フリージング黙示録   作:ヤッダーバァァァ

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第七話:負け犬達のレクイエム

「しかし、お前が生きているなんて思わなかった………」

 

強制地下労働施設でエリザベスと再会したシャルルはやれやれといった様子で溜め息をつく。

 

シャルルはエリザベスが口封じとして帝愛に殺されたと思い込んでいたので、まさか彼女と再会できるなんて考えてもみなかったのであった。

 

「そうね…私の方もまさか、シャルルがこんな地下地獄に来てしまうなんて思わなかったわ……」

 

エリザベスは何処か悲しそうな表情をしながらシャルルの顔を見る。

 

「どうしたんだエリザベス……仲間と再会したってのに、そんな顔をしてよ……?」

 

そんなエリザベスの様子に気が付いたカイジは、不思議に思いエリザベスに尋ねた。

問い掛けられたエリザベスはチラリとカイジの方を見た後、ゆっくりと床に視線を落とす。

 

「……カイジ。私はこんな亡者が巣食う地下地獄ではなく、外の世界で彼女と再会したかったのよ。

こんな……地獄の釜の底じゃなくて…」

 

「………そうか、いや…そうだよな……すまないエリザベス」

 

カイジとエリザベスは互いに顔を合わせ、ハァッと溜め息を吐くとガックリと項垂れた。

 

そんな喪中のような表情をする二人を見て、シャルルは疑問に満ちた顔で膝立ちになる。

 

「な…なんだよお前ら?いきなり静まり返ってさ……。

この強制地下労働施設って場所はそんなに恐ろしい所なのかよ?」

 

「…………」

 

シャルルの問いに二人は可哀想なものを見るような目で彼女を見つめる。

地下地獄に堕ちて間もないシャルルはまだ知らないのだ。

この地下に堕ちた人間に課せられる無慈悲な処遇、環境、日常。

そして馬や豚の様な家畜以下の奴隷として働かされる事を………。

 

「まぁ、明日になれば分かるぜシャルルとやら………。

この地下の………恐ろしさって奴をよ……」

 

カイジは柿ピーが入っていた袋をクシャリと握り潰して立ち上がる。

エリザベスもまた、フゥッと息を吐くとゆっくりと立ち上がった。

 

「…そろそろ消灯の時間になる。地下チンチロも開かれない事だしな………。

色々と話はしたいと思うけど、今日はもう………寝るぞ」

 

大きな欠伸をしながらカイジは、五段ベッドの方へと気だるそうな様子で歩いて行く。

 

「ちょ、ちょっと待てよお前ら!ボクはまだ……」

 

「シャルル、カイジの言う通り…話は明日にでもして今日は寝ましょう。

あなたの寝床は班長に聞いてちょうだい……それじゃ、お休み………」

 

シャルルの肩をポンと叩きながら、エリザベスは小さく欠伸をしてカイジと同じくベッドへと移動していった。

 

「なんなんだよ………アイツら」

 

一人残されたシャルルはチッと舌打ちをしながら、ベッドの階段を登るカイジとエリザベスを睨み付ける。

そして天井ギリギリまで積まれたベッドを見てボソリと呟いた。

 

「こんな所で寝るのかよ………」

 

シャルルはこの部屋の班長である大槻に自分の眠るベッドの場所を聞くため、重い足取りで歩き出す。

 

そして大槻から一番下のベッドで眠る様に指示されたシャルルは、渋々とベッドの中に入るが………。

 

「あ………汗くさい」

 

ベッドの臭いにシャルルは顔をしかめながら鼻をふさいで不快感を露にする。

 

狭い、臭い、固い。

最悪の条件が満載のベッドでの睡眠は、シャルルには非常に辛いものであった。

 

もっとも狭さに関しては、小柄な体格のシャルルにとってあまり問題ではなかったが……。

 

「くそっ…!何でボクがこんな……」

 

脇に置いてあった毛布代わりの布を握り締めながら、シャルルは怒る。

それでも疲れていたシャルルは、ゆっくりと目を閉じると静かに眠りについたのであった。

 

 

 

『はぁ……!はぁ……!はぁ……!』

 

漆黒の闇の中、苦しそうに息を吐きながらシャルルはボルトウェポンを展開して周囲を見渡す。

 

『ククク…!シャルル君っ………君ではワシに勝てんよ………!』

 

あざけりの言葉と共に、シャルルの目の前に悪魔の笑みを浮かべた利根川の姿が現れた。

 

『う、うるさい!黙れ!』

 

シャルルは即座に何度もブレードで利根川に斬撃を放つが、ブレードは利根川の身体をすり抜けてしまい全く意味がない。

 

『ククク……!無駄無駄っ…!何をしても無駄なのだよシャルル君っ……!』

 

ブレードで斬りつけているのとは別の利根川の分身がシャルルの耳元で囁く。

 

『う、うわあああああああ!』

 

叫び声をあげながらシャルルは耳元で囁いてきた利根川を斬るも、先程と同様にブレードは利根川の身体をすり抜けてしまう。

 

『シャルル君はワシに負けたのだ……君はもう……負け犬なのだよっ……!ククククク……!』

 

さらに後ろからも利根川の分身が現れ、シャルルを嘲笑った。

そして、計三体の利根川の分身は宙に浮き、笑みを浮かべながらシャルルを中心に回り始めると、次々とシャルルに言葉を投げかけていく。

 

『ククク…!可哀想なシャルル君っ……!ワシに負け、醜態を晒して生きる気分はいかがかね……?』

 

『シャルル君っ………!もはや君はゴミ同然っ……!

君にはこのまま……地下で敗北の泥水をすすって生きるのがお似合いだっ………!』

 

『偉そうな事を抜かしておいて負けるとは実に情けないなシャルル君っ……!

所詮、君は三流……いや、五流以下の人間だったという事だよ…ククク……カカカ…!』

 

『だ…黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!だまれぇぇぇぇぇぇぇ!』

 

自分を馬鹿にする利根川の言葉の数々にシャルルは狂った様に叫び、うずくまり、両手で耳をふさぐ。

 

しかし、止まらない。耳をふさいでも利根川の嘲笑う声がシャルルを責めたてる。

 

そして利根川の分身が一体、また一体と増え、シャルルを取り囲むようにぐるぐるぐるぐると回り続ける。

 

『フハハハ…!フハハハハハハ……!フハハハハハハハハハ!』

 

利根川の勝ち誇った笑い声がシャルルの頭の中で響き渡り、彼女の精神を攻撃していく。

それはさながら、シャルルの精神を崩壊へと導く、利根川の舞い。

 

『やめろ……やめろ…!お願いだからもうやめてくれぇぇぇぇ!』

 

シャルルは目に涙を浮かべながら懇願するが、利根川の笑いは一向に止まらず―――それどころかますます大きくなっていく。

 

『まっこと哀れなシャルルくぅ~~~ん!フハハハハハハハハハハハハハ!』

 

『いやぁ…いやああああああ!』

 

闇の中でシャルルが叫び声をあげた瞬間、彼女の目が大きく開く。

シャルルがいたのは暗く狭い、ベッドの中。

自分を苦しめていた利根川の姿も笑い声も、もう無くなっていた。

 

「はぁ…!はぁ…!夢、か……」

 

大きく肩で息をしながらも、先程まで見ていたものが夢である事を悟ったシャルルは安堵の笑みを浮かべる。

 

そして汗まみれになった顔をシャツの袖で拭った後、シャルルは寝返りをうつとギリリと歯を鳴らした。

 

「ちくしょう……あの男…絶対に許すもんか」

 

あの日、自分にこれ以上はないくらいの屈辱を与え、こんな地下に堕とした男―――利根川幸雄。

 

これほどまでに人を憎いと思った事はシャルルにはなかった。

心の底から人を殺してやりたいと思った事は、シャルルにとって生まれて初めての経験であった。

 

「利根川…!利根川…!利根川ぁ……!」

 

自分を徹底的に貶めた男の名前を何度も呟きながら、シャルルは涙を流し、枕を濡らす。

 

「この屈辱……数十倍にして返してやる……!絶対に叩き潰す……利根川……!今度はボクが、お前を……必ず!」

 

利根川へのリベンジを決意するシャルルの瞳には、怒りの炎が燃え盛っている。

 

しかし、この地下地獄に堕ちてしまったシャルルが、果たして利根川に対してリベンジを果たす事ができるのだろうか。

その答えを知る者は今のところ誰もいない―――。

 

時計の針が5時を回った時、部屋中に起床の合図であるサイレンの音が響き渡り、ウトウトと眠りかけていたシャルルの意識を叩き起こした。

 

「な、なんだ……?一体何事だ……?」

 

いまだに状況が飲み込めないシャルルはゆっくりとベッドから顔を出し、キョロキョロと周囲を見渡す。

 

すでに部屋には明かりがついており、目を覚ました班の者達がバケツやホウキ、雑巾などを持ってウロウロしていた。

と、片手にホウキを持ったカイジが寝ぼけまなこのシャルルの目の前に現れる。

 

「起きろシャルル、掃除の時間だ」

 

カイジは溜め息を吐くと、眠たそうにしているシャルルに一枚の雑巾を差し出した。

 

「なに、これ………?」

 

「いや、だから掃除の時間だって言っただろ?拭くんだよ、お前も床を………ここでの決まりなんだからな」

 

「掃除って……まだ朝の5時じゃないか!?こんな時間に掃除なんて……」

 

「四の五の言わずさっさと掃除に取りかかれよシャルル……。エリザベスの奴だって、もう掃除してるぞ」

 

そう言ってカイジが後ろを親指で指差した先には、小さく欠伸をしながらホウキで床を掃いているエリザベスがいた。

 

それを見てようやくシャルルは渋々といった様子でカイジから雑巾を受け取り、ベッドから這い出ると他の連中と同じように床を拭き始めた。

 

「眠たい……身体がだるい……なんでボクがこんな朝早くから……」

 

ブツブツと愚痴をもらしながら雑巾を絞るシャルル。

掃除を終えた後は朝食、各班ごとに整列してシャルル達は食堂に向かう。

食堂に到着したシャルルは、そこでパン二つだけを渡された。

 

「こ……これだけ?」

 

両手にパンを持ちながらシャルルは呆然と立ち尽くす。

ゼネティックスにいた頃に比べると明らかに質素で貧しい食事に、彼女はショックを受けてしまった。

 

「なにをボーッとしているのかしらシャルル?早く食べないと、食事の時間が終わってしまうわよ」

 

カイジの横に座っていたエリザベスは棒立ちになっていたシャルルに声をかけ、パンにかじりつく。

 

「で、でもパン二個だけってのは少ないんじゃ……!」

 

「贅沢言うな……これかこの地下の食事なんだからよ……」

 

シャルルの言葉を遮るように、パンを全て食べ終わったカイジが水を飲みながら喋り出す。

 

「言っておくけど、この程度でぶつくさ文句を言ってたら地下での作業に耐えられないぞ………お前」

 

「その通りよシャルル……食べられるものは何でも食べておかないと。

……途中で倒れてしまうかもしれないわ」

 

「く……ううう……分かったよ。文句を言わず食べればいいんだろ、食べればさ!」

 

カイジとエリザベスに諭されたシャルルは口を尖らせながらも椅子に座る。

両手に持ったパンをしばらく睨んだ後、シャルルは溜め息を吐いてパンを口に含んだ。

 

ショボい食事を終えた後はミーティング、新人であるシャルルはカイジとエリザベスと同じ作業現場に回される事となった。

ミーティングが終わり、班員達は指示を受けた作業現場へと移動し始める。

 

シャルルは支給された作業服を持ちながらカイジとエリザベスの後を付いて行く。

 

「今日は辛い現場になりそうだな……」

 

「そうね……出来ればもっと環境がマシな場所にして欲しかったけど……。

こればかりはどうしようもない事だし………」

 

二人の会話を聞きながらシャルルは自分の持っている作業服を見つめる。

サイズに関して一言も帝愛側には話していないので、自分に合うのかシャルルは不安に感じていた。

 

だが、更衣室で皆に隠れるように着替えてみれば、サイズは程よく合い、シャルルの不安は杞憂に終わったのであった。

 

「いつの間に測ったんだ…帝愛の連中…」

 

作業服に着替えたシャルルは自分の姿を格好悪いと思いながらも、カイジから手渡されたスコップを片手に持つ。

 

「なぁ…地下での労働ってどんな事をすればいいんだ?」

 

「……それは作業現場による。今日、俺達がやる作業は穴掘りだ……」

 

「穴…掘り…?」

 

その言葉を聞いてシャルルは怪訝そうな表情でカイジの顔を見る。

 

移動している最中にカイジが辛い現場になりそうだと言っていたので、シャルルは巨大な岩を押したりする大変な仕事を想像していたのである。

しかし、自分に課せられた仕事が単なる穴掘りだと聞いてシャルルは呆気にとられてしまったのであった。

 

そんなシャルルの内心を見透かすようにカイジは、やれやれといった様子でシャルルの顔を見る。

 

「穴掘りの何処が辛い仕事なのかってツラをしているみたいだけどよ……。

実際、やってみれば分かるぜ……この地下での労働が、どれだけ地獄なのかって事がな……!」

 

カイジはそう言ってヘルメットをかぶると、シャルルに背を向けて面倒くさそうに歩き出す。

長靴を履き終えたエリザベスも、ヘルメットをかぶり大きく背伸びをして、スコップを引きずりながら歩き始めた。

 

一人残されそうになったシャルルも急いでヘルメットをかぶり、スコップを持って二人を追い掛ける。

 

(たかが穴掘りであんな顔してさ……少し大げさなんじゃないのアイツら?)

 

利根川の悪夢のせいであまり眠れなかったシャルルは、軽く欠伸をしながらカイジ達の後ろ姿を眺めた。

 

だが――――作業開始から数時間後、そんなシャルルの甘い認識は一瞬にして吹き飛ばされる事になる。

 

「はぁ………!はぁ……!はぁ……!」

 

苦しそうに息をしながらシャルルはスコップで地面を掘り、掘った土や泥をトロッコへと投げ捨てる。

 

粉塵、熱気、異臭、騒音。

 

その全てがシャルルに襲いかかり、苦しめてゆく。

 

(地獄だ………!)

 

ここに至って、シャルルはようやくカイジ達の言葉を理解する。

首に巻いたタオルで額の汗を拭きながら咳をするシャルル。

視線を移した先にはカイジとエリザベスが力を合わせてトロッコを押していた。

 

(なんだこれ……!こんな所で働くなんてどうかしてる……!

こんな事してたら死ぬ……!ボクは……死んでしまう……!

死んじゃう労働………!)

 

歯を食いしばりながらシャルルは苛立った様子で地面を掘る。

 

なんで、こんな事になるんだ?どうしてこんな馬鹿げた事をしなきゃいけないんだ?

 

シャルルは頭の中で自問自答を繰り返すが、そんな事をしても労働が楽になる訳でもなく、やがてシャルルは馬鹿馬鹿しくなって自問自答を止めた。

 

「はぁ~~~~~!」

 

ようやく地下での作業が終了し、シャワー室で一握りのシャンプーを使って髪を洗いながらシャルルは大きく溜め息をついた。

 

「ようやく分かったでしょう…?この地下地獄がどれだけ辛いのかが……」

 

身体を洗い終えたエリザベスが話し掛ける。シャルルはエリザベスと共に入ったため、現在このシャワー室には二人しかいない。

 

「ああ……よーく理解出来たさ…!あの男がボクをこんな地下に堕とした理由も!」

 

シャルルは髪をクシャクシャと力強くかきながら、怒ったように声を荒げる。

 

利根川は地下に堕ちて苦しむ自分の姿を見て楽しむつもりなのだ。

奴隷のように働き、落ちぶれてゆく自分の姿を。

利根川という男はどこまで自分を馬鹿にすれば気が済むのか―――!

 

シャルルは、はらわたが煮えくり返るような思いにかられ、拳を握りしめる。

 

「ぶっ飛ばしてやる…覚えてろよ……!ボクをこんな目にあわせた事を必ず後悔させてやるからな……!」

 

「……一人で盛り上がっている所で悪いのだけど、そろそろ食事の時間が終わりそうだから、シャワー室を出た方がいいわよ?」

 

熱をふかしているシャルルの肩を、エリザベスは軽く指先でつつく。

 

「…………ああ」

 

シャルルはエリザベスの忠告を受け、ホッと一息を入れるとエリザベスと共にシャワー室を後にする。

 

シャワーを浴び、再びショボい食事を終えて部屋に戻ったシャルルは、かつてのエリザベスのように隅っこで体育座りをしていた。

 

「はぁ…………」

 

うんざりした様子で溜め息を吐くシャルル。利根川の制裁によってシャルルは15年の間、この地下で奴隷として過ごさなければならない。

 

だが、そんなふざけた制裁を素直に受け入れられる訳がなかった。

 

(こんな最悪な環境で15年も働ける訳ないだろ……!

あんな場所で労働していたら確実に身体をぶっ壊すに決まっている………!

例え、身体を壊さないように上手く立ち回ったとしてもだ………。

 

こんな劣悪な環境に15年だなんて………ボクは絶対にイヤだね!)

 

奥歯を噛み締め、シャルルは首を上げると部屋の隅に付けられている監視カメラを睨み付けて決心をする。

 

「こんな所………脱走してやる」

 

地下帝国からの脱獄。

だが、それはほとんど不可能な事である。

部屋には監視カメラと分厚い扉があり、仮にそれをどうにかして部屋から逃げ出したとしても、部屋の外は複雑な巨大な迷路のようになっているからだ。

 

おまけにシャルルの首に付けられている帝愛特製のチョーカーによって、パンドラとしての能力は一切使えない。

 

(このチョーカーさえ外せれば……少しは可能性があるかもしれないのに……くっ!)

 

舌打ちをしながらシャルルは監視カメラから目を逸らす。

と、柿ピーを持ったカイジがエリザベスと共にシャルルの目の前に現れた。

 

「よう、お疲れさんシャルル。柿ピー食うか?」

 

カイジはその場に腰を下ろすと柿ピーの袋をシャルルに差し出した。

それに対し、シャルルはジト目で柿ピーを見詰めた後、不機嫌そうにそっぽを向く。

 

「いらない。ボクは今、何も食べたくないんだ」

 

そう言っているシャルルであるが内心は違っていた。

本当は貧しい食事のせいで腹ペコで、何か食べ物を食べたかったのだが…。

その姿をカメラ越しで、利根川に見られているかもしれないというシャルルの疑念がそれを思い留まらせていた。

 

「おいおい……素直じゃねぇな…。本当は食べたくて食べたくて仕方ないんじゃないのか……シャルル?」

 

カイジは袋からピーナッツを一粒取り出すと、口の中に放り込み、エリザベスに袋を差し出す。

 

「ありがとう、カイジ」

 

エリザベスはカイジに礼を言いながら、袋から柿ピーを取り出すと口に含んだ。

 

「う~~~~………」

 

シャルルは小さく唸り声をあげながら横目で柿ピーの袋を見る。

 

「食べたいなら食べたいって素直になりましょうシャルル……?」

 

「ふん!ボクはいらないって言っただろ!それにこんな所を利根川に見られたら………」

 

「利根川!?」

 

シャルルの口から利根川の名が出た瞬間、カイジとエリザベスは同時に言葉を放った。

 

「な……なんだよお前ら?いきなりハトが豆鉄砲を食ったような顔をして………何かボク、変な事でも言ったのか?」

 

「お前、今……利根川って言わなかったか?」

 

「………言ったけどそれがどうしたんだ。お前達もあの男……利根川を知っているのか?」

 

不思議そうに首を傾げるシャルル。一方、カイジは自分の頭に手を置きながら小さな声で呟く。

 

「ここでも利根川が出てくるのかよ………」

 

「シャルルも私と同じように利根川によって地下に堕とされたのね………」

 

「と……いう事は利根川が復活したのは間違いないって事だな……」

 

顔をしかめながら喋り出すカイジとエリザベス。状況が全く飲み込めないシャルルは、膝立ちになりながら二人の顔を眺める。

 

「なんなんだよ…昨日から……本当に訳が分からないんだけどお前達……」

 

「あ、ごめんなさい…シャルル。どうやらあなたにも説明しなければならないようね。利根川幸雄はこの帝愛で………」

 

シャルルに対して利根川に関する事を語り出すエリザベスとカイジ。

その三人の姿を別の部屋で監視カメラを通して見つめ続ける男がいた。

 

スーツを着た男はテーブルに置いてあったグラスに注がれた酒を飲んだ後、葉巻を取り出して口にくわえる。

 

「火をくれないか………」

 

「はっ……!」

 

男の側にいた若い青年はポケットからジッポーを取り出すと、葉巻に火を付ける。

 

男はしばらく葉巻を吸った後、灰皿に置き再び監視カメラの映像へと視線を移した。

 

この男の名前は黒崎義裕。

かつて帝愛の最高幹部の一人であったが利根川がカイジによって失脚した後、

自らが推し進めていたある計画で大きな結果を残し、

その功績を帝愛の会長である兵藤和尊に認められて、最高幹部の筆頭と昇格し、帝愛のナンバー2の椅子にもっとも近い男と周囲から呼ばれている。

 

黒崎は葉巻の火を消してフフンと鼻を鳴らしながら笑うと、ゆっくりと話し始めた。

 

「あの三人だろう……利根川を失脚させた男…伊藤カイジ。

そしてその利根川が地下に堕とした二人のパンドラ……エリザベス=メイブリーとシャルル=ボナパルトというのは……」

 

「ええ、そのようですね…」

 

「少しアップにしてくれるか……?」

 

「ははっ…」

 

若い男はリモコンを手に取り、カイジ達が写っている映像を拡大する。

何やら話をしている三人を見て、黒崎は何かを考えるようにジッと画面を見つめた後、グラスをテーブルに置く。

 

「全く利根川も悪趣味な事をする……あんな少女達を地下に堕とすなんてな………」

 

「ええ、しかし……彼女達は帝愛に逆らう反逆者だと利根川さんは言っていましたが………」

 

「そんなものは詭弁に過ぎんよ……私は利根川のそういう所が昔から嫌いでな………。

自分が失脚したという事をすっかり忘れているのやも知れん……。

だが………あの三人はもしかしたら使えるかも知れんな」

 

「は………?」

 

黒崎の言葉を聞いて若い男は不思議そうに画面を見る。

黒崎はクックッと含み笑いをしてグラスの酒を一気に飲み干した。

 

「……前にシュバリエに逆らう、レジスタンス共の鎮圧を任された際に押収した【アレ】はまだ持っているな?」

 

「はい、アレは私が責任を持って保管しております……他の連中にも気が付かれておりません」

 

「そうか……」

 

若い男の言葉を聞いた黒崎はゆっくりと立ち上がり、天井を見上げる。

 

(利根川は今、会長の命令によってグランドキャニオンにいると聞く………ならば)

 

黒崎はしばらく無言で天井を見つめた後、若い男へと顔を向けて口を開く。

 

「一条、私はこれから計画の確認のためにアラスカ基地へと向かう。

計画を任せているスカーレット=大原博士とも色々と話がしたいしな」

 

「そうですか……ならば護衛として私も一緒に」

 

黒崎の言葉に一条と呼ばれた青年も立ち上がり、ボディーガードを申し出る。

しかし黒崎は一条の提案に無言で首を横に振った。

 

「私の方は大丈夫だ一条。それより、お前にはここに残ってもらいたい……そしてだ」

 

フフッと笑みを浮かべながら、黒崎は一条に対して何やら耳打ちをするとゆっくりと彼から離れた。

 

「………という訳だ一条。後は任せたぞ」

 

「………ははっ。黒崎様のご命令とあらば………そのようにいたします」

 

命令を受けた一条は黒崎に深々と礼をする。それを見て黒崎は満足そうに頷くと、ゆっくりと歩き出して部屋を後にした。

 

黒崎が立ち去った後、一条は映像に写ったカイジ達を見ながら小さく呟く。

 

「運が良いな……お前達」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら、一条はリモコンのボタンを押して映像を消す。

そして他の場所で待機している黒服達に、部屋を片付けるように命令を送った後、

部屋を出て、黒崎が言っていた【アレ】を確認するため、ポケットに手を入れながら静かに歩き出した。

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