【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

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生徒会長

 

 

 

「ねぇ、曜ちゃん…」

 

「ん?」

 

曜の電話の相手は千歌。

ベッドに入って、もう寝ようか…という時に掛かってきた。

 

「今度さ、新入生歓迎発表会があるでしょ?あれって個人参加もOKなんだよね?」

 

「う~ん…そういえば、去年は有志みたいな感じで、先輩がダンスを披露してたねぇ…」

 

「私…アレに出たいんだ」

 

「うん、わかった…」

と曜は頷いた。

 

しかし、その意味を理解するまで、しばらく時間を要した。

 

 

 

「えっ!?千歌ちゃん、今、なんて言ったの!」

 

 

 

千歌が言う『新入生歓迎発表会』とは、簡単に言えば『部活紹介』のことで…新入生に対し、持ち時間5分程でプレゼンを行い、自分たちの部活をアピールするイベントだ。

合唱部であれば歌を…空手部であれば『形』の演舞を披露したりする。

この僅かな時間で、いかに彼女たちの心を掴むかが重要で、特に文化部は…年度が変わった一発目の…大事な行事である。

 

学内の規定で言うと、部活を名乗るには『部員が5人以上在籍すること』と『顧問が就くこと』が条件で、それをクリアすれば部費も割り振られる。

しかし前述したとおり、年々、生徒数が減少している為、部活と認められているのは僅か数団体だ。

その代わり、2~4名であれば(一応届け出は必要だが)『有志』『サークル』『同好会』としての活動は認められている。

当然、部室も無いし部費も出ないが、同じ趣味の者が集まり好きなように活動するのであれば、それは大きな問題ではなかった。

中には5名以上となっても、敢えて『部活』にしない生徒もいる。

そういったこともあり『新入生歓迎発表会』は、数年前から部活以外の有志も参加出来るようになっており…千歌たちが1年生だった昨年は…バンドとダンスのサークルがパフォーマンスを披露した。

秋に文化祭が行われるものの、そんな彼女たちには、数少ない発表の場…重要なイベントなのである。

 

 

 

「だからね、曜ちゃんに手伝ってほしいんだ」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「一生のお願い!私と一緒にステージに立って!!」

 

 

 

「千歌ちゃん…」

 

 

 

「私ね、やっぱりスクールアイドルをやってみたい。1度でいいからμ'sが見た景色を感じてみたいんだ!それには、どうしても曜ちゃんの力が必要なの。だからお願い!一生に一度のお願いだから!!」

 

 

 

曜は千歌の言葉の意味を、心の中で噛みしめる。

 

そこには迷いのない、強い意志が宿っていた。

 

 

 

千歌という人物は、自らを『普通怪獣』と名乗るほど、平凡な少女だ。

いや、やる気を出せば、何でもソツなくこなせるのであるが「どうせ自分なんて…」という消極的な気持ちが先に出てきてしまい、なかなか結果が伴わない。

結果が伴わないから、さらに自信を無くし…という負のスパイラルに陥ってしまう。

 

曜はそんな彼女にことを、常にもどかしく思っていた。

もちろん、学力や運動神経において、自分が千歌よりも上であることは自覚しているし、彼女がそのことにコンプレックスを持っていることも知っている。

だから、彼女の消極的な発言を聴く度に、それを諌めようと思うのだが…どうしても『自分が上から目線で彼女を見ている』ような感じがして、あまり強くは言えないでいた。

故に彼女が投げ出したり、諦めたりするたびに「千歌ちゃんはそれでいいの?満足した?」という言葉を掛けてきた。

それで千歌は…時には発奮して頑張ることもあるし、そうでないこともある。

どちらにせよ、そこまで言ってあげて、本人が納得しているなら、それはそれで仕方ない…と思ってきた。

 

しかし、彼女とは長い付き合いになるが、これほどまでに自分のやりたいことを主張してきたのは初めてだ。

『一生のお願い』は何度か言われてきたが、今回の『それ』は真剣さが違う。

それは彼女が思い付きで言ったのではなく、μ'sと出会ってからの1年間、ずっと考えていたことだからなのだろう。

 

曜は、千歌が彼女たちに憧れ、ひとり『練習』していたことを知っている。

その練習に度々、付き合わされたこともあったが…彼女が一生懸命歌ったり、踊ったりしている姿を見ているのは、悪い気がしなかった。

むしろ、千歌が何かに夢中になっていることに対して、喜ばしいとも思っていた。

だからこそ…今まではふたつ返事で断っていたが…今日のお願いについては、二の句が継げずにいた。

 

 

 

「曜ちゃんが、部活忙しいのはわかるけど…そこをなんとか!!」

 

 

 

「千歌ちゃん…」

 

そう言ったきり言葉が続かない曜。

だが、しばし沈黙のあと、やっと重い口を開いた。

 

「…少し…時間がほしいなぁ…」

 

 

 

「曜ちゃん…」

 

 

 

「もし『やる』って決めたら、中途半端にはしたくないし…」

 

「うん、うん…わかった…そうだよね…じゃあ…返事、待ってる…。おやすみなさい」

 

「うん…おやすみ…」

 

千歌と曜はそう言って電話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後…。

2人は生徒会室へと向かった。

 

ドアをノックすると「はい、どうぞ」と返事があった。

部屋の中には…黒髪のロングヘアーで、口元の黒子が特徴の生徒がいた。

『黒澤ダイヤ』…この学校の生徒会長だ。

見た感じ…和装が似合う美少女…と言っても過言ではないのだが…常に目つきが鋭く、険しい顔をしていて…にこやかに談笑をしているところを見たことがない…と下級生からすれば、かなり近寄り難い存在。

そういうことも含めて、一般生徒が生徒会室を訪れるのは、かなり勇気がいることだった。

 

 

 

「失礼します…」

 

緊張しながら、千歌は部屋に入った。

あとに曜が続く。

 

「どうかされましたか?」

 

先入観があるせいか、千歌にはその声が、異常な程、冷たく聴こえた。

 

「あ、あの…今度の新入生歓迎発表会に私たちも参加したくて…書類を提出しにきました…」

と、おどおどしながら彼女は紙を手渡す。

 

「新入生歓迎発表会に?…」

 

それを受取り、一瞥したダイヤ。

 

「…スクールアイドル?…」

 

「はい!」

 

 

 

「却下ですわ!!」

 

 

 

「えっ!?」

 

「却下です!」

 

「そ、そんな…いきなり…」

 

「いきなりもなにも…確かにその行事には有志の参加を認めておりますが、そもそも貴女たちは、サークルの申請を出しているのですか?」

 

「い、いえ…まだ…」

 

「登録がない者への参加を認めるわけにはいきません」

 

「えっと…だったら、今、書きます!!今、申請します!」

 

「はい?」

 

「それならいいんですよね?」

 

「えぇ…まぁ…承認まで1日は要しますが…」

 

「では、お願いします」

 

「まだ、許可するとは申しておりませんですわ」

 

「えっ?」

 

「後ろにいるのは…渡辺曜さん…ですね」

 

さすがは国体選抜になろうかという逸材。

生徒会長が知らないはずはなかった。

 

「は、はい…」

と曜は、ちょっとこわごわと返事をする。

 

「まさかと思いますが…貴女も一緒に?」

 

「はい」

 

「部活はどうされるのですか」

 

「もちろん、続けますけど…」

 

 

 

「でしたら、なおさら許可はできませんわ!」

 

 

 

「どうしてです?」

 

千歌と曜は同時に声をあげた。

 

 

 

「曜さんは、当校期待の星、いえ静岡県の宝です。そのような人材が、スクールアイドルと掛け持ちなど言語道断ですわ」

 

「でも、これは私の意志です。いくら生徒会長とはいえ、個人の権利を奪う資格は無いと思いますが」

 

うっ…と、一瞬ダイヤは言葉に詰まらせたあと

「…とはいえ、なぜスクールアイドルなのですか…」

とボソっと呟いた。

 

 

 

「やりたいからじゃ、ダメなんですか!!」

 

即答したのは千歌だ。

 

 

 

「千歌ちゃん!」

 

大きな声を出した彼女に対して、曜はびっくりして、思わず叫んだ。

ダイヤに飛び掛るんじゃないか…そんな風に感じたからだ。

 

 

しかし、その千歌を上回る勢いで

「スクールアイドルを甘く見ないでください!!」

とダイヤが噛み付いた。

 

その口調と勢いに、千歌と曜は一歩あとずさった。

 

そして生徒会長は

「念の為に訊いておきますが、目標はラブライブ出場などと言わないですよね」

と続けざまに言い放つ。

 

 

 

「あ、いや…ラブライブはまでは…考えていないですけど…」

 

 

 

「そんな気持ちでスクールアイドルをするなんて、それは全国各地、スクールアイドル活動をしている生徒への冒涜というものですわ!!やはりその申請は却下です」

 

 

 

「えっ!?そんなぁ…」

 

「冒涜って…」

 

戸惑う2人。

 

 

 

そんな彼女たちに、思わぬところから助っ人が入る。

 

「ダイヤさ~ん、それは職権乱用だと思いマ~ス!」

 

突如、千歌と曜の背後から声が聴こえたのだ。

 

 

 

彼女たちが振り向くと、そこには立っていたのは金髪で色白の『生徒』がいた…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

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