【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

14 / 44
黒い三連星

 

 

 

あれから1週間ほどが過ぎた。

 

 

 

曜は…朝と夕と部活に出ている為、千歌とは教室でしか顔を会わさない。

かと言って、そこで会話があるかと言えば、ほとんどない。

1年生が訪れてきたあの日から、2人の距離は何も変わっていない。

 

そんな様子に梨子はやきもきしているのだが…『部外者』である自分では…だからと言ってどうすることもできなかった。

 

 

 

「じゃあ、部活に行くね…」

 

「うん、頑張って…」

 

 

 

こんな無味乾燥な2人の業務連絡を聴くのが、とても辛い。

 

 

 

「ねぇ、千歌ちゃん…もうそろそろ…」

 

「うん…わかってるよ。ちゃんとタイミングを見て話すから…」

 

その会話も、もう何度もした。

 

 

 

…どうしたらいいのかな…

 

 

 

梨子にはお互いの気持ちがわかる。

だが、それ以上踏み込むことはどうしてもできなかった。

 

 

 

しかし、とある日の放課後。

その状況に変化を起こす出来事に遭遇する。

 

 

 

いつものように千歌が、曜と業務連絡を交わす。

そのあと校舎を出ようとした2人の前に、黒い人影が3体、目の前を通り過ぎていったのだ。

 

「なに、今の?」

 

「まさか、不審者?」

 

「裏庭の方に走って行ったよね?」

 

「う、うん…」

 

「梨子ちゃん、あとを追うよ!」

 

「ま、待って!誰か先生を呼んだ方が…」

 

「そんなこと言ってたら、逃げられちゃうよ!」

 

「でも…」

 

「さぁ、行くよ!」

 

そう言うと千歌は、強引に梨子の手を引っ張り、走り出した。

 

 

 

…も、もう…

 

…どこにそんなパワーがあったのかしら?…

 

 

 

さっきまでの千歌なら、負のオーラしかなく、とてもこんなに積極的に動くことなど考えられなかった。

いや、逆なのかもしれない。

その鬱屈と『溜まっていたなにか』が、パチン!と弾けて、一気に溢れ出したのかもしれない。

 

スタートが出遅れたので、その姿を捉えることはできなかったが…取り敢えず2人は黒い影が向かったであろう、裏庭までやって来た。

 

「ここで様子を見よう」

と千歌は、校舎の壁に背中を付けて身を隠し、そば耳を立てた。

勢いで、梨子も同じことをした。

 

 

 

…なにしてるんだろう?…私…

 

 

 

すると…微かではあるが、小さな声が聴こえてきた。

 

「何か聴こえるね…」

 

「シッ!静かに」

 

千歌の佇(たたず)まいは、すっかり刑事ドラマかなにかの『それ』になっていた。

 

 

 

…えっ…お経?…

 

 

 

耳を澄ませて聴こえてきたのは、小さく、低く唸るような声。

梨子には直観的に、それが『アブナイ』ものだと感じた。

長居は不要だ。

戻って助けを求めた方がいい。

 

「千歌ちゃん…」

 

そう言い掛けた、まさにそのタイミングで彼女は飛び出した。

 

 

 

「あなたたち、ここで何をやってるの!」

 

 

 

…あちゃ~…

 

…間に合わなかった…

 

 

 

千歌のあとに続き、梨子も前に出た。

 

 

 

その先にいたのは…

 

 

 

黒いレインコートのようなものを着込んだ人の、後ろ姿だった。

頭からフードをスッポリと被っているので、風体(ふうてい)は定かではないが、コートの裾から下は、ミニスカートと細い脚が見えた。

 

 

 

…えっ?女の子?…

 

 

 

梨子の疑問は、一瞬で解けた。

 

 

 

「スクールアイドル活動ズラ…」

 

 

 

「スクールアイドル活動?」

 

「…ズラ?」

 

 

 

その独特の沼津弁に、2人は聴き覚えがあった。

それは遡ること1週間ほど前。

彼女たちの教室を訪れた後輩のうちの1人だった。

 

 

その彼女が、被っていたフードを後ろにやりながら、振り返った。

 

「なんだぁ…先輩たちズラか…」

 

 

 

「あなたは確か…」

 

 

 

「1年生の国木田花丸ズラ。そして、こっちがルビぃちゃん…こっちが善子ちゃんズラ」

 

「善子じゃなくて、ヨハネって呼びなさいって言ったでしょ!」

 

 

 

…ヨハネ?…

 

 

 

梨子の頭に消えたハズの疑問符が、またひとつ増えた。

 

 

 

「今、スクールアイドル活動…って言ったけど…」

 

「先輩がルビィちゃんの加入を断ったから、自分たちで作ったズラ」

 

 

 

「えっ!?」

 

千歌と梨子が同時に声を上げた。

 

 

 

「あ、その…先輩たちに断られたは、ちょっと語弊があるというか…なんというか…」

 

「ルビィちゃん、そこはハッキリいうズラよ!」

 

「そうそう『やりたいなら自分たちでやれば!』って言ったのは、先輩たちなんでしょ!?私たちの活動に口出ししないでほしいんだけど」

と善子。

 

「ご、ごめん…そういうつもりじゃ…。ちょって、怪しい人影を見たから…おや、なんだろう…って思っただけで…ねぇ、梨子ちゃん!?」

 

「えっ、わ、私に振る?…う、うん…そうなの…」

 

「怪しい人影とは随分な言われようね…」

 

「まぁ、普通は思われるズラ…」

 

「しか~し!この悪魔の降臨儀式を見たからには、生きては…モゴモゴモゴ…」

 

「ちょっと、善子ちゃんは黙るズラ!」

と花丸は彼女の口を手で封じた

 

 

 

「悪魔の…」

 

「降臨儀式?」

 

 

 

「今のは気にしなくていいズラよ…」

 

「あの後…私たちに考えたんです。先輩たちの話を聴いて…やっぱり、見ず知らずの後輩がいきなり来て、一緒にやらせてください…なんて虫が良すぎるな…って。でも、そうしたら、花丸ちゃんが一緒にやろう!って言ってくれて…」

 

「オラも、先輩たちの言葉に目が覚めたズラよ。口だけで応援してても、意味がない…って、わかったズラ。だから、ルビィちゃんがやりたいことを一緒にやろうと決めたズラ」

 

「そうしたら善子ちゃんも、賛同してくれて…」

 

「賛同した…って言うより、実質、私が作ったようなものだけどね…」

 

「そっか…そうなんだ…」

 

「ごめんなさい、変な勘違いしちゃって…」

 

「わかればいいのよ、わかれば」

 

「こら、善子ちゃん!」

 

「なによ!」

 

「先輩に対する口のきき方は、気を付けるズラよ」

 

「ふん!」

と善子はそっぽを向いた。

 

 

 

「…ビックリさせて、すみませんでした。そういうことですので…」

 

「あぁ…うん…頑張ってね…」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 

 

千歌は踵(きびす)を返し戻ろうとしたが、すぐに立ち止まった。

 

「ごめん、もうひとつ訊いていいかな?」

 

「は、はい…なんでしょう?」

 

「お姉さんは…生徒会長はなんて?すんなりスクールアイドルのこと、認めてくれた?」

 

 

「…」

 

しかし、千歌の質問に答えは返って来なかった。

 

 

 

「やっばり…ダメだって?」

 

 

 

「いえ…お姉ちゃんにはまだ…話してないんです…」

 

「えっ?」

 

「もうちょっと…ちゃんとできるようになったら、話すつもりで…なので、お姉ちゃんにはまだ、内緒にしておいてくれますか…」

 

「あっ…うん…わかった…。ごめんね、余計なことを訊いて…」

 

「いえ…」

 

「じゃあ、頑張って…」

 

「は、はい!」

 

 

 

そう言い残すと、千歌は足早にそこをあとにした。

 

梨子も慌てて、その後ろを付いていく。

 

 

 

「千歌ちゃん…」

 

「ふふふ…おかしいよね?『やりたかったら、自分たちでやったら』って言ったのは私なのに…なんでこんなに悔しいんだろう!」

 

「千歌ちゃん…」

 

「ごめん、梨子ちゃん…少しひとりにさせて…。自分自身の気持ちを納得させる時間がほしいの…」

 

 

 

「…」

 

 

 

「お願い!」

 

 

 

「う、うん…わかった。じゃあ、今日はこれで帰るね。気持ちの整理がついたら、いつでも声掛けて。窓から呼んでくれれば、いつでも顔を出すから」

 

「ありがとう…」

 

「じゃあ…」

 

「うん…じゃあ…」

 

梨子は、千歌に別れを告げると、そのままバス停へと歩いていった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

この作品の内容について

  • 面白い
  • ふつう
  • つまらない
  • キャラ変わりすぎ
  • 更新が遅い

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。