【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~ 作:スターダイヤモンド
千歌と曜の後ろに立っていた生徒は…パッと見、日本人というよりは西洋人。
髪と肌の色だけでなく、身体つきも日本人離れしていて『グラマラス』という形容詞がピッタリである。
「ま、鞠莉さん…盗む聴きとは趣味が悪いですわ」
その姿を見て、ダイヤは彼女の名前を呼んだ。
「ソーリー…バット…外まで声が聴こえま~した…ア~ンド…今は理事長と呼んでくださ~い!」
「あぁ…まったくややこしいですわ!!どっちだって良いではないですか!」
ダイヤはムッとしながら、頭を掻く。
彼女がイラつくのも無理はない。
その理由は…この学校の…というより、…今、現れた生徒…の立場が複雑すぎるからだ。
金髪の少女は名前を…『小原鞠莉』…という。
彼女は地元では有名な『小原財閥』の娘でダイヤと同じ、高校3年生。
父親はリゾートホテルチェーンを大規模に展開している社長だ。
自宅はそのホテルの中にあり、プライベートヘリを所有している…と言えば、どれほどのセレブか想像できよう。
つまり『超が付くほどのお嬢様』なのである。
彼女の父親はイタリア系アメリカ人、母親は日本人の…いわゆるハーフで…つまり見た目が日本人っぽくないのは、その為だと言える。
しかし問題なのは、そのことではない。
一番、周りが混乱する要因は…彼女が『学校の理事長』だということだ。
それも、ついこの間…新学期が始まった、ほんの3日前に就任したばかりである。
正確なことを言えば…海外を飛び回り、ほとんど日本にいない父親が理事長で…彼女は『代理』なのだが、それでも『学校運営の全権を任されてた』ということには変わりない。
この辺りは日本人の感覚ではなかなか受け入れないが、海外では学力さえあれば、10歳だろうと5歳だろうと、大学への飛び級が認められたりする。
それにイメージは近いのかも知れない。
鞠莉の父親は、彼女を理事長足り得る資格があると判断した訳である。
我々の常識は、必ずしも世界のスタンダードではないということだろう。
従って鞠莉は『生徒でありながら理事長』…いや『理事長でありながら生徒』という、なんともややこしい肩書きを持つに至ったのである。
普通なら生徒や保護者からクレームのひとつも起きそうだが、そこはあくまで『代理』だということと…やはり、どことなくのんびりとした地域性が相まって、大事(おおごと)にはならなかったようだ。
「それなら理事長の時は『今は理事長です』と『襷』でも付けてください」
「『タヌキ』ですか?」
と鞠莉。
マジボケなのか判断が付きづらい、その言葉に…それでも
「『タヌキ』ではありません!『タスキ』です!名前を大きく書いて、肩から斜め掛けにする布の輪っかです」
とダイヤが説明した。
いちいち面倒ですわ…と顔に書いてある。
「Oh!…タスキ!…それはグッドアイディアで~す」
「軽くバカにしてますね?」
ダイヤは鞠莉を睨む。
「ノー、ノー、ノー、ノー…」
彼女はバイバイをするみたいに、両手を振った。
「あの…それで私たちはどうすれば…」
ダイヤと鞠莉の間に挟まれた、千歌と曜。
しかし、その存在を忘れているかのような2人に、堪らず声を掛けた。
「えっ?…あっ…ゴホン!…と、とにかく、当校でのスクールアイドル活動は認めません!」
「ダイヤさん!」
鞠莉はそう叫んだが
「わかりました!」
と千歌はアッサリ承諾した。
「えっ?千歌ちゃん!?」
「曜ちゃん、行くよ!」
「えっ?えっ?」
千歌は生徒会長に一礼すると、スタスタと部屋を出て行ってしまった。
「ま、待ってよ!…あ、失礼します…」
曜も彼女に頭を下げると、慌てて千歌を追う。
部屋には生徒会長と理事長が残った。
「ダイヤ…今のはナッシングです!彼女たちがシャイニーするチャンスを奪ってはいけません!」
「…それは…理事長としての意見?それとも友人としての意見?…」
「…」
「鞠莉さんもわかるハズですわ…私の気持ちが」
「オフコース!」
「…でしたら…」
「バット!!…私たちは私たち…彼女たちは彼女たち…。ダイヤの考えはナンセンスで~…」
ダイヤは鞠莉の言葉が終わらないうちに、自分の顔を彼女の顔にグッと近づけた。
「キ、キスなら今はノーサンキューで~す…それはあとでマイルームで…」
「ふざけないでください!」
「ホワッツ?」
「貴女…何を企んでいるのですか!?」
「!」
「長い付き合いですから…目を見ればわかりますわ…」
「…それなら…それは見込み違い…。私はただ、彼女たちが輝く場を奪いたくないだけ。それ以下でも、それ以上でもないわ…」
これまでとは打って替わって、鞠莉は『流暢な日本語』で言った。
どうやら彼女は、話し方を使い分けることができるようである。
「鞠莉さん…」
真顔の彼女を見て、ダイヤも呟く。
しかし
「…などと、それで私が騙されるとでも思っているのですか!」
と叫んだ。
「オーマイガッ!さすがダイヤで~す…あっ!そうそう、用があるのを忘れてた!…ということで、私はこれでドローンします…」
「ま、鞠莉さん!!」
「チャオ!」
「えっ?チャオって…鞠莉さん!?…はぁ…行ってしまいましたわ…まったく…」
…本当に貴女は、何を考えているのですか…
…それと…
…それは『ドローン』でなく『ドロン!』ですわ…
ダイヤは疲労困憊と言った表情で、ドカッとイスに座り込んだ。
一方、生徒会長を飛び出して行った千歌。
後ろから曜が追いかける。
「ちょっと、千歌ちゃん!そんなにすぐに諦めちゃっていいの?千歌ちゃんのやりたい気持ちってそんなものなの?」
その声には怒気が含まれていた。
普段はあまり千歌に対して、感情を露わにしない曜だが、あまりに簡単に引き下がった彼女に、気持ちを抑えられなかった。
しかし
「大丈夫だよ!私は諦めてないから」
と千歌は笑った。
「えっ?」
「あはは…だから、私は諦めてないよ」
「でも…」
「うん、今日は一旦、撤退しただけ…。また、明日、出直すから」
「千歌ちゃん?」
「確かに、サークルの申請とか出してなかったし…準備不足だった」
「…それはそうだけど…」
「生徒会長のことも、調査不足だった…」
「調査不足って…」
「ちゃんと攻略法を考えないと…」
「攻略法?」
「曜ちゃん…ちょっと果南ちゃんのとこ、付き合って!」
「果南ちゃん…じゃなくて、松浦先輩でしょ?」
「学校の外なら果南ちゃんでいいの!」
「まぁ、本人がいいならいいけど…」
「生徒会長さ…なんか変じゃなかった?」
「う~ん…普段がどういう人かあまり知らないから…」
「スクールアイドル…って言ったとたん、顔色が変わったんだよね…」
「確かに、少し違和感はあったけど…」
「きっと何かあると思うんだ」
「何かって?」
「それがわからないから、果南ちゃんのとこに行くんだよ」
「なるほど…」
「でもね…反対された瞬間、これは大丈夫!って思ったんだ」
「えっ?」
「あのμ'sも…スクールアイドルを始めた時は、生徒会長に反対されたんだよ。でも、その人も最終的にはメンバーになるの」
…これは千歌の認識に誤りがある。
音ノ木坂の生徒会長だった…『絢瀬絵里』…は、スクールアイドルの活動自体を否定していたわけではない。
μ'sの発起人…『高坂穂乃果』…の『ラブライブに出て、学校名を世に広めて、廃校の危機から救う』という考えに反対したのである。
しかし、千歌にとって、それは『誤差の範囲』なのかも知れない。
憧れのμ'sと同じ状況…それを僥倖と捉えたようだ。
「ね?私たちと同じでしょ?」
…千歌ちゃん、いつになくポジティブ!そしてアグレッシブ!…
曜は久々に前向きな彼女を見て、嬉しくなった。
それと同時に、これから先の…何が起きるかわからないという…なんとも言えない期待感に気分が高揚していくのがわかった。
~つづく~
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