【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

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音ノ木坂のスクールアイドル

 

 

 

 

 

「あ、これ試食してみる。当店自慢の『柚子味噌団子』。発売以来大好評のロングセラー商品なんだよ」

と雪穂はショーケースから一串取り出すと、箸で小皿に取り分け、3人の前に置いた。

 

「えっ?いいんですか?」

 

「その代わり、食べて美味しかったら、いっぱい買っていってね」

と雪穂は悪戯っぽく笑った。

 

さすが商売人の娘である。

こういう『押しの強さ』は姉にも負けていない。

 

 

 

「では…お言葉に甘えまして…」

 

パクリ…と口にした3人。

 

 

 

「!!」

 

 

 

「美味しいです!」

 

 

 

「でしょ?」

 

 

 

「はい。柚子のスッとした香りが、いいアクセントになっていて」

 

「うん。お味噌の甘辛さ加減も丁度よくて」

 

「このお茶とベストマッチです!」

 

 

 

「アキバのお米クイーンが太鼓判を押したお団子だからね…当然、当然!」

と雪穂は姉譲りの…決して大きくない胸を張った。

 

「アキバのお米クイーン…ですか?」

 

「ん?ううん…まぁ、それはそれとして…それで?」

 

雪穂は、この沼津から訪れた3人に興味を持ったらしい。

空いている席に座ると、グイグイと彼女たちに迫る。

 

「それで…とおっしゃいますと…」

と千歌が聴き返す。

 

「お姉ちゃんに、何か相談があったんでしょ?」

 

「あ…はい…」

 

次の言葉に、一旦、千歌は躊躇する。

だが意を決したのか、大きく深呼吸したあと

「あの~…その~…唐突ですが…『♪頑張らね~ば、ね~ばねば、ネバ~ギブアップ…』って歌…ご存知ですか?」

と尋ねた。

 

 

 

「!!」

 

 

 

「音ノ木坂に伝わる応援歌…って聴いてるんですけど…」

 

 

 

「もちろん知ってるけど…どうしてあなたたちが?」

 

 

 

「実は…」

と千歌は、梨子が音ノ木坂からの転校生であることを伝えた。

 

 

 

「なるほど、そういうことか。今の歌はコアなμ'sのファンでも、そう知ってる人はいないから…どうして?って思ったけど、そういうことね」

 

「すみません、突然」

 

「ううん…えっと…梨子ちゃんって言ったっけ?…今、2年生?」

 

「はい」

 

「じゃあ、丁度入れ替わりだったのね。私が今、大学2年だから」

 

「そうなんですね…」

 

「…それで…その歌がどうしたの?」

 

「あ、はい…私たち、今度、地元のスクールアイドルが集まるイベントに出演することになったんですけど…その…オリジナルの曲とかなくて…」

 

「わかるなぁ…なにはさておき、そこが一番大変だよね!」

 

「はい、そうなんです!μ'sの曲なら全部歌って踊れるんですけど…」

 

「へぇ!すごいね!」

 

「なのでμ'sの曲で出ようかと思ったんですけど…でも、他のスクールアイドルも同じだったらインパクトがないし…それで音ノ木坂にいた梨子ちゃんに、みんなが知らないμ'sの曲ってないの?って訊いたら…」

 

「こういうのなら聴いたことあるよ…って話になりまして」

 

「なるほど」

 

「だけど、そのフレーズだけしか知らないって言うから、だったら直接、本人に訊いたら、歌詞全部がわかるんじゃないかと…」

 

「それでわざわざ沼津から?結構無茶するねぇ…」

 

「はぁ…すみません…」

 

「そういうことか…。まぁ、あのメンバーで本人に逢えるかも…って言ったら…うん、ここになるのかな…。まさか、学校や職場に押し掛けくるわけにもいかないしね」

 

「はい…」

と千歌は、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 

 

「『ラブノベルズ』」

 

 

 

「えっ?

 

 

 

「今の曲のタイトルだよ。確かに学校じゃ、曲の一部分だけが独り歩きして、ある種『呪文』みたいに唱えられてたけど」

 

 

 

「ラブノベルズ…恋愛小説?…」

 

「やっぱり、正式な曲だったんですね!?」

 

 

 

「うん…正確に言うと…μ'sの曲ではないかな…」

 

「えっ?」

 

「構想のまま終わっちゃったから、お披露目することはできなかったんだけど…μ'sには3つのユニットがあってね…」

 

「ユニット…ですか?」

 

「曲作りの合宿をした際に、くじ引きで班分けをしたんだって。それをそのままユニットにしたみたい。えっと…『作詞班』だった希先輩、海未先輩、凛先輩のユニットと…『作曲班』の絵里先輩、にこ先輩、真姫先輩のユニット…そして『衣装班』のことり先輩と花陽先輩…あと、うちのお姉ちゃん…ってね。今、歌ったラブノベルズは作曲班の持ち歌なんだよ」

 

「そうなんですね…」

 

「『頑張らね~ば、ね~ばねば、ネバ~ギブアップ…』だけ切り取っちゃうと『?』ってなっちゃうけど、全体の歌詞を見ると『鈍感な男の子に、なんとか自分の恋愛感情を気付かせたい!』っていう、すごく健気な曲なんだ」

 

「うわぁ…それは是非アタマから聴いてみたいです!」

 

「そうだよねぇ。でも…私も生では聴いたことないの…」

 

「どうしてですか?」

 

「結局、早々にμ'sを解散させちゃって…ユニットでの活動は実現しなかったから…」

 

「あっ…」

 

「スクールアイドルに拘らないでμ'sの活動を長く続けてれば、ユニットも含めて、もっともっと人気が出たんだろうけどなぁ…」

 

「もったいないですよねぇ…」

 

「本当にもったいない。多分、世間で知られてるのって…十数曲だと思うんだけど…本当は未発表のものも含めると、100曲くらいあるんだって」

 

「ひゃ…ひゃくですか!?」

 

「さっき話したユニット曲も含めてなんだけど…」

 

「確か…μ'sの活動期間って…」

 

「1年…」

 

「ですよね…ってことは…」

 

「1ヶ月に10曲近く作ってたことになるね」

 

「ひょえ~…やっぱりμ'sは凄いです!」

 

「でも、それなら…」

と梨子が口にした。

 

「ん?」

 

「どうして先輩たちは、後輩になにも残していかなかったのでしょうか?私、アイドル研究部の子から聴いたことがあるんです。μ'sは…先輩たちは部室になにも残していかなかったと。楽譜も作詞したノートも…ラブライブで優勝した証も…」

 

「ケチだよねぇ…」

 

「えっ?」

 

「せめて未発表曲だけでも、後輩の為に譲ってくれれば良かったのにね!」

 

「はぁ…」

 

「でもね…μ'sはμ'sであって、私たちは私たち…そうしたかったんだと思うの。それはね、元からある楽曲を使うのは楽だよ。その方が余計な時間取られることはないから、その分練習に打ち込めるし」

 

「…えっと…耳が痛いです…」

 

「あ、まぁ、人それぞれ事情があるから、それはそれで否定はしないけどね…でも、私は一番近いところで見てたからわかるんだ。スクールアイドルってさ…みんなでひとつのものを作っていく過程が楽しいんだ!って」

 

「過程…ですか?」

 

「そう…過程…。μ'sがなんでA-RISEに勝てたか…って話が昔あってね…人数とか勢いとか、色んな要素があったとは思うんだけど…最終的には『応援してくれた人への感謝の気持ちを歌に込めて…その想いが聴いてる人たちに伝わったから』…って結論に達したの」

 

「…」

 

「それはつまり…詞も曲も衣装も振り付けも…全部自分達で作り上げてきたものだから。ぶつかったり、へこんだりしながら、ひとつひとつ壁を乗り越えて、みんなで同じ方向を向いて…そうやって作り上げてきたから」

 

「全部、自分達で作る…」

 

「口で言うのは簡単だよね…。でも、そうやって作ったものは、やっぱり曲に対する『思い入れ』が違うと思うんだよね…」

 

「…」

 

「ごめんね、難しい話しちゃって」

 

「い、いえ…勉強になります!」

 

「だから…μ'sが後輩に何も残していかなかったのは…自分たちの手で、自分達の曲を作りなさい!っていうメッセージなの」

 

「…なるほど…」

 

「もっと言えば、後輩が『μ'sの七光り』みたいに評価されるのも可愛そう…とか、逆に『μ'sの名前に縛られるのが可愛そう』…とか…どっちにしても『μ'sの匂い』を消そうって考えがあったみたい」

 

「…そうなんですね…」

 

3人は雪穂の説明に、神妙な面持ちで聴き入っていた。

 

「あ、ごめんね。偉そうなことを言っちゃって!あくまでも、それは私たちの話だから」

 

「こんな貴重なお話を聴けるなんて思わなかったです」

 

「私も…音ノ木坂に在籍していたのに、まったく、そういうの知らなくて…」

 

「いいの!いいの!気にしないで」

 

「それにしても100曲って…信じられないです」

 

千歌は、曜と梨子に…ねぇ…と同意を求めた。

それに大きく頷く2人。

 

「海未ちゃんと真姫先輩が『神』過ぎるのよねぇ…」

 

雪穂がポツリと漏らした一言に

「真姫…先輩…」

と思わず、反応してしまったのは梨子だった。

 

「ん?どうかした?」

 

「あ、いえ…」

 

「梨子ちゃんはピアニストなんです」

 

「ち、千歌ちゃん、言わなくてもいいよ!」

 

「え~…折角だから聴いてもらおうよ」

 

「うん、いいよ。続けて…」

 

「音ノ木坂でピアニストって言えば…」

 

「あぁ…そういうことか!…わかっちゃった!」

 

「えっ?」

 

「どうしても比較されちゃうもんね?それが悩みだった?」

 

「な、なんでそれを…」

 

「だって、私がそうだったもん。なにかにつけて、お姉ちゃんと比較されたから…」

 

「あっ!…」

 

「私はね…自分からお姉ちゃんみたいに…じゃなかった…『μ'sみたいにスクールアイドルをやりたい!』って飛び込んだ世界だから、それなりに覚悟はしてたんだけど…まったく関係ない人が、色々比べられちゃうのはツラいよねぇ」

 

「は、はい…」

 

「それで梨子ちゃん、μ'sのことが嫌いだったらしくて…」

 

「き、嫌いとは言ってないよ!意識的に避けてただけで…」

 

「でも、ピアノが弾けなくなっちゃうほど、大変だったんでしょ?」

 

「…」

 

「そっか…相手が真姫先輩じゃあね…そうなるか…」

 

「でも、千歌ちゃんに出逢ってから気が付いたんです!私がいかに子供だったのか…って」

 

「?」

 

「千歌ちゃんが、すごく楽しそうにμ'sの曲を歌って、踊ってるのを見て…あぁ、やっぱりμ'sって凄いんだな。いまでも、こんなに愛されてるんだ!みんなをこんなに元気にするんだ!って思えるようになって…」

 

「うん…」

 

「それでわかったんです。私はただμ'sに嫉妬してたんだ…って…。先輩たちのことを、認めたくなかっただけ…よく知らないまま、ただ名前に反発してたんだ!って。それに気が付いたら、心がスーっと軽くなったんです」

 

「それからだよね?梨子ちゃんも一緒にスクールアイドルをやってもいいよ…って言ってくれるようになったのは」

 

「うん」

 

「なるほどね…そんな葛藤があったんだ…」

 

「はい…」

 

「あなたは?」

 

「私…ですか?」

 

急に話を振られて、曜は目を丸くした。

 

「私は…千歌ちゃんの力になりたい!って思ったからです」

 

「?」

 

「千歌ちゃんは小さい頃からの幼馴染みなんですけど、何をしてもあきっぽくって、中途半端で…」

 

「わぁ!曜ちゃん、今、それ言っちゃう!?」

 

「クスッ…」

 

「でも、このスクールアイドルに関しては…μ'sのことを知ってからは、本当に一生懸命、歌ったり踊ったりして…ずっと一緒にやろうよ…って声を掛けられてたんですけど、ついにその熱意に負けたっていうか」

 

 

 

…お姉ちゃんと海未ちゃんみたい…

 

 

 

「千歌ちゃんが本気で打ち込むなら、力になってもいいかな…って」

 

 

 

「よし!わかった!」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「そうしたら、あなたたちに、未発表の曲をひとつ教えてあげる」

 

 

 

「ありがとうござ…えぇっ!?…」

 

 

 

「本当は私にそんな権限はないんだけどね…」

 

「あ、いや…でも…」

 

「あなたは、ちょっと私のお姉ちゃんに似てるし、あなたは花陽先輩に激似だし…ということで、2人が所属してたユニットの曲とかどう?」

 

「衣装班…でしたっけ?」

 

「うん。どういう曲がいい?」

 

「教えてもらえるなら、どんな曲でもいいです」

 

「でもさぁ…あるでしょ?好みって。明るい曲がいいとか、アイドルの王道みたなのがいいとか…」

 

「いえ、本当に贅沢を言える立場ではないので…」

 

「そうしたら…あなたたちのコンセプトって何かなかぁ?」

 

「コンセプト…ですか?」

 

「そこまで考えたことはなかったです…」

 

「それはちょっとダメだなぁ…」

 

「はい…」

 

「さっきの話に戻っちゃうかも…だけど…憧れのアイドルを真似するのは全然構わない。…でも…やっぱりそこに自分たちらしさがないと…お客さんはついて来ないわよ」

 

「はい…すみません…」

 

「別に謝らなくてもいいけど…」

 

「でも、言われたことはわかります」

 

「そう?…で、どう?あなたたちはどんなステージをしたいの?…可愛らしい?大人っぽい?元気?お淑やか?」

 

「う~ん…」

と首を傾げる千歌。

 

「いや、千歌ちゃん!」

 

「そこは悩むとこじゃないよ」

 

「えっ?」

 

「そこは…ねぇ?」

 

「うん」

 

曜と梨子は目を合わせると、口を揃えてこう言った。

 

 

 

「元気の一択だよ」

 

 

 

「あはは…だよね!」

 

 

 

「元気?」

 

「はい!千歌ちゃんから元気を取ったら、何にも残んな…」

 

「ちょっと、曜ちゃん!」

 

 

 

…ますます、うちのお姉ちゃんっぽい…

 

 

 

「わかった!元気ね…ちょっと、待ってて…すぐ、戻ってくるから」

そう言って雪穂は席を外すと、店の奥へと消えた。

 

 

 

待たされた3人の間に、なんとも言えない緊張感が走る。

無言のまま雪穂の帰りを待った。

 

 

 

ほどなくして彼女は音楽プレーヤーを片手に戻ってきた。

 

 

 

…まぁ、お姉ちゃんもことりちゃんも、花陽先輩も許してくれるでしょ…

 

 

 

「参考にしてみてね」

と雪穂。

 

そして3人に曲を聴かせたのだった…。

 

 

 

 

~つづく~

 

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