【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

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屋上

 

 

 

 

 

「こんにちわ!」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「今日から、私たちもここを使わせてもらうことになったから…よろしくね!」

 

 

 

「は、はい…」

 

 

 

「あっ…これ…よかったらどうぞ」

と梨子が『3人』にペットボトルを差し入れる。

 

初夏とはいえ、日陰のないアスファルトの屋上は…照り返しもあり…体感温度は倍くらいに感じられる。

 

「そんな変な顔をしなくても大丈夫だよ。毒なんて入ってないから」

 

その隣で、千歌はそう言って「えへへ…」と笑った。

 

 

 

生徒会長のダイヤを押し切る形で、千歌たちは屋上で練習する権利を得た。

そして、この日はその初日。

『先住人』に挨拶をして、再始動の一歩を踏み出した。

 

 

 

しかし、覚悟はしていたが…気まずい…。

 

 

 

要因はいくつもある。

 

一度は「解散する!」と宣言したこと。

彼女たちの「仲間に入りたい!」と言う希望を断ったこと。

『あれ』をスクールアイドルの『それ』と呼んでいいかどうかはともかく…千歌たちよりも早く(ネットであるが)『デビューしている』こと。

そして…この場所を『間借り』させてもらうこと…。

 

さらに言えば…意図せず『対決』することになったこと…。

 

 

 

「あっ!…邪魔しないように練習するから…ここからこっちを貸してね?」

と千歌は、屋上への出入口から遠い方…『向こう半分』…をジェスチャー付きで指し示す。

 

 

 

「はぁ…」

 

1年生の3人は、そう返事をせざるを得なかった。

 

 

 

曜は『部活』に出ている。

千歌と梨子が体力系のトレーニングをする日は、あっちに出て、パフォーマンス練習をする日はこっちに参加する…ということで折り合いを付けた。

そのうち、そうは単純に分けられなくなる日が来るのだろうが…今の段階ではこれがベストだと判断した。

高飛び込みの踏み切るタイミングが合わなく、ある種、イップスになっている状態。

ダラダラと練習するより、メリハリを付けて、集中力を高める…という『もっともらしい理由付け』をして、顧問を納得させたのだった。

 

 

 

千歌と梨子は…屋上の空中の仕切った『中央線』…から遥か遠く…隅っこへと歩いて、ストレッチを始めた。

 

 

 

 

「『ベリアル』です!」

 

「『ヨハネ』です!」

 

「『アザゼル』ズラ!」

 

「『ふぉ~りんえんじぇる』です!」

 

 

 

「…なによ、このブリブリのアイドルみたいな自己紹介は!?」

 

「えっ?ダメかな…」

 

「スクールアイドルなんだから、それでいいズラ」

 

「ダメよ!ダメ、ダメ!私たちのイメージに合わないわ」

 

「…なんズラ?…私たちのイメージって…」

 

「いいから…次、いくわよ!」

 

 

 

「どうもぅ…アザゼル、ズラぁ!」

 

「ベリアルで~す」

 

「ヨハネで~す…ってトリオ漫才か!!」

 

「マルはこれがいいズラ…」

 

「えっ?わ、私は…ちょっと…」

 

「当たり前じゃない!却下よ、却下!次いくわよ、次!」

 

 

 

「ギランッ!…ヨハネ!」

 

「スタッ!…アザゼル…ズラ…」

 

「パシッ!…ベリアル…」

 

「3人揃って…」

 

「ふぉ~りんえんじぇる!!」

 

「『3人揃って』はダサすぎ…これじゃあ戦隊モノみたいズラ」

 

「そ、その前の擬音も、充分変だと思うけど…」

 

「な、生意気よ!ルビィのくせに…」

 

「善子ちゃん、それじゃ『ジャイアン』ズラ…」

 

「善子じゃなくて、ヨハネ!…ってズラ丸、アンタも自己紹介の時くらい『…ズラ』はやめなさいよ!」

 

「まったく文句が多いズラ…」

 

「よ、善子ちゃ…じゃなくてヨハネちゃん…素朴な疑問なんだけど…」

 

「何よ?」

 

「…自己紹介って必要なのかな?…」

 

「当たり前でしょ!何チーム出ると思ってるのよ!こういうのはね、目立ったもの勝ちなのよ!インパクトよ、インパクト!」

 

善子がμ'sについて、どこまで詳しいか知らないが…かつて彼女たちの中にも、同じようなセリフを吐いたメンバーがいた。

その時は試行錯誤の末、落ち着くとこに落ち着いたのだが、いつの時代にも、似たようなことを考える者はいるのである。

 

 

 

千歌と梨子は、その様子を柔軟をしながら、その様子を窺っていた。

 

「…あの娘たち…なにしてるのかな?」

 

「コントの練習?」

 

「もしくはトリオ漫才?」

 

 

 

「まさかね」

 

ふたりは顔を見合わせた。

 

 

 

しばらく…まるで奇異な生き物に出会ったかのように、その様子を見守っていたが、彼女たちの会話が途切れるのを待って恐る恐る声を掛けた。

 

「ね、ねぇ…ちょっと訊いてもいいかな?」

と千歌。

 

「なんズラ?」

 

「今度のフェスティバルに出るんだよね?」

 

「は、はい…」

 

聴き取るのがやっと…の声でルビィが返事をする。

 

「今のは…その練習?」

 

「ま、まぁね!」

 

偉そうに善子が胸を張った。

 

「そうズラ。決して、お笑いの練習じゃないズラ」

 

「こらぁ!余計なことを言うなぁ!」

 

「いや、端からみたら、誰がどう見ても、そう見えるズラ…」

 

「あはは…」

 

このやり取りが、すでに漫才…そんな風に思えて、思わず千歌は笑ってしまった。

 

 

 

「…それで、なにか用ですか?」

 

笑われたのが不快だったのか、善子は千歌にぶっきらぼうに訊いた。

 

 

 

「やっぱり…ラブライブ…出たいよね?」

 

 

 

「!!」

 

 

 

『ラブライブ』という単語を聴いて『ビクッ!』と反応したのはルビィだ。

 

そのリアクションがあまりにも大きかったので、花丸も善子も、思わず彼女の顔を見た。

 

 

 

「えっと…その…」

 

 

 

「当たり前ズラ!ルビィちゃんはその為にスクールアイドルになったズラ!」

 

 

 

「だ、だよねぇ…」

 

 

 

「?」

 

 

 

「私はね…私はラブライブ自体に、そんなに興味がなかったんだ。ただただ、μ'sに憧れて…あんなステージができたらいいな…そんな風に思ってたの」

 

 

 

「…」

 

3人は話の意図が見えず、不思議そうな顔をして千歌を見ている。

 

 

 

「だから、ラブライブの出場権はね…このフェスティバルの順位に関わらず、あななたちに譲ろうかな…って」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「だって…意気込みっていうか…なんの夢も持ってない人が出たら失礼でしょ?」

 

 

 

「安心するズラ。そんな情けを掛けてもらわなくても、マルたちが勝つズラ」

 

「ズラ丸、いい事言うじゃない!そこはアタシも同意よ」

 

「…花丸ちゃん、ヨハネちゃん…」

 

 

 

「うん、そうだよね…だけどね…私も負けない!」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「ラブライブの出場権をあげる!って話は、撤回するね!」

 

 

 

「はぁ?」

 

善子が表情もろとも露骨に疑問の声を口にした。

 

 

 

「ライブをやるからには、全力を尽くす!…正直…ラブライブ云々なんて、全然イメージ沸かないし…勝つとか負けるとか、よくわからないけど…でも、私たたち、精一杯頑張るから!」

 

 

 

「ちょっと、なに言ってるかわかんないんだけど…」

 

某漫才師か!とツッコミたくなるような善子のセリフ。

 

 

 

「あらら…」

 

善子の言葉に、千歌の後ろで話を聴いていた梨子がコケそうになる。

 

 

 

「善子ちゃん、そこは理解してあげるズラ…」

 

「善子じゃない!ヨハネ!」

 

「いちいち面倒くさいズラ…」

 

「それで?」

 

少しムッとして、善子が千歌に訊く。

 

 

 

しかし

「つまり…宣戦布告…ってことズラね!」

と答えたのは花丸。

 

 

 

「正解!…って…そこまで大袈裟な話じゃないけど…」

 

千歌は頭を掻きながら、彼女の言葉に頷いた。

 

 

 

「ふ~ん…」

 

善子は冷ややかな視線を、千歌に浴びせる。

 

「い、一応ね…ほらルビィちゃんが『私たたちと一緒にやりたい!』ってくれたのを断っちゃったし…ユニットも『解散する!』なんて言っちゃたりもしたから…」

 

「わ、私は気にしてないですけど…」

 

「本当?そう言ってくれると、少しは気が楽になる…」

 

「そんなの社交辞令に決まってるじゃない!」

 

「よ、ヨハネちゃん!」

 

「だから、ヨハ…って、合ってるわね…」

 

ルビィに希望通りの名前で呼ばれたが、ついツッコミそうになった善子。

バツが悪そうに、下を向いた。

 

 

 

「ルビィちゃんには勝手な事ばかり言って悪いなぁ…って思ってる。だけど…やる!って決めたからには、真剣にやらないと…お客さんにも失礼だと思ったから…どうしても先に伝えておきたくって…」

 

「はい…」

 

「ありがとう…。ごめんね、練習の邪魔しちゃって…」

 

「い、いえ…」

 

 

 

「じゃあ、コントの練習の続きを…」

 

 

 

「だから、違うってば!!」

 

ムキになって否定する善子の姿を見て、千歌と梨子は微笑んだ。

 

 

 

 

 

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