【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

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インファイト!

 

 

 

 

 

「私が、あなたたちのトレーナー?」

 

放課後、梨子とともにダイビングショップへやってきた千歌は、客が使った道具の片付けをしている果南に、この日の出来事を報告したあと

「うん!新しく1年生も入ったし…『経験者』として、色々教えて欲しいんだ」

と依頼した。

 

 

 

「経験…者?」

 

千歌の言葉に、首を傾げる果南は

「なんのこと?…あっ、それ、こっちに運んで」

と続けざまにそう言い放った。

 

 

 

「もう、とぼけても無駄だよ。生徒会長から聴いたんだから…」

 

重いボンベをゴロゴロと転がしながら、千歌は彼女に詰め寄った。

 

 

 

「ふ~ん…」

 

「それにしても、まさかスクールアイドルをやってたとはねぇ…全然知らなかったよ」

 

「教えてないもの」

 

「なんで?私と果南ちゃんの仲じゃん!?」

 

「親しき仲にも礼儀ありってね」

 

「その言葉、そういう意味で使うんだっけ?」

 

「とにかく…そういうことをやってたのは認めるけど…だからと言って…あなたたちのトレーナーになる…とはならないから」

 

「私が言うのもなんだけど…1年生の2人はそれほど運動神経も良さそうじゃないし、体力もなさそうなんだ。だから…」

 

「それで?見ての通り、私は忙しいの」

 

「それはわかってるよ。でもさ、復学もしたことだし、毎日は手伝わなくてよくなったんでしょ?…ということで、1週刊全部じゃなくていいんだ。3日でも2日でも…」

 

「い~や!」

 

「なんでさ?ケチ!」

 

「ケチで結構よ。それにトレーニングなら曜に見てもらえばいいでしょ?」

 

ボンベを一箇所にまとめ終わった果南は、ブラシを手に取ると、少しオーバーなくらいにゴシゴシとデッキを擦り始めた。

 

 

 

「あの…私からもお願いします…ほんの少しでいいので…」

 

 

 

「梨子さん?」

 

 

 

「曜ちゃんも、部活の合間を見て練習には参加してくれる…とは言ってくれたんですけど…今は部活に集中して欲しくって」

 

「友達想いだこと…。でも、その犠牲を私が負う理由にはならないわね」

 

「果南ちゃん…」

 

「私は私で、自分の身体を鍛える時間が欲しいもの」

 

「果南ちゃんはどこに向かってるのさ!?折角、そんなにナイスバディなのに、ほどほどにしないと、ムキムキの筋肉オバケになっちゃうよ!」

 

「別に千歌には関係ないでしょ!」

 

 

 

「ダメだよ!ムキムキオバケのスクールアイドルなんて見たくないもん?」

 

 

 

「…なんの話?…」

 

果南は眉をひそめた。

 

 

 

「もちろん、果南ちゃんの話だよ!」

 

 

 

「はぁ?」

 

 

 

「正直に言うよ!…果南ちゃんにも一緒にステージに立って欲しい」

 

 

 

「えっ…」

 

 

 

「果南ちゃんだけじゃない、今は一時離脱中だけど…曜ちゃんと津島さんと…生徒会長と理事長代理の9人でステージに立ちたい」

 

 

 

「…9…人…で…?…」

 

千歌の言葉を反芻する果南。

 

 

 

「そう、その9人で…第2のμ'sを目指すんだ!」

 

 

 

「…」

 

 

 

「廃校の危機を救うべく、立ち上がった9人の女神!その名もμ's!!」

 

こぶしを固く握り締め、高らかに謳いあげた千歌のバックには、どど~ん!!と大きな波が岩に砕けちっていた。

 

 

 

「…」

 

少し呆れた顔をして、果南は千歌を見た。

 

 

 

「いや、そんな目で見なくても…」

 

熱くなった自分の姿に恥ずかしくなり、下を向く千歌。

 

 

 

「…まぁ…一応知ってるわよ。千歌やダイヤほどのめり込んではいないけど」

 

 

「うん。うん、それなら話は早い!」

 

千歌はその言葉を聴いて、顔を上げた。

 

 

 

「今回、理事長代理と生徒会長から、ラブライブに出場して、学校の知名度を上げて欲しいって頼まれたことは説明したと思うけど…それってズルいよね?」

 

 

 

「ズルい?」

 

 

 

「だって、果南ちゃんたちが、解散しないでスクールアイドルを続けてれば、こうはなってなかったかも知れないでしょ!」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「地方予選に参加して、本大会に進んで…優勝していれば、この学校の知名度は、今より全然あったかもでしょ?それを…私たち押し付けるのって間違ってるよね?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「それは、私だってラブライブに参加できるなんて考えたこともなかったから…ううん、ラブライブにはずっと出てみたいとは思ってたけど…そんなことは夢のまた夢で…だから、そのチャンスをもらったことに関しては、めちゃくちゃ嬉しいけどさ…でも、学校の存続が懸かってるとか…そんなの背負っていく自信なんてないよ」

 

「千歌…」

 

「だから、先輩たちに責任は取ってもらう。みんなで一緒に頑張って、この学校を救うんだ。3年生の3人と1年生の3人、そして…私たち!!…ほら、μ'sと同じ9人なんだよ。こんな偶然ある?」

 

「そんなの偶然じゃないよ。千歌のこじつけでしょ」

 

「こじつけじゃないよ!」

 

「別に人数合わせなら私たちじゃなくて、誰だっていいじゃない」

 

「それじゃダメなの!」

 

「どうでもいいけど、私は二度とスクールアイドルには関わらないつもりから…」

 

 

 

「逃げるんだ?…」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「私が初めてのライブを失敗したとき、果南ちゃん、すっごくエラソーなこと言ってたけど…自分はそう言って逃げるんだね」

 

 

 

「ち、千歌ちゃん…いきなりそんなこと…」

 

 

 

喧嘩越しの彼女の口調に、梨子が慌ててストップを掛けるが

「梨子ちゃんは黙ってて」

と千歌はその言葉を無視した。

 

 

 

「珍しいわね?千歌が私につっかかってくるなんて…あ、わかった!鞠莉の差し金ね?あの娘に何をそそのかされたか知らないけど、あなたはあなたたちで頑張りなさいよ。いいじゃない、自分たちで好きなようにやれば…あ、これ、お客さんにもらったお菓子だけど持って行く?」

 

果南は今の話を聴いていなかったかのように振舞う。

 

 

 

「後悔、してないの」

 

ポツリと呟いた千歌の言葉に、菓子を分けていた果南の手が一瞬止まった。

 

 

 

「後悔、してないの?」

 

千歌はもう一度、同じ言葉で問い掛けた。

 

 

 

「千歌…しつこい女は嫌われるわよ」

 

ニコリと笑って、果南が返答する。

 

 

 

「じゃあ、質問を変えるよ」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

「どうして解散したのさ」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「どうして、地方大会に出る前に解散したのさ…」

 

 

 

「ダイヤはなんて?」

 

 

 

「音楽性の…方向性の違いだと…」

 

黙っていることに疲れたのか、この緊張感に耐え切れなくなったのか…梨子が横から口を挟んだ。

 

 

 

「だったら、そういうことじゃない?」

 

 

 

「違うよ!絶対そんなハズないよ」

 

果南の言葉を速攻で否定する千歌。

 

「私、ちっちゃい頃から果南ちゃんと一緒に過ごしてきたからわかるもん。上手く言えないけど…今のは、何かを誤魔化すときの言い方だよ」

 

 

 

「誤魔化してなんかいないから…」

 

 

 

「ねぇ、本当は何があったの?なんで、解散しちゃったの?それが原因で生徒会長は私たちのことをよく思ってないんでしょ?それが解決したら、3年生も協力してくれると思うんだ!だから本当のことを…」

 

今日の千歌はこれまでと違う。

果南の懐に潜り込み、被弾覚悟の接近戦を仕掛けていく。

 

 

 

「なら、ダイヤに訊けばいいでしょ?」

 

 

 

「訊いたよ。訊いたらさっきの答えだったんだよ。でも、絶対違うと思うんだよねぇ…なにか隠してると思うんだ。だから果南ちゃんに訊けばわかるか…」

 

 

 

 

「いい加減にして!!」

 

 

 

「…も…」

 

「…」

 

果南の叫び声に、千歌と梨子の呼吸が止まった。

 

 

 

「いい加減にして…。あなたたちの活動は応援するよ。百歩譲って、トレーニングも見てあげてもいい。…でも…誰になんと言われようと、私は二度とスクールアイドルはやらない。やらないったらやらない!」

 

 

 

「果南ちゃん…」

 

 

 

「鞠莉とダイヤに伝えて。あなたたちの思うようにはいかないって」

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?…」

 

果南に怒鳴られ、渋々帰宅することになった千歌に、梨子が言葉を掛けた。

 

「ん?うん…大丈夫!…あ、いや…う~ん、本当言うと、ちょっとビックリしちゃったけどね。果南ちゃんに怒られたことはいっぱいあるけど…あんな風に言われたことって、ないから…」

 

「私は生きた心地がしなかったよ」

 

「あはは…だよね!…ごめん」

 

「ううん、それはいいけど…」

 

「ニラんでた通り、あれはただの方向性の違いとか、そんな単純な話じゃないね」

 

「うん…」

 

「傷、ガッツリ抉(えぐ)っちゃったみたい」

 

「そうだね…相当いったね…」

 

 

 

「だけど…」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「だからと言って諦めないよ!」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「絶対、口説き落としてみせる!」

 

 

 

「あっ…」

 

 

 

「正直…理事長代理も生徒会長も…まだ、どういう人かよく知らないけど…少なくとも一時はスクールアイドルをやってたんだから、絶対、私の気持ちをわかってもらえるよ」

 

 

 

「千歌ちゃん…」

 

 

 

「そう言えばさ…さっき果南ちゃんが『鞠莉とダイヤに伝えて。あなたたちの思うようにはならないから』って言ってたけど…」

 

「うん」

 

「もう学校に行ってるんだから、自分で言えばいいのにね。いつまで休学気分でいるのかな」

 

「いや、そういう意味じゃないような…」

 

「違うの?」

 

「違くはないけど…違うかな?」

 

「難しいことを言うね…」

 

「ごめん」

 

「いや、謝らなくてもいいけど…」

 

 

 

「ねぇ千歌ちゃん…いいのかな?」

 

「なにが?」

 

「3年生の3人が、今、どういう状況なのかわからないけど…私たちが引っかき回しちゃっていいのかな…って」

 

「引っかき回されてるのは私たちだよ。勝手に何でもかんでも決められちゃって…」

 

「…なのかな?…」

 

あまりにも目まぐるしい展開に、誰の話が正しいのか梨子の思考は着いていけないでいた。

 

 

 

「まぁ、こうなったら、次は生徒会長を攻めていくよ」

 

「それが一番、難しいんじゃない?」

 

「大丈夫!勝算はあるよ。μ'sが好きな人に、悪い人はいないからね!」

 

「なに、それ…」

 

「ん?」

 

「えっ?…あははは…今、私が作った言葉」

 

「あっ…そうなんだ」

 

「でも、絶対に間違ってないないから!」

 

 

 

…ついこの間まで『普通怪獣』と自分を卑下していたのに、なんだか急に違う人になったみたい…

 

 

 

千歌のその言葉に、思わず微笑んだ梨子だった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

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