フリージング黙示録   作:ヤッダーバァァァ

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第十二話:動き出し、絡み合う運命

サテライザー達がノヴァと戦い、ガネッサがマリンと再会した頃、イングリッドとレオは森の中を雨に打たれつつも疾走していた。

 

「急げ、レオ!早くガネッサ=ローランドを見つけ出してテントに帰るぞ!」

 

「は、はい!」

 

息を切らし、懸命に走るレオにイングリッドは大きな声で激励の言葉をかける。

 

(さっき嫌な胸騒ぎがする……まるであの時のような……)

 

一年前のノヴァクラッシュの事を思い出しながらイングリッドはキュッと唇を噛み締める。

もう二度と―――親友を失った時のような悲しみ、苦しみを味わいたくはない。

 

(無事でいてくれよ―――ガネッサ!)

 

後輩の身を心配しながらイングリッドは拳を握り締めると、さらに足の動きを早め闇夜の森を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

『アアアアアァァァァ……!』

 

ガネッサとアーサーを殺めんと放った触手が突如、現れた乱入者によって引き裂かれた事に対し怒りを覚えたかのように叫び声を大きくさせるノヴァ。

 

そのノヴァを冷たい目で見ながらマリンは右腕に付いたハサミをノヴァに向け、口を開いた。

 

「そこのパンドラとリミッター!イレインバーセットは使えるか!?」

 

「は、はい!?」

 

アーサーは慌てて返事をしながらガネッサの顔を見るが。

死んだはずの先輩が目の前にいる事に対し驚いている最中のガネッサの耳にはマリンの言葉が耳に入っていなかったらしく、彼女は無言のままであった。

 

「聞こえなかったのか?私はイレインバーセットが使えるのかと貴様達に言っている!」

 

「ええと、その……ガネッサ先輩は……」

 

呆然としているガネッサの肩を掴みながらアーサーは困ったように声を出す。

しばらく無言で返事を待っていたマリンだったが、やがて小さな溜め息を吐くとノヴァに向かって一歩前に足を踏み出した。

 

「イレインバーセットが出来ないのなら下がっていろ。後は……私一人でやる」

 

マリンはガネッサ達にそう言うと両腕のハサミをガチンと大きく鳴らし、青色の光を纏いながら高速移動を始めた。

 

対するノヴァも五本の触手をムチのようにしならせ、マリンに向かって伸ばしてゆく。

 

「切り裂けっ!」

 

マリンが叫ぶのと同時にハサミが両腕から分離し、触手へと発射された。そして、向かってきた全ての触手を瞬く間にバラバラに引き裂くとハサミは再びマリンの腕へと戻る。

 

『アアアアアァァァァ!』

 

触手を破壊されたノヴァは怒り狂ったように腕を振り、肉体の欠片を所構わず放ってゆく。

 

「ひいいいいいっ…!」

 

次々と放たれる欠片に古畑と安藤は悲鳴をあげながら、木の裏に隠れそこから少しだけ顔を出して戦いを眺めた。

アーサーもまた、負傷しているガネッサを抱えながら岩の裏へと隠れるとマリンの姿を見守る。

 

乱射される欠片をマリンは両腕のハサミで防御しながら、ノヴァの頭上へと飛び上がる。

そして左腕のハサミの先に青色の太いレーザーブレードを作り出すと、一気にノヴァに向かって落下していった。

 

向かってくる敵を叩き落とそうとノヴァから複数の触手が放たれるが、青色の光を纏いながら回避し続けるマリン。

 

「やあああああっ!」

 

掛け声と共にマリンはノヴァの左腕にレーザーブレードを振り下ろす。ブレードはバチバチと大きな音を立てながら、ノヴァの腕を焼き斬ってゆく。

 

『アアアアアァァァァ!』

 

悲鳴をあげるノヴァ。それを無視し、ノヴァの腕を斬り裂いてゆくマリン。

そしてノヴァの腕が完全に断ち切られたのを確認したマリンは、グルグルとバク宙しながらノヴァとの距離を取る。

 

引き裂かれたノヴァの左腕はゆっくりと落下した後、大きな音と震動と共に地面へと落とされた。

マリンは左手を横に振り、レーザーブレードを消すと再び冷たい眼差しでノヴァを見る。

 

「す……すげぇ……あのノヴァの腕を……!」

 

ノヴァを相手に圧倒的な力を見せ付けるマリンに古畑は感嘆の声をあげる。

安藤もグフグフと鼻息を荒くしながらマリンの活躍に喜びの涙を流していた。

 

『アアアアアァァァァ!』

 

レーザーブレードによって左腕を切断されたノヴァは身体を光らせ、フリージングを発動する。

それに対しマリンはチッと舌打ちをすると、後ろにジャンプしてフリージング領域から離れた。

 

「隊長がいない以上、パンドラモードを使うしかないな……!」

 

マリンはそう言うと腰を屈め、大きく息を吸い全身に力を込め始めた。

 

「フリージング!」

 

何かを発動しようとしたマリンの後方から少年の叫び声が響く。マリンが振り向くとアーサーが右腕をあげ、フリージングを発動していた。

アーサーが放ったフリージングはノヴァのフリージング領域へと入り込み中和していく。

 

「マリン先輩、今のうちにノヴァにとどめを!」

 

アーサーの横でガネッサが腹を押さえながらマリンに向かって叫ぶ。マリンはその姿を少しびっくりしたよう顔で見た後、フッと笑みを浮かべた。

 

「フフ………それでこそ、パンドラだ」

 

マリンはそう小さく呟くと、両腕のハサミを大きく鳴らしアーサーによって中和された領域の中を勢い良く突き進む。

ノヴァも残された右腕から欠片を発射し、最後まで抗う姿勢を見せる。

 

「うおおおおおおっ!」

 

マリンは青い光を身に纏い、一気にノヴァとの距離を詰める。そして大きく飛び上がると右腕のハサミを力強くノヴァのコアに突き刺した。

 

『アアアアアァァァァ!』

 

響き渡るノヴァの咆哮。突き刺された部分を中心にコアにヒビが入っていく。

そしてヒビが全体に広かったと同時に、コアは砕け散り大爆発を起こした。

 

「や………やったぁ!」

 

コアの爆発を見て古畑は木から飛び出し、嬉しそうな叫び声を出す。コアを失ったノヴァは胸部から煙を出しながら、その巨大な身体を大きな震動と共に地面へと叩きつけた。

 

「…………」

 

動かなくなったノヴァの亡骸をマリンは上空から見下ろしながら地面へと着地する。

そして両腕のボルトウェポンは大きくガチンと音を鳴らした後、ゆっくりと消えていった。

 

「ふぅ………」

 

ノヴァを撃破したマリンは安堵するように小さく息を吐いた後、ガネッサ達の方へと顔を向ける。

 

「そこのパンドラとリミッター、貴様達の援護のおかげでスムーズにノヴァを破壊する事が出来た………礼を言おう」

 

「いえ!僕達の方こそ助けていただき、本当にありがとうございました!ね、ガネッサ先輩?」

 

アーサーは笑顔で頭を下げながら、ガネッサに視線を送る。聖痕の持つ治癒能力によって幾ばくか回復したガネッサは、よろめきながらも立ち上がると涙を浮かべマリンを見つめた。

 

「マリン………先輩…!まさか生きていたなんて……また会えて嬉しいです…!」」

 

一年前、自分達後輩を守るために戦い、死んだはずのマリンに再び出会えた事にガネッサは声を震わせ顔を綻ばせる。

 

しかし、対するマリンは何故か怪訝そうな顔でガネッサを見ているだけである。

そしてマリンの口から放たれたのは、ガネッサにとって思いもよらない言葉であった。

 

「………さっきから気になっていたのだが…貴様は誰だ?何故、私の名前を知っている?」

 

「…………え?」

 

突然の問いかけにガネッサの顔から笑顔が消える。何で自分を守ってくれたはずの先輩がそんな事を言うのだろうか。

 

「何を話してるんだろうあの娘達は……なぁ、安藤?」

 

「さ、さぁ?僕に言われても困りますよ……」

 

パンドラ達のやり取りを木陰から眺めながらヒソヒソ話をする古畑と安藤。

そんな二人に目もくれず、ガネッサは痛む身体に耐えながらもマリンに叫ぶ。

 

「私です!ガネッサです!一年前のノヴァクラッシュの時に、あなたが身を挺して守ってくれたガネッサ=ローランドです……ゴホッゴホッ!」

 

「ガ、ガネッサ先輩!無理をしないでください!」

 

「大丈夫ですわアーサー……!それよりもマリン先輩……本当に、本当にわたくしの事を知らないのですか…?」

 

アーサーに支えられながらもガネッサは懸命にマリンに訴え続ける。

そんな彼女の言葉を無言で聞き続けるマリン。正直な所、マリンは困っていた。ガネッサがいくら詰め寄った所で、本当にガネッサの存在がマリンの記憶の中にはいないのだ。

 

とりあえずマリンは、興奮しているガネッサをなだめるために改めて自分の記憶にガネッサはいない事を伝えようと口を開いた。

 

「…ガネッサといったか?興奮している所で悪いが、私は貴様の事など知らな―――」

 

――――ズキン

 

「くぅっ!?」

 

突如、襲い掛かった頭痛にマリンは苦しそうに頭を押さえる。

その痛みはノヴァ・タイプSと戦う前に、彼女を襲ったものと全く同じものであった。

 

「う……!あああ……あ…!」

 

『逃げてくださいマリン先輩!このままではマリン先輩が!』

 

(………!?)

 

マリンの頭の中で鳴り響くガネッサの叫び声―――それと同時に、全身を傷だらけにしながらも立ち続ける自分自身の姿と、それを心配そうな眼差しで見詰め続けるガネッサの姿がマリンの脳裏に映り始めた。

 

(これは……一体…!?)

 

突如、浮かび上がったビジョンにマリンは動揺する。

 

『マリン先輩……どうして……!?』

 

『洗礼を済ませていない一年生では、ノヴァの相手は無理だ』

 

『リミッターが………いない…から?』

 

『彼女達一年生が逃げるための時間稼ぎくらいなら、私にも出来る』

 

(なんだ……!なんなんだ……これは……!?)

 

鋭い頭の痛みと共に、マリンの脳内でガネッサとの会話が鮮明に再生されてゆく。

 

『でも!マリン先輩はもう……!』

 

『戦うのよ、ガネッサ=ローランド……』

 

―――私は何を話しているんだ?私は彼女の事を知らないはずなのに。

 

『例え、敵わない相手だったとしても……自分の身を滅ぼす事になったとしても……』

 

―――止めろ

 

『――命ある限り戦い続ける。それが………私達パンドラでしょう?』

 

『マリン………先輩…!』

 

―――止めろ!

 

『立派なパンドラになってね……ガネッサ……そして―――私の一番の親友…イングリッドを支えて……あげ…』

 

「やめろぉおおぉおおぉぉおおおおぉぉっ!」

 

暗闇に響くマリンの咆哮。その叫びには苦しみ、そして悲しみが入りまじっているようだった。

 

「マリン先輩!」

 

天に向かって叫ぶマリンをガネッサが心配そうに触れようとするも、マリンはそんな彼女の身体を右手で突き放す。

 

ガネッサはきゃっと小さな悲鳴をあげ、地面に尻餅をつく。

そしてガネッサが再び顔を上げると、怒りと苦しみが込もったような表情で自分を睨み付けているマリンの姿が目に写った。

 

「マリン先輩…?」

 

「黙れ…!私は…お前の事など知らない…!知っているはずがないんだ………うぅ!」

 

脳内を駆け巡る激痛にマリンは小さなうめき声をあげ、その場にうずくまる。

 

「これ以上、私の名前を呼ぶな……!頼む……頼む…!」

 

「先輩………あなたは一体……」

 

「誰かそこにいるのか!?」

 

狼狽えるガネッサが口を開いた直後、草木をかき分ける音と共にイングリッドとレオが姿を現した。

 

「これは……なんだ!?」

 

地面に倒れているノヴァの亡骸、木陰から身を乗り出して自分を怯えた目で見る鼻の大きな男と汚いデブの二人。

そして傷を負い、尻餅をついているガネッサと心配そうな顔でガネッサの傍らに寄り添うアーサー。

そして苦しそうな声を出し両手で頭を押さえ、うずくまっている少女。

 

この異様な光景にイングリッドは目を丸くしながら呆然と立ち尽くす。

やがて我に帰った彼女は首を大きく横に振ると、負傷しているガネッサに声をかけた。

 

「だ…大丈夫かガネッサ=ローランド!酷い怪我をしているようだが……」

 

「イングリッド先輩……!わたくしの事よりも……そ、その…!」

 

ガネッサは震える指で、うずくまっている少女を指差す。

ガネッサにつられるようにイングリッドは少女に視線を移すと再び口を開いた。

 

「どうした、そこのお前…?何をそんなに苦しんでいる?」

 

「ふぅー……!ふぅー……!」

 

イングリッドの言葉に反応するように頭を押さえつつも、ゆっくりと顔をあげる少女。

そして少女の顔を見た瞬間、イングリッドの顔が一気に凍りついた。

 

――――マリン?

 

唇を震わせ、少女の名前を声に出すイングリッド。

今、自分の目の前にいるのは死んだはずの、もうこの世にはいないはずのマリン=マックスウェル。

 

「マリン……マリン……なのか?」

 

イングリッドは何かに取り憑かれたかのように、マリンの名前を呼びながらゆっくりと歩みを進める。

イングリッドの脳内でマリンと共に過ごした日々が走馬灯の如く流れていく。

 

「うぅ…!ううう……!」

 

ゆっくりと近付いて来るイングリッドをマリンは息を荒げながらジッと見詰め続ける。

 

―――誰だ、この女は?

 

何故、コイツも私の名前を親しげに呼ぶんだ?

このガネッサという少女といい、初対面のはずなのにどうして私の名前を知っている?

 

私はお前達の事など知らない、会った事も、話した事もない

 

なのに どうして

 

―――どうして嬉しそうな顔で私の名前を呼ぶんだ…!?

 

「マリン……!私だ…イングリッドだ…!まさか…生きていたなんて…夢のようだ…」

 

はらはらと目から涙を流し、マリンへと歩み寄り続けるイングリッド。しかし、そんなイングリッドをマリンは怯えたような目で見ながら、後退りをする。

 

「………マリン?」

 

「来るな…!近寄るな…!」

 

「な…何を言うんだマリン!私は…マリンと再び会えた事が嬉しく……」

 

「黙れ!黙れ黙れ黙れぇっ!私は知らない!私は知らない!私はお前達の事なんか全く知らないっ!」

 

「マリン……!?」

 

「あ…あああ……!うああぁあぁああぁああぁーーーーー!」

 

駆け巡る激痛と知らないはずの記憶による、精神的ダメージにこれ以上耐えられなくなったマリンは狂ったように叫ぶ。

そして青い光を身体に纏うと、ギリリと歯を噛み締めこの場から立ち去ろうとして走り出す。

その間際、イングリッドとマリンはすれ違い様にお互いの視線が合わさった。

 

(マリン……!?)

 

恐怖、不安、そして悲哀。イングリッドの目に映るマリンの瞳にはそんな様々な感情が込められているようであった。

 

「待ってくれマリン!私はまだ――――!」

 

イングリッドは悲しみに満ちた声でマリンに手を伸ばすも、その手はマリンには届かない。マリンはそんなイングリッドに振り向く事もせず、闇の中へと消えていった。

 

「ああああ……!」

 

親友へと届かなかった手を震わせイングリッドはその場に泣き崩れる。

 

「マリン先輩……」

 

ガネッサもまた、目に涙を浮かべながらマリンが消えた方向を見つめ続ける。

 

「なんだろう……この展開……俺達、凄く場違いのような気がしないか……?」

 

「う……うん………古畑さんの言う通りだね…」

 

「おい、そこのお前ら!何をコソコソしているんだ!」

 

「ひっ……!」

 

隠れて会話をしていた所をレオに叫ばれた古畑と安藤は、雷に打たれたかのように大きく身体を震わせる。

 

「マリン……マリィィィィィィン!」

 

両手を握り締めながら親友の名前を叫ぶイングリッド。しかしその叫びはただただ、漆黒の闇に響き渡るだけであった。

 

 

 

 

 

「―――お疲れ様です、サーシェスの旦那。牌に愛されし少女の一人、神代小蒔さんの確保は上手くいきましたか?」

 

ノヴァ・タイプSが現れた場所で、帝愛に所属する金髪の少年が通信機を片手に、ノヴァの亡骸の上に座りながら会話をしている。

 

『おうよ!ちっと雑魚共が五月蝿かったが、あっという間に終わらせておいた!

今は檻の中でおねんねしてもらってるぜ!』

 

通信機に画面に映っている男―――アリー=アル=サーシェスは握り飯を片手に笑う。

 

「ところでネームレスの姿が見えませんね…大事な大事なカスタムグローブでも磨いているのかな?」

 

『だろーな、俺が一緒にメシを食おうと誘ったのにつっけんどんに断りやがったよ……全く人付き合いが悪い奴だぜ』

 

サーシェスは髪の毛をポリポリとかきながら、やれやれといった様子で息を吐く。その髪の色は、神社を襲っていた時の赤色ではなく、茶色へと変わっていた。

 

「ハハハハハ…まぁ、アイツはアイツなりに仲間思いな所もあるんですから、大目に見てあげてくださいよ」

 

『まーな!しっかし、改めて調整してもらったあの剣だけどよ……すげぇブツに仕上がってるぜぇ…!振れば振るほど、力が湧いてくるんだよ!』

 

サーシェスは神社を襲撃した際に使っていた剣を後方に見ながら歪んだ笑みを浮かべる。

神社を阿鼻叫喚の地獄絵図に染め上げた赤い剣は、禍々しいオーラを漂わせながら怪しく光っていた。

 

「フフフ…引き続き、残りの二人もお願いしますよ旦那!天江衣と宮永…………」

 

金髪の少年の言葉が止まる。少年は何かを考えるかのように眉をひそめ、しばらく無言で視線を落とした後、再び口を開いた。

 

「――――天江衣と宮永照の確保、頑張ってくださいね旦那」

 

『おうよ!任しときな!ところで、お前さん達の仕事の方は順調かい?』

 

「ええ!ノヴァの乱入もありましたが、何も問題なく無事に終わらせましたよ。

マリンにはレジスタンスのリーダーを連れてくるように命令しました。じきに戻ってくるでしょう」

 

『おいおい、ノヴァだってぇ?ノヴァと戦えたなんて羨ましい限りだなぁ!こっちは雑魚ばっかりで戦争のし甲斐がないってのによぉ!

俺もそっちに行きゃあ良かったなぁ!』

 

握り飯にかじりつきながらサーシェスは不満そうな声をあげた。それに対し少年はフフフと笑みを浮かべながら話を続ける。

 

「まぁまぁ、そう残念そうな顔をしないでくださいよ旦那!

―――――会長の言う【来るべき時】が始まれば………旦那の大好きな戦争が好きなだけ出来るんですから……」

 

クククと黒い笑みを浮かべる金髪の少年にサーシェスもまた、ニッと笑いながら握り飯を口の中に放り、ゴクリと飲み込んだ。

 

『へへへ…!じゃあその【来るべき時】とやらに備えてキッチリ腹ごしらえをして、キッチリ準備運動をしとかねぇとな!』

 

「フフ…全ては我々帝愛の、そして兵藤様の求める世界のために…じゃ、そろそろマリンが戻ると思いますのでこれにて失礼します」

 

「おうっ!楽しめそうな仕事があったら俺に回してくれよぉ?じゃーな京太郎!」

 

―――プツン

 

金髪の少年―――須賀京太郎は通信機を切り、ゆっくりと立ち上がる。そしてポケットに手を入れながら欠伸をするとノヴァの亡骸から飛び降りた。

 

「ただいま………戻りました……隊長……」

 

その言葉と共に草木をかき分けながらマリンが姿を現す。

 

「おっ、お帰りマリン…………って、どうしたよマリン?」

 

大きく肩で息をし、苦悶の表情を見せるマリンにびっくりしたように京太郎は問い掛ける。

マリンは京太郎から目を逸らし、しばらくうつ向いた後に重い口を開く。

 

「……………遭遇したノヴァ・タイプRと戦っていました」

 

マリンは初対面のはずなのに自分を知っていたガネッサ、そして自分を親友だと言ってはばからなかったイングリッドと出会った事を隠し、ただノヴァと戦闘した事だけを京太郎に伝える。

 

「…………本当にそれだけか?」

 

何かを隠しているような素振りを見せるマリンに京太郎は改めて問い掛ける。

マリンは静かに目を閉じながらゆっくりと首を縦に振った。

 

「………………」

 

京太郎は無言でマリンの方へと歩み寄る。そして微笑みながら優しく右手でマリンの肩をポンと叩いた。

 

「隊長……?」

 

「そうか………一人でよく頑張ったなマリン、お疲れ様」

 

京太郎はマリンが自分に何かを隠しているのは分かってはいたが、恐らくマリンは答えない、答えられないと判断し、これ以上は聞かない事にした。

 

「隊長………その…」

 

「とりあえず今日の所はこれでおしまい!早く戻ってゆっくり休もうぜマリン!

…で、レジスタンスのリーダーはどこよ?」

 

「……………はい?」

 

京太郎の言葉にマリンはキョトンとした顔に変わる。

 

「いや、だから…色々と聞き出すからリーダーを連れて来てくれってお前に頼んだだろ?」

 

「………」

 

マリンはその言葉を聞いてもなおキョトーンとした顔で京太郎を見る。が、やがて思い出したかのように顔をハッとさせると大きく頭を下げた。

 

「す、すすすすいません隊長!その……連れてくるのを忘れてましたぁ~!」

 

「な…なんですと!?忘れていたですと!?」

 

「すいません!本当にすいません隊長ぉっ!」

 

「こんっの……!」

 

プンプンと怒りながら京太郎はマリンの後ろに一瞬で回り込む。そしてマリンの頭を掴んだ後に彼女の頬を指先でグリグリし始めた。

 

「うっかりさんにも程があるよ!このこの~!」

 

「あううう…………!」

 

マリンは小さく喘ぎながら頬っぺたをグリグリとつつかれ続ける。やがて京太郎はマリンから手を放すと大きく溜め息を吐いた。

 

「全く…しっかりしてくれよなマリン!俺はお前を信頼してんだからさー!」

 

「ほ…本当に申し訳ありませんでした隊長!今すぐ連れてきま……」

 

「いいよ、もう。ノヴァの襲撃やら何やらでゼネティックスのパンドラ達が森の中を偵察してる可能性だってあるし。

レジスタンスから押収したコインを持っていけばいいさ………これだって重要なヒントかもしれないしな!」

 

「隊長………」

 

京太郎は大きく屈伸をした後にマリンへと顔を向ける。

 

「じゃあ、行こうぜマリン!」

 

「……はい!」

 

満面の笑顔を見せ大きな声で京太郎に返事をするマリン。そして二人はその場から駆け出し、闇の中へと消えて行った。

 

 

 

 

一方、サテライザー達もノヴァの撃破に成功していた。

 

「ガネッサさんとイングリッド先輩……何をしているのでありますかね?」

 

顔をタオルで拭きながらラナは呟く。テントの周辺ではパンドラ達が警戒や報告などで慌ただしく動いていた。

 

「……………」

 

ノヴァの亡骸を見詰めながらカズヤは無言で立ち尽くす。そんなカズヤの様子に気が付いたのかサテライザーは彼の隣へと移動し、声をかける。

 

「どうしたのカズヤ?ノヴァはもう倒したのに浮かない顔をして……」

 

「あっ、サテラ先輩……実はさっきからずっと胸騒ぎがしているんですよ…」

 

「胸騒ぎ……?」

 

「はい…今回のノヴァクラッシュよりも……何かとてつもなく……恐ろしい事が起きるような……そんな気がするんです…」

 

カズヤはそう言うと自分の胸を手を添えながら天を見上げる。

 

――――カズヤの予感は的中していた。そう、今回のノヴァクラッシュはまだ序の口に過ぎなかったのである。

 

エリザベスやカイジ、シャルル、カズヤ、サテライザー、イングリッド、ガネッサ・・・そして数多の戦士達。

そして帝愛に属する利根川、黒崎、一条、ネームレス、サーシェス、マリン、京太郎。

彼等を呑み込むかのように運命は大きく動き出していく。

 

それぞれが それぞれの因果を抱えて

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