フリージング黙示録   作:ヤッダーバァァァ

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第六話:堕ちた鳳雛

「……ターンも正常、肉体に関しては限界をむかえず…暴走もせず。

利根川さんの今回の戦闘に関しての報告は以上ですね」

 

何処か分からぬ暗い部屋の中、黒い紳士服を着た金髪の少年がモニターの前で話す。

 

片手には数枚の報告書と共に、利根川とシャルルが戦っている様子が写された写真を持っていた。

 

「ククク…!ネームレスと利根川の戦闘データの回収の役目……ご苦労であった…」

 

「ははっ…」

 

モニターに映る羽織に袴姿の老人は、椅子に座りながら静かに金髪の少年に労いの言葉をかける。

それに対して金髪の少年は深々と頭を下げた。

 

「ところで…お前の耳にも入っているかも知れんが、シュバリエを騒がす小バエ………。

 

ワシらに逆らうレジスタンスのクズ共が最近になって動きを活発化させているみたいじゃの…」

 

「ええ、報告によれば何処かの組織がレジスタンスに対して、積極的な支援活動を始めたとの事で…。

 

前にシュバリエが管理する研究所を、レジスタンスが占拠した際に使っていた兵器も通常では出回らない特別なタイプでしたし。

 

…もっとも、聖痕を持つパンドラ相手ではガラクタ同然でしたがね」

 

「だが…そこの鎮圧にあたったパンドラ達は不覚にもレジスタンス共を逃してしまったがの。

全く不甲斐ない…帝愛だったら間違いなく制裁ものじゃ………。

まぁ……過ぎた事は仕方ない。それはそれとして、またレジスタンスの小バエ共が何やら行動を起こすらしい…」

 

老人はステーキを素手で持ち、ムシャムシャと食べながら言葉を続ける。

 

「これからお前には…ウエストゼネティックスに行ってもらう」

 

「ウエスト…ゼネティックスですか?」

 

「そうだ…。どうやらウエストゼネティックスの周辺の森で、集団での訓練が行われるみたいなのだ…。

 

つまり…レジスタンスのゴミ共はパンドラ達の訓練を妨害しようとしているのだよ……!」

 

ステーキをすっかりと平らげた老人は、手を拭きながら金髪の少年の顔を見詰める。

 

「…うーむ、何を目的として訓練の妨害をしようとするのでしょうかねぇ…?そんな事をして彼らに何のメリットがあるのか私には分かりかねます…」

 

「さぁの…クズ共の考える事などワシには分からんな…。きっとクズ共にしか理解出来ぬ目的があるのじゃろ……。

 

まぁ…レジスタンスを殲滅するだけならゼネティックスのパンドラで十分なのだが……。

お前がやるべきは別の事だ……分かるかね?」

 

ワインを飲みながら静かに問い掛ける老人に少年は、コクリと頷きながら答えた。

 

「…レジスタンスを裏で支援している組織を探し出せ、という事ですね」

 

「そうだ…本来なら、たかがレジスタンス風情の調査ごときにお前を使う必要はないのだが…。

 

念には念を入れた方が良いと思っての……まぁ、お前なら問題なかろう」

 

老人の言葉に少年は手に持っていた報告書をテーブルに置き、何かを考える様に口下に手を添える仕草をした後、再び口を開いた。

 

「しかし…レジスタンスの連中、逃げる事だけは一流ですよ。

そう簡単に奴等が尻尾を出しますかね?」

 

少年の質問に老人はクククッと含み笑いをし、持っていたグラスのワインを一気飲みする。

 

「…だから念には念を入れたのだろう?

常に与えられた命令を完璧にこなしてきた貴様だ……今回もいつも通りにこなせば良い……。

 

そう……レジスタンス相手ならやり方は幾らでもあるのだ……『幾ら』でもな……!ククク……!」

 

「………なるほど、そういう事なら問題ありませんね。

承知しました、それでは早速…ウエストゼネティックスに向かいます」

 

「ククク…!良い報告を期待しておるぞ……!」

 

「はい、それでは失礼します………会長」

 

少年が再び頭を深々と下げ、顔を上げた時にはモニターは真っ暗になっており、老人の姿は写っていなかった。

報告を終えた少年は大きく背伸びをすると、緊張の糸が解れたのか大きく息を吐いた。

 

「さてと……もう入ってきてもいいぜ」

 

ポリポリと頭を掻きながら少年は扉に向けて言葉をかける。

その言葉に促されるかのように扉は開き、金髪の少年と同じく黒い紳士服を着た少女が部屋の中に入ってきた。

 

「お使いご苦労さん、わざわざすまなかったな……買い物を頼んじまって」

 

「いいえ、隊長の命を従うのが私の役目ですので。それより……ウエストゼネティックスに向かうとの事ですが……」

 

ショートカットの髪型の少女は部屋の明かりを付け、片手に持った買い物袋をテーブルに置きながら金髪の少年の顔を見詰める。

 

「ん、会長との会話を聞いてたのか。だったら話は早いな。

聞いての通り、俺達はこれからウエストゼネティックスに向かう。

目的はレジスタンスを支援する組織を探し出す事……手段は俺達に任せるそうだ」

 

金髪の少年はニヤリと笑いながら、買い物袋からジュースを取り出してゴクゴクと飲み始めた。

 

「ウエストゼネティックス………」

 

金髪の少年の話を聞いた少女は胸元に手を添えながら何か考え事をするかの様に、地面を見詰める。

 

「どうした?急に暗い顔をして…何か悩み事でもあるのか」

 

ジュースを飲み干した金髪の少年は、少女の様子を不思議そうに眺める。

ショートカットの少女は少年の問いに、首を横に振りながら顔を上げた。

 

「いえ、何でもありません隊長……ちょっと気分が悪くなってしまっただけですので……」

 

「おいおい……気分が悪いなら休んだ方がいいんじゃないか?

ウエストゼネティックスへは俺一人で行くからさ……もしお前に万が一の事があったら……」

 

「いえ!大丈夫です、もう治りましたので!心配させてしまって申し訳ありませんでした!」

 

少女は慌てた様子で先ほどよりも大きく首を横に振って、少年に対して謝罪をする。

 

「いや、お前が謝る必要はないさ。仲間の事を心配するのは当たり前の事なんだからな!」

 

少女の肩を軽く叩きながら金髪の少年はニッコリと笑い、買い物袋の中身を取り出してゆく。

 

「それじゃ、とりあえずメシにしようぜ!会長との会話が思いの他、長かったから腹ペコペコなんだ~!」

 

ハンバーガーにかぶり付きながら少年はソファーに座る。そんな彼の姿に少女もまた、笑みを浮かべてソファーに腰をおろした。

 

 

 

「はぁ……!はぁ……!はぁ……!」

 

強制地下労働施設。

熱気がこもり、粉塵が舞い続ける劣悪な環境の中で、エリザベスは苦しそうに息をしながらトロッコを押していた。

 

掘った岩や土が積まれたトロッコはかなりの重量があり、力一杯押しても思うように前には進まない。

 

ようやく目的地までトロッコを運び終えたエリザベスは、埃と汗まみれになった顔をタオルで拭く。

 

だが、エリザベスに休みはない。トロッコを運んだ後、再び地面を掘らなければならないのだから。

 

「早く終わって………」

 

エリザベスは疲れた様子で自分の持ち場に戻りながら呟く。

彼女が利根川によって地下に堕とされてから二ヶ月が経とうとしていた。

 

「作業終了!各班ごとに整列!」

 

笛の音を鳴らして、工事長の怒鳴る声が地面を掘っていたエリザベスの耳に入る。

 

ようやく訪れた作業終了の合図、エリザベスは安堵するように大きく溜め息を吐きながら列へと移動した。

 

「お疲れエリザベス」

 

列に並びながらボーッとしていたエリザベスに髪が長く、顔に傷のある男―――カイジが話し掛けた。

 

「カイジの方こそお疲れ様…」

 

声に反応して後ろを振り向いたエリザベスもカイジと同じく、労いの声をかける。

 

エリザベスとカイジは地下で行われる博打、地下チンチロが切っ掛けで話をするようになった。

 

最初のうちは両者とも、チンチロの時だけしか会話をしなかったが、今では食事や休憩の時によく話をする仲だ。

 

片や大財閥のお嬢様、片やギャンブル中毒の男。

通常ならあり得ない組み合わせではあるが、この地獄の釜の底においてそんな事は全く関係ない事であった。

 

「そろそろ給料日になるな………」

 

「ええ、そうね………チンチロで稼いだペリカもそろそろ尽きそうだし……早く給料日にならないかしら…」

 

小さな声で会話をしながら移動していたカイジとエリザベスは脱衣場へとたどり着く。

 

「ふぅ……やっとシャワーでスッキリする事が出来るわ……」

 

「じゃあ俺達は先に入るからまた後でな……」

 

カイジと別れたエリザベスはいつも通り脱衣場の近くに移動し、男達のシャワーが終わるまで待ち続ける。

 

そしてシャワーを浴び、食事を終えたエリザベスは部屋に戻ると、壁に寄っ掛かりながら体育座りをした。

 

「よう、エリザベス」

 

エリザベスの姿を確認したカイジは柿ピーの袋を片手に彼女の近くに座った。

 

「柿ピー食うか?」

 

「……いただくわ、ありがとうカイジ」

 

カイジは柿ピーの袋を開け、エリザベスの右手の上にパラパラと中身を落としてゆく。

 

柿ピーをもらったエリザベスは一粒ずつ、ゆっくりと口の中に入れてポリポリと食べ始めた。

 

「そう言えばエリザベス……まだ聞いてなかった事があったんだけど良いかな……?」

 

柿ピーを全て平らげた頃、カイジはおもむろに話を切り出した。

 

「どうしたのかしらカイジ?急に改まって……」

 

不思議そうに首を傾げながらカイジの顔を見るエリザベス。カイジはしばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。

 

「何でエリザベスはこんな地下に堕とされてしまったんだ……?

こんな事を言うのも変な話だけど……お前は借金を背負うような人間には見えないんだよな……」

 

「っ……!」

 

カイジの質問にエリザベスは大きく身体を震わせる。そして思い出してしまう……自分の運命を大きく歪ませてしまった、忌まわしきあの日の事を。

 

エリザベスは両手を握り締めながら、唇を噛みながら顔を強張らせる。

 

そんな彼女の姿を見てマズイと思ったのか、カイジは慌てたように両手を振りながら声を出した。

 

「い、いや!別に答えたくないなら答えなくてもいいんだ!ちょっとだけ気になってただけなんだからさ……!

すまなかったな……本当に変な話をしちまって…」

 

「いえ……構わない、知りたいのなら話してあげるわカイジ」

 

「へ……?」

 

エリザベスの言葉にカイジは思わず間の抜けた声を出してしまう。

本来、エリザベスは自分が地下に堕ちた理由を誰にも話すつもりはなかった。

 

だが、エリザベスは地下に堕ちた他の連中とは違うオーラを、チンチロでの戦いでカイジから感じ取っていたのである。

 

どんな逆境でも決して諦めぬ不屈の精神を―――――。

 

だからこそエリザベスはカイジだけには話をしようと決心したのであった。

 

「これから私が話す事はカイジには信じられないかもしれないけど………本当の事よ」

 

「あ、ああ…………」

 

「あれは私がパンドラとして………」

 

何故か正座になったカイジに顔を向けてエリザベスは語り始めた。

自分がパンドラである事、シュバリエに招集されたグランドキャニオンで事件に巻き込まれた事。

 

そして―――シュバリエが帝愛の支配を受けていた事、その事実を世界に知らせようとしたが………帝愛に気が付かれてしまい、この地獄の釜の底に堕とされてしまった事を。

 

「……にわかには信じられない話だな。いや、お前の話を疑うつもりはないんだが……う~~~ん……!」

 

エリザベスの話を聞いたカイジはまるで信じられないといった様子で、腕を組みながら唸り声をあげる。

 

「………だから信じられないかもしれないけど、本当の話だって言ったじゃない。

利根川という男によって私が地下に堕とされたのも………」

 

「えっ…!利根川…だと!?」

 

利根川というキーワードを聞いた瞬間、カイジの表情が変わる。

 

「利根川幸雄を知っているのカイジ?」

 

「ああ……!知っている!知っているさ………だって俺は……奴と戦った事があるんだからな!」

 

カイジの脳裏に写る利根川の姿。今まで出会ったどの大人よりも、とびきり優秀で狡猾だった利根川。

 

そして自分との勝負に負け……焼き土下座をして廃人同然となった利根川。

 

その失脚したはずの利根川が、まだ帝愛の人間として働いているなんてカイジは夢にも思っていなかった。

 

「カイジと利根川との間にそういうことがあったの……」

 

カイジから利根川の事を聞いたエリザベスは彼の顔を眺めた後、小さく息を吐く。

 

「帝愛の会長、兵藤が失脚した利根川を許すなんて……絶対にあり得ないはずなんだ」

 

「でも、利根川は確かに私を地下に堕とす際に自分の事を帝愛の幹部だって言っていたわ。

身体には火傷の痕もなかったし……」

 

床を見詰めながら利根川に関する疑問を解こうとするエリザベスとカイジであったが、時間がただ虚しく過ぎてゆく。

 

と、班長の大槻がニコニコと笑いながら取り巻きの石和と沼川を引き連れて部屋の中へと入ってきた。

 

「はーい、皆の衆っ…!今日も勤労、ご苦労様です。今日は皆さんにちょっとしたニュースがありま~す。

 

実は私達のいるE班に新しい仲間がやってきました!おーい、入ってきなさーい!」

 

大槻は大げさな仕草で扉へと声をかける。

その言葉に促されるかのように、扉がゆっくりと開き小柄な少女が不機嫌そうな態度で大槻の下へと歩みを進めていった。

 

「なんだ……まだ小さなガキじゃないか?」

 

「おいおい……なんだってあんな子供がこんな地下に来るんだよ?」

 

「どうなってんだ…帝愛はこんな子供にまで労働をさせるのかよ?」

 

あどけなさを残す少女の姿に、E班のメンバーは驚きと戸惑いの声を出す。

 

そんな男達のざわつきを無視するかの様に、少女は無言で頷いたまま大槻の横で立ち止まった。

 

「はいはーい、静かに静かに!彼女が今日から皆の衆と共に生活するシャルルさんですっ…!

彼女はまだこの地下に来たばかりなので、困っている所を見たら力を貸してあげましょーう!」

 

大槻は満面の笑みを浮かべながら、シャルルの肩に手を置く。

 

対するシャルルは相も変わらず項垂れたまま動こうとはしない。

 

そんなシャルルの姿を目を大きく開きながら、驚愕した表情で見詰める者がいた。

シャルルと同じパンドラであり、共にグランドキャニオンで起きた事件の鎮圧にあたっていた少女――――エリザベス=メイブリーである。

 

「シャルル…シャルル=ボナパルト!」

 

思わずエリザベスは立ち上がり、大きな声でシャルルの名前を呼ぶ。

聞き覚えのある声で呼ばれたシャルルは顔をあげ、エリザベスの姿を見ると彼女もまた、驚きの表情へと変わった。

 

「エリザベス=メイブリー!?生きて…いたのか!?」

 

思いがけない再会にびっくりしながら、お互いを見詰め合うシャルルとエリザベス。

 

一方のカイジは訳が分からないといった様子でエリザベスの顔を見続ける。

 

「おやおや~?どうやらシャルルさんはエリザベスさんとお知り合いだったみたいですね!

 

これは丁度いい!エリザベスさん、先輩である君がシャルルさんに色々と教えてあげたまえ!

それでは解散…!」

 

大槻の解散の言葉と共に石和と沼川が、ビールや焼き鳥などの嗜好品を積んだ台車へと移動する。

 

他の連中もシャルルとエリザベスの姿を興味ありげに見ながらも、売店の方へと歩き始めた。

 

シャルルはエリザベスの方へと駆け寄り、彼女の目の前で立ち止まる。

 

こうして神算鬼謀の執行者とテンペストの鳳雛は、この地下の底の底の底にて再会を果たす事となった。

 

 

 

「ああ………そこの所は利根川さんに任せても問題はないでしょう。じゃ、俺は任務に備えて休みますからこれにて失礼……」

 

携帯での会話を終えた金髪の少年はコーヒーの飲みながら、ベッドで安らかに眠っている少女に視線を送る。

 

と、何かに気が付いたのか眉をピクリを動かすとコーヒーカップをテーブルの上に戻した。

 

「そうか……ウエストゼネティックスはアイツの……」

 

金髪の少年はゆっくりと立ち上がると寝ている少女の脇へと移動する。

 

「でも、まぁ………お前ならきっと大丈夫だよな。俺はお前を信じているぜ………」

 

穏やかな微笑みを浮かべながら金髪の少年は、少し捲れてしまっている少女の毛布をそっと直してあげる。

 

「お休み………お姫様」

 

少年は小さく呟きながら自分のベッドの方へと歩いていった。

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