【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

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泣きたいのは…誰?

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

「…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

 

神社に向かう階段を、千歌と梨子が早足に登っていく。

あれから、ずっと続けている朝練。

まだ…走る…というまでには至らないが、それでも始めた頃に比べれば、2/3くらいの時間になった。

 

そんな彼女たちを、階下から見ていた人物がいる。

見守る…というよりは、隠れて様子を窺っているという感じ。

 

 

 

「やっぱり、気になる?」

 

 

 

「!!」

 

 

 

弾かれたように、逃げ出しそうとしたが…曜…は、その声の主が誰かを悟ると、すぐにそれを諦めた。

 

 

 

「松浦先輩…」

 

 

 

「おはよう!」

 

「お、おはようございます…」

 

「ふふふ…こんなところにいないで、一緒に行けばいいじゃない。あなたの脚なら、すぐに追い付くでしょ?」

 

「えっ?な、なんのことですか…」

 

「とぼけても無駄よ」

 

「私はただ、たまたま通り掛かったら、千歌ちゃんたちがいたから、何してるのかな…って」

 

「ふ~ん…まぁ、そう言い張るなら、それでもいいけど…」

 

「で、では…さようなら!」

 

曜はそう言うと、その場を去ろうとした。

 

 

 

だが…

 

 

 

「曜ちゃんに認めてもらう為なんだよ」

 

 

 

「えっ!?」

 

果南の言葉に、思わず立ち止まった。

 

 

 

「あっ!千歌からは『黙ってて』って言われてるんだっけ…」

 

後輩の背中に、とぼけた言葉をぶつける。

 

 

 

「…」

 

曜にも、それが『釣り』だとわかっている。

 

 

 

「だから、今から話すことは、私の独り言…。聴くも聴かないも、あなた次第…」

 

 

 

「…」

 

果南の顔を見ることはしなかったが、彼女は止めた脚を踏み出すこともしなかった。

 

 

 

「千歌はね…あの娘なりに、解散を告げたことを反省し、イチから出直すつもりでいるの。その為には、まず、自分を変えなきゃ!って、それから毎日毎日、朝練に臨んでるわ」

 

 

 

「自分を変える?…」

 

曜が呟く。

 

 

 

しかし、果南はそれには答えず

「1年生がスクールアイドル活動を始めたのにも、触発されたみたい…。まぁ、体力作りの一環もありかも知れないけど…精神力の強化…っていうのが一番の目的かな…。それを継続してやり遂げることで、自分の自信を持つこと。それがこの朝練の目的」

と言葉を続けた。

 

 

 

「なんの為に…」

 

 

 

「何か言った?私の話は独り言。訊きたいことがあるなら、直接本人に確認したら?」

 

 

 

「…」

 

曜は止めていた脚を、再び踏み出した。

果南の言葉は聴こえたハズだが、それを無視するように、この場から去っていく。

 

 

 

「やれやれ…」

と果南。

続けざまに…まぁ、そう簡単にはいかないわね…と小さく呟いた。

 

 

 

…そう、私たちも同じだもの…

 

 

 

寂しそうに小さくなっていく後輩の後ろ姿を…果南は小さく首を振りながら見送った…。

 

 

 

 

 

彼女は、千歌たちが下山するのを待って…曜がいたことを告げた。

 

「曜ちゃんが?どうして?」

 

さぁ…とお茶を濁す果南。

 

「直接本人に訊いてみたら?」

 

曜に向けた言葉と同じことを口にして、彼女は海岸線の道路を走り始めた。

 

 

 

 

 

「あのね、千歌ちゃん…」

 

「なぁに、梨子ちゃん」

 

その日の放課後。

相変わらず業務連絡だけで教室を出ていった曜の様子を見て、堪らず千歌に声を掛けた。

 

「手紙、書いてみたら?」

 

「手紙?誰に?」

 

「曜ちゃんに…」

 

「えっ?」

 

「今朝、曜ちゃんが朝練見に来てたって、果南さんが言ってたでしょ?」

 

梨子からすると、まだ今期に入って登校していない果南は、学校の先輩という感覚が薄い。

ダイビングショップのお姉さん…そんな認識。

故に『松浦先輩』ではなく、千歌に引っ張られて『果南さん』と呼んでいる。

 

「やっぱり、曜ちゃんも気にしてるんだよ」

 

「…」

 

「でも、それを口にできない…」

 

「う、うん…まぁ…」

 

「千歌ちゃんが、ちゃんと認めてもらえるまでは…っていう気持ちもわかるけど、でも、それまでこんな感じが続くのも、よくないじゃないか…って」

 

「わかってるけど…」

 

「だからね…直接、話すのが難しいなら…手紙はどうかな?って。古くさいかもしれないけどLINEじゃ、気持ちは伝わらないと思うし…」

 

「手紙か…」

 

「あっ、余計なこと言っちゃって、ごめんなさい」

 

「ううん、ありがとう。そうだよね…梨子ちゃんも、私たちがずっとこんなんじゃ気を使うよね…」

 

「あ、ううん…あ、いや、そうかな?…早く仲直りして欲しいな…とは思ってるよ」

 

「そうだよね…うん…」

 

 

 

 

 

そして、その日の夜、千歌は曜に向けての手紙を書いた。

 

自分から誘っておきながら、だだ1回のミスで『解散する』とした発言を恥じていること。

本当は、リベンジしたいと思ってること。

いや、そんなチープな単語では言い尽くせない、μ'sへの想い。

 

でも、もう一度チャレンジはしたいなどと言うのは、曜の優しさに甘えているのではないか…という葛藤。

その為には、まず自分が変わらなきゃ!と朝練を始めたこと。

そして…やる気と努力を認めてもらった上で、改めて一緒にステージに立つことをお願いするつもりであること…。

 

何をどう伝えたらいいか…。

悩んで悩んで、何度も書き直して…仕上げた時には朝になっていた。

 

 

 

 

 

「千歌ちゃん、大丈夫?」

 

真っ赤な目をして朝練に現れた彼女を見て、梨子は心配そうに声を掛けた。

 

「あは、昨日徹夜しちゃって…」

 

「まさか、手紙を書いてて?」

 

「うん!でも平気、平気!」

 

元気だよ!と力こぶを見せたものの、目を開けているのが辛そうだ。

それは朝日が眩しいから…だけでないことは、果南にも容易にわかった。

 

「無理しなくていいんだよ!それで身体壊したら、本末転倒なんだから」

 

「わかってるよ。でも、ほら…ここでやめたら、自分に負けちゃうから…」

 

「…そっか…。うん、じゃあ、頑張りなさい!その代わり、人に迷惑掛けたりしないでね」

 

果南はそう言うと、梨子の顔を見てパチリと片目を瞑った。

授業中寝たら、起こしてあげてね…そうな風に言ってるようだった。

 

 

 

 

 

睡魔に襲われながらも、なんとか一日を乗りきった千歌。

授業が終わり、いそいそと部活に行こうとした曜を…小さな声で彼女の名を呼んだ。

 

 

 

「あ、あのね…」

 

 

 

「?」

 

 

 

「ぶ…部活…頑張ってね…」

 

 

 

その言葉に顔を曇らせた曜。

 

「…うん…」

 

それだけを残して、教室を出ようとした。

 

 

 

「よ、曜ちゃん!待って!」

 

 

 

「!?」

 

 

 

呼び止めたのは、梨子だった。

 

 

 

「あ、あのね…ほら、千歌ちゃん!そうじゃなくて、別に言うことがあるでしょ」

 

「…う、うん…」

 

「ほら、早く!」

 

「あ、あのね…曜ちゃん…」

 

 

 

「どうして梨子ちゃんなの?」

 

 

 

「えっ?」

 

千歌と梨子は、曜が放ったその意味が理解できず、お互いの顔を見た。

 

 

 

「これは、私と千歌ちゃんの問題なの…。どうして梨子ちゃんが間に入ってくるの?」

 

 

 

「あっ…」

 

梨子はその瞬間、血の気が引いた。

 

 

 

…そういうつもりじゃ…

 

 

 

だが、それは少なからず恐れていたこと。

でしゃばっちゃいけない…そう思っていたのに…どこかで歯止めが効かなくなっていたのかも知れない。

 

 

 

「とにかく、余計なことはしないで…」

 

曜はそう言うと、廊下の向こうに消えていった。

 

 

 

「…そうだね…」

 

梨子はその言葉を聴くと、曜とは反対方向に歩き出した。

 

 

 

…追わなくちゃ!…

 

 

 

千歌は思ったが、足が出ない。

 

 

 

…どっちを?…

 

…どっちもに決まってるじゃない!…

 

…でも…

 

 

 

朝練で培ってきた自信は、脆くも崩れていった。

 

 

 

…バカ千歌!!…

 

…バカ千歌!!…

 

 

 

…このままでいいの!?…

 

…いいわけないでしょ!!…

 

 

 

「うわぁ~~~!!私はバカ千歌だぁ~~っ」

 

思いきり叫んだ。

 

 

 

果たして、その声は2人に届いたのだろうか…。

 

 

 

しかし、曜も梨子も、千歌の元には戻ってこなかった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

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