財前葵可愛すぎワロタ。   作:Mr.ユナイテッド小沢

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9.

僕、水川水渚の朝は早い。

 

……このくだりは前にもやった気がする。まぁいいか。

 

最低限の身だしなみを整え、朝ご飯……は面倒臭いので、食べずにリンクヴレインズにアクセスする。

 

昨日は久しぶりにデュエルをして皆にも頑張って貰ったので沢山もふもふしよう。

 

 

 

 

 

皆が制服を身に纏い、まだ朝起きたばかりなのか目を擦りながらこれからまた1日学校で過ごすのだと憂鬱に感じながら登校していく中、そんな哀れな学生達を尻目に、僕は財前葵の自宅へと向かった。

 

……さて。ナビに寄るとここなのだが……大きいな。大きい。

 

流石はSOLテクノロジーの部長さんと言った所か。

 

こういった大きいお家は掃除が大変だと良く聞くが、実際の所こういった家庭は家事は全部家事ロボットがやってくれるので、財前葵のような学生はただのんびりしているだけでいいのだ。羨ましい。

 

 

……現実逃避は辞めよう。

 

緊張する。友人の家のインターホンを押すのは凄く緊張する。

 

だが、財前葵に両親は居ない筈だ。居るのは兄の財前晃のみ。その財前晃も既に仕事に行っているだろう時刻だ。

 

よって、インターホンを押したとしても出てくるのは財前葵。ならばインターホンレベルも格段に落ちるというものだろう。

 

しかし、しかしだ。

 

それにしても少しこう、恥ずかしさが残る。

 

何せ、普段は気安く話している財前葵に、僕は葵さんの友人の水川という者なのですが、葵さんはご在宅でしょうか?等と聞くことになるのだ。

 

それに応える財前葵の方もこちら側の丁寧な言葉使いに釣られて、あ…私です……と、ぎこちなく敬語で返してしまうことだろう。

 

もしもこれが俗に言うぱーりーぴーぽーというような人物であったのならば、お?私だよ。私、葵。というか水川君何時もそんな堅い敬語使ってたっけ。ウケる(笑)と、素早く流されて笑われて終わるのだろうが……

 

どちらも良いとは言えない気がする。あぁ。インターホンとはどうしてこうも難易度が高いのか。

 

 

『オハヨウゴザイマス。アオイ、チャンノ ゴユウジンノカタ デスカ?』

 

 

僕がインターホンを押さずに唸っていると、何処からか家事ロボットと思わしきロボットがやってきて、話しかけてきた。

 

……正直助かった。これでインターホンを押さなくても良い。

 

 

「うん、そうだよ。水川水渚が来た。って葵さんに伝えてくれないかな?」

『リョウカイ シマシタ』

 

 

そうして暫く待っていると、ドタドタと音が……聞こえてこないようだ。

 

やはり良い家の壁はそう簡単に室内の音を外に出さないのだろうか。

 

まぁ、ドタドタとは聞こえてこなかったが、普通に扉

を開けて財前葵はやってきた。

 

……私服だ。薄着だ。かゎぃ………うん。よし。大丈夫。

 

取り敢えず後でそれとなく写真を取っておこう。

 

 

「やぁ。あおさん。おはよ」

「えぇ。おはよう……学校、休んだのね」

「うん?あおさんが学校に来ない間は僕も学校は休むよ?昨日言わなかったっけ」

 

 

僕は財前葵が居なければクラスにたったの独りたりとも話す相手が居ないので、財前葵が学校を休むと言うならば僕も休まねば、ぼっち確定である。

 

まぁ、フジキクンの所に行ってみてもいいのだが、彼もプレイメーカーであるという事実を隠しているだろうし、彼の事情とやらに関する話もできない。

 

色々と縛られることになるのでやはりフジキクンとは学校の外で話したい所だ。

 

 

「聞いてないけど……取り敢えず中に入って」

 

 

 

「そこのソファーに座って。飲み物は……牛乳でいい?」

「うん。ありがと」

 

 

広い。

 

普通の一人暮らし用のアパートで住んでいる僕の家とは比べ物にならない広さだ。

 

牛乳を財前葵の分と合わせて2杯とお菓子を持ってくると、僕の隣に腰掛けた。

 

……もう少し近寄ってみようか。

 

そんな風に考えていると、彼女の方から切り出してきた。

 

 

「それでさっきの話だけど……水川君まで私に付き合って学校休まなくてもいいのよ?」

「うーん。あおさんに付き合って、っていうのも勿論あるけど、本当はただを学校サボりたいってだけだったり……」

 

 

これは本当のことだ。

まだ一ヶ月と少ししか行っていない学校もなんだか退屈でつまらないし、正直もう飽き飽きしていた。

 

唯一財前葵は学校の楽しみだが、それも無いとなれば学校に行きたくもなくなるというものだ。

 

 

「えっそうなの?」

「そうだよ?それに、様子見って言ったってあおさんだってサボってるようなものだしね。ズルい。僕も休む」

「……そっか。じゃあ2人でサボろうか」

「うんうん。そうしようそうしよう」

 

 

無事上手く纏まって良かった。

 

これで、明日は水川君は学校に行くのよ?なんて風に言われてしまっていたら僕はどうやって学校生活を過ごしたものかと頭を悩ませる所だった。

 

 

「そういえば、昨日聞きそびれていたんだけど」

「うん?何かな」

 

 

……昨日は数分に一度僕があおさん無事治って良かった!どこも痛くない?という内容を口にしていた為、聞く暇が無かったのだろう。

 

 

「私を学校から運んでくれたのは水川君だって聞いたわ。ありがとう」

「あー。晃さんが言っていたんだね」

 

 

とは言え、フジキクンも後から来ていたし、僕がやらなければ彼がやっていたことだろう。

 

 

「お礼は要らないよ?ほら。アレだよアレ。人として当然のことをしたまでですよ。ってね」

 

 

本来ならば電脳ウイルスの除去プログラムを届けられなくてごめんなさい。と言いたい所だ。

 

 

「……でも、どうして私の場所がわかったの?」

「ぇ?」

「誰にも気づかれずに屋上に行ったつもりだったわ」

 

 

……ストーキングしてました。

 

なんて言っても今回ばかりは問題無さそうだ。

 

 

「足音だよ。保健室に向かっているようには聞こえなかったからさ」

「……じゃあなんで救急車を呼んだの?私がどうして意識が無かったか。水川君ならわかっていた筈よね」

「なんでって……」

 

 

……あ。成程。確かに寝ている財前葵を見ただけで即救急車とは普通ならないだろう。

 

リンクヴレインズにアクセスした事の無い人ならばもしかしたらそんなこともあるのかもしれないが、僕はリンクヴレインズに頻繁にアクセスしている。

 

ならば、僕がブルーエンジェルのデュエルを見た。という説が浮上する訳か。

 

もし僕が財前葵=ブルーエンジェルだということを知っているならば、財前葵の様子がおかしいことを中継で見て、その後カメラまで壊れたのだから何か事件に巻き込まれたのだろうと思っても不思議は無い。

 

 

「……その顔、やっぱりそうなのね」

 

 

 

 

 

「しかし、あおさんは正体がバレたらもっと狼狽えるかと思ってたよ」

 

 

結局、誤魔化そうとはしたのだが、既に確信していた財前葵に僕が正体に気がついていることはバレてしまった。

 

 

「リンクヴレインズで違う性格を演じるのはよくある話でしょ?私だってリアルバレとかしたくないし」

 

 

まぁ、実際ブルーエンジェル程の人気にもなるとリアルを特定して実際に会おうとするような変質者が居たとしても不思議ではない。

 

今の所財前葵をストーキングしているような人は僕とフジキクンを除けば居ないようなので財前葵の演技は上手くいっているということだろう。

 

 

「確かによく聞くかも。僕はあんまりリンクヴレインズでキャラ作るとかやってないけどね。あおさんみたいに人気じゃないし」

「フェアリー……よね?」

「あ。やっぱり気がついてた?」

 

 

まぁデッキを財前葵に見せたこともあるし、財前葵には隠していたという訳では無いので決して驚く程のことでも無い。

 

 

「水川君隠さないでデッキも見せてくれたし、デュエル中だって口調変わらないんだもん。気づかなきゃおかしいくらいだわ。今カリスマデュエリストランキング21位だっけ?」

「あ。そうなんだ。最近チェックして無いから知らなかったな」

 

 

……そうか。21位なのか。

 

以前カリスマデュエリストランキング第1位だったGo鬼塚の人気が低迷しているらしいから、やはりトップ辺りにブルーエンジェルこと財前葵は位置しているのだろうから、目の前の財前葵に追いつくにはやはりまだまだなのだと実感する。

 

 

「と言っても、僕も昨日ハノイの騎士とデュエルしたんだけど、凄い苦戦してさ。やっぱりプレイメーカーは凄いやって思ったよ」

「……ハノイの騎士とデュエルした?昨日って……水川君、私が寝ている間に何してたの?」

 

 

おっと。また失言してしまった。もっと気を張らないと……

 

しかし、昨日は……財前晃と会ってプレイメーカー脅して女医をストーキングした後に騙して家の中まで入って脅して……って、これは一昨日か。

 

 

「……昨日はハノイの騎士とデュエルしただけかな。それが終わったら直ぐにあおさんの所行ったし」

 

 

その後プレイメーカーと交渉とかもしたけれど、それはきっと言ってはいけないことだろうし、その後は普段通りの日常を過ごしただけである。

 

 

「えっと……どうしてハノイの騎士とデュエルすることになったの?」

「それは……」

 

 

……凄く言い難い。

 

財前葵の侵されていた電脳ウイルスの除去プログラムを入手する為だなんて、何を失敗した奴が点数稼ぎをしているのだと思われるに決まっている。

 

違うんだ。成功はしたけれど一歩プレイメーカーの方が早かったんだ。

 

なんて言い訳は見苦しいにも程があるし、そもそもそんな事を僕の口から言うこと自体が少々恥ずかしい。

 

僕の行動だけ見れば、まるでそこらに転がっているラブコメディの主人公のようではないか。

 

僕はそのような甘ったるい考えで動いていた訳では無い。

 

 

「どうしてと言われても、ただデュエルを挑まれたから受けただけだよ。逃げられそうでも無かったし、彼らが何で僕にデュエルを挑んだかはわからないけどね」

「そっか。そうよね」

「そうなんだよ。突然デュエルを挑んで来て、ハノイの騎士にも困ったものだよ」

 

 

取り敢えずこれで誤魔化せただろうか。

 

 

「それよりも、あおさんはどうしてわざわざ自分の正体に気がついているかなんて確かめちゃったのさ。何も言わなければ気がついていないフリしようと思ってたのに」

「変な勘違いされて引かれたりしたら嫌だもの。あんな格好して……痛い奴だと思ったりとか」

 

 

そりゃ、普段大人しいのにリンクヴレインズであんなアイドルになっていたら色々と考えてしまう所はあるが。

 

しかし、僕もカリスマデュエリストとして上位を目指した身だ。

 

結局、所謂魅せのデュエルでは無くただ勝ち進むことでカリスマデュエリストを目指したが、魅せのデュエルを行う場合のことも少しは考えていた。

 

 

「あおさんみたいな子がカリスマデュエリストランキングで上位を目指すなら、あんな風にアイドルになるのは効率的な手法だからね。別に勘違いしたりしないよ」

「そう……ならいいの」

 

 

とは言え、財前葵は結構ノリノリでブルーエンジェルを演じているように見えるのでアレはアレで……なんて思っているのではないかと僕は考えているのだが、まぁ財前葵の為にもそれは黙っておこう。

 

無駄に胸を盛っているのも人気を出す為には仕方がない事なのだ。そんな野暮なことを僕は言ったりしない。

 

 

「流石の僕も気がついた時はちょっと驚いたけどね?まさかあおさんがあのブルーエンジェルだったとは。僕にリンクヴレインズをやってないだなんて言う筈だよ」

「それは……ごめんなさい。もし勘違いされたらって思うと怖かったから……」

「大丈夫だよ。僕だってハッキリとはアバター教えて無かったし」

 

 

……しかしお互いのアバターが知られているということならば、遂にできるのではないだろうか。

 

これまで、僕のリンクヴレインズでのカリスマデュエリストとなる為の努力は無駄になっていたのだ。

 

 

「ねぇ」

「何?」

 

 

それが漸く実る時が来た。

 

 

「デュエルしようよ」






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