【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~ 作:スターダイヤモンド
コーチとコーチ
「おはよう」「おはようございます」の声と共に、千歌、梨子、ルビィ、花丸…それにダイヤ…の5人が朝練に集まった。
「えっ…ダイヤさんも?」
と驚く千歌。
彼女が来ることは、予想していなかったからだ。
「当然ですわ。妹が頑張る…と言うのですから、姉として協力せざるを得ないですもの」
「は、はぁ…まぁ…」
「それは…そうです…ね…」
2年のふたりは、少し間の抜けた相槌を打った。
「ねぇねぇ、こういうのって、何て言うのかな?親バカ?」
「親じゃないから…姉バカかな?」
「うちの美渡姉ぇとは真逆だね」
「たし…そう…かな?」
千歌の呟きに、一瞬「確かに!」と言いそうになった梨子だが、かろうじて言い直すことに成功した。
ルビィと花丸の1年生が加わった、新生『CANDLY』。
その臨時コーチに就任したのが生徒会長の黒澤ダイヤである。
彼女には…かつて『アクア』というグループを組んで活動していたが、志半ばで解散した…という過去があった。
その理由は未だ定かではないが…当初、千歌たちの行動に否定的だったのには、どうもその辺りが起因するらしい…ことは、明らかになってきた。
そのダイヤを、千歌のμ'sに対する愛情と、妹ルビィのスクールアイドルに対する情熱が動かした。
本人は「妹の為」と主張しているが、これまでの冷徹な雰囲気とは打って変わって、表情は明るい。
スクールアイドル活動に携(たずさ)われることが、まんざらでもない様子だ。
「この勢いで私たちのグループに参加してくれればいいのにな…」
「うん、そうだね…」
今、千歌たちが通う学校のスクールアイドルは、紆余曲折あった末、この『CANDLY』しかない。
所属メンバーは千歌、梨子、ルビィ、花丸と…本業である高飛び込み(水泳部)を優先する為、一時離脱している曜…の5人だ。
千歌はここに、ルビィたちと『ふぉ~りんえんじぇる』を組んでいた善子…スクールアイドルの先輩であるダイヤ、果南…そして理事長こと鞠莉…の4人を引き入れることを目論んでいた。
各学年3人ずつの…計9名…というメンバー構成は『あのμ's』と同じ。
もちろん、彼女たちを仲間にしたい理由はそれだけではなかったが、しかしμ'sに憧れる千歌にとっては、決して小さくない動機ではあった。
「おはよう!」
5人に遅れてやって来たのは、こちらも臨時コーチに就任した果南だ。
いや彼女の場合、千歌と梨子の面倒は見ていたので、ルビィと花丸が『果南に入門した』が正しい表現かも知れない。
「遅いですわ」
果南の姿を見たダイヤは、挨拶もそこそこに言い放った。
「ごめん、ごめん…海岸をひとっ走りしてから来たもんで…」
「はい?もう走って来たのですか!」
「まぁね…」
「まったく、あなたという人は…相変わらずですね…」
ダイヤは呆れたと言うよりは、少し苦笑いに近い表情を見せた。
「…で…なんでダイヤがいるわけ?」
「はい?」
「あんたも練習に参加するわけ?」
「わ、わたくしは…なんと言いますか…付き添いと言いますか…」
と、あたふたと答えるダイヤ。
それを見て果南は
「ふ~ん…まぁ、なんでもいいけど…若い娘たちの足を引っ張るんじゃないよ」
と言い、悪戯っぽく彼女の顔を見た。
「失礼ですね!まだ、そこまで老け込んでおりませんわ」
ダイヤは少し顔を紅くして、果南に反論した。
「ならいいけど…うん、こんな無駄話は時間がもったいないね…それじゃあ、早速始めようか!」
「はい!」
「よろしくお願いするズラ」
元気に返答する1年生のふたり。
その声は初夏の青い空と同じくらい、澄んでいる。
それから果南の指導の元、充分にストレッチを行った5人は、それぞれ神社の入り口から頂上を目指したのだった。
…
「ぜぇ…ぜぇ…やっと…頂上…」
「…うぅ…死ぬズラ…」
「これくらいで…ぜぇ…死には…ぜぇ…しませんわ…」
初夏の青空はどこへやら、完全に吹雪の中で遭難したかのような声のルビィ、花丸…それとダイヤ…。
「大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
自分たちが頂上に着いて、暫くしてからやって来た彼女たちに、千歌と梨子が声を掛ける。
「脚が…棒ですぅ…」
「膝が笑ってるズラ…」
「も、もちろん…大丈夫ですわ…」
「私たちも最初はそうだったんだよ」
「うん!でも、毎日続けてると、これだけの差が付く…ってことなんだね」
千歌は自分たちの成長を喜びつつ、後輩に自慢した。
「…黒澤先輩も…相当、キツそうですけど…」
「ひ、久々でしたので…少し、感覚がニブッていただけです。大したことはありませんわ!」
千歌の問いかけに、キッと目に力を込めて答えるダイヤ。
しかし
「ふふふ…強がっちゃって!やっぱり1年ちょっとのブランクは大きいんじゃない?これじゃあ、妹の付き添いだ…なんて言ってられないわよ」
と、果南がしたり顔でダイヤを煽った。
「黒澤先輩もやってたんですか?」
果南の言葉を受けて、梨子が何気なく問うた。
「してたわよ。わりとガッツリね!でも…まぁ…色々あって…あぁ、その話はどうでもいいんだけど…その時は若々しかったのになぁ…そんな醜態さらして、よくコーチなんて引き受けたよね!?…今の姿はさ…まるでお婆ちゃんだね、お婆ちゃん…ダイヤお婆ちゃん」
「ダイヤお婆ちゃん!?」
彼女を挑発するかのようなセリフに、一同が驚く。
「…」
だが、言われた本人は返す言葉がない。
ただ黙って、果南の顔を見ている。
「言われて当然でしょ?私は彼女たちの面倒を見る…って引き受けた以上、真剣にこのことと向き合っていくつもりでいるわ。あなたはどうなの?」
「それに関しては、私も…」
「違うね!」
「!?」
「今のダイヤは中途半端だよ。あなたが協力する理由は…妹がいるからとか、妹の為とか…それはウソじゃないかも知れないけど…まだ、どこかで千歌たちがスクールアイドルをすることに対して、認めてない部分がある」
「そんなことはありま…」
「ある!私にはわかる!」
「なぜ、そうだと…」
「だって…あの時の千歌と同じ顔してるもの」
「えっ?」
「私と同じ?」
「千歌さんと同じ?」
二人は、どちらからともなく、顔を見合わせた。
「果南ちゃ…松浦先輩、どういうことですか?」
「はい、どういうことでしょう?」
「千歌は…新歓で失敗したあと、曜ちゃんとのユニットを解散したんでしょ?でも、1年生が新しくユニットを組んだのを知って、どう思ったんだっけ?」
「えっ?…あぁ…えっと…情けないというか…悔しいというか…羨ましいというか…このまま終わらせていいのかな?もう一回やらなくていいのかな…って…」
「今のあなたも、たぶん、同じことを考えてるハズよ。みんながいるから…これ以上は言わないけど…つまらない意地を張ってないで…コーチだなんて高みの見物してないで、一緒にやればいいじゃない」
「えっ?果南ちゃん!?」
突然の一言に、つい千歌は、いつもの呼名を口にしてしまった。
「私は…スクールアイドルなんて柄じゃないし…興味もない。ダイヤが『やりたい』って言うから、ちょっと付き合ってあげただけ。だから、別に未練なんてないわ。でも、あなたは違うでしょ?今でも、やりたくて、やりたくて、やりたくて仕方なんでしょ?だったら、やればいいじゃない!私や鞠莉なんかよりも、ずっと趣味の合う仲間がいるじゃない!後輩だからとか関係なく、一緒に楽しめばいいじゃない!」
「果南さん…」
「私は千歌と約束したから…協力は惜しまない。私ができることは全力でサポートするわ。もちろん、梨子ちゃんも、1年生であっても…そして、ダイヤ…あなたであっても…」
「果南さん…黙って聴いておりましたが…言葉が過ぎましてよ!」
「そうかな?そんなことはないと思うけど…」
「えっ…えっと…まぁまぁ…落ち着いて…」
「う、うん…」
「そうズラ…落ち着くズラ」
「ふふふ…参りましたわ…果南さんは休学から復帰しても、果南さんのままでした」
「お姉ちゃん?」
突然、笑みを湛えた姉に、不思議がる妹。
「当たり前じゃない。人間、なかなか急には変わらなくてよ」
だが、果南はダイヤの言葉に、何の疑問も持たずに返答した。
どうやらこれはこれで二人の間では、意思の疎通が図られているらしい。
「本日は…これで勘弁して頂けますか?…ご指摘はご指摘として承りますので…」
「わかった…。私も初日から少し言いすぎたかな…とは思ってるんだけど…とはいえ、黙っていられない性格だから」
「はい、存じてますわ。逆に安心しました」
「?」
さっきまで険悪ムードに道溢れていた二人だが、よくわからないうちに和解しているようだ。
千歌たちは、果南とダイヤの顔を交互に見ながら、呆気に取られていた。
「さてと…何、ボーっとしてるのかな?急いで下に降りないと…あなたたち、遅刻するわよ?」
と果南は、早く走れ!とばかりに2~3回、腕振りをする。
「あっ…」
「じゃあ、私は先に行くから!千歌、梨子ちゃん、3人のことは任せたよ!…ってことで…あとはよろしく!」
そう言い放つと、彼女は疾風の如く階段を降りて言ったのだった。
~つづく~
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