った。未来への展望もなく、彼の前には絶望しかなかった。だから彼は多くの睡眠薬を飲んだ。

生き残ったら生きる、死んだらそれまで。

天運に任せる気持ちで彼は眠ったのではないか。

そして神は最後まで彼を見捨てた。だから彼は亡くなった。

これはあくまで周子の推論だ。答え合わせをしようにも、その答えを知る相手はこの世にいない。

彼の実家は取り壊されるということを紗枝から聞いた。紗枝は申し訳なさそうだったが、周子は気にならなかった。

死人が出た家に借り手がつかないこともあるが、彼を見捨てた神様が最後まで追い詰めると思っていたからだ。

彼の実家が取り壊される日、周子はそれを見に行った。そして彼がこの世界にいた最後の証明がなくなるところを見送った。

彼の記憶を思い出すと彼は常に笑っていた。他人がいる時は仮面のような笑顔で、彼の母親や周子の家族と一緒にいる時は心からの笑顔で。

彼は死ぬ時に何を思っていたのか。絶望か、失望か、恨みか。

 「なぁ、あんたは何を考えとったん?」

彼の骨壷を見ながら、周子は思わず問いかける。もちろん返答はない。

その時テレビからドラフトの各球団の1巡目が発表された。彼を影にした不知火の名前が並ぶ。

 「はは、8球団競合やって」

その結果を見てから、周子はベランダに出て空を見上げる。

もし、彼が生きていたら。もし、彼が野球を続けられていたらあそこで彼の名前が出ていただろうか。

全ては仮定だ。結論として彼は死んで、絶対にあそこに名前が並ぶことはない。だから、周子は空を見上げながら憎悪を込めて呟く。

 「ああ、やっぱり神様ってクソや」

周子の心とは裏腹に、空は晴れやかだった。

 




これにて本編は完結です。ここまで読んでくださった方はありがとうございました。仕事終わりの二日で書き上げたので誤字や脱字が多いかもしれません。

感想などがありましたら送ってくださると嬉しいです。

後日、あとがきという題名の謝罪やこの作品の補足説明を投稿する予定です。
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