【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

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煽り煽られ

 

 

 

 

ダイヤが朝練に初めて参加した日の放課後…。

千歌たちが屋上に向かうと、そこには既に果南の姿があった。

 

 

 

「遅~い!」

 

 

 

「き、気合入ってるねぇ…」

 

「言ったよね?私がコーチをするからには、中途半端は許さないと」

 

「言ったけどさぁ…忘れないでほしいのは、私たちスクールアイドルなんだよ!陸上選手になろう…っていうんじゃないんだから」

 

千歌は駄々を捏ねるように、腕をぶんぶんと上下に振った。

 

「わかってるわよ、それくらい」

 

そんな彼女を「はい、はい」と軽く手を振って果南があしらう。

 

 

 

「それより、ダイヤは?」

 

「多分、生徒会だと思います」

とルビィ。

 

「そっか…って、彼女はメンバーじゃなかったんだっけ?」

 

「はい、臨時コーチです」

 

「一緒に鍛えてやろうと思ったんだけど…なら、仕方ない。じゃあ、アップから始めようか」

 

「松浦先輩も一緒に走ればいいのに」

 

「千歌?」

 

「学校に来るようになって、体力が有り余ってるでしょ?」

 

「?」

 

「…おうちの手伝いの方が、力仕事も多し…」

 

「そりゃあ、まぁ…」

 

「体育の授業だけじゃ物足りないでしょ?」

 

「…それは…そうかな…」

 

「だから本当は自分も身体を動かしたく、てウズウズしてるんじゃないのかな?って」

 

「…」

 

「どうせなら、一緒に練習したらいいんじゃないかな?…って」

 

「なるほど…それはそうだね!…なんて言わないわよ!」

 

「む!」

 

「その手には乗らないから!だいたい、あなたたちに合わせてトレーニングしたって、なんの役にも立たないもの。コーチはコーチ!あくまでも私の親切心で、付き合ってあげてるだけなんだから」

 

「ちぇっ…」

 

「私の心配はいいから、無駄話しないでちゃんと走りなさい!」

 

果南は千歌を手で追い払った。

 

 

 

 

 

 

アップとストレッチ、筋トレにたっぷりと1時間を費やした4人のTシャツは、汗で肌に張り付いている。

 

「暑い~」

 

「疲れた…」

 

「死ぬズラ…」

 

「喉が渇きましたぁ…」

 

千歌がシャツの裾を絞ると『じゃじゃ』っとしずくが落ちた。

 

「うん、いい汗搔いてるね」

 

それを見て果南が笑う。

 

 

 

「ルビィちゃん、μ'sもこんなに練習してたズラ?」

 

「う、うん…多分…。海未さんっていう人が相当厳しかったみたいだから」

 

「そうなんズラ?」

 

「なんでも合宿の1日のメニューがランニング10㎞、遠泳10㎞、腕立てと腹筋が20セットづつあって…」

 

「げげっ…それじゃトライアスロン…」

 

「それから発声に、ダンスに精神統一…」

 

「もういいズラ」

 

花丸は、まだまだ続きそうなルビィの言葉を遮った。

 

「へぇ…さすがラブライブ優勝チームのことだけはあるわね!」

 

「い、いや…さすがにそれは誇張されてると思うよ!いわゆる…都市伝説…的な?」

 

果南がひときわ目を輝かせたのを見て、千歌がすかさずツッコんだ。

 

「そんなことないでしょ?やっぱり上を目指すならそれくらいのことはしないと…ねぇ?」

 

「…」

 

「なに黙ってるの?千歌はμ'sが見た景色を見てみたいんでしょ?これくらいの練習で弱音吐いてたら、その背中すら見えないわよ」

 

「わかってるけど…」

 

「μ'sか…私もそのメンバーだったらなぁ…そうしたら…」

 

「?」

 

「!!…ううん、なんでもない!」

 

果南は何か言いかけたが、千歌の視線を感じると、すぐにその言葉を飲み込んだ。

 

 

 

「ルビィちゃん、もうひとつ聴いていいズラ?」

 

「なぁに?」

 

「μ'sの練習場所も屋上だったみたいだけど…そこに屋根はあったズラ?」

 

「えっと…そこまでは詳しくないけど…」

 

「音ノ木坂の屋上に、屋根なんてなかったよ」

 

「おぉ!さすが出身者ズラ」

 

「それがどうしたの?」

とルビィが訊き返す。

 

「どうして、こんな日陰もできないような場所で練習してたんだろう…って思ったズラ」

 

「ただ単に練習場所がなかっただけ…ってことだったような…」

 

「うん、そう書いてあったね」

 

ルビィと千歌が『μ's伝説』に記載されていた情報を、花丸に伝えた。

 

「ただ単に、それだけ?…だったら、別にマルたちは別の場所で練習してもいいと思うズラ…」

 

「それはそうだけど…」

と梨子は相槌を打つ。

 

だが…

 

「マルちゃん、それは違うよ!サッカー部員が国立競技場に憧れるように!」

 

「野球部員が甲子園を目指すように!」

 

「スクールアイドルにとって学校の屋上は聖地なんだよ!!」

 

千歌とルビィが…最後はふたり口を揃えて彼女に訴えた。

 

「そ、そうなんズラ…ご、ごめんズラ…」

 

その気迫に押されて、頭を下げる花丸。

 

「…とはいえ…」

 

「…暑いです…」

 

 

 

「心頭滅却すれば、火もまた涼し…ですわ!!」

 

そこに…生徒会長登場。

 

 

 

「出た!」

 

「出た!とはなんですか!私はあなたたちのコーチなのですよ!」

 

「あはは…そうでした」

 

遅れてきた彼女の言葉に、千歌は苦笑した。

 

 

 

「いいタイミングで来たわね!筋トレまで終わったところなんだけど…このあとはアナタにまかせていいかな。正直、次は何をさせようかと思ってたの」

 

「そうですか」

 

「来なかったら10㎞のロードワークに出てた」

 

 

 

「おぉ!救いの神ズラ」

 

「生徒会長様ぁ」

 

「お姉ちゃん!!」

 

口々にダイヤを崇める。

 

 

 

「いいですわね、行きましょうか?」

 

 

 

「ひぃ!鬼ズラ!」

 

「悪魔だ!」

 

「うぅ…姉妹の縁を切るぅ」

 

掌返し。

口々にダイヤを罵った。

 

 

 

「ひどい言われようですね…ですが…μ'sの合宿の時の練習メニューなど…」

 

「それはさっき訊いたズラ…」

 

「どうせ私たちにはμ'sの背中すら見えないですから」

 

「…なにかありましたか?」

 

「さ、さあ…」

 

ダイヤの問いかけに果南は笑いながら首を傾げた。

 

 

 

「じゃあ、あとはよろしく」

 

「折角ですから、果南さんも一緒にやっていきません?」

 

「へっ?」

 

「朝は私が参加したのですから、今度は果南さんの番ですわ」

 

「そんな約束はしてないけど…」

 

「それはそうですが…今朝、私をおばあさん扱いしたものですから…果南さんはどうなのかと」

 

「心配無用!ダイヤと違って、ちゃんと鍛えてるから」

 

「ではダンスはいかがでしょう」

 

「ダンス?」

 

「まだ振り付けを覚えていますか?覚えておりますわね?ええ、覚えていますとも。毎日、あれだけ練習したのですから、忘れるハズはありませんよね…」

 

「そ、そりゃあ…」

 

「えぇ、その若さでまさか覚えてないなんて、あり得ませんもの…ということを証明してみましょう」

 

「よし、わかった!…って今日は何?さっきも同じようなことを言ったんだけど…そんなに煽ったって、私はもう、そういうことはしないって決めたんだから」

 

「かな…ん…いや松浦先輩の踊る姿、見てみたいなぁ」

 

「千歌ぁ!」

 

「だって、一度も見たことないんだもん!ちっちゃい頃からの付き合いなのに、一度も見たことないんだもん!」

 

「人に見せられるようなものじゃないから」

 

「でも、地区予選は勝ち抜いたんでしょ?それってすごいことだよね!」

 

「それは…たまたまこの地区のレベルが低かっただけ」

 

「…逆に言えば、周りの高校より上手かったわけでしょ」

 

「えっ…あ、うん…まぁ…」

 

「マルも見てみたいズラ」

 

「ルビィも見たいです」

 

「私も…見てみたいです」

 

「梨子さんまで…」

 

4人は両の手を胸の前で組んで、拝むように果南を見た。

 

「お願いしま~す!!」

 

「仕方がないわね…なんて言わないわよ、絶対」

 

「ケチ!」

 

「ケチで結構です~」

 

千歌の煽り文句に釣られて、果南は子供の様な言葉を返した。

 

それを見て3人が笑う。

 

 

 

「果南さん!」

 

「なに?」

 

「あなたが休学中に、ノートを取ってあげていたのは誰でしょう?」

 

「!!」

 

「何を隠そう、この私ですね?」

 

「…そ、それは…今、関係ないでしょ…」

 

「トレーニングのし過ぎで…授業中寝ているあなたを、いつもそっと起こしてあげているのは誰でしょう?はい、この私ですね」

 

「うっ…」

 

「幼い頃ハグと言って、いつも『サバ折り』されていたのは誰でしょう?ピンポーン、私です…わ」

 

「…汚いなぁ…そういう攻め方…」

 

「何もひとりで踊ってください…とは言っておりません。いかがでしょう?私と一緒に踊るというのは」

 

「はぁ…わかったわよ…やればいいんでしょ!やれば」

 

「はい」

 

「でも、一回きりだからね!」

 

「よろしいでしょう」

 

「なに?その上から目線は!…むかつくなぁ」

 

果南は冗談とも本気ともつかない表情で、そんな言葉を吐き出したのだった。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

 

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