【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~ 作:スターダイヤモンド
あれから1週間ほどが過ぎた。
曜は…朝と夕と部活に出ている為、千歌とは教室でしか顔を会わさない。
かと言って、そこで会話があるかと言えば、ほとんどない。
1年生が訪れてきたあの日から、2人の距離は何も変わっていない。
そんな様子に梨子はやきもきしているのだが…『部外者』である自分では…だからと言ってどうすることもできなかった。
「じゃあ、部活に行くね…」
「うん、頑張って…」
こんな無味乾燥な2人の業務連絡を聴くのが、とても辛い。
「ねぇ、千歌ちゃん…もうそろそろ…」
「うん…わかってるよ。ちゃんとタイミングを見て話すから…」
その会話も、もう何度もした。
…どうしたらいいのかな…
梨子にはお互いの気持ちがわかる。
だが、それ以上踏み込むことはどうしてもできなかった。
しかし、とある日の放課後。
その状況に変化を起こす出来事に遭遇する。
いつものように千歌が、曜と業務連絡を交わす。
そのあと校舎を出ようとした2人の前に、黒い人影が3体、目の前を通り過ぎていったのだ。
「なに、今の?」
「まさか、不審者?」
「裏庭の方に走って行ったよね?」
「う、うん…」
「梨子ちゃん、あとを追うよ!」
「ま、待って!誰か先生を呼んだ方が…」
「そんなこと言ってたら、逃げられちゃうよ!」
「でも…」
「さぁ、行くよ!」
そう言うと千歌は、強引に梨子の手を引っ張り、走り出した。
…も、もう…
…どこにそんなパワーがあったのかしら?…
さっきまでの千歌なら、負のオーラしかなく、とてもこんなに積極的に動くことなど考えられなかった。
いや、逆なのかもしれない。
その鬱屈と『溜まっていたなにか』が、パチン!と弾けて、一気に溢れ出したのかもしれない。
スタートが出遅れたので、その姿を捉えることはできなかったが…取り敢えず2人は黒い影が向かったであろう、裏庭までやって来た。
「ここで様子を見よう」
と千歌は、校舎の壁に背中を付けて身を隠し、そば耳を立てた。
勢いで、梨子も同じことをした。
…なにしてるんだろう?…私…
すると…微かではあるが、小さな声が聴こえてきた。
「何か聴こえるね…」
「シッ!静かに」
千歌の佇(たたず)まいは、すっかり刑事ドラマかなにかの『それ』になっていた。
…えっ…お経?…
耳を澄ませて聴こえてきたのは、小さく、低く唸るような声。
梨子には直観的に、それが『アブナイ』ものだと感じた。
長居は不要だ。
戻って助けを求めた方がいい。
「千歌ちゃん…」
そう言い掛けた、まさにそのタイミングで彼女は飛び出した。
「あなたたち、ここで何をやってるの!」
…あちゃ~…
…間に合わなかった…
千歌のあとに続き、梨子も前に出た。
その先にいたのは…
黒いレインコートのようなものを着込んだ人の、後ろ姿だった。
頭からフードをスッポリと被っているので、風体(ふうてい)は定かではないが、コートの裾から下は、ミニスカートと細い脚が見えた。
…えっ?女の子?…
梨子の疑問は、一瞬で解けた。
「スクールアイドル活動ズラ…」
「スクールアイドル活動?」
「…ズラ?」
その独特の沼津弁に、2人は聴き覚えがあった。
それは遡ること1週間ほど前。
彼女たちの教室を訪れた後輩のうちの1人だった。
その彼女が、被っていたフードを後ろにやりながら、振り返った。
「なんだぁ…先輩たちズラか…」
「あなたは確か…」
「1年生の国木田花丸ズラ。そして、こっちがルビぃちゃん…こっちが善子ちゃんズラ」
「善子じゃなくて、ヨハネって呼びなさいって言ったでしょ!」
…ヨハネ?…
梨子の頭に消えたハズの疑問符が、またひとつ増えた。
「今、スクールアイドル活動…って言ったけど…」
「先輩がルビィちゃんの加入を断ったから、自分たちで作ったズラ」
「えっ!?」
千歌と梨子が同時に声を上げた。
「あ、その…先輩たちに断られたは、ちょっと語弊があるというか…なんというか…」
「ルビィちゃん、そこはハッキリいうズラよ!」
「そうそう『やりたいなら自分たちでやれば!』って言ったのは、先輩たちなんでしょ!?私たちの活動に口出ししないでほしいんだけど」
と善子。
「ご、ごめん…そういうつもりじゃ…。ちょって、怪しい人影を見たから…おや、なんだろう…って思っただけで…ねぇ、梨子ちゃん!?」
「えっ、わ、私に振る?…う、うん…そうなの…」
「怪しい人影とは随分な言われようね…」
「まぁ、普通は思われるズラ…」
「しか~し!この悪魔の降臨儀式を見たからには、生きては…モゴモゴモゴ…」
「ちょっと、善子ちゃんは黙るズラ!」
と花丸は彼女の口を手で封じた
「悪魔の…」
「降臨儀式?」
「今のは気にしなくていいズラよ…」
「あの後…私たちに考えたんです。先輩たちの話を聴いて…やっぱり、見ず知らずの後輩がいきなり来て、一緒にやらせてください…なんて虫が良すぎるな…って。でも、そうしたら、花丸ちゃんが一緒にやろう!って言ってくれて…」
「オラも、先輩たちの言葉に目が覚めたズラよ。口だけで応援してても、意味がない…って、わかったズラ。だから、ルビィちゃんがやりたいことを一緒にやろうと決めたズラ」
「そうしたら善子ちゃんも、賛同してくれて…」
「賛同した…って言うより、実質、私が作ったようなものだけどね…」
「そっか…そうなんだ…」
「ごめんなさい、変な勘違いしちゃって…」
「わかればいいのよ、わかれば」
「こら、善子ちゃん!」
「なによ!」
「先輩に対する口のきき方は、気を付けるズラよ」
「ふん!」
と善子はそっぽを向いた。
「…ビックリさせて、すみませんでした。そういうことですので…」
「あぁ…うん…頑張ってね…」
「はい、ありがとうございます!」
千歌は踵(きびす)を返し戻ろうとしたが、すぐに立ち止まった。
「ごめん、もうひとつ訊いていいかな?」
「は、はい…なんでしょう?」
「お姉さんは…生徒会長はなんて?すんなりスクールアイドルのこと、認めてくれた?」
「…」
しかし、千歌の質問に答えは返って来なかった。
「やっばり…ダメだって?」
「いえ…お姉ちゃんにはまだ…話してないんです…」
「えっ?」
「もうちょっと…ちゃんとできるようになったら、話すつもりで…なので、お姉ちゃんにはまだ、内緒にしておいてくれますか…」
「あっ…うん…わかった…。ごめんね、余計なことを訊いて…」
「いえ…」
「じゃあ、頑張って…」
「は、はい!」
そう言い残すと、千歌は足早にそこをあとにした。
梨子も慌てて、その後ろを付いていく。
「千歌ちゃん…」
「ふふふ…おかしいよね?『やりたかったら、自分たちでやったら』って言ったのは私なのに…なんでこんなに悔しいんだろう!」
「千歌ちゃん…」
「ごめん、梨子ちゃん…少しひとりにさせて…。自分自身の気持ちを納得させる時間がほしいの…」
「…」
「お願い!」
「う、うん…わかった。じゃあ、今日はこれで帰るね。気持ちの整理がついたら、いつでも声掛けて。窓から呼んでくれれば、いつでも顔を出すから」
「ありがとう…」
「じゃあ…」
「うん…じゃあ…」
梨子は、千歌に別れを告げると、そのままバス停へと歩いていった…。
~つづく~
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