【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~ 作:スターダイヤモンド
それどころじゃない!!
千歌たちが最初にそのニュースを目にしたのは、スマホの画面に表示された速報だった。
帰宅し、夕食を摂り、入浴して…一段落した頃のことである。
『サッカーのオリンピック代表候補選手が、交通事故に巻き込まれ、意識不明の重体』
彼女たちが住む沼津…つまり静岡…は元々サッカー王国であるから、ほとんど全員、それが誰かを知っている。
千歌も「えっ…」と言ったあと、しばしの間、絶句した。
だが仮に…サッカーに全く興味がない人でさえも、その人物の名前くらいは聴いたことがある。
事故に遇ったのは…これからの日本代表を背負って立つ…と言われている時の人であった。
ほどなくして、このショッキングな出来事はTVのニュース番組でもトップで伝えられ、全国民に知れ渡ることとなる。
そんな中…
ネットやSNSを通じて拡散したのが…『元μ'sの園田海未死亡』…という情報だった。
それは『ニュース速報よりも早く流れた』とも言われている。
千歌が知ったのも、ネットからだった。
この事故の関連ワードで『彼女の名前が急上昇』したことから目に付いた。
「園田海未…って…まさか、あのμ'sの園田海未さん?えっ?事故死ってどういうこと!?」
ボンッ!と音を立てて、千歌の頭の中は瞬く間にブラックアウトした。
マスコミでは「尚、ほか1名が事故に巻き込まれた模様…」と述べられたのみで、その身元には触れられていない。
それが園田海未だなどと、どこも報じていない。
どこのニュースサイトを見ても、一言もそんな文字は存在していない。
「う、うそだよね…」
それは誰に同意を求めたのだろうか…。
千歌はひとり、ポツリと呟いた。
だが…
いくらμ'sと言えども、所詮は素人。
グループとして一世を風靡したのは間違いないが、現時点でA-RISEほどの知名度があるか?…と問われれば否定せざるを得ない。
もし、彼女が現役のアイドルであれば、ニュースでも名前が読まれるかも知れないが、今は一般人である。
公表されなくても当然と言えた。
それでも、こういう形で被害者として特定されたのは『目撃者がいた』ということだ。
しかし、先に述べた通り、彼女の名前を知る者は、そう多くない。
故に…発信源はコアなファンか、親しい間柄…またはそれに準ずる存在からだと言えた。
とはいえ、その情報の信憑性に疑問符が付いたのも確かである。
いや、そもそもファンとしては、そんなネガティブな話を、そう簡単に受け入れられることなどできない。
どちらかと言えば『信じたくない』⇒『嘘だ』という風に、心の中で自動変換されていた。
いずれにしても、このニュースにより、サッカーファン、μ'sファンを中心にネット上は騒然となっていた。
「…どうしよう…どうしよう…」
ルビィがパニックになり、右往左往しているところを、ダイヤは後ろから抱き締めた。
「…落ち着きなさい!こ、これは…な、何かの間違いです。えぇ、そうです…あってはなりません…信じられませんわ…こんなことが起こるなんて…」
そう言った彼女も震えていた。
涙が止まらない。
「…お姉ちゃん…」
「…ルビィ…」
μ'sが解散してから4年余りが経とうとしていた。
海未だけでなく、現役でアイドル活動しているメンバーはいない。
それでも『スクールアイドルのカリスマ』『レジェンド』と呼ばれている彼女たちの活躍は、いまだに色褪せることなくダイヤの胸に焼き付いていた。
その憧れのスターの…突然の訃報…。
ショックを受けないハズがなかった。
恐らく、このような光景が全国各地で見られたと思われる。
千歌の部屋でも、同じことが起きていた。
「どうしよう…どうしよう…」
「千歌ちゃん、取り敢えず、一旦落ち着こう…」
「でも、梨子ちゃん…」
「気持ちはわかるけど…今は、何もできないから…」
「う、うん…」
「曜ちゃんも、こっちに向かってる…って連絡あったけど…『早まらないように伝えて!』って…」
速報を見て、千歌の家の隣に住む梨子は真っ先に駆けつけた。
やはり曜と同じことを考えていたからだ。
瞬間移動できるなら、曜も今すぐ千歌の部屋に行きたいと思ったが、物理的にそれは敵わない。
「まさか『後追い』なんてしないよね…」と思いつつ…だがμ'sに心酔している千歌のことだ、万が一がないとは言い切れない。
逸(はや)る気持ちを抑え、まずはその想いを梨子に託した。
「う、うん…それは大丈夫…でもビックリしちゃって…」
千歌はそう答えたものの…何も考えられず、梨子に身体を預けて泣くしかできなかった。
絵里推しのダイヤ、花陽推しのルビィ…そして、特に推しメンがいない千歌でさえこの状態である。
海未推しのファンであれば…その心痛は計り知れない。
ネット上では、彼女の死を悼む声とともに『厭世の念』を著す書き込みが散見され、それに対し「早まるな!」という言葉が、かなり目立っていたのも嘘ではない。
しばらくして、曜が到着。
3人は嘘か本当かよくわからない情報に翻弄され…そして、次々と発生する『誹謗・中傷』の類いの書き込みに気分を害しながら、一晩を過ごした。
結局『その情報』が『ガセ』だとわかったのは…明け方近くになってからある。
園田海未が事故に巻き込まれて、救急車で病院に運ばれたのは事実であったが…実際には…掠り傷程度で生死に関わるような怪我ではなかった事が判明する。
そのことはμ'sの中で唯一芸能活動を続けている『小庭沙弥』こと『矢澤にこ』からSNSを通じて発信され『死亡説』は終止符を打った。
「まずは…命に別状がないということで…ホッとしましたわ」
と生徒会長室で、千歌たちを前に切り出したのはダイヤ。
CANDLYとふぉ~りんえんじぇるの6人は、先日行われたフェスティバルの投票結果を訊きに、この部屋に来ている。
しかし、生徒会長は「そんなことはどうでもいい」とばかりに…昨夜から未明に掛けての騒動…についての心情を吐露した。
「はい!本当に良かったです」
千歌もダイヤと気持ちは同じだ。
この想いを、早く共有したかったから、その言葉を受けて、食い気味に返答した。
「千歌ちゃん、この世の終わりみたいな顔をしてたもんね」
「う、うん…なんて言うか…頭が真っ白になっちゃって…別に何もできないのにね」
「うん。ルビィもどうしよう、どうしよう…ってバタバタしちゃって、お姉ちゃんに何度も『落ち着きなさい』って言われちゃいました」
「かく言う私も…だいぶ取り乱しておりましたが…」
「まぁ、とにかく無事でなによりだったね…」
と曜は少し眠たげに言った。
花丸と善子は別として、他の5人は余り寝ていない。
千歌は、授業中爆睡していたが、生真面目な曜と梨子は頑張って起きていたので、今ごろになって眠気がピークに達しようとしていた。
だが、突然のダイヤの大きな声に、それは一瞬で吹き飛ばされる。
「それにしても…なぜ被害者である園田海未さんが、悪者扱いされなければないのですか!!」
とダイヤは物凄い形相で千歌を睨み、机をバンッ!と叩いたのだった…。
~つづく~
この作品の内容について
-
面白い
-
ふつう
-
つまらない
-
キャラ変わりすぎ
-
更新が遅い