フリージング黙示録   作:ヤッダーバァァァ

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第九話:嵐の攻防戦

遠征訓練を行っているウエストゼネティックスの生徒達に襲撃を仕掛けるべく、レジスタンス達は幾つかのグループに別れて生徒達がいるテントへと向かう。

 

「はぁ………なんでこんな事になってしまったんだろう……俺達」

 

前を先行しているレジスタンスのメンバーから、少し離れた所で移動をしていた気弱な顔つきをしている男が明らかにやる気のない声でボソリと呟く。

それに反応するかのように彼の隣にいた眼鏡をかけ、肥えた体型の男も今にも泣きそうな顔で大きく溜め息を吐いた。

 

「……エスポワールから降りた後、執拗に返済を迫ってくる借金取りに捕まらないように逃げ続けた結果がこれだよ………古畑さん」

 

そう言った後、肥えた体型の男と鼻の大きな男は顔を見合わせてこの世の終わりと言わんばかりに再び溜め息を吐く。

この二人の周囲には帝愛が言う所のクズ特有のオーラ………マイナスのオーラが漂っていた。

 

鼻が大きく弱気な顔をしている男の名は古畑武志、そして眼鏡をかけていて太っている男の名前は安藤守である。

古畑と安藤はカイジがエスポワールで生き残るために戦っていた際に三人でチームを組んでいた。

 

しかし最後の最後で古畑と安藤は自分達の利益のため、事もあろうに恩人であるはずのカイジを裏切ったのである。

結局、裏切りは失敗して安藤はカイジに腹蹴りと回し蹴り、古畑はビンタ一発という制裁を受け自分達が抱えていた借金をさらに増やしてエスポワールを降りたのであった。

 

船を降りた古畑と安藤は借金を返済しようとすらせず、現実から逃れるためにパチンコや競馬などにうつつを抜かす日々を送っていた。

無論、そんな二人に帝愛は情け容赦なく返済を迫り続けた。払える訳がない二人はただ頭を下げて延長を懇願するしかない。

そんな事を繰り返す二人についに帝愛は業を煮やし、帝愛側が決めた期限までに借金を返済出来なかったら問答無用、こちら側のやり方で強制的に払わせると言って来たのである。

 

エスポワールの件で帝愛の恐ろしさを存分に味わっていた古畑と安藤は身の危険を感じ、帝愛からの魔の手から逃れるため、二人一緒で夜逃げをしたのであった。

 

こうして夜逃げに成功した古畑と安藤であったが頼る場所などあるはずもなく、二人は人目のつかない森や廃墟などで息を潜め、森の中に落ちている木の実や深夜にゴミ箱を漁ってどうにか食べられそうなものを持って帰って、口に入れるというまさに野良犬同然の日々の連続。

 

さらに、夜逃げした自分達を捕まえにいつ帝愛がやって来るのかという恐怖により二人の精神は日に日にダメージを負っていく。

しかし古畑と安藤はもう駄目だ、こんな生活に耐えられないと何度も何度も弱音を吐きつつも帝愛から逃げるために様々な場所を転々として逃げ続けた。

 

そんな二人の運命を変える出来事が起きる。それは深夜、古畑と安藤が空腹に耐えながらも帝愛の追っ手から逃れるために森の中を歩いていた時であった。

 

懐中電灯を片手に前を歩いていた古畑は暗い森の奥で数個の小さな光が移動しているのを見つける。

その光が自分達に向かって移動して来るのを確認した古畑は懐中電灯を消して後ろにいた安藤と共に林の中へと隠れた。

 

息を潜めて様子を見守っていた古畑達の目の前に写ったのは銃を構え、物々しい気配を出しながら歩く数人の男達であった。

 

キョロキョロと周囲を確認しながら移動する男達を見て古畑と安藤は、逃げ出したい気持ちを抑えながら連中が自分達を見付ける事なく過ぎ去っていくのをただ祈っていた。

 

だがこの大事な場面で安藤が大きなくしゃみをし、二人は男達に見付かり銃を突き付けられて抵抗する事もなく捕まってしまった。

男達のアジトに連行されてしまった古畑と安藤は殺されると思い、泣き続けていたがリーダーらしき男から救いの手を差し伸べられる。

 

『シュバリエに反抗している我々レジスタンスの一員として戦うつもりがあるのなら命を助けてやる』

 

その言葉を聞いた安藤は首を振って泣き叫びながら拒絶するが、死にたくなかった古畑はリーダーの提案を受け入れる。

嫌がっていた安藤も古畑やリーダーの説得によって泣く泣くレジスタンスになる事を受け入れた。レジスタンスの下っぱとなった古畑と安藤を待っていたのは、洗濯や買い物、掃除などの雑用であった。

レジスタンスのメンバー達から叱咤や嘲笑を浴びながらも、二人はヘラヘラ笑い媚びを売りながら仕事をこなしていった。

 

そんな二人にレジスタンスのリーダーはとんでもない事を言い出したのである。

 

『ウエストゼネティックスの合同遠征訓練に対する襲撃に、お前達も連れていくからな』

 

その言葉に安藤と古畑は肝を潰した。銃はもちろん、ナイフすら人に向けた事がない二人に実戦なんて出来るはずがなかったからだ。

しかし、レジスタンスに口答えすれば即射殺なのは明白。そんな状況に対して安藤は混乱のあまり、

 

『襲撃ですと……!?連れていくですと………!?』

 

という言葉を繰り返し呟きながら卒倒してしまった。古畑は気絶こそはしなかったが、話が終わった後に失禁してしまうという醜態をさらすのであった。

 

それでもレジスタンスは二人の襲撃への参加を取り止める事はせず、銃とアーミーナイフの扱い方を簡単に教えた後、半ば引き摺るような形で古畑と安藤をこの森へと連れていったのであった。

 

「出来る訳ないよ俺達に戦いなんて……なぁ、安藤?」

 

マシンガンを両手に持ち、全身を震わせながら古畑は、大きく溜め息を吐く。安藤は安藤で半ベソをかきながら腰に付けたナイフを見つめている。

 

「……こうなったのも古畑さんのせいだよ…!古畑さんが、レジスタンスに入るだなんて言わなければ…こんな事に……!」

 

「な……なんだよ、それ!仕方ないだろ!あの時、入りますと言わなければ俺達は殺されてたんだから!」

 

自分に責任を擦り付けるような安藤の発言に、古畑はさっきまでの虫の鳴くような声から一転、大きな声で安藤を怒鳴り付ける。

 

 

「そんな事を言うなら、隠れていた時にくしゃみなんかした…お前のせいだろ!?

あれさえ無かったら、捕まらずに済んだんだから!」

 

「そ…そんな!僕は悪くない!あのくしゃみは不可抗力だ…!」

 

「不可抗力!?不可抗力だから悪くないなんて、馬鹿も休み休み言え!」

 

襲撃の事をすっかり忘れ、醜い責任の押し付け合いを始める古畑と安藤。

やがて、二人の怒りの矛先はエスポワールでお世話になった男―――カイジへと向けられる。

 

「そもそもカイジさんが…僕達に分け前をくれなかったからだ……!カイジさんが分け前をくれていれば……!」

 

 

「そ…そうだよ!安藤の言う通りだよ!カイジさんが分け前をくれなかったから……俺達がこんな酷い目に………ううう」

 

「チクショウ……どうして分け前をくれなかったんだよカイジさんっ……!

石田とかいう、知らないおっさんよりも仲間だった俺達を救うべきだっただろ……!?」

 

「そうだそうだ……!分け前をくれなかったカイジさんは酷い人だっ……!カイジさんの鬼…!悪魔……!デビルカイジっ……!」

 

大雨の中でポロポロと大粒の涙を流しながら、二人はカイジに対する恨み辛みの言葉を次々と吐いていく。

 

しかし、元はと言えば二人がカイジを裏切ったからであり、自業自得以外の何物でもない。

もし、この場にカイジがいたならば、

 

『テメーら、裏切っておいて何が分け前だクズ共っ………ぶち殺すぞっ!』

 

と一蹴されていたであろう。もっともそのカイジは二人よりも一足早く帝愛によって確保され、地獄の釜の底に堕とされてしまったが……。

そんな事を知る由もない二人は延々とカイジへの文句を呟き続けていたのであった。

 

「シュバリエの連中め…覚悟しろ…!今から俺達がお前らに鉄槌を下してくれる!」

 

大雨が降る暗闇の中で片目に眼帯を付けた男が、もう片方の目をギラつかせながら小さく呟く。

この男こそ、ウエストゼネティックスの襲撃を計画したレジスタンスのリーダーであり、古畑と安藤をメンバーに加えた張本人である。

 

「クッ…!疼く……疼くわ!貴様らにやられた左目が疼くっ……!

持って逝かれたこの左目の代償を支払ってもらうぞシュバリエの犬共……!」

 

男は眼帯を押さえながら憤怒に燃える。やがて男は立ち止まり懐から通信機を取り出すと、散り散りになった他のメンバーとの交信を始めた。

 

「こちらはグループA、まだゼネティックスとは接触していない……そっちはどうだ?」

 

『グループB、こっちもいまだ交戦は無し、引き続き移動します』

 

『グループCです…我々は現在、森を抜け………ぐあっ!?』

 

「ど……どうしたグループC!?一体何が起きた!」

 

リーダーは通信機を揺らし、大声で呼び掛けるも返事はなく、ただ雨の音だけがリーダーの耳に入ってゆく。

 

リーダーは訳が分からないといった顔していたが、やがてプツンという音と共に別のグループからの通信が入った。

 

『グループD!グループD!現在、何者かから攻撃を受けている!

繰り返す!我々は何者かから攻撃を………うぐっ!』

 

男の悲鳴と共にグループDからの通信が途絶えた。

リーダーはゴクリと唾を飲み通信機を握り締め、半ば焦った様子で自分達が襲撃を受けている事を他のグループに知らせようとした。

 

だが、どのグループも全く返事がなく音信不通の状態だった。

 

「おい!返事をしろ!おい!」

 

リーダーは何度も何度も通信を試みるが、耳に入るのはさっきから降り続ける雨の音だけ。

焦るリーダーの姿を見て、同行していた他のメンバー達も彼の元へと集まっていく。

 

「どうしましたリーダー…?」

 

メンバーの一人がリーダーに対して恐る恐る質問をぶつける。リーダーは通信機を持っていた手を下ろすと、ゆっくりメンバー達を見渡した。

 

「………我々は今、何者かによって襲撃を受けている。そして……俺達のグループ以外はすでに……」

 

「そ、そんな馬鹿な……!もしかして我々の計画がシュバリエに知られていたのでは……!」

 

「……分からん、とにかく今は、他のメンバーの救援に向か……」

 

と、リーダーが言いかけたその時、何か高速で彼の頬を横切り、近くの木へと突き刺さる。

 

木に突き刺さった物―――それはナイフだった。ナイフをかすめたリーダーの頬からは赤い鮮血が流れていく。

 

「うっ…………うわあぁああぁあああっ!」

 

その光景を目の当たりにしたメンバーの一人が、悲鳴をあげて腰を抜かした。

 

「て……敵だ!敵だぁ!」

 

別のメンバーはギリリと歯ぎしりをするとナイフが飛んできた方向へと、マシンガンを乱射する。

 

それにつられるように、リーダーを始め他のメンバー達も四方八方にマシンガンを乱射した。

暗闇の森の中、銃声が響き渡る。

そして数分後――――。

 

「くそっ…!くそっ…!くそっ…!なんなんだよ……!」

 

リーダーはただ一人、森の中を走っていた。他のメンバー達は暗闇から次々と飛んできたナイフが腕や足の間接に突き刺さり、動けなくなってしまったのである。

メンバー達から、自分達の事は良いから早く逃げてくださいと言われたリーダーは彼らに謝罪の言葉をかけながら、逃げ出したのであった。

 

「くそったれがっ…!この左目の仇をとるはずだったのに……こんなはずじゃ…!」

 

――――ドスッ

 

ぶつぶつと呟きながら走るリーダーの目の前を再びナイフが横切り、木に突き刺さる。

 

「…………!」

 

リーダーは血走った眼でナイフが飛んできた方向に銃を向ける。そしてマシンガンを数発、撃って怒鳴り声をあげた。

 

「コソコソしてないで出てきやがれクソ野郎!こうなったら俺はもう、逃げも隠れもしねぇぞ!」

 

返事はない。リーダーは雄叫びをあげるとマシンガンを乱射し始めた。

と、後ろの方でドスンと何かが落ちる音がした。

 

「ひっ………!」

 

後ろを振り返ったリーダーが最後に見たもの。それはナイフを片手に接近してくるショートカットの少女の姿であった・・・。

 

 

 

「はーい、お疲れさん……見事な動きだったぜ!」

 

気絶しているレジスタンスのリーダーを見下ろしていた少女の所に、金髪の少年がパンパンと手を叩きながら暗闇から現れる。

ショートカットの少女は持っていたナイフを懐にしまうと、少年の方に顔を向けた。

 

「隊長…この男が恐らくレジスタンスのリーダーだと思われますが…」

 

「だろうな、しかし仲間を見捨てて逃げるだなんて最低なヤローだな。

本当なら、ぶっ飛ばしてやりたい所だが……コイツからは情報を聞き出さないとならねーからなぁ……やれやれだぜ」

 

金髪の少年はチッと舌打ちをすると、リーダーである眼帯の男の身体を探る。

 

「おっ………また見つけちまったよ」

 

少年はリーダーの懐から何かを取り出すと、少女へと見せ付ける。

少年の手のひらに乗っていたのは金色に輝く数枚のコインであった。

このコイン、今回の襲撃に参加していたレジスタンスのメンバーが全員、懐にしまっていたものである。

ショートカットの少女は首をかしげながら、コインを手に取りまじまじと眺める。

 

「一体…このコインは何なのでしょうね隊長…?コインの表面に鳥の頭の部分が写っていますけど……」

 

少女の指摘する通り、コインには鳥の頭部が型どってある。裏面の方もまた、鳥の頭の絵柄が写っていた。金髪の少年はコインをじっくりと眺め、何回か指で弾いた後ポケットの中へとしまいこむ。

 

「ん~~~………俺にも分からねーや……けど、このコインがレジスタンスを裏で支援している連中を見つける手がかりになるかもしれねー…。

とりあえず持って帰って会長に見せる事にするか!」

大きく屈伸をして少年はレジスタンスのリーダーである男の側へと歩みを進める。そして小さなあくびをすると、少女の肩をポンと軽く叩いた。

 

「今日の仕事はこれで終いだ!この眼帯の男以外は放っておいて構わねーだろ……連れて行くのはコイツだけでいいさ。

さぁ、早く帰ってメシでも食って……………ん!」

 

突然、ピクリと身体を震わせ少年は後ろを振り返る。普段のにこやかな顔から一転、険しい表情へと変わっていた。

少年の異変に気が付いた少女もまた、後ろを振り返り少年に声をかける。

 

「……どうやらまだ、暖かいベッドでお休みって訳にはいかねーみたいだぜ…」

 

「隊長……もしかして…」

「ああ……間違いねぇ、この不愉快な感覚は……ノヴァだ……!」

 

――――ノヴァ

 

その言葉を聞いた少女の顔が一瞬曇る。が、すぐに表情を戻すと少年の見つめている方角へと身構えた。

 

「隊長!ノヴァの数と、訓練中のパンドラ達とノヴァとの距離は!」

 

「……タイプSが一体と、Rが二体!生意気にもお供を連れてやがるのか…。

パンドラ達との距離の方は……まずいな、タイプSの方が休憩しているパンドラ達の方に近付いてやがるぜ」

 

少年は首をコキコキと鳴らし、ポケットから小さいチョコレートを取り出すと口の中へと放り込む。

 

「まずはタイプSの方を潰す、その後に二体のタイプRを殺る…被害が出る前にチャッチャと終わらせるぞ!」

 

「了解!彼女達には指一本触らせはしません!隊長、ノヴァに私達の力を見せてやりましょう!」

 

「はいよ、んじゃ……いくぞマリン!」

 

「はい!」

 

雷の音が鳴る嵐の中、ノヴァのいる方向に向かって二人は走り出す。

 

「必ず……!彼女達を守ってみせる!」

 

マリンと呼ばれた少女は決意の秘めた表情でそう言葉を放った。

 

 

 

同時刻、鹿児島のとある神社が燃え盛る炎に包まれていた。

至る所が破壊され、人々がうめき声をあげながら倒れており、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図・・・。

 

その炎の中、三人の少女が何かから逃げるように大きく肩で息をしながら走っていた。

 

「早く逃げるですよ姫様ー!あの男がやってくる前にー!」

 

前を走っていた露出度の高い巫女服に褐色の肌に小柄な身体の少女が後ろを振り返り、胸が大きく二つに髪を結んだ少女に対して呼びかけた。

 

「はぁ……!はぁ……!私のせいで……皆さんが……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

姫様と呼ばれた少女は大粒の涙を流しながら、何度も何度も謝罪の言葉を口にしている。

 

彼女の名前は神代小蒔、この神社を治める神代家の娘であり、周囲からは姫様と呼ばれている。

 

「今は逃げる事に集中してください姫様…あの二人ならきっと大丈夫ですから!」

 

涙ながら謝罪する小蒔に眼鏡をかけた少女がなだめるように言葉をかける。それでも小蒔は謝る事を止める事はなかった。

 

「後もう少しですー!後もう少しで神社を抜けられるですよー!急いでください姫様ー!」

 

褐色の肌の少女――――薄墨初美が指差した場所には一台の車が止まっていた。その車の窓から神社の袴を来た男が大きく手を振っている。

 

その車を見た眼鏡の少女――狩宿巴が安堵の笑みを浮かべながら小蒔に言葉をかけようとした、その直後。

 

「ところがぎっちょん!そうは問屋が卸さねぇってもんよぉっ!」

 

男の叫び声と共に、爪の形をした赤い衝撃波が車に襲いかかる。その衝撃波を受けた車は紙屑のように宙を舞い、爆発した。

 

「ああっ………!」

 

火に包まれながら地面へと落ちてゆく車の残骸を、三人の少女は呆然とした様子で眺める事しか出来ない。

 

そんな小蒔達を嘲笑うかのような顔をした一人の男が姿を現す。

長く伸びた赤い髪と髭に、獣のような鋭い目、そしてその男の右手には血塗られたかのように真っ赤な大剣が握られていた。

 

「ちょいやさぁ!」

 

燃え上がる車に追い討ちをかけるように男は大剣を振り上げると、再び赤い衝撃波で車を粉々に打ち砕く。

 

そして、男はニヤリと残酷な笑みを浮かべ、小蒔達の方へと顔を向けた。

 

「悪いな、お姫さんよぉ!アンタを逃がす訳にはいかねぇんでなぁ!」

 

赤髪の男は剣を構えつつ、獲物を捕らえる獣のような目付きがゆっくりと小蒔の方へと歩みを進める。

 

「ひ…姫様!逃げるですよー!」

 

初美が呆然としたままの小蒔の袖を掴み走ろうとした直後、後方から爆音と共に赤黒い爆炎が巻き起こる。

その赤黒い炎の中から、白と黒のグローブを装着した男―――ネームレスが姿を現した。

 

「よぉ、ネームレス!俺達を足止めしようとした、あの女共はもう潰したのかぁ?」

 

ネームレスの姿を見た赤髪の男は剣を振りながら、彼に話し掛ける。それに対しネームレスは白いグローブを撫でながら答えた。

 

「………俺に敗北はない」

 

「そうかそうか!流石はネームレスだぜ!しっかし、神社を襲うたぁ俺達も罰当たりだよなぁ!

コイツぁ、神の天罰が下っちまうかもしれねーぞぉ?ハッハッハッハッハァ!」

 

楽しそうに笑う赤髪の男とは対照的にネームレスは無表情のまま眉一つ動かす事なく、手に持っていたマントを装着する。

 

「……神だろうと何だろうと、俺の道に立ち塞がる者は、全て焼き尽くす……」

 

「ハハッ!神様まで焼いちまおうってかぁ!?全くお前は面白ぇ奴だぜネームレス!」

 

愉快そうな笑い声をあげた後、赤髪の男は小蒔達の方に視線を合わせる。

 

「さてと……それじゃ、観念して俺達と一緒に来てもらおうか……ええ!?【牌に愛されし少女】の一人……神代小蒔ちゃんよぉ!」

 

赤髪の男――アリー=アル=サーシェスは大きく大剣を振り回すと、怯えた目で自分を見つめる小蒔の方へと駆け出していった。

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