【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

30 / 44
黒歴史

 

 

 

 

 

『生徒会長が…スクールアイドルだった?』

 

ルビィの口から明かされた衝撃の言葉に、5人は耳を疑った。

 

 

 

「お姉ちゃんはね…あぁ見えて、小さい頃からアイドルが大好きで…」

と妹は、ゆっくりと説明を始めた。

 

「2歳になるかならないかくらいの時には、おもちゃのマイクを持って歌ってそうです。そうすると…おばあちゃんが凄く喜んでくれて…それがまた嬉しくて、何度も何度も歌った…って」

 

「おぉ…私と一緒!誉められて伸びるタイプなんだね。それが美渡姉ぇにはわかんないんだよね…」

 

「美渡姉ぇ?」

と1年生。

 

「あ、ごめん!こっちの話…。あ、でも生徒会長にも、そんな時代があったんだね…」

 

「普段は凄く真面目なんですけど、その反動みたいなのがあって…アイドルのことになると暴走するところがあるんです…」

 

「へぇ…」

 

「その影響でルビィちゃんもアイドル好きになったズラ?」

 

「うん。物心付いた時から、お姉ちゃんがアイドルしてたから」

 

「なるほど。つくづく育ってきた環境って大事だと思うエピソードだね」

 

「千歌ちゃんちの環境が悪いとは思わないけどなぁ」

と曜。

 

「うん」

 

梨子はその言葉に頷いた。

 

 

 

 

「それで…お姉ちゃんが小学6年生、ルビィが4年生の時に、運命的な出会いがあったんです!!」

 

 

 

「運命の出会い?」

 

 

 

「お母さんとおばあちゃんと一緒に用があって東京に出掛けたときに、帰りに秋葉原に寄ったんです。お姉ちゃんが、どうしても『アイドルグッズがほしい!』って駄々こねて」

 

 

 

「あはは…そうは見えないけどね」

 

「うん」

 

千歌と曜は、いつもキリッとしているダイヤが、道端に寝そべり手足をバタバタさせている姿を想像して笑った。

 

 

 

「いや、今の姿でさすがにそれはしないか」

 

「そりゃそうだ。6年生の生徒会長かぁ…見てみたいね」

 

2人は頭の中で、リトルダイヤを思い描いた。

 

 

 

「その帰りに立ち寄ったファストフードショップに…なんと…」

 

 

 

「…」

 

 

 

「μ'sの絢瀬絵里さんと小泉花陽さんが居たんです!!」

 

 

 

「え~!?」

 

一番大きな声をあげたのは、やはり千歌だった。

 

 

 

「ほ、本物が居たの?」

 

「はい」

 

「そ、それで?二人は何を食べてたの?どんな服装だった?どんな話してたの?」

 

「ピギィ!」

 

「ちょっと、千歌ちゃん、がっつき過ぎだって」

と曜が苦笑しながら注意する。

 

「あ、ごめん…つい…」

 

「え、えっと…何を食べてたかは…たぶん、ハンバーガーだったと思います…」

 

「ポテトは?」

 

「あったかと…すみません、あんまり覚えていないです」

 

「その情報は要らないズラ」

 

「でも、服装は衣装じゃなかったです」

 

「それは、いくらスクールアイドルだからって、そんな格好で街中をウロウロしないでしょ」

と善子。

 

 

 

「黒ずくめの格好で街を徘徊するほうが、よっぽど怪しいズラ」

 

 

 

「ぶっ!!さ、さすがに今は、そんなことしてないから!!」

 

善子は慌てふためいて否定した。

 

 

 

「えっと…たしか絵里さんは髪を下ろしていて…花陽さんは眼鏡を掛けていました」

 

「それって変装してた…ってこと?」

 

「…とは違うと思います。そこまで大袈裟な感じじゃなくて…とっても自然で…きっと普段はこんな風なのかな…って思いました」

 

「いや、だから逆に…よくわかったね…ってことでしょ?」

 

「は、はい!!その…全然オーラが違ったんです!…絵里さんは本当に綺麗でピカァってしてて…花陽さんも本当に可愛くてパーッってしてて…ルビィはまだ小さかったけど…一目見てμ'sの人だ!っわかりました」

 

「そうなんだね!うん、凄いね。やっぱりμ'sは凄いんだね!」

 

「そうなんです!!」

 

 

 

現在の室内の温度は25℃くらい。

 

しかし千歌とルビィーの周りだけは60℃くらいに上がっていた。

 

 

 

「それで?それで?」

 

 

 

「お母さんにお願いして声を掛けてもらって…」

 

 

 

「うひゃ~~!!」

 

千歌の絶叫が、主(あるじ)の居ない生徒会長室に響いた。

 

 

 

「その日アイドルショップでμ'sのブロマイドをいっぱいに買ってたんです…。それで絵里さんと花陽さんのを二人に手渡してサインを書いてもらったんですぅ!…そうしたら、ちゃんと、それぞれ『ダイヤちゃんへ』『ルビィちゃんへ』って」

 

「いいなぁ!いいなぁ!」

 

「はい!その当時はわからなかったんですけどμ'sのメンバーのサインって、超レアなんです!何でかって言ったら、その後、すぐに解散しちゃって…」

 

「えっ!そんなタイミングでもらったの!?」

 

「はい!人気に火が点いた瞬間に解散しちゃったので…だから活動期間も短かったですし、当然、サイン会なんてないので…サインそのものの絶対数が少ないんです」

 

「なるほど」

 

「ネットでは、色紙が片手を超える価格で取引されてるみたいです」

 

「5千円?」

 

「一桁違います」

 

「5万!?」

 

「はい」

 

「ひょえ~…」

 

「お姉ちゃんも私も、絶対売りませんけど」

 

「まぁ、そうだよね…」

 

「本当はプライベートな時間に声を掛けるなんてやっちゃいけないんだけど…とても優しく、丁寧に対応してもらって…最後には握手までしてもらって…それまでは『箱推し』だったんですけど、その瞬間からお姉ちゃんは絵里さんを、私は花陽さんに大ファンになっちゃったんです!」

 

「憧れのスターにそんなことしてもらったら、それはそうなるよね」

 

曜はうんうんと二度ほど頷き、彼女の言葉に理解を示した。

 

「今でもそのサイン付きブロマイドは、おうちの神棚に飾ってあるんです」

 

「神だね、神!」

 

「はい!」

 

千歌の言葉に、即答したルビィ。

 

 

 

二人の周りの気温は100℃を超えていた。

 

 

 

「…で?…」

とその先の話を促したのは善子。

 

しかし『ダイヤがスクールアイドルをしていて、何故辞めたのか』までは、まだ先が長いなぁ…という気持ちでいたのは、他の3人も同じだった。

 

 

 

「あ…えっと…時は流れて…お姉ちゃんは高校生になり…」

 

「お、随分飛んだね」

 

「お姉ちゃんは憧れだったスクールアイドルになることを決めます」

 

「うん」

 

「でも、ひとりではできません」

 

「ほう…」

 

 

 

「そこで…幼馴染の小原先輩と松浦先輩に声を掛けて…3人でユニットを組んだんです」

 

 

 

「えっ?小原先輩って…」

 

「理事長ズラか?」

 

善子と花丸が顔を見合わせる。

 

 

 

「松浦先輩って…」

 

「果南ちゃん?」

 

曜と千歌、そして梨子も同じことをした。

 

 

 

「3人って幼馴染だったんだ…」

 

「千歌ちゃんは、松浦先輩と仲いいじゃん?知らなかったの?」

 

「う~ん、果南ちゃんとは家族ぐるみの付き合いだけど、さすがにお友達のことまでは…一緒に遊んだとかもないし…」

 

「まぁ、それはそうだよね」

 

「それより果南ちゃんが、スクールアイドルをやってた方が驚きだよ!」

 

「初耳?」

 

「初耳、初耳!…なんで教えてくれなかったんだろう…」

 

 

 

「『黒歴史』ってやつじゃない?」

 

 

 

「黒歴史?」

 

善子の言葉を千歌が鸚鵡返した。

 

 

 

「消してしまいたい過去のことよ」

 

「例えば、善子ちゃんが『私のことは堕天使ヨハネと呼んで』みたいに言ってたりすることズラ」

と花丸がフォローを入れる。

 

「別にそれは黒歴史じゃないし!ってうか、どっちかと言えば『黒魔術』だし!さらに、それはまだ、現在進行形だし!」

 

「開き直ってるズラ…」

 

「黒魔術?」

 

「先輩、それは流すズラ…」

 

「あ、うん…ふ~ん黒歴史かぁ…。理事長はなんとなくわかるじゃん。あんな感じのノリの人だから…」

 

「まぁね」

 

「『オー!ダイヤ、ナイスアイディアで~す。一緒にシャイニーしましょう』みたいな』

 

「あははは…」

 

千歌の物マネに、一同が笑った。

 

「でも、果南ちゃんは…意外だなぁ…」

 

「そうだね…」

 

 

 

「お姉ちゃんたちは…高海先輩たちみたいに『新歓』でライブをして…そのあとラブライブの予選もエントリーして…二次予選までは突破したみたいなんです」

 

「二次予選?」

 

「うん、簡単に言うとラブライブは…地区大会が一次予選、県大会が二次予選、そのあと東海地方のブロック大会があって…そこを勝ち抜けると最後、全国大会…ってなるんだよ」

とルビィが善子に説明した。

 

「へぇ…」

 

 

 

「でも…ブロック大会の前に解散しちゃって…」

 

 

 

「えっ?」

 

「大会を前に?」

 

 

 

「はい…」

 

 

 

「どうして?」

 

 

 

「それは…ルビィにもわからないんです…」

 

「わからない?」

 

「突然辞めちゃって…でもその理由は教えてくれなくて…」

 

「仲違い…した?」

 

「ごめんなさい。それは本当にわからないんです。お姉ちゃんに訊いても『ルビィには関係ないことですわ』って…」

 

「おぉ、姉妹だけあって似てるね」

 

「そこ?」

と曜が千歌にツッコむ。

 

 

 

「なんだか、余計謎が深まったズラ」

 

「簡単よ。生徒会長と理事長…それに松浦先輩って人とスクールアイドルを始めたけど、仲違いして解散。そこにアタシたちが現れて、イライラしてる…ってことじゃない。八つ当たりよ、八つ当たり!」

と善子は吐き捨てるように言った。

 

「『坊主憎けりゃ、今朝まで憎い』っていうこと?」

 

「高海先輩…『今朝』じゃなくて『袈裟』ズラ」

 

「あはは…先輩に容赦ないね」

 

「マルの実家はお寺だから、そこは譲れないズラ」

 

「あっ、そうなの?なんか…ごめん…」

 

 

 

「でも、それはそんな単純な話じゃなさそうな…」

 

これまで口数が少なかった梨子が、ポツリと呟いた。

 

 

 

「…う~ん…」

 

 

 

確かにそうだけど…という感じの沈黙。

 

 

 

「まぁ、こうなったら直接本人に訊いてみるしかないか!」

 

 

 

「直接」

 

「本人に」

 

「訊く」

 

「ズラか?」

 

 

 

曜、梨子、善子、花丸が代わる代わるに口にした。

 

 

 

「千歌ちゃん、訊くって誰に?」

 

「えっ?誰にって…まずは生徒会長?」

 

「妹にも話さないことを、私たちに話すかな?」

 

「あ、それはそうだね…じゃあ、果南ちゃん?」

 

「でも、千歌ちゃんにも秘密にしてたんでしょ?さっきの話じゃないけど、本当に隠しておきたいなら、話さないと思うなぁ」

 

「うぅ…だよねぇ…ってことは…理事長?」

 

「…かな?…」

 

「一番、ペロッて話してくれそうだよねぇ?」

 

「まぁ…」

 

 

 

「よし!じゃあ…みんなで確認しにいくぞ!おー!」

 

 

 

「…」

 

 

 

「…ってあれ?…そこはみんなで声を合わそうよ」

 

 

 

「そんなの、いきなり言われてできるわけないでしょ」

 

「珍しく善子ちゃんに同意するズラ」

 

「善子って呼ぶな!」

 

「やれやれ…ズラ…」

 

 

 

「あの…練習中からずっと気になってたんだけど、堕天使ヨハネってなに?」

 

「桜内先輩、そこは喰いつかなくてもいいズラよ」

 

 

 

「よくぞ訊いてくれたわ!津島善子とは世を忍ぶ仮の姿!…しかし本当の私は…」

 

 

「パンドラの箱を開けたズラ…」

 

 

 

それから約2分にわたって、彼女のワンマンショーが始まった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

その日の夜のことだった。

 

 

 

『園田海未、事故死』というニュースがネットを駆け巡ったのは…。

 

 

 

 

 

第二部

~完~

 

この作品の内容について

  • 面白い
  • ふつう
  • つまらない
  • キャラ変わりすぎ
  • 更新が遅い

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。