【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~ 作:スターダイヤモンド
「おはヨーソロー!」
翌朝、独特の挨拶でバスに乗り込んできたのは、渡辺曜。
車内の中ほどの…2人掛けの席に座っていた高海千歌は、それが日常である…と言わんばかりに何の違和感もなく「おはヨーソロー!」と呼応する。
千歌の隣に座っている桜内梨子は、一瞬、戸惑ったが…すぐに「おはようございます」と返答した。
曜は…千歌の…通路を挟んだ隣に腰を降ろす。
「改めて…こちらが私の家の、お隣に引っ越してきた梨子さん!」
「うん、そうなんだってね。すごい偶然!」
彼女は昨晩、千歌から既に報告を受けていたようだったが、それでも「驚いた!」というリアクションをした。
「そして…こちらが私の大親友の渡辺曜ちゃん!」
「宜しくお願いします」
と頭を下げたのは梨子。
初対面ではないが、さすがに1日にしてクラスメイト全員の顔と名前を覚えるのは難しい。
そういう意味では、彼女の頭の中へ…確実にインプットされた2人目のクラスメイト…ということになる。
「あれ?曜ちゃん、朝練は?」
千歌が、彼女に問い掛ける。
「今日は元々お休みの日」
「そうなんだ」
「その代わり、バッチリ走り込みはしてきたけどねえ」
「さすが!」
「朝練?走り込み?」
と千歌と曜の会話に割って入ったのは、梨子。
「あ、まだ説明してなかったっけ?曜ちゃんは高飛び込みの選手なんだよ」
「高…飛び込み?」
「そう。プールの高いところから、ポーンって飛んで、グルグルグル…って回って、ドッボーン!って入るやつ」
千歌は立ち上がりそうな勢いで、手振り身振りを交えて解説した。
「ドッボーン!ってなっっちゃったらダメなんだけどね」
と曜が笑ってフォローする。
高飛び込みという競技は、空中での演技の難易度・出来栄えと共に、入水の際、水しぶきが少ない方が得点は高くなる。
水が撥ねない状態を『ノースプラッシュ』と言い、その究極の状態を『リップ・クリーン・エントリー』と呼ぶ。
これは…唇を弾くような…『ボッ』というわずかな音がするだけ…という意味合いで、千歌が言う「ドッボーン」では、完全に失敗ダイブとなってしまう。
…とはいえ、説明自体は梨子には伝わったようだった。
「曜ちゃんは、国体の選手に選ばれようかっていう選手でね」
「国体!」
「そんなに大したことじゃないって。ほら…競技人口が少ないから…そこそこ練習すれば、それなりに上に行ける…みたいな」
「またまたぁ…謙遜しちゃって」
「はい、そうは言っても、そんなに簡単には国体の選手になれないですから」
と梨子は、千歌に合わせて何気なく相槌を打ったつもりだったが、その刹那、曜の表情が厳しくなった。
「ん?曜ちゃん?」
「えっ!?あ、ううん…まぁ…それはそれとして…梨子さんはピアノやってたんだっけ?」
と、何かを誤魔化すように曜は話を替えた。
「えっ?えぇ、まぁ…ほんの嗜む程度で…」
こちらもこちらで、どことなくぎこちない返事。
「私は音痴だし、楽器もできないから、ピアノが弾けるって言うだけで尊敬しちゃうな」
「…って曜ちゃんは言うんだけど、別に音痴じゃないと思うんだよねぇ。リズム感だって悪くないし」
「いやいや、千歌ちゃん…変にハードル上げなくていいから…」
「そう言う千歌さんは、何かされてるんですか?」
「私?私は…スクールアイドル!」
「えっ?」
「…に、なりたいなぁ…なんて…」
「…って本人は言ってるけど、どこまで本気かは不明なんだよねぇ…千歌ちゃん、飽きっぽいから…」
「もう!今度は本気なんだってば!」
「確かに、それだけは1年くらい、ずっと言ってけど…」
「…スクールアイドル…」
「あ、ほら…私、昨日、初対面にも関わらず、梨子さんに『西木野真姫さんになってください』なんて言って、驚かせちゃったでしょ?」
「う、うん…」
「そうしたら梨子さんがμ'sを知らなくて、逆に私がもっとビックリしたんだけど…」
「ごめんなさい」
「ううん、それは私の勝手な思い込みだったんだから、気にしないで」
「それで、そのスクールアイドルって…」
「あれ?そこから?う~ん…まぁ、早く言えば、学校内でアイドル活動することかな…。歌って、踊って、みんなに観てもらって…それを楽しむ!そして、そうした人たちが目指す大会が『ラブライブ』って言って…その初代チャンピオンが、かの有名な『A-RISE』」
「さすがにA-RISEは私も知ってます」
「だよね?…そして、その次のチャンピオンが『μ's』。この2組がラブライブの礎(いしずえ)を作ったって言われてるんだけど…μ'sは、さらにその大会規模をアキバドームまでにしたことで『スクールアイドル界のカリスマ』って呼ばれてるんだ」
「詳しいんですね…」
「えへへ…全部、ネットからの受け売りなんだけどね…。そして、何を隠そう!そのμ'sこそが音ノ木坂の生徒…つまり梨子さんの先輩だった…ってワケ」
「…」
「初めて知った?」
「…私、そういうの疎(うと)くって…」
「へぇ…やっぱりそんなもんなんだ。千歌ちゃんがあまりにも、μ's!μ's!って騒ぐから、どれだけ凄いのかと思ってたんだけど…わりとそうでもない感じ?」
「い、いえ!ち、違うんです!えっと…その…μ'sさんはきっと凄い人たちだったんだと思います!私が無知なだけで…はい…」
急に慌てふためき出した梨子に、千歌と曜は首を傾げた。
だが直ぐに、千歌は彼女に言った。
「でも…もしかしたら、そうなのかも知れないなぁ。μ'sの活動って1年くらいだったみたいだし、世の中に名前が知られたのは解散したあとだし…思いの外(ほか)売れちゃって…本人たちからしてみれば『あとはそっとして置いて』みたいに思ってたのかも…」
「おっ!千歌ちゃん、なかなか大人びたこと言うねぇ」
「だって、そうじゃなきゃ、いくら梨子さんがそういう人だからって、ここまで知らないってことは考えられないもん!…確か…一番年下のメンバーが卒業してから、まだ4年くらいしか経ってないハズだし」
「でもまぁ、そうなると在学期間は被ってないよね」
「そっか…」
「えっと…その…私の知識不足は置いといて…さっき『スクールアイドルになりたいな!』って言ってたけど…千歌さんは、まだスクールアイドルじゃないんですか?」
「えっ?…あ、うん…今のところは憧れてるだけ。曜ちゃんを『ず~っと』一緒にやろうって誘ってるんだけどね…これが全然、つれなくて…」
「私はほら…部活があるし…」
「わかってるけどさぁ…あ、それで昨日、梨子さんが…音ノ木坂から来た…趣味はピアノ…って言うから、過剰に反応しちゃった…っていうか…」
「ひょっとして、その真姫さんって言う人がピアノを…」
「うん。μ'sのメロディメーカーだった人で…これがどの曲聴いてももステキなんだよ。あっ、そうだ!今度、梨子さんにも聴かせてあげるね」
「あ、ありがとう…」
…そういうことか…
「ん?今、何か言った?」
「えっ?いえ…別に…」
「…とかなんとか言ってるうちに、学校に着いたよ!」
と曜が2人に合図する。
「あっ、本当ですね。昨日は早めに学校に行ったから、お客さんも少かったし…話す人もいなかったから、凄く遠く感じたけど、今日はあっという間でした」
梨子は微笑みながら、思ったことを口にした。
「向こうにいた時は?」
「徒歩でした」
「ゲッ!?」
「えっ?」
「どれくらい歩くの?やっぱり1時間くらい?」
「まさか!私は学校と家がわりと近かったから…10分くらい…」
「そりゃ、そうだ…東京だもんね、東京」
「いえ、東京だからといって全員がそうってわけじゃ…」
「でもさ、1本バスに乗り遅れたら、1時間待たなきゃならないとかないでしょ?」
「ば、場所にもよるんじゃないかな…」
「これから大変だよぅ…田舎暮らしは…」
昨日の千歌は、梨子に対して『良いところアピール』をしていたハズなのに、今日は一転『不便アピール』である。
不覚にも梨子は「あはは…」と声を立てて笑ってしまった。
「ほらほら、バカなことを言ってないで降りるよぅ」
「は~い!」
車内は、ほぼ女子高生しかいなかったが、彼女たちが乗車していたのはスクールバスというわけではない。
ただ学校が沼津の中心部とは反対方向にあり…従って、朝の時間帯であっても反対方向は混むが、こちらは割りと空いているのだ。
さらに言えば、そもそも、この地域自体の人口が少ないため、首都圏のようなラッシュは起こりえないのであった。
しかし、それはやがて彼女たちにも暗い影を落とす事態へと発展していくのである…。
~つづく~
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