そういう妄想をカタチにしたモノ。
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駆ける。
駆ける駆ける駆ける駆ける。
数多の魔人柱の数多の攻撃を獣の如き敏捷性で
縁も所縁も無いとは言えなくもないが、「ハテ──いつどこで?」などと眠たい話はここでは置いておこう。
己が居るならそれでいい。
敵が居るならそれでいい。
見渡す限りの敵どもがあれば、おお、それもいいだろうさ。
──この槍兵にとっては、それで十分。
愛用の赤い槍を振るうのに理由も要らないのであれば、十二分であるというもの。
「しゃあっ!」
気合一閃で、赤い槍は因果を辿るまでもなく遍く魔人柱を屠る。
彼は、他の魔人柱など視界にも入らない。
歴戦の勇士の勘か、それとも何かを察したか彼はこの時間神殿の玉座へと向かっている。
この玉座には、今まさに人類最後のマスターと、人王ゲーティアが己が矜持をぶつけ合っている。
──それは、いい。
人類は勝利した。人王となったゲーティアは崩壊する身体を止める術を持たない。
だが──
「チッ、ほぼ同時とはな」
青い槍兵は、舌打ちをした。
──赤い外套の弓兵が、自身に僅かに遅れてその場に到着した。
「流石に素早いな、ランサー」
「抜かせアーチャー……まさかテメェだけか?」
「それこそまさか、だ。まったく──とんだ貧乏くじもあったものだ」
赤い弓兵は、ランサーの問いにそう答えながら視線を敵対者へと向ける。
視線の先には──おぞましくも三柱が結合した新たな魔人柱が生まれようとしていた。
──マルバス、マレファル、それにアモン。
憤怒によって恐怖によって、つまり初めて得た激情に依ってこの三柱は結合し徹底抗戦を示している。
英霊達への?
否。
──人類への。
そうとも、なるほど我々は負けたとも。
すんでの所で、認識できない小石に躓いたとも。
だが。
だがだがだが。
ダガダガダガダガダガダガ!
ここで、アイツを殺してしまえば負けではない。
引き分け、痛み分けというヤツだ。
唯のニンゲン! ただの! 一つの魔弾、一つの肉があのニンゲンを貫けば!
我々の敗北は、痛み分けとなるのだ!
三 柱 結 合 魔 神 柱 マモン爆誕!
「──なんと」
アーチャーが嘆息するのも無理は無い。
三柱の結合は力の足し算ではなく乗算……いや、それ以上の威を震わせていた。
「……災厄の獣の一歩手前と言ったところか。マモンの名を冠するだけはある」
「へっ上等じゃねぇか、んじゃま、とりあえず一番槍は頂くかぁっ!」
青いランサーが
それに連携し赤いアーチャーが、
だが、それもマモンには然程の
お返しとばかりにに過度な魔力の奔流が二人に向かって放たれる。
波濤の如く襲い来る魔弾と呼ぶのも烏滸がましい攻撃は、白い光が掻き消した。
長髪のライダーの宝具──
「お待たせしました。どうやら三番手のようですね?」
挨拶もそぞろ、ライダーは己の役目を弁えている。
時速500kmで飛行する魔力の防壁、それが彼女の優先すべき役割だった。
あらゆるマモンの攻撃を白い流星は弾き飛ばす。
マモンは嗤った。
魔力の衝撃波は、防がれるというのならば。
マモンから触手が伸び行く。無数の、視界を埋め尽くすかのような、数えることすら馬鹿らしいほどの触手。
絶えずに波濤の如き魔力波は放たれているので、ライダーの守備も間に合わない。
ランサーがルーンで炎を放ち、アーチャーがあらん限りの投影を放つも焼け石に水。
「──いや、全く。あのデカブツが相手では刀の振るいようも些か飽きがこようというものだが」
「然り。この呪いの腕、存分に振るってくれよう」
長刀のアサシンと呪腕のアサシン。
いや、だがそれでも足りない。
二人のアサシンは驚異的な速度で触手を薙ぎ払い、或いは切り落としているがそれでもまだ、この風雨の様に迫りくる触手を退けない。
「全く! 私は便利屋ではないのよ!」
次に現れたのは長耳のキャスター。
開口一番で行った魔術は『強化』。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
対象は共に現れたギリシャ不沈。大英雄の狂戦士。
その間断無い攻撃は、まさに暴風雨の化身の如く。雨あられの触手など、事もない。
(m/s)が足りない。とばかりにそれを上回る速さで叩き潰した。
──恐ろしいことに、この大英雄は狂化によって理性の大半を奪われながらも意志を持つ。
彼は、暴れ回りながら嗤っている──意識的に。
戦闘が望外の喜びだというのではない。
世界を救う闘いだということも、彼にとっては喜びとはならない。
今の彼に、喜ばしいことはただ一つ。
「―――バーサーカーは、強いね―――」
いつか何処かの雪原で言われたあの言葉を、実証できる。
その歓喜がこのバーサーカーの出力を最大限まで引き上げている。
青い槍兵は、この闘いに感傷を持たない。
──敵が居る。己がある。槍を振るうに理由も要らない。
ただ──アトウゴラのルーンを刻んだ時に、少しだけ思い返す顔があった。
元より生ある敗走を許さぬルーンではあるのだが、なおさら
──負けられないわな、と思うのみだ。
赤い弓兵は苦笑する。
セイギノミカタなどを今さらやるとは思わなかったと。
あの少女に、少しでも誇れるように。
贋作家は、剣を打つ。
"──我が生に意味は無く"
"然れども、無駄ではなかったのだ──"と。
時速500kmの魔力防壁を担う長髪のライダーは、乗っている愛用のペガサスの頭をそっと撫でた。
撫でて、この時間神殿に想いを馳せる。
人理焼却という絶望を前に、化物に成る前のわたしと化物と成った私が手を貸したことを。
「―――みっともないが。誰かを助けたいという気持ちがあるなら、アンタはギリギリ
いつか見た悪夢で、悪魔に言われた言葉を不意に思い出す。
英雄だなんて、まったく似合わないし可愛らしくない!
そう思いながら、長髪のライダーは口の端をほんの僅かに上げた。
二人のアサシンは、特に感慨は無く──ただただ己の成すべきことを成す。
だが、長耳のキャスターだけは、何故だか思い返す人が居た。
──彼は、幸福だったのだろうか?
などと問うても無意味だということはわかっている。
「えぇ、だけど──」
いつかどこか、またもう一度出会えるという奇跡を信じて。
彼女の
七騎の英雄は、皆が皆その尽力を果たしてマモンを止めようとしている。
その必死の抵抗を肌で味わい、彼は留飲を下げた。
そうとも、これは意趣返しだ。
──無限に生い茂る触手ども、怒涛の如く降り注ぐ魔弾の嵐。
彼の本命はそんなところにはない。
充ちて行く魔力──あの騎兵の宝具では防ぎきれないほどの大波濤。
それを、彼は七騎のサーヴァントの誰にも向けない。
彼の狙いは、意趣返しだ。
彼の怒りは、英霊などという死人を消し去った所で解消なんてされない。
【小さな石に転ぶがよい、人理を守護する英霊どもよ!】
魔神マモンの狙いは時間神殿から、カルデアへ戻る為の足場だ。
それで終わり。それで引き分け。人理を焼却できないが、
それが彼を呑み込んでいる激情の解消方法であり、三柱結合の真意だった。
狂気に踏み込んだ憎悪を糧に、常軌を逸した魔力が人類最後のマスターの帰り道を壊すためだけに放たれる。
対軍宝具の域を越える、対城宝具レベルの魔力の照射。
「──だが、その
その、マモン渾身の魔力照射は眩ゆい黄金の光によって掻き消えた。
刮目し、覚悟をせよ魔人王の躯よ。
汝等が決死と挑むは、汚れなき理想の具現。
目映い剣は、煌々と。
紺碧と白銀の戦装束に身を包んだ彼女が屹立している。
―――ここに。
最終にして絶対不落の、真なる守り手が顕現していた。
「―――貴様達の使命、その是非は問わぬ。。だが、ここは消え去った無辜の民草たちの願い、そして数多の絶望を認めずに手を伸ばしたただのヒトの望みにして、我が信念を叶える場所。勝ち取ったこの希望を貴様達が認めぬというのであればお互いの立場は明白だろう。──ここは未来を重んじる者のみが至る道だ。私にも、貴様らにも踏み入る余地はない。それを傲慢と呪うのならば―――いざ、死力を尽くして来るがいい。この剣にかけて、貴様達の挑戦に応えよう―――!」
時間神殿の遥か、遥か上に一人の黄金がその赤い双眸で眼下を見ている。
「──ふん」
溜息交じりの独白。非常に分かりにくいが彼の機嫌は悪くはない。
「雑種共め。生意気にも見得というものがわかって来たではないか」
眼下で遠く、魔神マモンを相手取る八騎のサーヴァント達。
その健闘はこの英雄王をして愉悦させるようなものであったらしい。
手にしていた乖離剣を、彼は蔵に戻す。
場合によってはこの時間神殿という空間ごと、彼はマモンを屠る気でいた。
乖離剣エアの全開放はこの時間神殿という空間そのものを切り裂いてしまう。
それ故に、彼は全力を出さずに静観していた。
──黄金の光が、巨大な魔神柱を飲み込んでいく。
だが、彼が全力を出すまでもなく人理焼却はこうして防がれた。
英霊達は、その役目を果たすと何も言わずに消えていく。
──崩壊する時間神殿、英霊達が護ったカルデアへ戻る道を走り行く人類最後であったマスター。
崩れ去る道とも呼べぬ道へカルデアへから飛び降りるかのように手を差し伸べるサーヴァントに、伸ばした手は残念ながら
「褒美だ。受け取るがよい」
だが、彼が宝物庫から出した何かによってその一歩は埋まり必然のように、マスターのサーヴァントへの手へと繋がる。
「──ふっ、存外似合いの姿ではないか」
それを見て、英雄王は微笑んだ。
──この男にしては珍しく、残忍さや酷薄さを含まぬ唯の微笑であった。
蛇足。
hollowが大好きなので、hollowリスペクト風味で味付けしてます。
時間神殿ネタはとりあえず消化しきった……と思う。