フリージング黙示録   作:ヤッダーバァァァ

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第二話:逆境無頼の男カイジ

地面を掘るスコップの音が今日も地下で響き続ける。いつ終わるかも分からぬ工事、それでも奴隷達は掘り続ける。

借金を返済し、外への自由を手に入れるために。

 

「くそっ…くそっ…!ふざけやがって……!」

 

そんな囚人達の中に一人、長い黒髪にシャープな鼻筋の若い男がマスクを外しながらぼやく。

 

この男の名前は伊藤開司、毎日ショボい酒を飲みショボい博打をして働く事もせず、自堕落な生活を送っていた若者であった。

 

しかし、コンビニでアルバイトしていた時に後輩に借金の保証人になって欲しいと頼まれ、

断り切れずに保証人になってしまうが、その後輩が借金から逃げてしまったためにカイジが代わりに多額の借金を背負う事となってしまった。

 

カイジは借金を返済するために、名うての金貸しである遠藤から紹介された、豪華客船エスポワールで行われるギャンブルに参加する。

 

そこでカイジに借金を背負わせた後輩と再会し、もう一人の参加者と共に生き残るために戦うが、その二人の裏切りによって

カイジは敗北、別室へと送られ地下に落とされそうになるが、

どうにも別室から脱出し無事とは言えないまでも、エスポワールから生還する事ができた。

 

しかしエスポワールに乗った事によりカイジの借金はさらに増え、カイジは返済のためにアルバイトをしていたが

再びカイジの前にギャンブルを紹介した遠藤が現れ、新しいギャンブルにカイジを誘う。

 

カイジはエスポワールの事もあって最初は消極的であったが、今のアルバイトでは借金を返すなどとても無理と判断、

カイジは遠藤の言葉に乗せられスターサイドホテルへと赴く。

 

そして行われていたものはとてもギャンブルとは言えない、

高台の間に配置された橋の上で綱渡りをする悪魔のゲーム【人間競馬】、

そして高層ビルの間にかけられた電流が流れる鉄骨の上を渡る【電流鉄骨渡り】であった。

 

電流鉄骨渡りにおいて、カイジは多くの参加者が鉄骨から落ちていくのを見ながらも、無事に渡りきる事が出来たが、

 

渡る最中にエスポワールでのホールマスターをし、そしてスターサイドホテルでもカイジの前に現れた利根川に対しゲームを中止すると

言ってしまったがために賞金は無効となる。

 

当然の事ながらカイジは激怒、中止なら今この場ではなく渡っていた最中に言えと利根川につかみかかろうとする。

 

しかし、その手は利根川に届く事なく黒服達に止められる。

そんなカイジの前に現れる――――帝愛の会長にして闇を支配する王、悪魔の中の悪魔、兵藤和尊。

 

兵藤は利根川に対しカイジとEカードで勝負するように命令を下す。

カイジは死んでいった者達の無念を晴らすため、大金を掴み帝愛の恐怖から逃れるために利根川に挑む。

Eカードにおいてカイジは己の聴力を賭ける事となった。

カイジは利根川の策略とイカサマで苦戦するも、己の耳を切断して勝ち一矢を報い、

 

さらに圧倒的閃きと利根川の優秀さ故の隙を突いて戦いに勝利する。

 

カイジは当初の約束であった土下座しての謝罪を利根川に突き付けるが、

兵藤はそれでは誠意が足りないとし、灼熱の鉄板の上で10秒間、土下座する【焼き土下座】を利根川に強要する。

 

灼熱の鉄板の上で12秒の間、土下座をした後に黒服達に運ばれる利根川を見て、

カイジは倒すべきは利根川ではなく闇を支配する魔王―――兵藤和尊である事に気付く。

 

カイジは兵藤に一矢を報いるためにイカサマを仕込んだティッシュ箱くじ引きで兵藤に戦いを挑む。

そこで兵藤は1億という大金を賭け、カイジは己の指を4本賭けた。

 

勝利を確信していたカイジであったが、兵藤はカイジのイカサマを看破し、さらにイカサマ返しをしてカイジの希望を打ち砕く。

 

結局、カイジは左耳の切断と指4本の切断、さらにEカードで勝利して手に入れた2000万を失うという完全なる敗北を味わう事となった。

 

その後、カイジの耳と指は帝愛の息がかかった闇医者によって治してもらったが、

 

元々の借金に治療費が加えられて計1000万の借金をカイジは背負う事となってしまう。

 

もちろん、カイジには逆立ちしたって返済できる訳もなく遠藤によって身柄を確保、

15年の間、この地獄の釜の底で働き続ける事となり―――――今に至る。

 

(ふざけろっ…!こんなの家畜以下じゃねぇか…!地上で逃げ回ってた方がよっぽどマシだ…!)

 

作業を終え、部屋で待機してたカイジは天井を睨み付けながら奥歯を噛み締める。

 

(しかし………)

 

カイジは部屋の隅にいるエリザベスへと顔を向ける。

班長の話によると彼女も自分と同じ時期にこの地下へとやって来たとの事。

 

こんな亡者達に紛れてあんな少女が何故、この地下地獄にいるのだろうか…?

カイジは疑問に思いながらも、彼女に話かける事など出来ずただただ、遠くから眺める事しかできない。

 

もっとも、自分の事で精一杯のカイジにとってエリザベスの事など、構ってはいられないし

また、カイジが彼女に対して何かしてやれる事は一つもないのだが…。

 

「はーい、皆の衆…!お疲れ様です!」

 

E班の班長である大槻による号令が始まる。

大槻はペコリと頭を下げた後、ニコニコと笑いながら周囲を見渡した。

 

「今日はお待ちかねの給料日でーす!名前を呼ばれた方は順番に取りに来てくださ~い!先ずは黒沢さーん」

 

大槻は班の仲間の名前を次々と呼んでいっては給料袋を手渡していく。

 

「はーい、そしてカイジ君にエリザベスさーん!並んでくださーい」

 

大槻に名前を呼ばれたカイジとエリザベスは無言で立ち上がると、列の後ろに並ぶ。

そしてカイジが給料袋を取ろうとした時、大槻は手をあげて高らかに声を出した。

 

「え~~~~注目っ…!カイジ君とエリザベスさんは今日が初給料日です…!

苦しい労働の末の初給料日…みんなも覚えがある通りこれは大変うれしい事です・・・・!拍手っ…!」

 

パチ…パチ…パチ…パチ…パチ…!

 

部屋中にカイジとエリザベスに対しての拍手の音が鳴る。

その事に対しカイジは顔から火が出るような恥ずかしい気持ちになる。

 

(ヤメロヨ…!ヨケイナコトスルナヨ…!ナニカンガエテンダ…!)

 

エリザベスもまた、自分を馬鹿にするような大槻の行動に怒りを覚えていた。

 

(ナニヲシテイルノヨ…!コノワタクシヲバカニシテイルノ…!?

フザケナイデ………!)

 

拍手を止めるよう、叫び声をあげたいエリザベスであったが、ここはグッと堪え続ける。

そして大槻はニコニコと腹が立つ笑顔でカイジとエリザベスに給料袋を手渡した。

給料袋を手渡されたカイジとエリザベスは再び自分のいた場所に戻ると、給料袋の中身を確認する。

中には91000ペリカが入っていた。

 

この地下地獄ではペリカと呼ばれる紙が金として扱われる。

ちなみに相場は10ペリカ=1円であるため、実質この地下での給料は9100円という事になる。

 

(ふざけやがって…!馬鹿げてやがる…!だが………これに俺の運命がかかっている…!)

 

カイジはペリカを手にしながら壁に貼ってある紙に目を向ける。

勤労奨励オプションと書かれている貼り紙には様々なサービスとその代価が載っていた。

 

その中でカイジが注目したのは一日外出券…一日だけだが、外に出る権利がもらえる特例措置である。

 

50万ペリカという大金を支払う必要があるが、

一日でも外に出れば、ギャンブルができる、ギャンブルさえ出来れば自分の借金である1000万を稼いで、

帝愛に叩き返し、自由を手にする事が出来る。

カイジはそう考えていたのであった。

 

外への自由に燃えるカイジと対照的に、エリザベスは冷めた目で与えられたペリカを見つめる。

 

エリザベスも一日外出券の存在は知ってはいるのだが、エリザベスは帝愛の制裁によって地下に堕とされた身。

そんな彼女が一日でも外出する事など帝愛が許すはずがない。

 

10年間の刑を与えられたエリザベスにとって一日外出券など関係のないものである。

とはいえ、貯めればそれなりに贅沢出来る権利をもらえる。

 

気休めとはいえ、一日個室券や特別なランチなどはこの悪夢のような地下にとって魅力的。

 

エリザベスはまず一日個室券を手に入れようと決心し、ペリカを給料袋にしまい、シャツのポケットの中に入れた。

 

カイジもまた、ペリカをポケットの中にしまうと、部屋を見渡した。

 

「ビールくれ!後、焼き鳥も!」

 

「俺はロング缶!ポテトチップもね!」

「柿ピーとビール2本!今日は贅沢するぞ~!」

 

ビールやタバコを販売している場所に次々と群がる連中を見て、カイジは侮蔑の眼差しを彼らに送る。

 

(馬鹿がっ…!あんな調子でホイホイ使って何を考えてんだよ…?

耐えなきゃ、手に入らねぇんだぞ…?自由への鍵が…!つくづく救えない奴等だぜ…!)

 

カイジは舌打ちをしながら販売場を背にするように寝転がる。

 

(俺は違う!俺は貯める………そして手に入れるんだ…一日外出券をな…!)

 

エリザベスもまた、嗜好品を買っている自堕落な連中を馬鹿にするように見続ける。

 

(哀れな連中…私と違って、彼等には一日外出券を手に入れる事が出来るのに………我慢すらも出来ないなんて………)

 

煙草や焼き鳥に全く興味を示さないエリザベスは、フフンと鼻を鳴らしながら売っているものを眺め続ける。

 

「エリザベスさん、ご苦労様」

 

その言葉と共に肩をポンと叩かれたエリザベスが顔を上げると、大槻班長がニコニコと笑いながら立っていた。

 

「大槻班長………?」

 

「フフ…辛かっただろう?君みたいな女の子がこんな地下で労働なんて…」

 

「ええ……まぁ」

 

「どんな理由で堕ちたかは聞かないけど、頑張るんだよ。君ならきっとこの地下から抜け出せる事が出来るんだから」

 

大槻は穏やかな微笑みを浮かべながら、エリザベスの前にそっとあるものを置く。

それを見たエリザベスは目を丸くする。それはエリザベスの好物でもあるフィッシュ・アンド・チップであった。

 

「は……班長……!これは………?」

 

「なーに、これはエリザベスさんの初給料祝いさ。金はいらねぇよ………とっときな~」

 

大槻はヒラヒラと手を振りながらその場を後にする。

エリザベスはその後ろ姿を見送った後に、恐る恐るフィッシュ・アンド・チップに手を伸ばした。

 

(うう……!ホカホカに温まっているわ……!)

 

エリザベスは震える手でフライを掴むと、ゆっくりと口に運んだ。

 

「――――――!」

 

口に入れた途端、フライの味が口一杯に広がっていく。地下に堕ちて一ヶ月の間、貧しい食事を送っていたエリザベスにとって、

このフライの味とポテトの味は犯罪的な美味さである。

 

エリザベスは脇目もふらず、次々とポテトを口に運び噛み締めていく。

 

今まで当たり前のように食べてきたフィッシュ・アンド・チップだったが、

こんなに美味しいのはエリザベスにとって生まれて初めてであった。

時同じくして、カイジもエリザベスと同じように大槻から渡されたビールを飲んでいた。

 

(美味すぎる……!この暑い環境でのビールは犯罪的だ…!)

 

一方のエリザベスはフィッシュ・アンド・チップを全て食べてしまい、ガックリとうなだれていた。

もっと食べたい、もっとフライとポテトを味わいたい。

エリザベスは販売場に顔を向ける、そしてバーガークイーンと書かれている紙とハンバーガーを目撃する。

 

(バーガー…クイーン!?何でこんな地下にバーガークイーンが…?)

 

バーガークイーンとはゼネティックスにもあったハンバーガーショップであり、

エリザベスもまたフィッシュ・アンド・チップほどではないにしろ、バーガークイーンのハンバーガーをよく食べていた。

 

「ハンバーガーうま~!」

 

目の前で美味そうにハンバーガーを食べる男を見て、エリザベスの心がグラグラと揺れ始める。

 

(うう…!さっきのフライとポテトと一緒にバーガークイーンのハンバーガーを食べる事が出来たら………!)

 

ゴクリと喉を鳴らしながらエリザベスはフィッシュ・アンド・チップとハンバーガーの値段を確認する。

 

フィッシュ・アンド・チップの値段は9000ペリカ、そしてハンバーガーの値段は5000ペリカ…二つ買うとなれば計14000ペリカになる。

 

今、エリザベスが持っているのは91000ペリカ…買えば多額のペリカを失う事になってしまう。

 

「くっ……!」

 

エリザベスは迷う、買うのか買わないのか。食べたい、お腹一杯フライとハンバーガーを食べたい。

だけど…買ってしまえば自堕落な連中と同じになる、自分も同類となってしまうのだ。

 

一方のカイジはビールの誘惑に負けてしまい、肉じゃがやポテトチップスを食べながらビールを飲んでしまっていた。

 

(しみる…!しみる…!身体中にビールがしみわたる…!幸せぇ~~~~!)

 

今のカイジに一日外出券の事など頭になく、ただ目の前のご馳走を貪り続けていた。

エリザベスの方もついに立ち上がり、ふらふらとフィッシュ・アンド・チップとハンバーガーに誘われるように、販売場まで足を運んでいた。

 

(14000ペリカ……14000ペリカくらいなら大丈夫でしょう……。

それに、これは今まで地下で頑張ってきた自分への御褒美ですわ…)

 

自分にそう言い聞かせながらエリザベスはハンバーガーとフィッシュ・アンド・チップを手に取った。

 

「はいはーい!エリザベスさん、フィッシュ・アンド・チップとハンバーガーお買い上げ!

で、ジュースはどうするの?」

 

「………え?」

 

「そんな脂っこいものだけじゃあ、口の中が気持ち悪くなっちゃうよ!?

何か飲もうよ………ここにはビール以外のものも置いてあるしさ!」

 

嗜好品を売っていた石和がオレンジジュースを片手に、エリザベスを誘惑する。

 

エリザベスはゴクリと喉を鳴らしながらクーラーボックスの中にあるジュースに視線を送る。

 

「じゃあ………このオレンジジュースを一本だけ……」

 

「はい!エリザベスさん、オレンジジュースお買い上げ!3000ペリカになるよ!」

 

オレンジジュースを買った事により、当初の予定であった14000ペリカを超え、17000ペリカの出費になってしまったエリザベス。

 

だが…出費はそれだけで止まらず、さらにフィッシュ・アンド・チップとハンバーガーを二個、オレンジジュースを追加してしまい計39000ペリカの放出。

 

そしてカイジもまた、計41000ペリカの散財!

そんな二人の姿を見て大槻班長はほくそ笑む。そう、全ては二人にペリカを使わせるための大槻の罠だったのである。

 

エリザベスにあげたフィッシュ・アンド・チップとカイジにあげたビールはいわゆる撒き餌であり、

それにより二人の欲望を解放させる事が目的であったのだ。

 

「馬鹿丸出しですね…あの二人」

 

班長の腹心である石和が歪んだ笑みを浮かべて班長に声をかける。

 

「馬鹿だからね……!あんなもんよ…最近の若いもんは……!特にあのエリザベスって小娘は

今まで食べ物に苦労して生きた事ないお嬢様………そんな顔をしている。

利根川さんにあの小娘の好物を聞いておいて正解だったよ………ククククク」

 

大槻はビールを飲みながら、エリザベスの方に顔を向ける。

エリザベスはハンバーガーも食べながらジュースを飲み、ほっと一息を入れている最中である。

 

「ククク…!神算鬼謀の執行者と呼ばれたパンドラちゃんも………結局は目の前の欲望に勝てないか弱き女の子だって事さ……!」

 

ビールをゴクゴクと美味そうに飲みながら、ニヤリと笑う大槻に気が付く事もなく、今だポテトを口に運び続けるエリザベスであった…。

 

次の日、カイジを座禅を組みエリザベスは頭に手を置きながら、昨日の自分の行いを反省していた。

 

(馬鹿か俺は…!?一日で41000ペリカを使っちまうなんて、どうかしてる…!

いや…そもそもペリカを全く使わずに一日外出券を目指していた事が間違いだったんだ!

だから………少しだけ使いつつも一日外出券を目指す……これが理想的だ)

 

(私とした事が39000ペリカを一気に使う醜態をさらしてしまうなんて……!これではメイブリー家の名が泣いてしまいますわ!

けれども……これは仕方ない事かもしれない……誰だってこんな地下に堕ちてしまえばおかしくもなる。

だけど…それに負けてしまったら、私は本当の意味で敗北者になる……それだけは避けなければなりません!

だからこそ…ペリカを計画的に使って、二度とあんな真似をしないようにしなければ……!)

 

30分後、二人はゆっくりと立ち上がりカイジはビールを一本、エリザベスはオレンジジュースを一本、それぞれ購入してしまった。

 

(たった一本だけなら……)

 

二人はそう自分に言い聞かせながら床に座り、缶を開ける。

しかし気が付けば、豪遊、二日続けて豪遊……。

またやってしまった、カイジ、エリザベス――――猛省。

カイジはうつ伏せになりながら手足をジタバタさせ、エリザベスは頭を抱えながら猛省をするも、

翌日、翌々日も使ってしまい、カイジは400ペリカ。

エリザベスは1000ペリカとなり大槻の思惑通り、二人は給料を使い込んでしまう。

 

1000ペリカを握りしめながらエリザベスはガックリと肩を落とす。

かつてウェストゼネティックスで3年生達を引き連れて、学園を優雅に歩き、

神算鬼謀の執行者と呼ばれ尊敬されていたエリザベス・メイブリーはもはや遥か彼方へと消え去り…。

今、ここにいるのは地下地獄で食べ物の誘惑に負け、スッカラカンになってしまったエリザベスであった。

 

「うふふ………今の私の姿をアンドレやアーネット達が見たらなんて言うのかしらね………?うふふふふ…ふふふふふふ…………はぁ…」

 

1000ペリカを小さく折り畳んでポケットに入れ、悲しそうに笑い続けるエリザベス……もはや彼女はパンドラとしてのプライドを無くしてしまった。

 

 

そんな彼女の無様な姿を監視カメラを通して別の部屋で眺め、ニヤニヤと笑う男がいた。

 

「ククク……神算鬼謀の執行者も地下に堕ちたら負け犬か……!実に哀れよのっ…!」

 

グラスに注いであった酒を飲みながら男は呟く。

そう、エリザベスを地下に堕とした男―――利根川である。

カイジに敗北し、焼き土下座をして廃人同然となっていたはずの利根川である。

 

ふと利根川は別のカメラに映っていたカイジに気が付く。

カイジの姿を見た利根川の顔が笑顔から怒りの表情へと変貌し、持っていたグラスをグシャリと握り潰した。

 

「カイジ…!もっとだ……!もっともっと苦しめ……!ワシがあの日…受けた苦しみは…この程度ではないのだからな………!」

 

利根川は左手をゴキンと鳴らしながらワインの瓶を持ち、一気に中身を飲み干す。

 

「利根川さん、あまり飲み過ぎちゃあ、身体に毒ですよ?少しは自重した方がよろしいんじゃないですか?」

 

利根川が後ろを振り向くと、一人の男が腕組みをしながら壁に寄っ掛かっていた。

金髪の少年はニッコリと笑うと、利根川が割ったグラスをテーブルに置いてあった布巾で拭く。

 

「ふん……貴様か。ワシがどれだけ酒を飲もうがお前には関係ない事だ………いらぬ心配などするな…!」

 

利根川はワインの瓶をテーブルに置き、金髪の少年を睨み付ける。

そんな利根川を気にする事もなく、少年は拭き終わった布巾を瓶の横に置くと再びニッコリと笑った。

 

「それじゃ困るんですよ…利根川さん。あなたには帝愛のためにもっともっと働いてもらわないと……」

 

「お前に言われずとも、分かっているわっ………!ワシを愚弄するな……若僧がっ……!」

 

「それは頼もしい事です。これからもお願いしますよ利根川さん………帝愛はあなたのために……多額の金を使ったんですからね………フフフ」

 

金髪の少年は監視カメラの映像をチラリと眺めた後、扉を開けて部屋を後にした。

 

「…………クズがっ!」

 

利根川は扉に向けてワインの瓶を投げ付ける。瓶は粉々に砕け、床へと落ちてゆく。

 

「………会長も会長だ!何であんな油断の出来ぬ若僧を…………!クソッ!」

 

利根川は息を荒くしながら映像を消すと、瓶の欠片を足で踏みしめながら部屋を後にした。

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