【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~ 作:スターダイヤモンド
「えっ?千歌ちゃん、まだ帰ってきてないんですか?」
「そうなのよ。あのバカ、どこほっつき歩いてるんだか…私もケータイ鳴らしたんだけど、電源入ってないみたいで…」
「け、警察に連絡したほうが…」
「まだ、7時半でしょ?まぁ、そのうちフラッと帰ってくるわよ」
千歌のすぐ上の姉…美渡…は、家を訪れた曜にそう告げた。
のどかな街だから…と言ってしまうと実も蓋もないが、あまりにも危機意識がない。
「でも…」
「心配してくれてありがとう。大丈夫だよ!帰ってきたら、ちゃんと曜ちゃんに連絡するから」
「は、はい…」
まったく…戻ってきたら『とっちめて』やるんだから…と彼女は、どこまで本気かわからない顔で家の奥へと入っていった。
曜は帰宅後、かなり悩んだ末、ここを訪れた。
もちろん、放課後の事を謝罪するためだ。
色々なフラストレーションが溜まっていて、それを梨子に八つ当たりしてしまった。
…千歌ちゃんがバカ千歌なら、私は『大バカ曜』だ…
…人に当たるなんて、最低だよ…
そんな気持ちで臨んだ部活は、案の定、集中力を欠き…今日はコーチに指摘されるより早く、自ら帰宅を申し出た。
だが、心の中のモヤモヤは晴れず、意を決して、自宅を出たというわけだ。
ところが…
千歌は家にいなかった。
…ハッ!…
…梨子ちゃんちだ!…
曜はここのすぐ隣が、彼女の家だと思い出す。
いや、もちろん、知ってはいたが、実際ひとりで玄関のチャイムを鳴らしたことはなかった。
「梨子~、お客さ~ん」
対応した母親が大きな声で呼んだ。
「お客さん?誰?」
自室にいた梨子が、首を傾げながら2階から降りてくる。
彼女はすでにTシャツとハーフパンツというラフな格好をしていた。
「あっ!曜ちゃん…」
しかし、そのあとの言葉が続かない。
さっきはごめん!…なのか…何か用?…なのか。
梨子は梨子で帰宅後、部屋に籠ったまま、何をどうしたらよいものか…と悩んでいた。
食欲がないから…と、夕食も摂らずにいた。
そこに現れたのが、曜だった…というわけだ。
しかし、まだ、心の準備が整っていない。
梨子は視線を落としたままでいた。
だが、話は曜から切り出した。
「ねぇ、千歌ちゃん、来てない?」
「えっ?千歌ちゃん?」
「家に帰ってきないみたいだし、ケータイも繋がらないし…」
梨子の顔が青くなる。
「ま、まさか…」
最悪の事態が頭を過(よぎ)った。
「どうしよう…」
その言葉を聴いて、一瞬にして…迷い…わだかまりのようなものが吹っ飛んだ。
「ちょ、ちょっと待ってて!」
梨子は自分の部屋に戻ると、パーカーを1枚羽織り、戻ってきた。
「一緒に探しに行こう!」
「梨子ちゃん…」
「お母さん、ちょっと出掛けてくる!千歌ちゃんが行方不明なんだって!」
そう言うと、梨子は曜の手を引き、玄関を飛び出した。
「千歌ちゃんが…行方不明?…」
梨子の母親は、娘が残していった言葉を、鸚鵡返した。
「梨子ちゃん、うしろに乗って!」
「えっ?自転車?」
「立ち乗りになっちゃうけど…そこのステップに足掛けて、私の肩をしっかり、掴まっててね!」
「こ、こうかな?」
「行くよ!」
「ひゃあ!」
曜が勢いよくペダルを踏み込んだので、梨子は反動でうしろにひっくり返りそうになった。
「飛ばすよ!」
「でも、二人乗りは…」
「大丈夫だよ!ここら辺は警察こないから」
…そういう問題じゃ…
冷静な状態の梨子なら、そこは強く主張して、乗車を拒否しているところだが…しかし、さすがにそうも言ってられない。
ガッチリ曜の肩を掴んで、彼女のうしろで風を切った。
一緒に新入生歓迎発表会の練習をした海岸、朝練をしている神社への階段、果南がいるダイビングショップ…いそうなところを走り回ってみたが、彼女の姿は見当たらなかった。
そして、2人は学校へと辿り着く。
…まさかとは思うけど…
口にはしないが、曜も梨子も同じことを考えていた。
さすがにこの時間までいるとは、思えない。
ところが…
千歌は校門の前に立っていた。
「えっ?」
「あっ!」
お互いが、その存在に気付く。
「ち、千歌ちゃん、何してるの!?」
「あれ、曜ちゃん、どうしたの?部活は?」
ほぼ同時に喋った。
「今日は早めに上がったの」
「曜ちゃんを待ってたんだ」
またも同時に、言葉を発した。
「えっ!どうして!?」
最後は2人の声がシンクロして、思わず「ぷっ!」と吹き出した。
「と、取り敢えず、順番に話して、状況を整理しよう」
梨子が一旦、場を仕切る。
「えっと…まず…千歌ちゃんは何をしていたの?」
「私?私は…あのあと、ちゃんと曜ちゃんと話をしなくちゃ…って思って、部活が終わるのをここで待ってたんだけど…。曜ちゃん、いつ出てきたの?私がボケッとしてたのかな?まったく気が付かなかったよ…」
「ご、ごめん…調子があんまり良くなくて…行くには行ったんだけど、すぐ出てきたゃったから」
「あぁ、そうだったんだ!私は少し教室でモタモタしてたから、その前に帰っちゃってたんだね…って、具合悪いの?」
「う、ううん…具合が悪いってワケじゃないんだけど…」
「そっかぁ…あれ?そうしたら、どうして曜ちゃんと梨子ちゃんがここに?」
「それは…」
と曜。
彼女が口籠ったのを見て
「曜ちゃんが、千歌ちゃんのケータイを鳴らしても出ないから…って。それで、家まで行ってみたけどいなくって…。今度は私のところに来てないか?って。でも、いないよ…ってなって…」
と梨子が説明した。
「ケータイ?あっ、本当だ。電源落ちてる…。そっか、昨日、徹夜してて…すっかり充電するの忘れてたんだ」
千歌は屈託もなく笑った。
その様子に…らしいな…と2人も表情が弛んだ。
「もう…すごく心配したんだから…」
「あちこち探し回ったんだよ」
「あっ…ごめん…」
「とにかく、無事でよかったぁ…」
梨子はホッと胸を撫で下ろした。
「うん…」
曜も、まずはひと安心という顔をする。
「ありがとう」
「えっ?」
「心配…」
「えっ?」
「…してくれてたんだ…」
「あ、当たり前だよ。なに言ってるの?」
「だってさ…」
「そ、それは…なんていうか…ここのところ、ギクシャクしちゃって、話しづらかったのはあるけど…別に絶交した訳じゃないし…」
「…うん…ありがとう…」
千歌は申し訳なさそうに、はにかんだ。
「あっ!それより、千歌ちゃんちに連絡しないと!」
と曜。
「そうだ!忘れてた!千歌ちゃん、ほら、ケータイ貸してあげるから、電話して!」
梨子がスマホを手渡す。
「え~、いいよ…」
「よくないよ!私、お母さんに『千歌ちゃんが行方不明になった!』って、言ってきちゃったから、今頃警察に連絡しちゃってるかも知れないし」
「大袈裟だなぁ…」
「千歌ちゃん!!」
「は、はい!」
鬼のような形相になった梨子の言葉に、千歌は思わず背筋を伸ばした。
「電話…」
「す、するよ…する…」
梨子のスマホを借りて、家に無事を伝えた千歌。
「美渡姉ぇが出たんだけど『あぁ、そう…』」って切られた…」
「ははは…」
しかし、帰ったら千歌は、こっぴどく怒られるだろう。
曜はその様子が想像できた。
「じゃあ、帰ろうか…」
梨子は2人に声を掛けた。
「うん」
「千歌ちゃんと梨子ちゃんはバスで帰りなよ。私は自転車だからさ」
「えぇ、いいよぅ。みんなで一緒に歩こうよ」
「でも、ほら…それだと時間掛かるし…」
「あ、もちろん、曜ちゃんがイヤならそうするけど…」
「べ、別にそういう意味じゃ…」
「じゃあ、歩こう!」
「うん!」
「…あ、あのさぁ…これ…受け取ってくれるかな?」
「手紙?」
帰路に就いた千歌が、自転車を押して歩く曜に、それを見せた。
「放課後に渡すつもりだったんだけど…」
「ごめん!あの時に私がもらってれば、こんなことにはならなかったのにね…」
「いや、私が余計な口出しをしちゃったから…」
「…」
「…」
「…」
「その話は、一旦、こっちに置いておこうか…」
と千歌がジェスチャー付きで言う。
「そ、そうだね。話が前に進まなくなっちゃうもんね」
梨子は苦笑しながら頷いた。
「家に帰ったら読んで!」
「うん、わかった…。あれ?ひょっとして…千歌ちゃんが徹夜したのって…これが理由?」
「ほら、私、バカだからさ…どうやって何を書いたらいいのかな?…とか…漢字はこれであってるかな?…とかやってるうちに時間かかっちゃって」
「そうなんだね…。実はさ…私も書いてたんだ…手紙…」
「えっ?」
「千歌ちゃんのこと、叩いちゃった日の次の日に…」
「そんな前に?」
「でも…渡せなかった…」
「…」
「今日はそれを渡そうと…思って千歌ちゃんちに行ったんだけど」
「うん…」
「だから、私のも受け取ってくれる?」
「も、もちろん!」
「それと…梨子ちゃん!」
「は、はい!?」
「ごめんね、あんなこと言っちゃって…」
「ううん…余計なことをしたのは私だから」
「あとね…ありがとう!」
「えっ?」
「千歌ちゃんを一緒に探してくれて!」
「あ、当たり前の事をしただけだから…」
「私の親友は…色々、不器用なところがあるけど…気を使い過ぎたりするけど…これからも暖かく見守ってあげてね?」
「…うん…」
曜は、少し胸が苦しかった。
梨子に言った言葉に嘘はない。
99%は、親身になって千歌を探してくれたことへの、感謝の気持ちだ。
しかし、残りの1%の…そのわずかな感情が自分の中に残っていることを恥じていた。
…心が狭いな…
「じゃあ、また明日!」
道順の都合で先に別れることになった曜は、無理矢理に笑顔を作って、手を振った。
「うん、また明日!」
千歌も梨子も、そんな彼女の感情は、当然知る由もなく、これまでのように「バイバイ」と手を振って別れたのだった。
家に着いてから、美渡にたっぷりと怒られたあと、千歌は曜から受け取った手紙を読んだ。
それは…手紙…と言うよりは…極めて『詩的』なものだった。
…
注:ここに『夜空はなんでも知っているの』の歌詞がありました。
…
「…曜ちゃん…」
葛藤。
千歌がその言葉を知っているかは定かではないが、この詩には、その時の曜の心情がよく現れていた。
彼女も苦しんでいたのだった。
「決めた!『CANDY』は正式に解散する!」
部屋でひとり、叫ぶ千歌。
そして、続けざまに言い放つ。
「そして『CANDY』は『CANDLY』に生まれ変わるんだ!!」
力こぶを作って、高らかに宣言したのだった。
バカ千歌!静かにしなさいよ!…と、部屋の向こうから、美渡の怒声が聴こえてきた…。
第一部
~完~
運営から指摘を受けて一部内容を修正しました。
※歌詞を削除
2018/11/14
この作品の内容について
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キャラ変わりすぎ
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更新が遅い