【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

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スクールアイドルをなめないで!

 

 

 

 

 

浦の星女学院のスクールアイドル2組は、ひとつに統合されることになった。

 

しかし…1年生の善子はそのことに反対し、チームを『脱退』した。

そして…2年生からは『本業である水泳部での活動』を理由に、曜が一時離脱。

 

こうして練習拠点にこの日集まったのは、千歌、梨子、ルビィ、花丸の4人だった。

 

 

 

「改めて…よろしくね」

と、千歌が右手を差し出す。

 

「よろしくお願いするズラ」

 

「はい、お願いします」

 

その右手に花丸とルビィが、自らの手を重ねた。

 

 

 

「さぁ、じゃあ、早速始めようか!」

 

「はい!」

 

「まずは…私たちは柔軟やって、筋トレして…みたいなことから練習を始めるんだけど、黒澤さんたちはどうしてた?」

 

「うにゅ~…正直、あんまりそういうのは…」

 

「どっちかと言うと…運動は苦手で…あまりやってなかったズラ」

 

「そっか…でも、少しはやらないと…だよね?」

 

「はい!」

 

 

 

「…」

 

 

 

「国木田さん、そんな暗い顔しないで。私たちだって、最初は毎日、筋肉痛だったんだから」

 

「うん、ようやく、少し慣れてきたけどね」

 

千歌の言葉に、梨子が微笑みながら相槌を打つ。

 

 

 

「わ…わかったズラ…」

 

はあ…と花丸はひとつため息をついた。

 

 

 

「大丈夫だよ、徐々に慣らしていけば…」

と千歌が言いかけた時だ。

 

屋上の扉が開き、人影が現れた。

 

 

 

「何、言ってるの?1年生は出遅れた分、ビシビシ鍛えるわよ!!」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「別に驚くことじゃないでしょ?私にトレーナーを頼んだのは誰?あなたでしょ?」

 

そこには、トレーニングウェアに身を包んだ果南が立っていた。

 

 

 

「果南ちゃ…松浦先輩!!来てくれたんですね!!」

 

ここが学校の屋上であると思い出し、千歌は呼び名を言い直して、訪問者を出迎えた。

 

「まぁね…売り言葉に買い言葉みたいな感じで『見てあげる』なんて言っちゃったから…」

 

「ありがとう!!…ございます…」

 

「ふふ…でも、見るだけたがらね」

 

「そのわりには、運動する気マンマンのスタイルですけど」

と千歌は、果南の格好を見てニヤリと笑った。

 

「これは…しばらく休学してたから、制服でいるのが気持ち悪いっていうか…この方が楽なんだもん…って私の話は置いておいて…えっと…あなたがダイヤの妹の…」

 

「は、はい!ルビィです!えっと…その節はお姉ちゃんがお世話になりまして…」

 

「ふふふ…別にお世話なんてしてないけど…お姉ちゃんと違って、随分、可愛らしいのね」

 

「か、可愛いなんて…」

 

褒められたルビィは顔を赤くして、下を向いた。

 

「それから、あなたが…」

 

「国木田花丸ズラ」

 

「国木田さん…あなたも『ふっくら』してて可愛いわね」

 

「えへへ…そうズラか…」

 

こちらも、少し照れたように頬を紅く染め、俯いた。

 

 

 

しかし、次の瞬間、2人の表情は一変する。

 

 

 

「なるほど…これは鍛え甲斐がありそうね!!」

 

 

 

「にゅ!?」

 

「ズラ?」

 

 

 

「まずはその弛(たる)んだお腹を、徹底的に引き締める必要がありそうね!!」

 

果南が浮かべた不敵な微笑みに、ルビィと花丸だけでなく、2年生の2人にも、ぞくりと背中に悪寒が走ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

「…はぁ…はぁ…」

 

屋上に2人の少女が仰向けに倒れ、呼吸を荒くしていた。

ルビィと花丸だ。

 

 

 

「ちょ…ちょっと果南ちゃん!いくらなんでも、これはやりすぎだよ」

 

「松浦先輩…でしょ?」

 

「あっ!…そうでした…」

 

呼び名を訂正された千歌は「しまった」と舌をペロリと出したが、すぐに

「いや、それはどうでもよくて…えっと、初日からこれは厳しすぎませんか?」

と彼女に反論する。

 

「そう?」

 

「運動部の練習じゃないんですから…ここまでハードにしなくても…」

 

「でも、ラブライブの予選まで、時間ないんでしょ?悠長なことは言ってられないんじゃない?」

 

「それはそうですけど…なんと言いますか…練習もバランスが大事かと…」

 

慣れない果南への敬語に戸惑いつつ、千歌は反論を試みた。

 

 

 

「…あなたにもこの際だからハッキリ言っておくわ」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「『体力あるものだけが、ラブライブを制す!!』」

 

 

 

「えっ?…なに、その変な格言みたいなのは…」

 

不意を突かれた言葉に、千歌は目を丸くした。

 

 

 

「経験者は語る…ていうやつよ。あなたたち、ステージでのパフォーマンスにどれだけエネルギーを消費するか、甘く考えてない?」

 

「そんなことは…」

 

「あるわね!…いい?たかが『ステージの上で1曲披露するだけだ』と思ったら大間違いなんだから」

 

「そうは思ってないよ…あ、いや…思ってないです!…一応…私たちだって経験者なので」

 

 

 

「あんなステージで『経験者』だなんて言わないでほしいわ!」

 

果南は千歌の言葉を一括した。

 

 

 

「ラブライブのそれは…たとえ予選であっても、照明からなにからなにまで、まったくスケールが違うの。特にステージの上の暑さときたら…体感温度なら50℃にも60℃にもなるわ。その中で観客からのプレッシャーを感じながら、衣装を着て、歌って、踊って…そして最高のパフォーマンスを魅せなければならない。生半可な体力と精神力じゃ、とても上に勝ちあがることは出来ない!!…例え…どんなに歌とダンスが上手くてもね…」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「どんなに上手くても…」

 

千歌の後ろで話を聴いていた梨子が、思わず呟いた。

 

 

 

「…ううん…なんでも無いわ…それより…1年生の2人はいつまでそこに寝転んでるつもりかしら。やる気がないなら、私、帰ってもいいかしら…時間の無駄だから!!」

 

 

 

「果南ちゃ…松浦先輩!いくらなんでも言いすぎです!」

 

 

 

「練習を見てほしい…って頼んだのはあなたでしょ!私のやりかたに文句があるなら、もう二度と来ないから!…さようなら!」

 

果南は冷たく4人にそう言い放つと、くるりと背を向け歩き始めた。

 

 

 

「あっ…」

 

千歌も梨子も、その後ろ姿になんの声も掛けることができない。

ただ、見送るだけ…。

 

 

 

しかし

「…待ってください…」

との声を聴き、果南の足が止まった。

 

 

 

「…待ってください…。すみません、続きを…お願いします…」

 

ゆっくりと立ち上がり、彼女の近寄ったのはルビィだった。

 

「…まだ…できます…まだ…やれます…」

 

 

 

「ふ~ん、そう…」

 

 

 

「ですから、続きを…」

 

 

 

「でも、あなたのお友達はどうかしら?いいのよ、無理しなくても。別にラブライブに出れなくても、スクールアイドルができないわけじゃないんだし」

 

 

 

「…お、オラも…やるズラ…」

 

 

 

「花丸ちゃん!?」

 

 

 

「へへへ…ルビィちゃんを助けたいって言ってるのに、マルが足を引っ張るわけにはいかなズラよ」

 

 

 

「…花丸ちゃん…」

 

 

 

「黒澤さん!国木田さん!無理しなくていいから…なんだかんだで、身体が一番大事だし」

 

「うん、千歌ちゃんの言う通りだよ」

 

 

 

「やります!!」

 

「やるズラよ!」

 

 

 

「黒澤さん…国木田さん…」

 

 

 

「そう…わかった…」

 

2人の熱意に心が動かされたのか、果南は小さく頷いた。

 

 

 

だが

「それでも今日はここまでとするわ」

と彼女は4人に告げた。

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「2人のね…本気度を見てみたかったの」

 

 

 

「本気度…」

 

 

 

「うん、本気度…。スクールアイドルに懸ける情熱って言ってもいかしら。できるできないは、その人の能力の問題もあるし、仕方がないと思ってるの。でも…やるやらないはそうじゃない。心の持ち方。困難に立ち向かっていく気持ち…強い意志が何より大事だと思ってるわ。そういう意味では…合格点…ね」

 

 

 

「あっ…ありがとうございます!」

 

 

 

「でも、やっぱり今日はここまでにするわ」

 

 

 

「どうして…」

 

 

 

「今日はね…あなたたちの基礎体力がどれくらいか、それを知りたかっただけだし、どこを鍛えていけばいいかもわかったから。千歌も言ってたけど、オーバーワークで身体を壊したりしたら本末転倒だもの。少しは根性あるってこともわかったしね…だから、今日の私の役割はおしまい。あとは…ドアの向こうで心配そうにこっちを覗き込んでるお姉さんに、指示を仰いでみたら?これ以上やって『妹を苛めた』なんて怨まれるのも面倒だし」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「お、お姉ちゃん!」

 

「生徒会長…いつからそこに!?」

 

 

 

「い、今来たところですわ!生徒会の仕事が長引いたものですから…け、決して始めから見ていたわけではありませんわ」

と言い訳をしながら、ダイヤはドアの陰から姿を現した。

 

 

 

「お姉ちゃん、来てくれたんだね!」

 

「い、いえ…その…生徒会長として…学校存続の為に何ができるかと考えたわけでして…妹に頼まれたからであるとか…そういうわけでは…ただ経験者として少しアドバイス的なものを…」

 

「…って上下トレーニングウェアを着こんだ人が言うセリフじゃないわね」

 

果南は、さっき千歌に言われたようなセリフをダイヤにぶつけ、ニヤリと笑った。

 

「…果南さん、意地が悪いですわよ…」

 

「そう?…じゃ、あとはよろしく!!」

 

ダイヤの言葉を軽くいなして、果南は足早に屋上から去って行った…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

 

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