【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

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一進一跳!

 

 

 

 

「おぉ!ナイスタイミング!」

 

突然聴こえた声に、そこにいた全員の視線が屋上の出入口に集まる。

 

 

 

「曜ちゃん!?」

 

 

 

ひょっこりと現れたのは渡辺曜だった。

 

 

 

「部活は?」

 

彼女は「しばらく高飛び込みの練習に打ち込む」と、千歌たちのアイドル活動から離脱中である。

それが何の前触れもなく、いきなり姿を見せたのだから、千歌がそう訊くのは当然のことだった。

 

 

 

「う、うん…えっと…色々あって…」

 

 

 

「色々?」

 

 

 

「そ、それより、松浦先輩のダンスが見られるんでしょ?」

 

その話題に触れられたくないのか、千歌の反問を無視するようにして果南に話を振った。

 

 

 

「あら、聴いてたの?」

 

 

 

「何やらお取込み中だったもので、入るタイミングを窺ってたら…まぁ…結果的にそうなりました」

 

曜は苦笑いをしながら、千歌たちの方へと歩を進めていく。

 

 

 

その姿を横目に

「良かったですね。ギャラリーが一人増えましたわ」

とダイヤ。

 

 

 

「なにがどういいのよ?」

 

 

 

「それは…スクールアイドルたるもの、ひとりでも多くの方に観て頂くことに、活動の意義がある…と思いまして」

 

 

 

「なるほどね…って…あなたも私もスクールアイドルではないけど…」

 

 

 

「確かに…おっしゃる通りですわ」

 

くすり…とダイヤは笑った。

 

 

 

「まぁ、いいわ。ここまで来たら、一人増えようが、二人増えようが一緒、一緒!終わったら私は家に帰るから、さっさと踊るわよ!」

 

先ほどまではあれほど嫌がっていたのに、いざ踊ると決めたら潔い。

根っからの体育会系…そんな性格が透けて見える。

 

「さぁ、何にするの?ぼやぼやしてないで、早くやるよ!」

 

手を二度ほど叩いて、逆にダイヤを煽った。

 

 

 

「ふふふ…果南さんのそういうところ…変わってませんね」

 

 

 

「ほらほら、そういうのいいから!私の気が変わらないうちに早くして!」

 

 

 

「はい、わかりましたわ!では…あの曲にしましょうか?」

 

 

 

「あの曲…って…あの曲?」

 

それだけで果南はピン!と来たようだ。

 

 

 

「はい!やるからには、やはり一番…」

 

 

 

「あ~わかった!わかった!御託はもういいよ!」

 

 

 

「では…しばしお待ちを…」

 

ダイヤはそういうと自分のスマホを取り出し、なにやら画面を操作する…。

 

 

 

ボリュームをフルにした「それ」から聴こえてきたのは、エレキギターの音と少女たちの「OH!YEAH!」という掛け声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

踊り終わったダイヤは「ぜぇぜぇ」と息を切らしている。

スタミナには絶対の自信を誇る『筋肉お化け』の果南でさえ、呼吸を荒くしていた。

故に、それがどれだけ激しいものだったかがわかる。

 

 

 

その二人のダンスを見終わった千歌たちは、少し呆気に取られていたが、すぐに精一杯の拍手を送った。

5人の手を叩く音が、屋上のコンクリートに反射する。

 

 

 

「すごいよ!すごいよ!ねぇ?曜ちゃん!梨子ちゃん!…かな…ん…いや松浦先輩がこんなに踊れるなんて」

 

「うん!びっくりしたよ」

 

「カッコ良かった」

 

「さ、さすが…マルたちに厳くするだけのことはあるズラ…」

 

 

 

「お姉ちゃんって…やっぱり、すごい!」

 

 

 

「そこは『松浦先輩って!』…でしょ?」

とルビィを軽く睨む果南。

 

 

 

「えっ?あ…も、もちろんです!!」

 

 

 

「妹を脅すのは、やめてくださいませんこと?」

 

 

 

「いや、脅してないから!」

 

彼女はこわばった表情をすぐに崩した。

 

そして

「どう?これで満足した?」

とキャラリーに問い掛けた。

 

 

 

「満足も何も…もっともっと見たくなっちゃったよ!」

 

 

 

「だ~め!こんなことするのは今日が最初で最後なんだから」

 

 

 

「いいものを観させてもらったであります」

 

 

 

敬礼して果南を見る曜に

「それはどうも」

と彼女は軽く手を挙げた。

 

 

 

「ねぇ…千歌ちゃん…」

 

「なぁに?梨子ちゃん」

 

「今の曲って…ひょっとして…」

 

「うん、μ'sの…」

 

 

 

「はい!μ'sの曲の中でも一番動きが激しいと言われている『No Brand Girls』ですぅ」

 

千歌を遮るかのように、梨子に答えたのはルビィだった。

 

「動画で公開されているμ'sの曲は、全部で14曲(※)あります。そのほとんどが、横揺れの2ステップが基本なんですが、No Brand Girlsだけは唯一縦揺れなんです」

※【ラブライブ物語Vol.4】第139話参照

 

 

 

「そうなんだ…」

 

 

 

「衣装もとても格好いいのですわ」

 

「うん!…私には似合わないと思うけど…」

 

「この曲は大雨の中で披露されたのですが、彼女たちの身体から湯気が立ち昇り…何度見ても心熱くするステージなのです!」

 

妹に負けじと姉も力説する。

 

「そして高熱を押してパフォーマンスをしていたリーダーの穂乃果さんが、倒れちゃうんだよね?」

 

 

 

「倒れたって…死ん…」

 

 

 

「ブッブー!!…いやですわ、梨子さん!穂乃果さんは生きています!縁起でもないことを言うのはやめてください!」

 

 

 

「で、ですよね…」

 

梨子はついこの間、彼女に会いに出掛けたことを思い出し、愚問だったことに気が付いた。

そして『海未が事故死した』というデマが流れたことも。

ダイヤが過敏に反応したのは、そのこともあってのことだろう。

 

 

 

「…すみません…」

 

 

 

「ですが…そういうアクシデント込みで、やっぱり『ノーブラ』は最高に盛り上がる神曲ですわ!!」

 

しかし、梨子の反省など、どうでもいいとばかりに、ダイヤの言葉は止まらない。

 

 

 

「ノーブラ…ズラ?」

 

 

 

「…あら、花丸さん。そういう意味ではありません」

 

 

 

「わ、わかってるズラ」

 

 

 

「そして何より、この曲の素晴らしところは…『♪目~指す場所は…』からの」

 

「『絵里さんと花陽さんの絡み』ですぅ!!」

 

 

 

なるほど。

ダイヤの推しは絵里、ルビィの推しは花陽。

家でふたり揃って、そのパートを真似していたことは容易に想像できる。

 

 

 

「あぁ、絵里さんて、なんて美しくのでしょう」

 

「あぁ、花陽さんて、どうしてあんなに可愛いんだろう」

 

どうやらこの姉妹はμ'sの話となると、ふたり揃って完全にオタク化してしまうようだ。

うっとりとした顔をして、ふたりの視線は遠いところを彷徨った。

 

歴は浅いとは言え、千歌もμ'sファンのひとりである。

だが会話に入る隙がない。

このあとも次から次へと『えりぱな』の魅力を語り、キャッキャッと騒ぐダイヤとルビィだったが…やがて、その周りの冷めた空気を察知して、自我を取り戻した。

 

 

 

「…ご、ごほん…私としたことが…取り乱してしまいましたわ」

 

「う、うん…ルビィも…」

 

 

 

「い、いいよ、全然…まさか生徒会長がこんな人だとは思ってなかったから、ちょっと驚いただけで…」

と千歌。

 

 

 

「驚いたと言えば…やっぱり…松浦先輩のダンスですぅ」

 

 

 

「いいわよ、ルビィ。取って付けたように言わなくても」

 

 

 

「いえいえ、本当にすごかったです!この曲を、あんなに完璧に踊れるなんて!」

 

 

 

「あなたのお姉さんにタップリ仕込まれたからねぇ…自転車や泳ぎと一緒で、一度覚えたら、そう簡単に忘れないみたい」

 

 

 

「そういうものですか?」

 

 

 

「わかんない、多分そうじゃないかな…って」

 

 

 

「御見それしましたわ」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「さすが果南さんです。どうやら私はアナタを見くびっていたようです」

 

 

 

「あぁ…お陰様で体力に関しては、寧ろ以前より上がってるからねぇ」

 

 

 

「えぇ、それはそうですが…ステップもフリも見事なものでした」

 

 

 

「そう?褒められても何も出せないけど…」

 

 

 

「…それだけに…もったいないです」

 

少しだけダイヤの声のトーンが変わった。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「あなたはこれだけの才能がありながら…」

 

 

 

「ダイヤ!!」

 

 

 

「!!」

 

 

 

「その話はしない…って約束でしょ!?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「じゃあ、私はこれで帰るから…あと、宜しく!」

 

 

 

「あ、あ…えっと…ありがとうございました。明日も宜しくお願いします!!」

 

千歌が礼を言うと、梨子たちも一斉に頭を下げた。

 

 

 

それを背中で聴いた果南だったが、何も言わずに屋上を後にした。

 

 

 

 

「お姉ちゃん?」

 

果南に一喝されたダイヤは、しばし黙っていた。

 

しかし妹に声を掛けられると

「失礼しました。では今日の練習は始めましょうか」

と切り出したのだった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

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