【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~ 作:スターダイヤモンド
「それにしても、酷いズラ。昨日の今日で解散なんて、ありえないズラ」
「…なにも花丸ちゃんがそんなに怒らなくても…」
「だって、勇気を振り絞って『入れてください』って言ったルビィちゃんが、あまりにも可哀相ズラ」
「…そんなことないよ…」
花丸の質問に、ルビィはどう返答したらいいかわからず…そう言うのが精一杯だ。
千歌と梨子が、果南のダイビングショップで話をしている頃、この1年生コンビは喫茶店にいた。
「でも、マルはちょっと感動したズラ」
「えっ?」
「ルビィちゃんが、自分がやりたいことをハッキリと伝えられたズラ。マルがいっぱい褒めてあげるズラ」
と花丸は彼女の頭を、クルクルと撫でた。
「ぴぃ!!…恥ずかしいよ…」
「ふふふ、照れてるルビィちゃんも可愛いズラ」
「えっと…それは『凛さん』のセリフだよね…」
「ルビィちゃんが『花陽さん』なら、マルは『凛ちゃんさん』になるズラよ!…って言っても、見た目は似ても似つかないけど…」
「うふっ、ありがとう」
「でも…それで、どうするズラ?」
「えっ?」
「スクールアイドル」
「あっ…うん…」
どうしようもなにも…どうにもならない…ルビィはそんな顔をしている。
「先輩たちには断られたズラ…」
「解散しちゃったんじゃ、仕方がないよ」
「でもあの感じじゃ、解散してなくても断られてズラ」
「う~ん…考えてみれば当然なのかも。だって見ず知らずの人がいきなり押しかけて来て『一緒にやらせてください!』って言われても、それは返事に困るもんね」
「でも、花陽さんは、そうやってメンバーになれた…って話だったズラ」
「それはそうだけど…だからって必ず同じ結果になるってことじゃないし…」
「ルビィちゃんが、スクールアイドルになれる最大のチャンスだと思ったんだけど…」
「…お姉ちゃんに何か言われたのかな…」
「…」
「先輩たち、ルビィが妹だって知ったら、すごくびっくりしてたし…」
「そ、そうだとしても…ルビィちゃんが気にすることはないズラよ。お姉さんはお姉さん、ルビィちゃんはルビィちゃんズラ」
「う、うん…そうだけど…」
「ルビィちゃん!」
少し間が空いたあと、花丸は急に真剣な顔つきで、彼女の名前を呼んだ。
「は、はい!」
その呼びかけに、ただならぬ空気を感じ取ったルビィは、姿勢を正して返事をした。
「頑張ってなるズラ!」
「な、なにに?」
「決まってるズラ。スクールアイドルになるズラよ」
「誰が?」
「もちろんルビィちゃんズラ!」
「ぴぃ!ひ、ひとりで?…」
「マルも手伝うズラよ!」
「えっ!?花丸ちゃんが…」
ルビィはそう言ったあと呆然と彼女を見つめている。
あまりに突然の展開に、言葉が出てこないようだった。
「マルは…マルは…凛ちゃんさんみたいに可愛くないし、運動も苦手だし…スクールアイドルなんて、とても無理だと思ってたけど…でも…でも…ルビィちゃんの力になれるなら、頑張るズラ」
「花丸…ちゃん…」
「…ルビィちゃんが花陽さんに憧れてるように、マルもずっと凛ちゃんさんのようになりたいと思ってたズラ。花陽さんと凛ちゃんさんの関係みたいになれたらいいな…ってずっと思ってたズラ…。だから…だから…」
「うぅ…」
想定外の告白に、ルビィの目から涙がこぼれ落ちた。
「本当は、ルビィちゃんが先輩たちと一緒にやれるなら、それでいいと思ってたズラ。マルはそれで満足だったズラ。でも、それは無理だった…」
「花丸ちゃん」
「さっき帰り際に先輩に言われたズラよ…友達を大切にって…。その時思ったズラ…見てるだけで本当にいいのか…って。口先だけ応援してる、頑張って…言ってるだけで本当にいいのかって」
「そんなことないよ。花丸ちゃんが、そばにいてくれただけで、今までどれだけ助けられてきたか…」
「マルは、ルビィちゃんがアイドルになるのを楽しみにしてたズラ。だから、その夢をかなえる為なら、どんなことでも手伝うズラよ!」
「花丸ちゃん…」
「それとも…マルじゃ足手まといになるズラか?」
「ううん…そんなことないよ…。足手まといだなんて…そんなことないよ…」
「じゃあ…」
「うん!一緒にやろう!ルビィと一緒にスクールアイドルやろう!」
「決まったズラ!!」
「ありがとう!!花丸ちゃん、ありがとう」
2人は椅子から立ち上がると、抱き合って、その喜びを表した。
店内に客はほとんどおらず…従って、特に注目を浴びることもなかったが…唯一、その様子を凝視している者がいた。
涙を流して抱擁している彼女たちを、冷めた目で見つめていた。
しばらくして、その視線に花丸が気付く。
「よ、善子ちゃん!!こんなところで、何してるズラ?」
「えっ!?あっ…」
ルビィは後方を振り返った。
「こんなところで…ってここは喫茶店でしょ?お茶をしてて、何が悪いの?」
「いつから、いたズラ」
「ズラ丸が入ってくる前からよ」
…まったく気配がしなかったズラ…
「なんだか、随分面白そうな話をしてたじゃない。まぁ、私には関係ないけど」
「そ、そうズラね…」
「スクールアイドル?ズラ丸が?ふ~ん…身の程知らずも甚だしいわね。まぁ、私には関係ないけど」
「そ、そうズラね…マルもそう思ってるズラ」
「それで、名前は決まってるの?」
「名前?」
「ユニットの名前よ!ユニットの!まぁ、私には関係ないけど」
「えっと、それは…『はあまるびぃ(仮)』ズラ…」
「なに、そのセンスゼロの名前は!そんなダサダサな名前で、やっていけるわけがないじゃない。まぁ私には関係ないけど」
「善子ちゃん…」
「な、なによ…」
「仲間に入りたいなら、素直にそう言うズラよ」
花丸はニヤッと笑って、彼女の顔を覗きこんだ。
「な、なに言ってるのよ!そんなわけないじゃない!なんで私がスクールアイドルなんか…」
「なら、マルたちの話に口出しは不要ズラ」
「そんな言い方はないでしょ!私はただ…」
「うん、私は善子ちゃんの意見を聴いてみたいな…」
「ほら、そうでしょ?アンタ、なかなか話がわかるじゃない!」
「は、はい…」
「それで、どうしたらいいズラ?」
と花丸。
仕方ない、取り合えず話だけは聴いてあげるわ…と言った表情だ。
どちらかというと『ふくよかな体つき』と、のんびりとした雰囲気を醸しているせいで、大人しく控え目な感じに見られがちだが…なかなかどうして、言葉の端々に気の強さが現れている。
特に彼女に対しては、ことさら、それが垣間見られる。
「そ、そうね…えっと…その…よくは知らないけど、スクールアイドルなんて、全国にゴマンといるんでしょ?ただ普通に活動してたって、目立たないわよ。だからインパクトが大事なの!いいインパクトよ、インパクト」
「…μ'sもそのインパクトを求めて試行錯誤した…ってネットに書いてあった」
「ほら!そうでしょ?名前、衣装、パフォーマンス…すべてにおいて、観客の心をガツンと掴むインパクトが大事なのよ!」
「確かにそうですね!」
ルビィの目が輝いた。
「それは、一体なんズラ?」
ギラン!と自ら効果音を口にして
「ふふふ…それこそが…『黒魔術』よ!!」
と善子は、ここぞとばかりにイスに飛び乗り、大見得を切った。
「あほくさ…完全に自分の趣味ズラ」
「こら~!ズラ丸!調子に乗るなぁ~!」
「別に調子になんて乗ってないズラ…」
「黒魔術!」
「…ってルビィちゃん?」
「ふふふ…わかる人にはわかるのよ」
「…ってなんですか?」
「お~い!知らんのか~い!」
…善子ちゃんて、こんなキャラだったっけ?…
「黒魔術が何かは置いといて…黒ずくめの衣装、陰鬱とした歌詞、動きのないステージ…」
「マルが知ってるアイドルとは、真逆ズラ…」
「いい、ズラ丸?アンタみたいなアイドルとは程遠い人間が、いきなりあんなに激しく歌ったり、踊ったりできるわけないでしょ?自分の短所を活かす、最高のアイデアじゃない!」
「悔しいけど…一理ある…ズラ…」
「ふん、つまり、そういうことなのよ!…そしてユニット名はズバリ『フォーリン エンジェル』」
「フォーリンエンジェル?」
「略して『フォリエン』」
「略す意味があるズラか?」
「あるわよ!『ドリカム』『ミスチル』『ももクロ』…略して呼ばれることこそ、メジャーの証しなのよ」
「ふ~ん…」
「まだ何か文句がある?」
「当然、善子ちゃんも一緒にやるズラね」
「あ、当たり前じゃな…えっ?わ、私が?」
「このユニットの言い出しっぺだもん。当然ズラ」
…わ、私が…
…スクールアイドル?…
…考えても見なかった…
…でも…
…もし、この趣味が認められたなら…
…ようやく、善子じゃなくて、堕天使ヨハネとして…
…堂々と活動できる!?…
「花丸ちゃん…善子ちゃんを巻き込むのは悪いよ…アイデアを出してくれただけでもありがたいのに…」
…こら!ルビィ!…
…余計なことを言うな~!…
…珍しくズラ丸がいい流れを作ってるんだから、アンタが潰してどうするのよ!…
「でも、ルビィちゃん!きっと善子ちゃんは、仲間に入りたくて、入りたくて仕方がないんズラ。ここで味噌っかすにするのは可哀想ズラよ」
…誰が味噌っかすよ!…
…でも、ズラ丸!いいフォローだわ…
「でも、無理に付き合わせちゃうのは…」
…だから、ルビィ!…
…無理じゃないから!…
「エ、エヘン…ま、まぁ…その…なに?…ズラ丸がどうしてもって言うなら、入ってあげてもいいわ。なんだかんだ言っても、アンタとは同じ幼稚園だったわけだし…」
「やっぱ、ルビィちゃんと2人でやるズラ…」
「こら~!!私も入れなさ~い!」
「…」
「…」
「…あっ…いや…え~と…その…」
「…仕方がないズラね…」
花丸とルビィは、顔を真っ赤にしている善子を見て、クスクスと笑った。
~つづく~
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