【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

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悪魔の囁き

 

 

 

 

 

 

「土曜日のイベントはお疲れさまでしたわ」

 

 

 

ふぉ~りんえんじぇるとCANDLYが、フェスティバルでパフォーマンスを披露してから2日後…週明け月曜日の…放課後。

2チームは生徒会長室に呼び出された。

 

 

 

「概ね、良かったと思いますわ。1年生は…伝説のアイドルを新たな解釈によって現代に甦らせ、多くの観客の心を掴みました。他校がA-RISEやμ'sのコピーをする中、この着眼点は素晴らしかったですわ。さすがル…いえ、失礼…合格点を与えましょう」

と生徒会長のダイヤ。

 

 

 

…なに、この人…審査員?…

 

…今、妹を誉めようとしたズラ…

 

 

 

「はい?なにか?」

 

 

 

「い、いえ…ありがとうございます」

 

ルビィが頭を下げて、礼を言った。

 

 

 

「続きまして2年生ですが…まずオリジナル曲を披露したことに驚きました。そして『新歓』の時とは比べ物にならないくらいの勢いと、堂々したステージ。正直申しまして、多少、見直しましたわ」

 

 

 

…誉められちゃった…

 

…意外だね…

 

 

 

「ただし!」

 

 

 

「?」

 

 

 

「どちらも、あれではラブライブの予選を勝ち抜くことはできません!!」

 

バン!と机を叩き付けながら、ダイヤが叫んだ。

 

 

 

「そ、そんな言い方をしなくてもいいズラ」

 

「そうよ」

 

突然のダメ出しに、妹は黙っていたが、花丸と善子はダイヤに反論する。

 

 

 

「ですが、お伝えしたハズですわ。どちらかにラブライブ出場の…学校代表になっていただく…ということを。つまり、あれで満足してもらっては困る…ということですわ」

 

「ラブライブで戦えるようなレベルじゃないことは、私たちだって充分わかってるつもりです」

 

「一生懸命やったけどね」

 

千歌と曜は、その1年生をなだめるように…いや、自分たちに言い聴かすかのように、そう口にした。

 

「それで、代表はどうやって決めるズラ?」

 

「全生徒に投票して頂きます。学校代表として、どちらのチームがふさわしいか?」

 

「一般投票はダメなんですか?」

 

「一般投票?」

 

「ネッ…」

 

「ブッブーですわ!」

 

「ト」と善子が言い終わらないうちなや、ダイヤは速攻で却下した。

 

 

 

「あ、あの…その話なんですけど」

と申し訳なさそうに小さく手を挙げたのは、千歌。

 

 

 

「はい?」

 

 

 

「私たち…その件に関しては、1年生に譲ります」

 

 

 

「はい?」

 

「えっ?」

 

千歌の発言に、ダイヤだけでなく1年生の3人も耳を疑った。

 

 

 

「でも、この間『あなたたちに譲る気はない』って言ったズラ」

 

「うん。言った」

 

「急にどうしたズラ?」

 

「あのね…曜ちゃんと梨子ちゃんたちと一緒に曲作りをして…ステージに立たせてもらって…この間とは違って、やるだけのことはやって…観ていた人から、拍手ももらって…技術的なこととかはまだまだかも知れないけど、すごく楽しかったんだ。生まれて初めて『充実感』みたいなものも味わうことができた」

 

 

 

「…」

 

 

 

「同時に…好きなことを、好きな時に、好きなようにやるのが、私たちのスタイルなのかな?って」

 

 

 

「あなたたちのスタイル…ですか?…」

 

「もちろん、ラブライブみたいな華やかなステージに立ってみたい!っていうのはあります。はっきり言えば憧れです。…でも、今の私たちの実力じゃ到底無理な話で…地区予選すら勝ちあがれないと思うんです。えっと…その、決して『上を目指す』ことから逃げているわけじゃないんですよ。観てる人に喜んでもらうには、レベルアップをしなきゃいけないことも理解してます。でもラブライブに出て『全国優勝する』っていうのが…私たちの目標ではない…ということです」

 

「なるほど」

 

「それに…元々、私はμ'sに憧れてはいたけど…ラブライブにはそこまでの意識がなかったので。おそらく…それは妹さんの方が遥かに大きいかと…」

 

「随分と上から目線ズラ」

 

「ひょっとして、アタシたちに勝ったつもりでいる?」

 

「気を悪くしたらゴメン…そういうわけじゃないんだ。私たちは精一杯パフォーマンスしたし、あなたたちにも負けないうに頑張った…って思ってる。だから、投票の結果がどう出ようとも、それはそれで構わない。そもそも、同じ曲、同じダンスで競うなら採点のしようもあるかも知れないけど、まったく違う曲で競ってるんだから…好きとか嫌いとか、知ってるとか知らないとか…そんなのが投票の基準になると思ってるし」

 

「だから今回に限って言えば、勝ったとか負けたとか…あまり意味がないかな…って」

 

千歌のあと、曜と梨子が相次いで意見を述べた。

 

 

 

2人はタイムを競い合う…とか、得点を奪い合う…とかではない『採点』という『かなり曖昧な判定基準』の中で生きてきた。

 

曜は高飛び込み、梨子はピアノ。

 

どちらも審査員の主観によって順位が上下する…ということがなくはない。

これはどの競技でも言えることだが、以前に較べればだいぶ『透明化』が進んでいるものの…それでもそういった心情が加味されてしまうのが、採点競技の難しいところである。

 

2人が言った「勝った、負けた」については、投票者が素人の生徒である為、単純に人気投票となることを揶揄したものと思われる。

その結果に一喜一憂する必要はない…そう言いたかったのだ。

 

 

 

「確かに…二人の仰ることもわかりますわ。ただし、スクールアイドルにはそういった要素も必要だということは、ご理解いただきたいですわ」

 

「まぁ…それは…」

 

「投票は行います。ただし、単純に得票数の多い少ないで代表を決めるのは、一旦、白紙に戻します」

 

 

 

「…?…」

 

 

 

「その差がどれくらいのものなのかも含めて、判断するということです。もちろん2年生の主張も選考の材料にはさせて頂きます。」

 

 

 

「どうしても、ラブライブに出なきゃいけないんですか?」

 

千歌の素朴な質問。

 

 

 

「はい」

 

なんの躊躇いもなく、ダイヤ。

 

 

 

「えっ?」

 

その返答の早さに、6人が驚きの声を上げる。

 

 

 

「学校の存続が懸かっているからです」

 

 

 

「学校の存続…えぇ!?」

 

6人の声が更に大きく響いた。

 

 

 

「この学校が統廃合の危機に立たされていることは…残念ながら、みなさんもご存知だと思います」

 

「噂は聴いたことがあるけど…」

 

「初めて聴いたズラ…」

 

「はい、私も初めて言いました。今、この話を知っているのは、全校生徒であなたがただけです」

 

「つまり…悪魔の囁きを聴いてしまった…ってことね」

 

「意味不明ズラ…」

 

「なんで、そんな大事なことを私たちに…あっ!!…それって…まさか…」

 

 

 

「音ノ木坂の再現を狙ってる…ってことですか」

 

千歌の言葉を遮るように、梨子が言葉を発した。

 

 

 

「あぁ、そうでした…桜内さんは音ノ木坂からの転校生でしたね…」

 

ダイヤは彼女をじっと見た。

 

 

 

「どういうこと?」

 

善子が首を傾げる。

 

恐らくこのメンバーでμ'sについて、あまり詳しくないのは彼女のみだ。

花丸はルビィから、曜は千歌から、それぞれ嫌というほどその話を聴かされているし、梨子は…当事者と言ってもいい。

 

 

 

「ルビィちゃんがファンだっていうμ'sは、元々自分たちが通う高校の廃校を阻止する為に作られたグループなんズラ」

 

花丸は、隣で頭に?マークを浮かべている、善子に説明した。

 

「なにそれ?」

 

「早い話…鞠莉さ…いえ理事長はラブライブに出場して優勝することで、この学校をアピールすることを考えていますわ」

 

「それで、入学者を増やす…ってこと?」

 

善子が確認する。

 

「はい、その通りですわ」

 

「いやいや、ちょっと待ってよ!それならもっと、ラブライブ出場なんて…」

 

千歌は首を横に振る。

 

「学校の看板を背負って出場するのは、荷が重い…というのですか?」

 

「そうですよ!だって、私たちのせいで入学者が増えませんでした…だから学校がなくなります…なんて言われても…」

 

「ルビィちゃんはどう思うズラ」

 

「ラ…ラブライブには出たいけど…学校の存続が懸かってるなんて言われると…ちょっと…」

 

「だよね!」

と千歌が同意する。

 

「もちろん、それが学校存続の100%を占めているわけではありません。仮に上手くいかなかったからと言って、あなたたちに責任を押し付けるようなことはいたしませんわ。経営者は経営者、生徒会は生徒会で各々仕事をこなします。ただ、折角スクールアイドルが当校に誕生したのですから、私たちとしてはあなたたちにも協力して欲しい…と、こう申し上げているのです」

 

 

 

「…」

 

 

 

「高海さん。あなたは先ほど、μ'sに憧れてはいると仰いましたね?」

 

「はい…」

 

「以前『μ'sと同じ景色を見たい』とも仰いました」

 

「まぁ…」

 

「ならば…結果はどうあれ、挑戦してみるというのが、必然というものではないでしょうか?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「スクールアイドルの活動を、楽しく仲良くやることは構いません。しかし向上心がなければ、何も成長いたしません。目標がなければ、向上心など生まれません。『夢あるところに道あり、道あるところに世界あり』ですわ」

 

「なんか上手く言いくるめられている気が…」

 

 

 

「だったら、生徒会長がスクールアイドルやって、ラブライブに挑戦すればいいんじゃない?」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「善子ちゃん!?」

 

 

 

「私たちより、詳しいんでしょ?スクールアイドル」

 

 

 

「そ、それは…」

 

 

 

「だって、妹がこれだけ詳しいんだから、姉が知らないはずはないでしょ」

 

 

 

「へっ…な、なにを…言ってるんですか…」

 

 

 

「理事長と組んで、出ればいいんじゃない?」

 

善子は花丸と違って、ルビィに対する変な柵(しがらみ)がない。

ダイヤだろうが生徒会長だろうが、物怖じしない。

 

 

 

「い、いや…あの…」

 

逆にダイヤの方が、その態度に押されている。

 

 

 

…あれ?急に生徒会長、しどろもどろになってるよ…

 

…う、うん…どうしたんだろう…

 

…なにかあったのかな?…

 

 

 

その様子を見て、2年生の3人は目と目で会話を交わす。

 

 

 

「あ、あのね…善子ちゃん、お姉ちゃんはね」

 

 

 

「ルビィ!余計なことはお話しにならないでください!」

 

 

 

「お姉ちゃん…ちゃんとお話した方がいいよ」

 

 

 

「あなたたちには関係ないことですわ」

 

 

 

「関係なくないよ!」

 

 

 

「ルビィ!」

 

 

 

「あ、あのね…お姉ちゃんはね、スクールアイドルだったんだよ」

 

 

 

「えぇ~~~っ!?」

 

生徒会長室に響いたこの日3度目の驚きの声。

 

その大きさが更新された瞬間だった。

 

 

 

「あ、あぁ…」

とこれまでの強硬な態度とは一変、よろよろと倒れそうな声を出しつつ、ダイヤは部屋を出て行く。

 

 

 

「お、お姉ちゃん!」

 

 

 

「ルビィ…今日は先に帰ってますわ…」

 

そう言い残すと、彼女は廊下へ消えていった。

 

 

 

「へっ?」

 

「なに?」

 

 

 

あまりの急転直下の展開に、呆気に取られた5人。

部屋に放置されたことに気付き、お互いがお互いの顔を見合わせる。

 

 

 

「ルビィちゃんはお姉ちゃんを追わなくていいズラ?」

 

「う、うん…」

 

「私たちに気を使わなくてもいいズラよ」

 

「いや、ズラ丸。こうなったら説明責任があるんじゃないの?」

 

「善子ちゃん、説明責任って…」

と花丸はルビィを庇おうとしたが、2年生の3人は興味津々で彼女の顔を見ていた。

 

 

 

「ルビィちゃん…」

 

 

 

「う、うん…花丸ちゃん…今まで黙っててごめんね。ルビィ…みんなにちゃんとお話するよ…」

 

彼女はそう呟くと、ゆっくりと、静かにその真相を話し始めたのだった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

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