【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

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伝説のスクールアイドル(下)

 

 

 

「ところで、そのμ'sですが…」

 

自身の過去から千歌たちの目を逸らすかのように、ダイヤは話題を切り替えた。

 

「再結成するかもしれないと噂になっております」

 

「そうなんですよね!実は私も凄く気になってて…ネットでの反応を見ると賛否両論あるみたいですけど…」

 

 

 

先日、若手サッカー選手…高野梨里…が交通事故に巻き込まれ、意識不明の重体に陥った。

そこに居合わせたのが元μ'sのメンバー、園田海未だった。

 

一時は死亡説も流れたが、それは全くのデマ。

実際は高野の咄嗟の判断により、海未は事故車の直撃を避けることができた為、怪我は掠り傷程度…翌日には無事であったことが確認されている。

 

ところが、この事故は海未、そしてμ'sにとって全く意外な方向へと進んでいった。

 

彼女は「偶然にも現場に居合わせてしまった不幸な被害者」のハズだった。

しかし、いつの間にか『高野を意識不明にした犯人』として、叩かれることとなってしまったのだ。

 

今、この件で「高野ファン」「アンチ高野」「海未ファン」「アンチ海未」がお互いに非難合戦を繰り広げており…そして、それが何故か「μ'sファン」vs「A-RISEファン」の争いへと飛び火して、ネットは荒れに荒れている。

事故から一週間ほど経つが、彼らの対立は終息に向かうどころか、一向に収拾がつかない状態だ。

むしろ、激しさを増していると言っていい。

 

 

 

そんな中、同時並行的に湧き上がってきたのが「μ’s再結成希望論」である。

 

 

 

彼女たちの活動期間は短く、人気に火が点いた時には既に解散してしまっていた。

それが『伝説のスクールアイドル』と言われる所以(ゆえん)でもある。

 

本人たちには不本意であろうが、園田海未の名前が注目されたことにより、かつてのファンを中心にμ's再結成の期待が高まっているのだ。

「μ'sなんて、ただ人数が多いだけで、実力は素人」と彼女たちのファンを煽るA-RISEファンへの対抗心…も、その一因だと言えよう。

 

 

 

「高海さんはどう思われますか?」

 

「μ'sの再結成ですか?」

 

「はい。当時の記憶を美しいまま閉じ込めておきたい…という方と、それを差し置いても今の元気な姿を見てみたい…という方…。そのどちらも間違ってはいないと思うのですが…」

 

「私は観たいです!それは…時間が経ってるから、私たちが動画で観てるμ'sとは別人になってるかも知れないし、色々違くなってるかもだけど…でも…観てみたいです!ダイヤさんは?」

 

「もちろん、私もですわ!」

 

「ですよねぇ」

 

「はい、私のナンバーワンスクールアイドルはμ'sですので。彼女たちのステージが観られるのであれば、どれほど幸せなことかわかりませんわ」

 

「オラは美しい想い出は、美しいままで…が、いいズラ。歳を取って動けない、歌えないなんていう人たちを見るのは、偲びないズラ。モノの憐れ…ズラ」

 

2人の話を聴いていた花丸が口を挟んだ。

 

「その考え方も否定はしませんわ」

 

「だからこそ、ネットでも意見が割れてるんだよねぇ」

 

 

 

「はい、そうですね…ですが!!…μ'sは、決して中途半端なパフォーマンスをする人たちではありません!やるとなったら全力で仕上げてきます!!決して私たちを落胆させることはないハズです!!私はそう信じていますわ!!」

とダイヤの言葉は一気に熱さを増した。

 

 

 

「お、お姉ちゃん…」

 

車内に彼女たち以外の乗客はいないとはいえ、周りが見えなくなった姉を妹が制した。

 

 

 

「し、失礼しましたわ…私としたことが…」

 

「あはは…いえ、いえ…私も同じ気持ちですよ。μ’sなら全体に期待を裏切らないステージを見せてくれると思ってます」

 

「高海さん…」

 

「ちなみに…生徒会ちょ…じゃなくて黒澤先輩は、どの曲が一番好きですか?」

 

「μ'sの曲でですか?」

 

「はい」

 

「どれも素敵ですから、選べませんわ」

 

「そこを敢えて言うなら…」

 

「そうですわねぇ…やはり選べません、選べませんわ」

 

「あはは…ルビィちゃんは?」

 

「ぴぃ!?ル、ルビィ…ですか?」

 

突然話を振られて戸惑う妹。

 

だがすぐに

「ルビィは…『Wonder zone』って曲が好きです」

と返す。

 

「意外!」

 

千歌は思わず、そう漏らした。

 

 

 

μ’sとして世の中に出回っている曲(動画)は、十数曲あるが、ルビィが選んだそれは、まだ彼女たちが活動を始めたばかりの頃のもので、どちらかと言えばマイナーだと言えた。

逆に言えば、それだけルビィも姉のダイヤに負けず『コアなファン』だと言うことなのだろう。

 

 

 

「μ’sと言えばアキバ、アキバと言えばこの曲だと思うんですぅ」

と彼女は持論を展開する。

 

「なるほど…」

 

「千歌先輩は?」

 

「私?私は…やっぱり『START:DASH』かな。東京に行ったとき、偶然アキバの駅前の大型ヴィジョンで流れているのを観て…衝撃を受けたというか…スクールアイドルを始めようって思った曲なんだ」

 

「新歓で披露した曲ですよね?」

 

「大失敗しちゃったけど…」

 

「いえ、あのμ'sも観客ゼロからのスタートだったと聴いておりますので…ナイスチャレンジでしたわ」

 

 

 

正確に言えば『絵里』やスタッフとして手伝っていた『ひふみトリオ』、あとから来た『花陽』や『凛』、隠れて見ていた『にこ』もいたので、ゼロではないのだが。

 

 

 

「そう言われると…恥ずかしいですけど…本当はもうあれで、終わりにしようと思ったんです。取り敢えず『ステージに立つ!!』っていう希望は叶えられたので…」

 

「そうなのですか…」

 

「でも…果南…じゃなかった、松浦先輩から手紙を渡されて…」

 

 

 

「手紙ですか?」

 

その言葉にダイヤは、ピクッと反応した。

 

 

 

「へっ?あ、はい…」

 

 

 

「そこにはなんと?」

 

 

 

「2通あって…どっちも書き方は違うんだけど『このまま終わらせていいのか?』っていう内容でした。そういえば…今、生徒会ちょ…じゃなくて、黒澤先輩が言ったみたいに、あのμ’sだって最初からスターだったワケじゃないんだから…みたいなことも書いてありましたね」

 

 

 

「…そうですか…」

 

 

 

「あの人もμ'sのファンだったのかなぁ…」

 

 

 

「ど、どうでしょうか…」

 

ダイヤの額に汗が滲んだ。

 

 

 

「あれ?具合悪いんですか?」

 

その様子を見て、千歌が尋ねる。

 

「い、いえ…少し暑く感じられまして」

 

まだ梅雨入りの発表はないが、確かに車内の湿度は高めだ。

 

「そうですね…すこし蒸しますねぇ…開けます?」

 

「ええ…」

 

ダイヤの返事を受けて、窓側に座っていた梨子が、少しだけ窓を開けると、海沿いを走るバスに、潮風が流れてこんできた。

 

「私はその手紙に励まされて…前を向くことができました。かな…いや、松浦先輩や曜ちゃんたちの助けがあってこそ…ですけどね」

 

「それは良かったですね…」

 

「はい!…あ、でも…その人にお礼が言えてないんですよ。名前が書いてなかったから…」

 

「それは…別にお礼など望んではいないのではないでしょうか。今後、高海さんが活躍する姿を見せればよいのかと…」

 

「それはそうなんですけど…少なくとも私たち以外にもμ'sファンがいるってことなのかな…と思いまして」

 

「そ、そうですね…ファンかどうかまではわかりませんが、伝説のスクールアイドルですし、どこかで聴いたことを書いたのではないでしょうか…」

 

 

 

「そうなんですかねぇ…でも、よかったです!先輩とルビィちゃんがμ'sのファンで」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

「探してたんです。この学校でμ'sについて一緒に語り合える人を」

 

 

 

「えっ?…」

 

 

 

「もちろん私には曜ちゃんっていう親友がいるから、彼女には色々聴いてもらってるんだけど、元々ファンってわけじゃないから、私が一生懸命話しても、いまいち反応が薄いんですよねぇ」

と千歌は苦笑しながら、自身の心境を述べた。

 

 

 

「はぁ…」

 

 

 

「でも、先輩は私よりμ'sのこと詳しそうですし…」

 

 

 

「当然ですわ。ファン暦が違いますもの」

 

少し勝ち誇ったように、ダイヤは胸を張った。

 

 

 

「ですから…その…友達になってもらえませんか!?」

 

 

 

「は、はい?」

 

 

 

「千歌ちゃん、友達って!」

 

いきなりの申し出に告げられたダイヤだけでなく、梨子も驚きの声を上げた。

 

 

 

「表現が正しいかどうかはわからないですけど…その…同じμ’sファンととして…仲良くできたらいいな…って思ったんですけど…」

 

 

 

「なるほど…そういうことですか」

 

 

 

「ダメ…ですか」

 

 

 

「…」

 

千歌の問い掛けに対し、彼女はしばらく腕を組んで考える。

 

そして、千歌が見つめる中

「わかりました。別に構いませんわ」

と答えを出した。

 

 

 

「本当ですか?」

 

目を輝かす千歌。

 

 

 

「確かに友達という表現はいかがなものかと思いますが…同じμ'sのファンとして、お互い親交を深めるというのは悪いことではないと思いますわ」

 

穏やかな表情でダイヤは言った。

 

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 

しかし

「その代わり…」

と、すぐに彼女の目つきは鋭くなった。

 

 

 

「は、はい…なんでしょう」

 

緊張の面持ちで、千歌は彼女を見た。

 

 

 

「先ほどの…穂乃果さんの妹さんの話…あとでゆっくり聴かせてくださいね?」

 

 

 

「あっ…も、もちろんです!!」

 

それを聴いてニコリと微笑んだダイヤ。

 

千歌も満面の笑みで、それを返す。

 

そして2人は…どちらからともなく硬い握手を交わしたのだった。

 

 

 

…

 

 

 

「千歌ちゃんって凄いね」

 

バスを降りて、家に向かう途中、梨子は彼女に向かって言った。

 

ふたりの家は隣同士だ。

玄関まで同じ道のりを歩く。

 

「えっ?凄いってなにが?」

 

「コミュニケーション能力とか、行動力とか…」

 

「私が?」

 

「うん…」

 

「そうかな?」

 

「前に…千歌ちゃんは自分のこと『普通怪獣』って言ってたでしょ?」

 

「今でも思ってるけどね」

 

「ううん、全然違うよ。全然、普通怪獣なんかじゃないよ」

 

「梨子ちゃん?」

 

「スクールアイドルを始めたことだってそうだし…思ったからって、普通はできないもん」

 

「それは、梨子ちゃんと曜ちゃんの助けがあったから…」

 

「それにあの生徒会長を、いとも簡単に仲間に引き入れちゃった」

 

「あはは…仲間に引き入れるって…」

 

「これまでのことを考えれば、急展開だよ」

 

「μ's好きの人に悪い人はないから」

 

「ふふふ…初めて聴いた」

 

「あはは…」

 

「でも…もしかしたら本当にできるかもね?」

 

「なにが?」

 

「先輩、後輩合わせて…9人のスクールアイドル!」

 

「あっ…」

 

「うん、千歌ちゃん見てたら、私もそんな気がしてきちゃった」

 

「あ、ありがとう!うん、やるよ、絶対!」

 

 

 

「その熱い気持ちが…もう普通じゃない…ってことに千歌ちゃんは気付かない?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「もう、全然、普通怪獣なんかじゃないよ」

 

 

 

「じゃあ…今は?…」

 

 

 

「『情熱怪獣』かな?」

 

 

 

「バイオリンの音楽が流れてきそうだね?」

 

 

 

「そうだね」

と言って梨子は笑った。

 

 

 

「情熱怪獣かぁ…なんか、そう言ってもらえて嬉しいよ」

 

「うん」

 

「よ~し、これからの活動に備えて、私はいっぱい詩を書きまくるうぞ!だから梨子ちゃんは…」

 

「千歌ちゃんに負けないように、いっぱいいい曲を作るよ!」

 

「競争だね!」

 

「うん!頑張るよ」

 

「あっ、おうちに着いちゃったね」

 

「そうだね」

 

「じゃあ、また明日」

 

「また明日」

 

 

 

窓を開ければお互いの顔が見える距離に住んでいる2人だが、一旦、次の朝まで、それぞれ別の時間を過ごす。

 

千歌と梨子は、別れの挨拶を交わすと、自分の家の玄関へと消えていった。

 

 

 

 

 

第三部

~完~

 

 

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