【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~ 作:スターダイヤモンド
「あの…お忙しいところすみません…」
「別に忙しくはないですわ。あとは寝るばかりですし。なんでしょうか?」
「実は…お姉ちゃんにお願いがあるんです」
千歌たちが果南を口説いていたその日。
舞台は黒澤家に移る。
入浴も済ませ「さぁ、就寝」という時に、妹はダイヤの部屋をノックしたのだった。
「お小遣いのことでしたら、お母様に相談してくださいな」
「うにゅ~…そうではなくて…」
「お勉強でわからないところでも?」
「それも違います…」
「では…」
彼女には他に思い当たる節がない。
それでは一体なんでしょうか?と首を傾げる。
「あの…あの…お姉ちゃんに練習を見てほしいんです」
「…練習…ですか?」
意を決したように声を絞り出した妹の顔を、姉はマジマジと見た。
「うん…私たち…『CANDLY』の…」
「!!」
「ダメですか?…」
「…」
彼女の問い掛けに、言葉が出ない姉。
「ダメなんだ…」
「い、いえ…その…なんといいますか…」
その言葉は明らかに動揺していた。
「お姉ちゃんは…学校を救って欲しいと後輩たちにその使命を託しながら…でも自分は高みの見物で、なにもしないつもりですか?」
「なんて言い草ですか!いくら可愛い妹だからって、怒りますよ!」
「じゃあ、その妹を助けると思って、手伝ってください」
「で、ですから…生徒会長としてできる限りのバックアップはします」
「出来る限りって?」
「そ、その…練習場の確保ですとか、ライブの宣伝ですとか…」
「お姉ちゃんは…」
「はい…」
いつになく真剣な妹の表情に、身構える姉…。
「本当はルビィたちにどうして欲しいんですか?」
「はい?…本当は…ですか?…そ、それは…」
ダイヤの言葉の歯切れが悪い。
学校にいるときは、スパッ!スパッとなんでも一刀両断して、反論の「はの字」も許さないような雰囲気を全身から漂わせているが、こと妹が相手だと勝手が違うようだ。
しかも、自分が心の中に抱えている矛盾点を鋭く突いてくるので、なおさら分が悪い。
「私たちが、ただラブライブにエントリーするだけで、生徒って集まるんですか?それなら別にいいんですけど…」
普段は姉に対して従順な妹であるが…この日は違った。
姉から強く言われると「うにゅ…」とすぐに凹んでしまい、涙を見せるのが今までのパターン。
しかし今日は
「わかりました。お姉ちゃんが協力してくれないなら、ルビィはスクールアイドル辞めます!」
と反抗的な態度を貫く。
「お待ちなさい!」
部屋を出て行く妹を、姉が呼び止めた。
「嫌です、待ちません!…あ~あ~…お姉ちゃんが尊敬する絵里さんだって、最後はμ'sのメンバーになったのになぁ…」
「絵里さんを引き合いに出すのは、卑怯ですわ!」
ダイヤにとって、μ'sの絢瀬絵里は神と崇めるほどの存在。
浦の星女学園で生徒会長を務めているのも、彼女に感化された部分が大きい。
当然のことながら、そのことを妹のルビィは充分過ぎるほど知っている。
絵里を引っ張り出すのは卑怯だと思いながらも、今回ばかりはそうも言っていられなかった。
「もう一度言いいます…私たちの練習を手伝ってください」
「なるほど…絵里さんも、そうやって穂乃果さんたちに誘われたのでしたね…」
「正確には『ダンスを教えてください』だったと思いますけど」
「ふふふ…そうですね」
と自嘲気味に彼女は笑った。
「正直言いますと…ルビィたちがアイドル活動をすることについて、整理がついていないのです…」
ダイヤは観念したかのように、苦しい胸の打ちを吐露し始めた。
「ルビィも知ってのとおり…お姉ちゃんたちもスクールアイドルをしていましたが…志半ばに解散してしまいました。そのことが正解だったのか、どうか…今でもそれはわかりません。ただ、もう金輪際、私がスクールアイドルに関わることはない…それだけは心に決めていたのです…」
部屋を出て行こうとしたルビィは、背中で姉の言葉を聴いていた。
「ですから…このようなことになって…戸惑っているのは事実です」
「お姉ちゃん…」
「千歌さんがスクールアイドルを始めたい…と言ったとき、なんともやるせない気持ちがありました。応援したい気持ち半分、諦めて欲しい気持ち半分…。でも鞠莉さんにも、果南さんにも『あなたに彼女たちを止める資格があるのか?』って嗜められましたわ。もちろん、そんなもの、あるハズありません…。ですから、内心、とても複雑でしたが…渋々認めることにしたのです」
「お姉ちゃん…」
「ところが…想定外のことが起きました。まさか…あなたがスクールアイドルを加入するとは、思ってもみなかったのです」
「…」
「いえ、考えて見れば、至極、当然のことですわ。私の妹なんですもの。私がμ'sに憧れたように、ルビィだってμ'sに憧れている。そんなことはわかりきっていることでしたのに…でも、どこかで私の気持ちをわかってくれているハズと、自分の中に言い聞かせてきたのです…」
「少し違います」
ルビィはクルッと振り返ると
「私が憧れていたのはね…お姉ちゃんなんです!」
と彼女に言った。
「えっ?」
「私が憧れていたのは…お姉ちゃんなんです…」
「ルビィ…」
「…ちっちゃい頃、もちろんμ'sの人たちに憧れてますけど…やっぱり雲の上の人たちって感じで…」
「それは私も同じです」
「だけどね、お姉ちゃんは違うんです!毎日、一緒に生活しているお姉ちゃんが、ステージの上でライブしてるんです!私のお姉ちゃんがスクールアイドルなんです!憧れないわけ、ないですよ!」
「ルビィ…」
「私ね、高校に行ったら、ずっとお姉ちゃんと一緒にスクールアイドルができると思ってたんです…だけど突然解散しちゃって…その夢は叶いませんでした」
「それは…申し訳ございません…」
ダイヤは項垂れ、小さく呟いた。
知らない人が見たら、どちらが姉で、どちらが妹かわからないような場面である。
「それで…本当はどうして…『Aqours(アクア)』…解散しちゃったんですか?もう、教えてくれてもいいですよね?」
「本当は?」
「性格の不一致とか音楽性の違いとか…単純にそれだけが理由じゃないですよね?」
はい、そうですね…と言い掛けたダイヤだが
「いえ…それだけは…ブッブーですわ」
と切り返す。
「えぇ!?」
およそこの場の雰囲気には馴染まない『否定の効果音』を発した姉に、妹は戸惑いを隠せなかった。
「なにか?」
「う、う~ん…なんでもな…く…ない…です…。お姉ちゃんたちが、スクールアイドルを解散しちゃった理由がわからないと…話が進まないのですから」
「話を進める?なんのことですか」
「あっ…えっと…えっと…それは、言葉の綾というかなんというか…」
「私たちに何があったのかは、3人だけの秘密なのですわ。いくらそれが妹であっても、教えることはできません」
「うぅ…」
「涙目で見ても、ダメなものはダメなのです。私にはルビィと同じ位、鞠莉さんも果南さんも大事なのです!!」
ダイヤの声が大きくなった。
「…ピギィ!ご、ごめんなさい…そういうつもりで訊いたんじゃ…」
「い、いえ…わたしも強く言い過ぎましたわ…」
「…え、えっと…ルビィのお願いは伝えたから…今日は部屋に戻ります…」
「はい…」
「お休みなさい」
「…あっ…待ちなさい!」
「!?」
俯きながら部屋を出て行こうとしたルビィの足が止まった。
「さっきの話ですが…少し考えさせてください…」
「お姉ちゃん…」
「友人を失うのも嫌ですが、妹を悲しませるのも好きではありませんので…」
「あ、ありがとうございます!!」
その言葉を聴いた妹は、踵を返して姉の胸へと飛び込んでいった。
「ふふふ…ルビィってば…まったく現金なのですから」
姉に頭を撫でられ「えへへ…」と笑った妹だったが、その目からはポロリと涙が落ちたのだった…。
~つづく~
明けましておめでとうございます。
しばらくお休みを頂いていましたが、他作品も含め活動を再開します。
本年も宜しくお願いします。
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