【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

26 / 44
共同作業

 

 

「それで、歌詞の方は進んでる?」

 

 

 

屋上での練習を終えた帰り道。

千歌と梨子は、同じく『部活の練習を終えた』曜と合流した。

 

今の質問をしたのは、その曜。

 

それに対し

「うん!順調、順調!でも、言葉が次から次へと出てきちゃって…『小説』みたいになっちゃったんだ」

と千歌が笑いながら答えた。

 

「小説?」

 

「それで、このあと梨子ちゃんに手伝ってもらって、ちゃんと曲になるよう『詞(うた)』にするんだけど」

 

「なるほど」

 

「もし良かったら、曜ちゃんも手伝ってくれないかな?」

 

「ヨーソロー!」

と曜は、二つ返事で快諾した。

 

「ごめん、疲れてるところ」

 

千歌は掌を合わせて、彼女に頭を下げた。

 

「なに言ってるの!だって『みんなで作り上げていくことが大事』なんでしょ?」

 

雪穂の教えられた言葉だ。

 

「うん!」

 

「それでテーマは?」

 

「えへへ…それは見てからのお楽しみ…ってことで…」

 

「OK!じゃあ、一旦、家に帰って、着替えてから出直すよ!」

 

「了解!あっ、ご飯は食べて来なくていいよ。志摩姉ぇに頼んでおくから。梨子ちゃんと3人で食べよう」

 

「おっ!?…いつも、悪いね!」

 

「いいの、いいの!どうせ、旅館の余り物なんだから」

 

「それが、凄く、贅沢だ!って話なんだけどね」

 

「そうかな?」

 

「そうでしょ!いくら余ったからって、なかなか夕食にアワビとか伊勢エビのお刺身は出てこないよ」

 

「だって、そりゃあ沼津に住んでるんだもん。普通出るでしょ」

 

「えっ、沼津の人の夕食って、みんなそうなの?」

 

「だから、梨子ちゃん、真に受けちゃダメだって!沼津の住民だからって、みんなそういう食事はしてないから」

 

「…だよね…。だけど私も何回かご馳走になってるから…ちょっと、そうなのかな…って思っちゃった」

 

「ないない!千歌ちゃんは、その辺の感覚が完全にマヒしてるよね…」

と曜。

 

 

 

時として人は、自分が生まれ育った環境下で起きている日常は『周りの人間も同じように過ごしているもの』だと『誤認』していることがある。

 

だが、それが『そうではない』と知ったとき、衝撃を受けるのだ。

 

 

 

余談になるが、夏の風物詩(注:本日の日付は8月中旬)のひとつに『蝉の鳴き声』というのがある。

筆者は生まれも育ちも神奈川県の為、蝉と言えば「ミーンミンミンミンミンミンミーン…」でお馴染みの『ミンミンゼミ』を思い浮かべるが、静岡以西の主流は「シャッシャッシャッシャッシャッ…」と鳴く『クマゼミ』らしい。

それを知ったのは、結構、大きくなってからのことだが、こういった文章を書くに当たって『みんなが知ってるであろう』とか勝手に思い込んでると、あとで『恥を掻く』『痛い目に遭う』ということがよくある。

 

パロディなんかも好きで、よく書いたりするのだが、これなどは読んでくれる人が元ネタを知らないと「なんのことかさっぱり」…となってしまう(まぁ、それはそれで開き直るしかないのだが…)。

 

故に極力、下調べなどをして注意してはいるものの…自分の常識、知識は世間と同等ではない。

 

人はそれを『カルチャーショック』と呼ぶのである。

 

 

 

「千歌ちゃんの場合、お風呂だって、どこの家も『温泉』だと思ってたしね」

 

「む、昔の話だよ」

 

「なるほど…そういうもんなんだね…」

と梨子は、少し納得したようだ。

 

 

 

「そっか…晩御飯のおかずは『沼津だから』じゃなかったんだね」

 

「まだ、それを言う?」

と曜が笑う。

 

千歌にしてみれば当たり前のことではあるが…考えてみれば、それは確かに贅沢なことなんだ…と、改めて気付かされたのだった。

 

 

 

「じゃあ、またあとで!」

 

「うん!」

 

そんな会話を交わして、曜は先にバスを降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…千歌ちゃんの意外な才能発見!」

 

曜は、彼女が『小説』を書き込んだノートを見て、感嘆の声をあげる。

誤字脱字は多いが、それはひとつのストーリーとなっており、彼女が伝えたいことは、それなりにわかる『文章』になっていたからだ。

 

 

 

千歌の家に集まり、豪華すぎる夕食を終えた3人は、彼女の部屋に移動し、作業を開始した。

 

 

 

μ'sのリーダー、高坂穂乃果…の妹…雪穂から貰った曲。

 

最初はそれでフェスティバルに出ようかと考えたていたが…『自分たちで作り上げていく過程が楽しい』…と彼女が放った言葉に触発され、オリジナル曲に挑戦してみることにしたのだ。

 

 

 

「だけど…確かに、これはちょっとした『短編小説』だね」

 

「でしょ…」

 

「それに…だいぶ貰った曲に『引っ張られてる』気がする」

 

「は、初めてだから…どうしても影響されちゃう…っていうか…いきなり、違うテーマって言われても、すぐには出てこなくて」

 

「だよね…」

 

「それに、雪穂さん…結構私たちのイメージにピッタリの曲を選んでくれちゃったから、変えようがなくて…あ、迷惑っていう意味じゃないよ」

 

「わかるよ、それくらい…」

 

「これが『まったく合わない曲』なら『そうじゃないよね!私たちはこうだよ!』ってなるんだけど…」

 

「それはそうだ」

 

「だから、決して真似をしたつもりはないんだよ!」

 

「『インスパイアされた』って言えばいいのかな…」

 

「そう!それ!さすが梨子ちゃん!いい言葉を知ってるね!」

 

「あとは『オマージュ』とか『リスペクト』とか…」

 

「うん、それそれ!…っていうことで盗作したわけじゃないから!!」

 

「ふふふ…」

 

曜は『そんな事』を言ったつもりはないのだが、必至に弁解する千歌を見て、苦笑した。

 

 

 

「そこで…ここから伝えたいことを絞って、文章を削っていく作業をしなくちゃいけないんだ」

 

「ふむふむ…」

 

「梨子ちゃん、この短編小説を、どれくらいまで短くしていけばいいのかな?」

 

「テンポ…速さにもよるけど、3分くらいの曲で、だいたい75~100小節くらいかな。そこから前奏とか間奏とかを抜いていくから…」

 

「なるほど、なるほど」

 

梨子の説明に頷く千歌。

 

「例えばさ、千歌ちゃんが書いたこのノートを見て、だいたいこんな感じの曲…みたいなのって、演奏できたりする?」

と曜が質問した。

 

「うん…まぁ…できなくはないかな…。私のイメージだと…」

と言うと梨子は、家から持ち込んだ『ミニピアノ』で、ポロポロと即興で曲を奏でた。

 

 

 

「…」

 

「…」

 

 

 

「…どうだったかな?…」

 

 

 

「ハラショー!!」

と突然叫ぶ千歌。

 

 

 

「は、はらしょう?」

 

梨子が首を傾げた。

 

 

 

「ロシア語で『素晴らしい!』の意味。μ'sの絵里さんの口癖だったんだって!」

 

「ブラボーってことかな?」

と曜。

 

「うん、たぶんそれ!とにかくビックリした。アドリブで、あんなにすぐに曲ができちゃうもんなんだね」

 

「ピアノやってる人なら、だいたいの人はこれくらいできると思うよ…」

 

「いやいや、そんなことはないよ!…ハラショーだよ、ハラショー!」

と曜は覚えたての単語を使って、彼女に握手を求めた。

 

照れながら、梨子はその手を握り返す。

 

そこに、千歌も手を重ねた。

 

「うん!スゴい、スゴい!取り敢えず、今の曲に、詞を当て嵌めていこうよ!」

 

「えっ?そ、そんな簡単な決めちゃっていいのかな?」

 

「いいんじゃない?時間もないし」

 

「千歌ちゃん、そんな理由?」

と梨子は、眉をハの字にした。

 

「…っていうか、なんて言えばいいのかな…私の中の詞のイメージとシンクロした」

 

「そうだね!私も『パーン!』って頭の中に飛び込んできたよ!」

 

 

 

すると

「当然でしょ!」

と梨子は、今まで見たことがないドヤ顔をした。

 

 

 

「!?」

 

「!?」

 

 

 

「へっ?どうかした?」

 

 

 

「…ううん、なんか、一瞬、梨子ちゃんが違う人に見えた…」

 

「う、うん…」

 

 

 

「な、なに?それ?…」

 

焦る梨子。

 

その表情は…生真面目な彼女の性格が垣間見れる、これまでと変わらないものだった。

 

 

 

「あれ?…なんでもない…たぶん気のせいだと思う」

 

「…だね…」

 

「もう、ビックリさせないでよ…」

 

「あははは…ごめん!ごめん!」

 

「それより、早く、作業を始めよう!」

と曜が仕切り直す。

 

 

 

「ようし、頑張るぞ!」

 

「オー!!」

 

 

 

ちょっと、バカ千歌!静かにしなさいよ!…という美渡の声が階下から聴こえてきた。

 

その声は恐らく、3人の掛け声よりも大きかったと思われるのであるが…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

この作品の内容について

  • 面白い
  • ふつう
  • つまらない
  • キャラ変わりすぎ
  • 更新が遅い

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。