【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~ 作:スターダイヤモンド
「お~!偉い、偉い!ちゃんと来たんだね!」
「そりゃあ、初日から遅刻ってワケにはいかないからさ」
果南に指定された神社の入口…階段の一番下…に千歌は時間通りに現れた。
「…とか言って…本当は梨子ちゃんに起こしてもらったんじゃない?」
「ドキッ!」
バレたか…千歌はそんな顔をする。
彼女の後ろには、梨子の姿があった。
「あ、いえ…私も運動不足だから、そういうことなら一緒に…って付いてきたんです」
「ふ~ん…優しい友達を持ったねぇ…」
梨子のその言葉…嘘ではないだろう。
しかし、それだけじゃないことを果南は見抜いていた。
「あはは…」
千歌は笑って誤魔化した。
「さあ、じゃあ、行こうか」
入念にストレッチをしたあと、彼女が2人に声を掛けた。
「う、うん!」
「…とはいえ…千歌たちにいきなり走れ!って言うのは『酷』だから…まずは頂上まで歩いて昇ることからやってみよう」
「え~!一緒に走るよう!」
「ここの階段をナメたらダメよ?まぁ、いいから、まずはゆっくり上がってきなさい」
「う、うん…わかった」
「いい?決して慌てなくていいからね!ケガしたら元も子もないんだから」
「うん」
「一番上まで行ったら、そこで待ってて!じゃあ、また、あとで!」
「あとで?」
千歌がその意味を訊こうとした、その瞬間、果南の姿はあっと言う間に小さくなっていった。
自分で「パンッ!」と手を叩いて、スタートの合図を出すと、頂上へと続く階段を一気に駆け登っていったのだ。
「は、速い!」
2人は、疾風の如き果南の姿を、呆然と見送った。
「標高137m…往復 約50分…」
梨子は、入口にある立て看板に目を疑った。
「げっ!…」
そして、呻(うめ)いた。
「千歌ちゃん…こんなに長いの?聴いてないよ!」
「あれ?そうだっけ?でもμ'sだって神田明神の階段ダッシュをやって、鍛えてたんでしょ?」
「それはそうだけど…神田明神は片道25分も歩かないから!角度はキツイけど、1分もあれば登れるかと」
「そうなの?」
「たはは…」
「で、でも…やるって決めたから!」
少し怖じ気付いた表情をした千歌だが、すぐに力こぶしを作って、やる気を示した。
「う、うん…もちろん、頑張るけど…」
梨子も、ここまで来てあとには引けない。
「よ~し、行くぞ!よ~い、ド~ン!!」
千歌は意を決して、大きく手を振って歩き出した。
梨子もあとに続く。
「ぜぃ…ぜぃ…」
「はぁ…はぁ…」
「ただ、歩いて登り降りしただけなのに…」
「膝が…ガクガクしてる…」
「ふともも…パンパンだよぅ…」
「それなのに…果南ちゃんは…」
彼女たちが行って帰ってくる間に、果南は2往復していた。
いや『下山』した時にはすでに姿はなく、彼女は海岸線の道を走りに行ってしまった。
「バケモノだ…」
千歌は思わず、そう口にした。
「高海?」
教師に呼ばれた。
「お、起きてます!」
授業中、千歌はどんなに抵抗しても、瞼(まぶた)が落ちてくる。
春の麗らかな陽気がそうさせるのだが、原因はそれだけではない。
朝の走り込み…いや『登山』が原因だ。
早起き自体は、それほど苦にはならなかったが、やはり1時間近く歩いたことが大きく響いている。
つまり、疲れだ。
「桜内?」
「は、はい!起きてます!」
確実に2人の体力を奪っていた。
…千歌ちゃん?…
…梨子ちゃん?…
事情を知らない曜ではあったが、2人の名前が続けて呼ばれたことに、違和感を覚えたのだった。
『登山』を続けること、1週間。
初めは脚が筋肉痛で、歩くことすらままならなかった2人だが
「それは、逆に動かした方が早く治るのよ!」
と果南に言われ、半信半疑ながら前に進んだ。
するとどうだろう。
確かに、中腹から頂上に近づくにつれ、痛みが和らいでいる気がした。
一般論で言えば、筋肉痛が発生した場合、その部位を鍛えるのは2~3日空けるのが良いとされている。
過剰なトレーニングはオーバーワークとなり、筋繊維を痛め肉離れなどを起こす恐れがあるからだ。
しかし、たった1日歩いただけである。
まずは身体を慣らすことが大事で、休むのはまだ早い。
その辺りは『趣味はトレーニング』という果南の、経験に裏打ちされた判断である。
3日目くらいが苦しさの頂点だった。
しかし、それを過ぎてからは、徐々に身体も慣れてきて…今では、少し早足で、会話をしながら歩けるようになっている。
僅か1週間だが、確実に進歩していることを2人は実感していた。
「明日からGWだけど…」
と果南。
家業のダイビングショップを手伝う彼女にとって、夏休み前の大事な書き入れ時である。
トレーニングが早朝とはいえ、そうそう千歌たちに付き合うワケにはいかない。
「うん…家の手伝いもあるから、毎朝…ってわけにはいかないけど…でも、時間を見つけて続けるよ」
それは家業が旅館の千歌も同じだ。
何が出来るというわけではないが、彼女なりにやることはある。
「そうね。『継続は力なり!』ってね。千歌の場合は体力だけじゃなくて、精神力を鍛えるのも目的なんだから」
「うん」
「私がいないからってサボっちゃダメよ!」
「わかってるよ」
「じゃあ、頑張ってね」
そう言って果南は千歌を見た。
心なしか彼女の顔に、自信のようなものが滲み出ているのを感じた。
「梨子ちゃんも…よろしくね!」
「はい!」
梨子はにこやかに返答した。
そのGW中のこと。
ネットでは、ある少女たちの映像が話題になっていた。
…
〉なんだこれ?
〉スクールアイドル…なのか、これ?
〉斬新!!
〉これはこれでアリ
〉いや、論外
〉かっこいい
〉聖飢魔II?
〉ルール違反だろ、これ。
〉この手があったか
〉顔が見えないんだけど…
〉意外と可愛いんじゃね?
〉これでラブライブに出るのか?
〉出ても即、予選落ち
〉個人的には好きたけど
…
その話題の主は3人組の少女で、黒いパーカーを身に纏っている。
そのフードは目深に被っており、ほとんど顔は見えない。
ゴシック調の荘厳なメロディー。
『魔界』『漆黒の闇』『堕天使』『召還』…といったワードが並ぶ異様な歌詞。
ほとんど動かないダンス。
呪文を呟くようなボーカル…。
彼女たちを『スクールアイドル』と呼ぶには、あまりに違和感がある。
しかし、一方で『COOL』という声もあった。
確かに、現在の音楽界では『メタルとアイドルを融合』させ、世界で活躍する者もいれば…これまでの路線とは真逆の…ハードな曲調と激しいダンスが売りの『笑わない女性アイドル』もいる。
楽器を持たない女性パンクバンド(?)なども登場しており、こうした『ややダークサイド寄り』の女性ユニットが人気を博しているのも事実だ。
その楽曲が上がったのは、メンバーのひとりが個人的に開いていたサイト。
普段は趣味である『黒魔術占い』を配信している。
そこに突如現れたのが、このダンスボーカル(?)ユニット。
その名前を『ふぉ~りん えんじぇる』と言う。
~つづく~
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