【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~ 作:スターダイヤモンド
「お、おはよう…」
「…おはよう…」
翌朝、梨子と一緒に登校した千歌が、教室にいた曜に声を掛けた。
しかし、その返事は「おはヨーソロー」ではなかった。
「…今日は…朝練だったんだ…」
「…うん…まぁ…」
「だよね…」
「…」
「…」
…千歌ちゃん、頑張れ!…
昨夜「まず、謝ること!」と梨子は、彼女に伝えた。
叩かれたのは千歌なので…どちらかと言えば、被害者は彼女なのであるが…状況から言えば、まず先に謝った方がいい…と梨子は思った。
お互い意地を張れば、2人の仲の修復はそれだけ難しくなる。
「あ、あのさぁ…昨日のことだけど…」
「…別に…なんとも思ってないよ…」
「本当に!?」
千歌の顔がパッと明るくなった。
しかし、次の瞬間、どん底に突き落とされる。
「うん。私には、もうどうでもいいだから」
「あっ…」
…あちゃ~…
…これは、わりと根が深そうですね…
梨子は、軽く頭を抱えた。
2人は話しをしないまま、授業が終わった。
「じゃあ、部活に行くから…」
「あっ…うん…頑張って…」
必要最低限の…会話…というより連絡事項。
…それでも、それがあるということは…
…絶縁状態には陥っていない…ということね…
梨子は、ホッと胸を撫で下ろす。
彼女も2人の仲を、我が事のように心配しており、一喜一憂、忙しい。
「あの…高海先輩か渡辺先輩はいらっしゃいますか?」
そんな時、教室の外から声を掛ける者が現れた。
訪ねて来たのは、ゆるふわツインテールの少女だ。
その後ろにもう1人いる。
着用している制服から、すぐに1年生とわかった。
もっとも『先輩』と呼ばれた時点で、それはそうなのだが。
「はい!?高海は私だけど…」
「あ、あの…」
「はい…」
「わ、私もスクールアイドルを…一緒にやらせてください…」
彼女は恥ずかしそうに、とても小さな声でそう言った。
「スクールアイドルを…」
「一緒に?」
その言葉に思わず、千歌と曜は顔を見合わせた。
しかし、すぐに視線を逸らせる。
「えっと…どういうことかな…」
「は、はい…昨日の発表会を観て…あの…その…私も参加させて欲しい…って…」
千歌は彼女の発言の意図がわからず、戸惑っている。
それはそうだ。
満を持して挑んだファーストライブは大失敗に終わった。
どう贔屓目に見ても、誉められた内容ではない。
一緒にやりたい…なんて思う人が現れるなんて、想像もしていなかったのだ。
「どうして?…」
「やりたいから…じゃ…ダメですか?」
…あっ!そのセリフ…
ついこの間、自分が生徒会長に伝えた言葉だった。
…やりたいから…か…
「わ、私…小さい頃から、アイドルに憧れてて…それで…その…」
彼女は、うつむきながらも…なんとか自分の想いを伝えようとしている。
それは千歌にも感じられた。
それでも尚、自分たちのパフォーマンスを観て、一緒にやりたいと言われたことは、理解し難かった。
「あなた…お名前は?」
あまり深い意味はない。
ただ…ちょっとこの『変わり者』を不思議に思い、なんとなく訊いた…そんな感じだった。
「あっ…はい…黒澤…黒澤ルビィです!」
「黒澤…」
「ルビィ…」
「黒澤ルビィ!?」
「ピギィ~…」
「うわぁ…なに?今の…」
先輩たちの驚きの声よりも、それにびっくりした後輩の叫び声の方が大きかった。
さらに、その声に慄(おのの)く先輩たち。
「ルビィちゃんは、極度の人見知りで、小動物みたいに臆病なんズラ。先輩たちが驚かすから、逆にびっくりしたズラ」
と、彼女の後ろに控えし…花丸…が、説明した。
「あ、ごめん…驚かせるつもりはなかったんだけど…ひょっとして…生徒会長の妹さんかな…って?」
千歌は右手を左右に振りながら…違う違う…と弁明した。
「は、はい…」
「へぇ…生徒会長の…嫌味でも言いにきた?」
と冷たく言い放ったのは、曜。
「よ、曜ちゃん!」
彼女の言わんとしたことを理解した梨子が諌める。
性格は…見る限り真逆という感じだが…確かに生徒会長の妹と聴けば、あらぬことを勘繰りたくもなる。
しかし、この状況でそれを言うのはどうか…という感じだ。
「あの…お姉ちゃんが…何か?…」
「えっ?」
深い理由はわからないが、生徒会長はスクールアイドルに対して、嫌悪感のようなものを示していた。
少なくとも、彼女たちにはそう感じた。
その妹が、自分たちの仲間に入りたいと言っている。
普通に考えれば、おかしな話だ。
「えっと…このことは、お姉さん知ってるのかな?」
部外者ではあるが梨子も気になってしまい、さりげなく訊いてみる。
「いえ…まだお姉ちゃんには…。でも…先輩のパフォーマンスを観て、素直に凄いなぁ…って思いました。たぶん、私はやりたくても、その勇気がなかったから…」
「勇気…」
「はい!あ、あの…私は…私はお姉ちゃんと違って、背も小さいし…声も小さくて…人見知りで…得意なものも何もないですけど…でも…でも、アイドルへの想いは誰にも負けないつもりです!…ですから…CANDYのメンバーにしてください!お願いします!」
ルビィは力強く言い切ると、深々と頭を下げた。
梨子は千歌の顔を見る。
曜も千歌の顔を見た。
そして彼女はルビィに言った。
「…ごめんなさい…」
「えっ!?」
千歌以外の…その場にいた4人は、同時に同じリアクションをした。
「千歌…ちゃん…」
「ごめんなさい。私を観て『一緒にやりたい』って言ってくれたことについては、凄く嬉しいよ。不本意なパフォーマンスだったけど…それでも、そう思ってくれた人がいたなら、やって良かった!って思ってる。だけどね…だからこそ…なのかな?その気持ちには応えられないんだ」
「お姉ちゃんのせい…ですか?…」
「ううん、それは関係ないの。そうじゃなくて…自分のことすら、まともにできないのに、新しい仲間を迎えて一緒にやるなんて…私には無理だってこと。逆に私が足を引っ張っちゃったら、本気でスクールアイドルを目指すあなたに、失礼でしょ。だから…」
「そんなこと…ないで…」
「なくないよ。私は何もかも中途半端なバカ千歌だから…」
その言葉を聴いて、曜は千歌の顔から視線を逸らした。
「か、関係ないズラ!スクールアイドルは一人じゃないズラ!みんなで力を合わせることが大事なんズラ!」
ルビィの後方から、花丸が援護射撃すると「えっ?」と彼女は振り返った。
「花丸ちゃん…先輩だよ、そんな言い方は…」
「言うべきことは言った方がいいズラよ」
「あなたは?」
「ルビィちゃんの友達の…国木田花丸ズラ」
「花丸…さん…」
「ルビィちゃんは、ずっとスクールアイドルに憧れてたズラよ。だから、先輩の発表を見たときは、本当に喜んでたズラ。同じ趣味の人がいる!って、本当に喜んでたズラ…それなのに…そんな言い方はないズラよ…」
「…友達想い…なんだね…」
「マルにとっては、大事な大事な親友ズラ」
「親友か…ルビィさん…」
「は、はい?」
「素敵なお友達だね?」
「は、はい!」
「そのお友達の熱意に免じて…って言ってあげたいけど…それでもやっぱり、一緒にやることはできないや」
「どうしてなんズラ?」
「CANDYは解散しちゃったんだ…」
そう千歌が告げたとたん、曜は教室を黙って出て行った。
「えっ!?」
状況を飲み込めないのは、ルビィと花丸。
狐につままれたような顔をしている。
「もう、CANDYっていうスクールアイドルは無いんだ。だってそうでしょ?あんなパフォーマンスでスクールアイドルを名乗ろうなんて…百年早い!って話で…」
「でも、それを観て、入りたいと思った人がいるズラ」
「うん、だから、完全に予想外のことで…かなり驚いてる」
「…」
「ルビィさん…だっけ?」
「は、はい…」
「そういう訳で、私は一緒にしてあげることはできないの…ごめんなさい…」
「…あ、いえ…私こそ、突然押し掛けてしまい…」
「でもさ、やりたいっていうなら、やったほうがいいよね?」
「えっ?」
「私は…結果は散々だったけど、一応はステージに立たせてもらったから…満足してるんだ」
「千歌ちゃん…」
傍らで聴いていた梨子は、その言葉に色々な感情が入り雑じっているのを知っていた。
嘘ではないが、本当でもない。
彼女自身、昨日の結果を消化できていないことが、痛いほどわかっている。
「生徒会長…お姉さんを説得するのは、なかなか大変だと思うけど…やりたいなら、勇気を出してやるべきだと思うよ」
「…先輩…」
「…なぁ~んて、偉そうなことを言っちゃったりしてね…。じゃあ、私は帰るから…花丸さんだっけ?お友達を助けてあげてね?」
「は、はぁ…」
「あっ!そうだ!あなたが一緒にスクールアイドルをやってあげればいいんじゃない?」
「マ、マルが…ズラ?」
「名前はそうだな…『はなまるびぃ』!うん、それだ!決まり!じゃあ、私はこれで!」
「えっ!あっ、うそ?私も帰るよ…あ、2人ともごめんなさい…力になれなくて…ちょっと千歌ちゃん、待ってよ!」
と梨子は彼女のあとを追って、教室から姿を消した。
「勝手過ぎるズラ…」
取り残された花丸は、ルビィに向かってポツリと呟いた…。
~つづく~
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