【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

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偉大なる先輩

 

 

 

 

失意で帰宅した千歌。

食事も取らずに、部屋に閉じ籠った。

ベッドの上に横たわり、今日一日を振り返る。

 

 

 

…何もできないのに、独りではしゃいじゃって…

 

…バカみたい…

 

 

 

しかし、彼女が最も後悔していることは、パフォーマンスを失敗したことではなかった。

 

 

 

…曜ちゃんに恥をかかせちゃった…

 

…もう親友だなんて言えないよ…

 

 

 

その一言に尽きる。

 

 

 

曜はいつも、千歌の味方をしてくれた。

苦しい時でも、いつも励まし、力になってくれた。

その彼女を裏切ってしまった。

 

それだけじゃない。

「最低だよ」と曜が放った言葉が胸に突き刺さる。

 

 

 

…最低だ…

 

 

 

定期テストがある度に「明日は学校に行きたくないな…」と思っていたが、今はその何十倍、何百倍もそんな気持ちだ。

いや、明日だけじゃない。

その先…未来永劫、学校には行きたくなかった。

 

何も考えずに、寝てしまおう。

そう思ったが、心を無にすることなどてきなかった。

 

 

 

…座禅を組めば、そうなるのかな?…

 

 

 

取り敢えず、身体を起こし、胡座(あぐら)をかいてみるが…やっぱり、無理だ…と、すぐに諦め、再び寝転んだ。

 

 

 

部屋を暗くして…静かに心を落ち着かせようとしていたせいか…少しだけ感覚が研ぎ澄まされているように感じられた。

普段とは違う物音が耳に入ってくる。

 

それは…最初、ラジオからの音楽かと思った。

ハッキリ…ではないが、微かに歌うような声が聞こえる。

イヤホンから漏れる音…そんな風でもある。

 

しかし、自分の部屋にはそのような物はない。

もちろん…自宅である旅館…の客室から聴こえてくるものでもなかった。

 

 

 

…幻聴?…

 

 

 

千歌は頭を振った。

自分がおかしくなった…そう思ったからだ。

 

だが、やがて…

 

それが、部屋の外から聴こえてくるものだと気付いた。

 

 

 

♪…ね~ば、ね~ば、ねば…

♪…ね~ば、ね~ば、ねば…

 

 

 

耳を済ませば、何度も同じフレーズがループしている。

そして、それは…平常心で聴いたら、ちょっと吹き出してしまいそうな間の抜けたメロディだった。

 

 

 

…窓の外から?…

 

…!?…

 

…ひょっとして!…

 

 

 

千歌は勢いよく起き上がると、自分の部屋の窓を思いっきり開けた。

 

 

 

そこで目にしたのは…

 

 

 

♪…ね~ば、ね~ばねば…

♪…ね~ば、ね~ばねば…

 

 

 

「梨子ちゃん!?」

 

 

 

呪文の如く、ひたすらそのフレーズを繰り返す、隣に住む同級生の姿だった。

 

 

 

「その歌は一体…」

 

沈んでいた気持ちより…誰が聴いても一発で覚えてしまう程の…謎のフレーズに対する好奇心が勝った。

 

 

 

「ふふふ…知りたい?」

 

口ずさむのを止めた梨子が、妖しく微笑む。

 

千歌は黙って頷いた。

 

「これね…音ノ木坂に伝わる『応援歌』なんだ」

 

「音ノ木坂に伝わる応援歌?」

 

「本当はフルコーラスあるみたいなんだけど、今は、そこだけが抜き取られて、こうなったみたい。落ち込んでる誰かを励ましたり…自分を奮い立たせたり…そうしたい時には、この歌を口ずさむの」

 

「…♪ね~ば、ね~ばねば…」

 

「ふふふ…不思議な歌でしょ?」

 

「う、うん…」

 

「一説によると、あのμ'sの未発表曲らしいんだ」

 

「えっ?μ'sの…」

 

「あのね、千歌ちゃん…」

 

「うん」

 

 

 

「私ね…千歌ちゃんに嘘をついていたことがあるの」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

「だから、それを謝りたくて…」

 

 

 

「嘘?梨子ちゃんが?」

 

 

 

「…うん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私ね…μ'sのことを知らない…って言ったけど…ごめんなさい…あれ、嘘なんだ…」

 

「…そうなんだ…」

 

2人は、そのμ'sの曲を練習した浜辺へと移動していた。

車も人影もなく、静かに波音だけが響いている。

 

 

 

「音ノ木坂でμ'sを知らない人なんていないよ。だって、学校を廃校の危機から救った救世主だもん」

 

「やっぱり、そうだよね…」

 

「本人たちは…そのことにはあんまり拘ってないみたいで…校内にも部室にも、μ'sの記録みたいなものは、何ひとつ残していかなかったけど…」

 

「えっ?何にも残ってないの?」

 

「衣装もスコアブックも…ラブライブの優勝旗も…μ'sとして活動した全てを回収したみたい」

 

「どうしてかな?」

 

「たぶん…μ'sって名前で後輩が縛られるのがイヤだったんじゃないかな?」

 

「なるほど…」

 

「でもね…先輩たちの残した歌とか功績とか…そういうものは全部残ってるの。形じゃなくて精神っていうのかな…」

 

「精神?」

 

「新しいことに挑戦する気持ち…仲間を思う気持ち…支えてくれる人に感謝する気持ち…」

 

「それって…μ'sの歌詞そのものだね?」

 

「うん…本当に偉大な人たち…」

 

「なんか安心した。梨子ちゃんがμ'sを知らない…って言った時は、ちょっとガッカリしたけど…ちゃんと認められてたんだね…あれ?でも、じゃあなんで梨子ちゃんはμ'sを知らないなんて言ったの?」

 

 

 

「西木野先輩と競べられちゃうことが、イヤになっちゃって…」

 

 

 

「あっ…」

 

千歌にも心当たりがある。

私の真姫さんになってください!…梨子が転校してきた初日に、まさにそんなことを言ったのだった。

 

 

 

「音ノ木坂で、ピアノを弾いてる…ただそれだけなのに…会う人会う人、話題にするのは西木野先輩のことばかりで…偉大な先輩ってことはわかってるんだけど『だから、なに?私は私よ』って。反発心って言うのかな…」

 

 

 

「…」

 

 

 

「そうしたらね…だんだん、ピアノが弾けなくなっちゃって…気が付いたら…鍵盤に触れることさえできなくなってたの…」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

「バカみたいでしょ?」

 

「ごめん…そんなこと全然知らなくて…もしかして、それが原因で転校してきたの?」

 

「…そう言ったら、先輩に怒られちゃうかな?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「でもね…ちょっと違うのかも…。先輩と比較されたりして、精神的に辛かったのはその通りなんだけど…本当はもっと前に…スランプっていうのかな?…少しずつ演奏に壁みたいなのを感じ始めてて…それでも騙し騙しやってたんだけど…限界がきちゃったの。だから、たぶん…先輩のせいにしたかったんだよね…自分から逃げてきちゃったんだ」

 

「そんなことが…」

 

「…でもね…」

 

「でも?」

 

「千歌ちゃんに気付かされた」

 

「私に?」

 

「好きなことに対して、一生懸命、楽しそうに打ち込んでる千歌ちゃんの姿を見て、思ったんだ。いつしか、この気持ちを忘れてた…って」

 

「気持ちを…忘れてた?…」

 

「きっとね『ピアノを上手く弾こう、上手く弾こう』って気持ちだけが先走っちゃって…テクニックだけを追い求めていたというか…心じゃなくて、頭でピアノを弾いてたの」

 

「難しいことを言うね…」

 

「ふふふ…簡単に言えば…気持ちに余裕がなかった…ってことかな?」

 

「余裕…」

 

「正直言うと、転校してきて初日に西木野先輩の名前が出てくるとは思わなかったの。まさか、ここで!?って」

 

「本当にごめん!」

 

「ううん…いいの…。それがね…千歌ちゃんの練習を見ているうちに、どんどん考えが変わってきて…もう解散して何年も経ってるのに、東京からこんなにも離れてるのに、いまだに愛されてるμ'sってなんなんだろう…って」

 

「うん、うん」

 

「その時に思ったの。やっぱりμ'sって凄いんだなぁ…って。私、口では偉大な先輩とか言っておきながら、心のどこかで認めてなかったんだと思うの。嫉妬してたんだ」

 

「嫉妬かぁ…わかるなぁ、その気持ち。私も曜ちゃんにずっとしてるから…」

 

「だけどね…やっとわかったんだ。『私は私』って思っていながら、常に先輩を意識してたのは、自分だったんだって。『μ'sは凄い!こんなにも愛されてるんだ』って認めたら、なんか心の中がスーっと軽くなって…そうしたら、なんだかSTART:DASHを弾いてみたくなっちゃって…」

 

「うん、聴こえてた。うっとりとするぐらい綺麗な音色だったよ」

 

「私もね…凄く気持ちよく弾けたの。本当に久々に、清々しい気分だった」

 

「難しいことはよくわからないけど、そうじゃなきゃ、ああいう音は出ないんだろうね…」

 

「だから…」

 

「だから?」

 

「千歌ちゃんには、感謝してるんだ」

 

「私に感謝?」

 

「嫉妬心からは何も生まれない。相手のことを認めて、尊敬することが如何に大事か…ってことを教えてくれたから」

 

「そんな、私なんて何も…。凄いのはμ'sで…」

 

 

 

「千歌ちゃん!」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

「ごめんね、私の経験を伝えてあげられなくて…」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

「ステージで緊張しない人なんていないから…」

 

「あっ…」

 

「私だって、何回やっても、手も足も震えるもの」

 

「梨子ちゃん…」

 

「でも、本番前にそれを伝えてあげられなかった。千歌ちゃんなら大丈夫!…そう思っちゃったの。バカだなぁ、私…。そんな人、いるわけないのに…。ましてや、初めてのステージなんだよ…そんなわけないんだよ…」

 

「でも、曜ちゃんは…」

 

「曜ちゃんだって、緊張してたよ。でも、飛び込み競技をしてるから…そこは千歌ちゃんと違って、場数を踏んでるかも知れないけど…。私がもっとしっかりしてれば…」

 

「違う!違うよ!そんなことないよ!…私が…私がだらしなかっただけで…」

 

「でもね…これだけは言っておきたかった」

と梨子は、千歌の言葉を遮った。

 

 

 

「?」

 

 

 

「たったの1回上手くいかなかっただけで、解散だなんて言わないで…」

 

 

 

「あっ…」

 

 

 

「あぁん、違う…こういう言い方はフェアじゃないな…もっと素直に気持ちを伝えなきゃ…」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「私もCANDYに入れてください!お願いします!」

 

 

 

「り、梨子ちゃん!?…」

 

 

 

「私を2人の仲間に入れてください!」

 

 

 

「ちょ、ちょっと…嘘でしょ…えっ?えっ?…梨子ちゃん…」

 

 

 

 

 

その会話を聴いた瞬間、物音も立てずに、その場を離れた人物がいた。

千歌のことが気になり、彼女の家に向かう途中、浜辺にいた2人発見したのだ。

 

立ち聞きするつもりはなかった。

だが、なかなか、声を掛けるタイミングが掴めず…結局ここまでの会話を聴いてしまったのだ。

 

 

 

…梨子ちゃん…か…

 

 

 

帰り道を歩く曜の胸には、複雑な想いが芽生え始めていた…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 






運営から指摘を受けて、一部内容を修正しました。
※歌詞の削除
2018/11/14

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