【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

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伝説のスクールアイドル(上)

 

 

 

 

「ふぅ…疲れたズラ…」

 

「もう、動けない…」

 

果南にフィジカル面をみっちり鍛えられた後、同じく臨時コーチに就任したダイヤの『ダンスレッスン』に、1年生の2人は音を上げた。

 

もちろん、2年生の2人もキツイのは同じだ。

ただ彼女たちより早く、体力トレーニングに取り組んでいた分、少しだけ余裕があった。

 

 

 

「初日からハードだったけど、国木田さんも妹さんも、よく頑張ったよ」

 

「うん」

 

「そうですね。色々と言いたいことはありますが、まぁ、今日はこれで『よし』と致しますわ」

 

千歌と梨子が1年生を称えたのに続き、ダイヤも花丸とルビィに言葉を掛けた。

 

「毎日これが続くズラ?」

 

「続く…のかな?」

 

妹が姉に訊く。

 

 

 

「そうですね…そこは果南さんに確認してみますわ。オーバーワークでケガをしてしまっては、元も子もありませんから…まぁ、同じ轍は踏まないと思いますが」

 

 

 

「同じ轍?」

 

ダイヤの言葉に引っ掛ったようで、千歌が疑問符を付けた。

 

 

 

「あ…いえ…なんでもありませんわ。物事には順番がありますから、徐々に身体は慣らしていくのがいいと思います」

 

「そうだよね」

とルビィが頷く。

 

 

 

「あっ、だったらさ、妹さんも国木田さんも、朝練、一緒にしない?」

 

 

 

「朝…」

 

「練…ズラ?」

 

 

 

「ほら、あそこに神社があるでしょ?私たち、あの階段を毎日、登り下りしてるんだよ!ね?」

 

「うん。初めは歩くだけでも辛かったけど、今は会話しながら登るれるくらいは余裕が出てきたかな」

 

「まだ、果南ちゃんみたいに走ったりはできないけどね」

 

「なるほど。2年生はそのようなトレーニングをしてるのですね?」

 

「トレーニングという程ではないですけど…継続は力なりといいますか…」

 

「毎日、頑張ってるってことが、自信に繋がればって始めたんです」

 

 

 

「素晴らしいことですわ!」

 

 

 

「えっ!?」

 

千歌と梨子は、思わず声を上げて、顔を見合わせた。

 

 

 

「えっ?」

 

そのリアクションを見て、ダイヤも不思議そうな顔をする。

 

「何か、おかしなことを言いましたか?」

 

 

 

「あ…いえ…別に…」

と梨子はお茶を濁した。

 

しかし

「生徒会長に褒められるとは、思ってもみませんでしたので…ちょっとビックリしました」

と千歌はストレートに言い放つ。

 

 

 

「あなたたちは私を、どのような人間だと思っているのですか。いいものはいい、悪いものは悪い。その判断くらいつきますわ」

 

ダイヤは少し恥ずかしそうに…だがそれを隠しながら反論した。

 

 

 

「お姉さん、可愛いズラ」

 

「うん、誤解されやすんいだけど、本当のお姉ちゃんは凄くチャーミングな人なんだよ」

 

花丸とルビィはその様子を見て、コソッと呟いた。

 

 

 

 

「それで?」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「妹さんと国木田さんは、どうするの?明日から一緒に朝練する?」

 

「は、はい!お願いします!!」

 

「国木田さんは?」

 

「ルビィちゃんがやるなら…頑張るズラ…」

 

だが、彼女の顔の顔に笑みはない。

 

 

 

「朝は早いけど、無理しないでね」

 

「マルはお寺の娘ズラ。早起きは慣れてるズラ」

 

「へぇ!そうなんだぁ…初耳…」

 

 

 

「ぷっ!」

 

吹き出したのはダイヤ。

 

 

 

「お姉ちゃん?」

 

「生徒会長?」

 

 

 

「す、すみません。お寺の娘が、神社に向かう姿を想像したら、妙にシュールで…思わず吹いてしまいましたわ」

 

「別に法衣を着ていくわけじゃないズラよ」

 

「も、もちろんわかってますわ」

 

「寺の娘と言っても、普通にクリスマスも祝うし、七五三もするズラ。先入観で判断するのはよして欲しいズラ」

 

「そうですね。これは失礼しましたわ」

 

花丸の指摘に、ダイヤは素直に頭を下げた。

 

 

 

「先入観か…確かに私たちも、生徒会長って、ただ単に恐い人だと思ってたけど、そうじゃなさそうだってことは、なんとなくわかりました」

 

「そうだね」

 

「当たり前ですわ」

 

「考えてみれば、果南ちゃ…松浦先輩と一緒にスクールアイドルをやってたんだもんね…。先輩も、そんな恐いだけの人とはさすがに組まないか」

 

 

 

「…」

 

千歌は深く考えずにそんなことを言ったが、それを聴いて一瞬ダイヤは表情を曇らせた。

 

 

 

「生徒会長?」

 

 

 

「…はい?…あっ?そうですわね…私が恐いというのは誤解ですわ…」

 

「すみませんでした…」

 

「いえ…。それより、その『生徒会長』という呼び方は、やめてもらえないでしょうか?」

 

 

 

「『お姉さん』がいいですか?」

 

 

 

「嫌です!」

 

ダイヤは速攻で否定した。

 

 

 

「そこは普通『黒澤先輩』が正しいのではないのでしょうか?」

 

「ですね!確かに!」

 

「あ、あの…それでしたら私も『妹さん』という呼び方は、やめて欲しいです…」

と姉に続いてルビィが遠慮がちに訴える。

 

 

 

「『黒澤後輩』?」

 

「いやいや、千歌ちゃん、そうは呼ばないでしょ」

 

普段はあまりツッコミをしない梨子だが、これにはさすがに反応した。

 

 

 

「えっと…じゃあ…ルビィちゃんでいいかな?」

 

「はい!」

 

「そうすると…国木田さんも…花丸ちゃんって呼んでいい?」

 

「もちろんズラ」

 

「その代わり、私たちは千歌先輩、梨子先輩と呼ばせてもらいます」

 

「あっ、いいねぇ!なんか、グッと距離が縮まった気がするよ」

 

「もうひとりの1年生は…津島さんだっけ?」

 

「津島善子ズラ」

 

「じゃあ、あの娘は善子ちゃんだね」

 

「でもマルちゃん、善子ちゃんは『ヨハネ』って呼ばないと怒るんじゃないかな?」

 

「それはシカトするズラ」

 

「ヨハネ?そういえば、練習の時にもそんなこと言ってたよね?」

 

「私もずっと気になってんだ。あれって3人で活動するときの芸名みたいなものでしょ?」

 

「はぁ…違うズラ…」

と花丸はため息をつきながら答える。

 

「違うんだ…」

 

「その話は長くなるから、また後でにするズラ」

 

「う、うん…そうだね…」

 

ルビィがその言葉に相槌を打った。

 

 

 

 

「そうなんですか!?」

 

千歌の驚いた大きな声が、練習が終わってから乗り込んだ帰りのバスの中に響く。

とはいえ、乗客は彼女たち…千歌、梨子、ルビィ、花丸…そしてダイヤ…しかいない為、特に迷惑というわけではない。

 

 

 

「はい。あのμ'sが神田明神の階段ダッシュで身体を鍛えた…というのを知っていましたので、私たちも真似をさせて頂きましたわ」

 

先ほど2年生から1年生に「一緒にやらないか?」と誘った朝練…淡島神社への登り下り…の話である。

どうやら、元々の発案者はダイヤだったらしい。

 

臨時コーチとして接してるうちに、少しずつだが、千歌たちに心を許しているようだ。

段階的ではあるが、ポツリポツリと『彼女たち』の過去を明かし始めた。

 

 

 

「恐らく、日本全国、どこのスクールアイドルもそうだと思いますが…練習でもなんでも、手本としたのはμ'sやA-RISEですから、当然それはそうなりますわ」

 

「そうですよね。なんにも知識が無い人が、いきなりスクールアイドルを始めよう!って言っても、普通はどうしたらいいか、わからないですもんね?」

 

「はい。幸いなことにμ'sについては、練習方法とか、活動内容とか、その時の出来事とか…詳細な情報がネットに上がっておりましたので、随分、参考にさせて頂きました」

 

「そのサイトは『μ's伝説』ですよね!」

 

「ピンポーン!…ですわ」

 

ダイヤはうん、うんと2度ほど首を縦に振った。

 

 

 

μ's自身のホームページは存在しないが、彼女たちのうちの誰か…もしくはそこに近しい人間…がまとめたものだと言われ、数ある彼女たちの関連サイトの中で、唯一『公式』と呼ばれているのが『μ's伝説』である。

 

 

 

「私も見てます」

 

「あれを見ていないスクールアイドルがいたとしたら、完全にモグリですわ」

 

 

 

…この間、千歌ちゃんに言われて、目を通しておいて良かった…

 

 

 

梨子は人知れず胸を撫で下ろしたあと

「あのサイト作ったの…妹さんなんじゃないかな」

とボソッと呟いた。

 

 

 

「妹さん?ルビィちゃんのこと?」

 

 

 

「えっ?」

 

突然名前を呼ばれて驚くルビィ。

 

 

 

「違うよ、妹さんってルビィちゃんじゃなくて…μ'sのリーダー…穂乃果さんの…」

 

「あぁ!この間会った…たしか雪穂さん…だっけ?」

 

 

 

「なっ!あなた方は穂乃果さんに妹さんにお会いしたのですか!」

 

 

 

「あれ?言わなかったですか?…あ、話したのはルビィちゃんたちにか」

 

「はい?ルビィは聴いたのですか!?」

 

「あっ…うん…」

 

「なぜ、教えてくれないのです!」

 

「知ったら…ずっと『羨ましいですわ…』って言い続けてそうで…」

 

「あははは…わかる!わかる!」

 

千歌が手を叩いて反応すると、ダイヤはムスッとして、ソッポを向いた。

 

「わかりましたわ。その話はあとでゆっくりお聴きします…それより、あのサイトを穂乃果さんの妹さんが作られたという根拠は?」

 

「はい…先輩たちは、後輩の私たちに『μ'sで活動した痕跡』を一切残さず学校を去ったのです」

 

「後輩の私たち?…そうでした…桜内さんは音ノ木坂からいらしたのでしたね…」

 

「はい。ここに来るまでは雲の上の存在…っていうか『μ'sの後輩』なんて言われても、自分とは関係ない話だと思ってましたけど…」

 

「活動の痕跡を残さなかった…って、仰いましたけど?」

 

「ラブライブで優勝した証…賞状も旗も盾も…楽譜も衣装もなにもかも…全て持ち帰ってしまって、学校にはなにひとつ残していかなかったらしいんです」

 

「ですから…そこに通っていた私たちでさえも…本当にμ'sっていたのかなぁ…なんて話もしょちゅうしてました」

 

 

 

「本人に在籍されていたのですよね?」

 

 

 

「実はμ'sっていなかった?『都市伝説』だったんじゃないズラか?」

 

 

 

「よしてください。私たちはご本人にお会いしたことがあるのですよ。サインだってちゃんと持ってますわ」

 

 

 

「だから、それが世にも奇妙な的な…」

 

花丸がニヤリと笑う。

 

 

 

「お寺の娘に言われると、メチャクチャ恐いんだけど…」

 

怪談話をするにはまだ早い。

だが、4人は一瞬、ごくりと唾を飲んだ。

 

 

 

「冗談ズラ」

 

その言葉にホッとする、黒澤姉妹と千歌、梨子…。

 

 

 

「マルはμ'sについてあんまり詳しくないけど、解散してから4~5年しか経ってないのに、本当に伝説の存在なんズラね…」

 

「そうだねぇ」

 

ルビィが頷く。

 

 

 

「でも…目に見える品物はないですけど、先輩たちが残してくれたチャレンジ精神みたいなものとかは、ちゃんと受け継がれてますから」

 

「そうなのですね。だとすると、なぜ彼女たちは、その痕跡を消してしまったのでしょうか?」

 

「その理由は…『後輩にμ'sって名前を背をわせたくない』…って理由だったんだっけ?」

 

「うん。μ'sが音ノ木を廃校の危機から救ってくれたのは事実だけど…その名前だけが独り歩きしちゃうと、一生『μ'sの音ノ木』ってなっちゃうからって…」

 

「なるほどですわ…実に思慮深い人たちです。益々、尊敬しちゃいますわ」

 

「ですから、μ'sだったメンバー本人が、あのサイトを作ったとは思えないんですよね」

 

「確かに…そこまで痕跡を消すなら、自分たちの記録を残すことは矛盾するズラ」

 

「…っていうことを考えると…妹さんなのかな…って」

 

「妹さんも、音ノ木でスクールアイドルをしてたって言ってたよね?」

 

「はい、それは存じてます。絵里さんの妹さんとコンビを組まれておりましたわ」

 

「さすが生徒会ちょ…じゃなかった黒澤先輩、話が早い!」

 

「やっぱりμ'sメンバーの妹ってことで、相当苦しんだみたいですよ」

 

梨子は本人から聴いた話を、思い出しながらダイヤに伝えた。

 

「それは、プレッシャーだったハズですわ。…やはり2人にはμ'sの後継者的な役割を求められていたかと、記憶してます…」

 

「それもあるのかな?…雪穂さん、お姉さんのこと、結構嫌ってたよね?あんないい加減な人に憧れるな!って」

 

「千歌ちゃん、嫌ってたワケじゃないと思うけど…」

 

「まぁ、私も妹だからわからなくはないけどね!美渡姉ぇとは仲悪いし」

 

 

 

「はい?妹というのは皆さん、姉のことをそう思っているのですか?」

 

「ぴぃ!!ち、違うよ、お姉ちゃん、それは人それぞれだと思うよ!ルビィはお姉ちゃんのこと、大好きで尊敬してるから」

 

「当たり前ですわ」

 

 

 

「ぷっ!」

 

「ふふふ…」

 

「あは…」

 

 

 

「なにか、おかしなことでもありまして?」

 

 

 

「いえ…」

 

「なんでもないです…ズラ…」

 

 

 

「だけどね、千歌ちゃん…」

 

梨子は何事も無かったかのように話を続けた。

 

 

 

「雪穂さんは、私たちの前では謙遜してそう言ってたけど…やっぱり尊敬してたと思うんだ…」

 

「う~ん…」

 

「当然です。姉を尊敬しない妹などおりませんですわ!」

 

 

 

「ルビィちゃん、こういうお姉さんでも、そう思う?」

 

千歌は彼女の耳元で、こっそりと質問すると…ルビィは、それには無言で笑って答えた。

 

 

 

「話を元の戻すとね…本人たちは自分たちの活動に頓着しなかったみたいだけど…妹さん…雪穂さんはそれがイヤだったんじゃないかな?μ'sって存在を、この世から消したくなかったんだと思うの。それは一番身近でお姉さんたちの努力を見てきたから…誰よりもその頑張りを知ってるから…」

 

「桜内さんの推理は一理ありますわ。μ's関連のサイトは数多く存在します。ですが、どれも似たり寄ったりのものばかりで…中にはメンバーの近況を載せたものなどもございますが…正直、ファンが無許可で勝手に作ったものばかりでしょう。しかしながら『μ’s伝説』だけは、当人たちでしか知りえない細かなエピソードが、かなり載せられています。つまり…本人でなければ、相当、近い人…ということになりますが、それが妹さんであれば、充分考えれる話です」

 

「そっかぁ…雪穂さん…お姉さんのこと、尊敬してたんだねぇ」

 

「千歌ちゃんだって、美渡さんのこと、本気で嫌いなわけじゃないでしょ?」

 

「ん?…ま…まぁ…それはそうだけど…」

 

梨子に意地悪く顔を覗き込まれた千歌は、ゆっくりとその視線を外したのだった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

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