フリージング黙示録   作:ヤッダーバァァァ

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番外編3:野望のR&R

太平洋。闇が支配する夜の海の上空を一隻の巨大な空中空母が轟音を立てながら飛行している。ブラックノアと名付けられたその空母の中心に位置する部屋で一人の男がワインを飲み、数枚の紙に目を通していた。

金髪に赤いスーツ、190cmを超える屈強な体格。そして右目が見えないのか常に閉じたままのこの男の名前はルガール=バーンシュタイン。

 

表向きは貿易会社の社長であるが、裏ではブラックマーケットを暗躍している所謂【死の商人】であり武器や麻薬等を中心に扱い、あらゆる地域紛争に平然と武器を流し、政府や国に反抗するテロリストにも支援という名目で武器や物資を提供している。

己のために数多の人間の命を奪い続け、悪を尊び正義を嫌悪する―――まさに極悪人と呼ぶに相応しいであろう。

闇の世界でも大きな権力を持つそんなルガールにも中々、手を出せずにいる邪魔な存在があった。

 

シュバリエを影から支配している組織、帝愛である。

 

世界中に大きな影響力を持つ帝愛には流石のルガールも、真っ向から立ち向かう事はせずシュバリエに反抗しているテロリスト達を裏で支援するという形をとっているが。

テロリスト達はことごとく、帝愛による制裁で壊滅させられて全くの徒労に終わっているのであった。

 

「……………フン、全く役に立たん連中だ」

 

レポートを読み終えたのかルガールは一言そう呟くと紙を机の上に置き、傍らにあったグラスの水をゆっくりと飲み干した。

その直後、ドアを叩く音がルガールの耳に入る。ルガールはドアに目を向ける事もせず一言「入れ」と言い放った。

 

「失礼します、ルガール様」

 

部屋に入って来たのは白いスーツを着こなした緑髪の美少年だった。

 

「リボンズか………フッ、話してみろ」

 

「はい……」

 

リボンズと呼ばれた少年は静かにお辞儀をした後、ゆっくりと口を開いた。

 

「かねてより交渉を続けていた、【共生】との同盟の件ですが…社長である鷲巣巌が直接、ルガール様とハワイでゆっくり話がしたいと申しております」

 

「ほう………なるほど」

 

穏やかな笑みを浮かべ続けるリボンズの報告を聞いたルガールはトントンと自分のこめかみを二、三回叩きククッと愉快そうな笑みを浮かべる。

 

「ワシズは相変わらず…恐れを知らぬ男よ。この私自らハワイへ来いとは……だからこそ面白い」

 

「それではルガール様…」

 

「ワシズに伝えろリボンズよ。お前の望み通りこのルガール=バーンシュタインが直々にお前の相手をしてやる。日時はお前の好きにするがいい、とな」

 

「はい、承知しました。それでは私はこれにて失礼します…ルガール様」

 

リボンズはそう言い終えると再び頭を下げ、部屋を後にする。一人になったルガールはスッと立ち上がり己の右手の手袋を脱ぎ捨てた。そこにあったのは肌色の人の手ではなく、黒と鋼色で統一された機械の手であった。

 

「クックックッ……まさかこの私があんな小僧に遅れを取ってしまうとはな」

 

機械となった己の手を見つめながら自嘲的に笑うルガール。そして数ヵ月前までは普通の手だった自分の手を奪い去った男の姿を思い浮かべる。

最初は口ばかり達者な取るに足らない小僧だと思っていた。ルガールは鼠をいたぶる獅子の様にその小僧を余裕をもって殺してやろうと考えていた。

だが―――――それは完全なる油断であり間違いであった。

結果、その少年を殺すどころか傷一つ付ける事が出来ず逃げられ、自身は右手を失う事となった。

後にルガールはその少年が己が打ち砕かんとしている帝愛に所属している事を知る。そしてルガールは誓う。その少年に絶対の恐怖と絶望を与えて殺してやると。

 

「もう油断はせん………首を洗って待っているがいい。須賀………京太郎!」

 

憎悪と悪意に満ちた顔でルガールは己の右手を奪った小僧の名前を口にしに、メキキと機械仕掛けの右手を鳴らすのであった。

 

一方、部屋を後にしたリボンズは右手に報告書を持ちブラックノアの窓から見える夜空をじっと眺め続けている。

先程の穏やかな表情から一変、何かを企んでいる様な不敵な笑いを浮かべているリボンズ。

 

「ルガールとワシズの共闘………。そして牌に愛されし――――いや、帝愛の言う【来るべき時】の生贄の一人である神代小蒔の失踪……。ノヴァの襲撃…」

 

口元を歪ませ、自分の長であるはずのルガールを呼び捨てにしてリボンズは独り言を漏らす。

 

「フフフ…目まぐるしく状況が変わりつつある……そしてやがて人類と世界は大きな転機を向かえるだろう。そしてそれを導くのは………。それまでボクは裏方として頑張らせてもらうよ。時が来るまで…ね」

 

二つの【R】の野望が渦巻くブラックノアは異様な威圧感を放ちつつ漆黒の闇を進むのであった。

 

 

 

それから数日後の日本、東京。ゴロツキがうろつく夜の酒場にフードを被り、全身をマントで覆い隠した少女が一枚の写真を持って店主と話をしている。

その写真には帝愛の狂戦士――アリー=アル=サーシェスが写っていた。

 

「いや…この店には来てないな…見た事がない」

 

「………そう。分かったわ」

 

少女はふぅっと溜め息を吐いた後、写真をマントの中へとしまうとこの場所にいる必要なしと言わんばかりに出口へと歩き出す。しかし、その少女を3、4人のゴロツキ達が下卑た笑みを浮かべながら取り囲んだ。

 

「おいおい、ねーちゃん!何をそんなに急いでいるんだい?良かったら俺達とオールナイトっ…!夜が明けるまで飲んでいかねぇか……?」

 

「ククク…!悪いがこれは強制だぜっ…!ありませーん…!このまま帰るなんて選択肢はっ……!」

 

キキキと笑い涎を垂らしながらゴロツキ達は少女へと近寄る。一方の少女はそんなゴロツキなど眼中にないのか歩みを止めようとしない。

 

「おい、コラ…!無視するんじゃ…」

 

一人のゴロツキが少女の肩を掴もうと手を伸ばす――――が、その手か少女に触れる事はなかった。

 

「…………」

 

少女が殺意を持った眼差しでゴロツキをにらみながら、何処から取り出したのか青を強調した剣をその喉元に突き付けていたからだ。

剣を突き付けられたゴロツキはひっと脅えた声を出してその場に尻餅をついた。他のゴロツキ達も突然の事にびっくりして後退りをする。

 

少女は剣をゴロツキから離し、ブォンと風の音が聞こえる速さで剣を振り下ろすとゴロツキ達を無視して酒場を後にした。

人気のない路地裏を右手に剣を持ったまま歩き続ける少女は、静かにマントから左手を出す。その手には満面の笑みを浮かべている茶色の髪と、ピンク色の髪をした二人の小さな女の子が写っていた。

その写真を少女は先程の恐ろしい顔とは全く違う、切なそうな顔で見つめ続ける。

 

「咲…」

 

茶色の髪の女の子の方を見ながら少女は―――宮永照は自分の妹の名前を呟く。そして照は写真をマントの中へと隠すと静かに走り去っていった。

 

 




次回、風越女子麻雀部のキャプテンとなった池田華菜に謎の現象が襲う―――!
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