【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~   作:スターダイヤモンド

6 / 44
ダイビングショップ

 

 

 

「か~な~んちゃん!」

 

「千歌!?…何回も言ってるでしょ!『…ちゃん』じゃなくて『…先輩』だって」

 

ほら言われた!…と曜は千歌の顔を見た。

 

しかし

「でも、先輩!って感じしないんだよね。そもそも学校に来てないし」

と、千歌はまったく意に介さず…という様子で言う。

 

「だとしても、絶対に他の人の前で言ったらダメよ…って…あら、曜ちゃんも一緒だったの?」

 

「こんにちわ」

 

曜はペコリと頭を下げた。

 

 

 

「忙しそうだねぇ」

と千歌。

 

「そう思ったら手伝ってよ。そこのボンベ、こっちに運んで!」

 

「まったく、人使いが粗いな…」

 

「昔から言うでしょ?『立ってるモノは親でも使え』…ってね!」

 

そう言って彼女は、悪戯っぽく笑った。

 

 

 

彼女たちが訪れたのは…とあるダイビングショップ…だ。

 

そこに…『松浦果南』…がいた。

 

実測値で言うと、訪ねてきた2人よりも5㎝ほど背が高いのだが…そのスタイルのせいか、もう少し上背があるように見える。

 

 

 

「しかし、相変わらずのナイスプロポーションだね!羨ましい限りだよ」

 

ひとしきり仕事を手伝ったあと、千歌が呟く。

 

ピッタリとしたウェットスーツに身を包んだ彼女は…身体のラインが露わになっていて…毎回それを見る度、千歌は羨ましそうにそう言う。

 

「そうかな?あなたたちの方がエッチじゃない?胸の大きさだって、私と変わらないし…曜ちゃんなんて、いつも競泳用水着だし」

 

「私は先輩と違ってチビだから…それに水着で外には出歩きませんし」

と曜は苦笑する。

 

「果南ちゃんみたいにクビレのあるウエストになりたい…」

 

「なら、千歌…朝、一緒に走り込みする?」

 

「えっ?…えっと…それは…遠慮しようかな…」

 

千歌は、あはは…と笑ったあと

「…果南ちゃんの胸のサイズ、絶対逆サバだよね?どう考えても私と一緒ってあり得ないんだから」

と曜の耳に囁いた。

 

 

 

「…それより、何かあった?」

 

果南はショップの中に2人を招き入れる。

 

「うん…まぁ…」

 

 

 

「?」

 

 

 

「あのさぁ…生徒会長ってどんな人?」

 

「ん?生徒会長?…ダイヤのこと?」

 

「うん…黒澤ダイヤさん…」

 

「ダイヤがどうかした?」

 

「実は…」

と、千歌は今日の顛末を果南に話した。

 

 

 

「なるほど…」

 

一通り話を聴き終わった果南。

彼女は表情を崩すことなく、そう呟いた。

 

そして

「スクールアイドル…千歌がねぇ…」

と唸った。

 

 

 

「何かおかしい?」

 

「ううん…別に…。あなたがそれに夢中になってる…っていうのは、前から聴いてたから、私はそんなに驚かないんだけど…生徒会長は…ダイヤはあまりに突然のことでビックリしたんじゃないかな?」

 

「そうかなぁ?何か異常に拒否反応を示してたように見えるけど」

 

「スクールアイドルがどういうものかは、知ってると思うんだよねぇ…その上で…あなたの本気度を確認した…ってことはない?」

 

「そういえば『ラブライブを目指すのか?』って訊かれたっけ?」

 

「それで千歌はなんと?」

 

「いや…そこまでは考えてない…と…」

 

「それかもね!?…やるからには中途半端はやめなさい…そう言いたかったのかも」

 

「う~ん…そうなのかな…」

 

「そうしたら、もう一回、あなたの本気を伝えてみたら?」

 

「私の本気?」

 

「そう。どうしてあなたがスクールアイドルになりたいのか…どういう風になりたいのか…ダイヤはああ見えて、すごく情熱家なんだよ」

 

「情熱家?逆に凄く冷たい人かと思ってたけど…」

 

「見た目がああだし、口調もああだから…誤解されやすいんだよねぇ…。でも、そうじゃなければ、好き好んで生徒会長なんてしないわよ」

 

「確かに…」

と曜が頷く。

 

「そっか…ただ『やりたい』じゃなくて…『どうしてやりたいか』『どうなりたいか』…それを訴えれば、ちゃんとわかってくれるかも!ってことだね?」

 

「保証はできないけど…」

 

「うん!ありがとう!やっぱり果南ちゃんに相談して良かったよ」

 

「そう?まぁ、健闘を祈るわ」

 

果南はそう言うと表情を崩した。

 

 

 

「さて、それはそれとして…」

と少し間を空けて千歌。

 

 

 

「?」

 

 

 

「果南ちゃんは、いつから学校に来るの?このまま、ずっと休んでたら、留年しちゃうんじゃない?」

 

「そうね…そこは上手くやるつもりだけど…お父さんの回復状況次第かな?もうすぐ復帰出来ると思うんだけど…」

 

「何か手伝えることがあったら言って下さい。泳ぎと体力なら先輩にも負けないですから」

 

「曜ちゃん、ありがとう…。『手伝って』って言うと、すぐに逃げ出す誰かさんとは大違いだね」

と、果南は千歌の方を向く。

 

「はて、なんのことやら…」

 

千歌は、その視線を避けるかのように顔を背けた。

 

 

 

「そうそう…手伝って!って言えば…私の家の隣に越してきた娘がさ…あ、うちの学校の生徒で、私たちと同い年なんだけど…海に潜りたいようなことを言ってたんだよねぇ。今度、連れてきてもいい?」

 

「もちろん!」

 

果南は親指を立てて、千歌に答えた。

 

 

 

 

 

「付き合わせちゃってゴメン…」

 

ダイビングショップを出た2人。

千歌は手を合わせて、曜に「ありがとう」と感謝を意を表した。

 

「ううん、全然…」

 

「部活…行かなくて良かった?」

 

「うん、大丈夫…。ほら、今、ちょっと調子が悪くって…気分転換も必要かな…って。悪い時はとことん悪くなっちゃうから、たまにはリセットしないとね」

 

「ならいいけど…負担になるようなら、やっぱり悪いなぁ…って」

 

「心配しないの!千歌ちゃんが珍しく前向きなんだもん。こんなこと、今後、一生無いかもしれないでしょ?だから、ちゃんと手伝ってあげるよ」

 

「ははは…」

 

 

 

「あれ?」

 

千歌の乾いた笑いを遮るように、曜は首をぐるりと後方に向けた。

 

 

 

「ん?どうかした?」

 

「今、反対方向を歩いて行った人…」

 

「えっ?」

 

「生徒会長じゃない?」

 

「あっ…」

 

彼女たちは、海沿いの道の…陸側を歩いていた。

その反対方向を…既に後ろ姿しか見えないが…間違いなく曜の指摘した人物が遠ざかって行く。

 

 

 

「どこに行くんだろう?」

 

「どこ…って…ここを歩くってことは先輩のとこじゃない?」

 

「生徒会長が?果南ちゃんのとこに?」

 

千歌と曜は、しばし彼女の行き先を見送った。

 

 

 

 

 

「果南さんはいらっしゃいます?」

 

千歌と曜の想像通り、ダイビングショップを訪れたのは、ダイヤであった。

 

ごめん、ちょっと待ってて…と部屋の奥から声がする。

少しして、ウェットスーツからパーカーのセットアップに着替えた果南が出てきた。

 

「あら…噂をすれば影…」

 

訪問者を見て、果南は思わず呟いた。

 

「はい?」

と怪訝な顔をするダイヤ。

 

「ううん…何でもない。それよりどうしたの?ここに来るなんて珍しいじゃない…」

 

まぁ、座って…と果南は、ショップ内の椅子に腰掛けるようダイヤに促した。

 

「相談事があって参りましたわ」

 

「鞠莉と仲違いでもした?」

 

「!?」

 

「別に驚くことじゃないわよ。あなたの相談…って言えば、十中八九そのことなんだから…」

 

「さすが果南さんですわ」

とダイヤは帽子を脱ぐ仕草をする。

 

「それで…何を揉めているの?」

 

「…揉めているという程のことではありませんが…実は、今日、下級生からスクールアイドルをやりたいとの申し出がありまして…」

 

「へぇ、そうなんだ…」

と表情を変えずに返答する果南。

 

 

 

…こういうのをニアミスっていうのかしら…

 

 

しかし心の中では軽く笑みを浮かべていた。

 

 

 

「私はそれを却下したのですが…鞠莉さんは問題ないと…」

 

「ふ~ん…そう…私も別にいいと思うけどな…。ダイヤにそれを止める権利はないんじゃない?」

 

「果南さん!?」

 

「ダイヤの気持ちもわかるけど…それは『その娘』たちには関係ないことでしょ…」

 

「鞠莉さんにも同じことを言われましたわ」

 

「でしょ?それで『私たちの過去』がどうこうなるものでもないんだし…」

 

「…それは理解しているつもりです…。私もその時はつい感情的になってしまい…反省しています」

 

「なら、別にそれでいいじゃない」

 

「ですが…鞠莉さんが賛成している理由はそれだけではないと思うのです!!」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「あの目は…何かを企んでいますわ」

 

 

 

「…」

 

 

 

「果南さんならわかるハズです。鞠莉さんが何かをしようとしている時の…雰囲気と言いますか、空気と言いますか…目がワクワクしているのです」

 

「あぁ…あれか…。そうね…いつも突然、思いもよらぬ行動をするから…それは確かに不安かもしれないけど…」

 

「はい」

 

「でも…やっぱり、それはそれ、これはこれ。『やりたい』と思っているなら止められないわ。ダイヤが逆の立場だったら、理由もなく却下されて納得できる?」

 

 

 

「…」

 

言葉に詰まるダイヤ。

 

 

 

「…ってこと」

 

「…かしこまりましたわ…」

 

「はい、これで一件落着!!」

 

果南はパチン!と手を叩いた。

 

 

 

「最後にひとつ、よろしいでしょうか?」

 

「どこかで聴いたことがあるセリフね」

 

「その娘たちがスクールアイドルをしている姿を…果南さんは直視できまして?」

 

 

 

「…」

 

今度は果南が口ごもった。

 

 

 

「私は正直、自信がありませんわ」

 

「ダイヤ…」

 

「以上です!」

 

「あっ…うん…」

 

「あと…これは別件ですが…」

 

 

 

「?」

 

 

 

「いつまで学校を休むつもりで?」

 

「…そうね…それはもう少し…」

 

「まさか、このまま留年なんてことはないですよね?」

 

「ど、どうかな?…あり得るかも…」

 

「許しませんからね!!果南さんが後輩になるなんて、そんなこと許しませんから」

 

「いいじゃない。どうせダイヤは卒業しちゃうんだから…一緒に通うわけじゃないんだし」

 

 

 

「いいえ!何があっても3人一緒に証書をもらうのです!」

 

ダイヤは机を叩かんばかりの勢いで、椅子から立ち上がった。

 

 

 

「3人?」

 

 

 

「もちろん、私と果南さんと…鞠莉さんですわ」

 

 

 

「…そこで鞠莉は関係ないでしょ?…」

 

「いえ、そういうワケにはいきません!」

 

「ダイヤ…」

 

「約束は約束。それはしっかりと守ってもらいますわ。…それとも…このままおかしな誤解を与えたまま、一生を終えるつもりですか?」

 

「そうは思っていないけど…」

 

「ご家庭の事情は理解しておりますが、早く学校に戻ってきてください!毎日毎日、果南さんのノートを取るのも大変なのですから」

 

「そうね…感謝してるわ」

 

「では…あまり長居して、お仕事の邪魔をするのも悪いので、私はこれで失礼しますわ…」

 

「うん、わかった。気を付けて…」

 

果南は一緒に外に出ると、ダイヤの姿が小さくなるまで見送った。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

 

 

この作品の内容について

  • 面白い
  • ふつう
  • つまらない
  • キャラ変わりすぎ
  • 更新が遅い

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。