【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~ 作:スターダイヤモンド
「か~な~んちゃん!」
「千歌!?…何回も言ってるでしょ!『…ちゃん』じゃなくて『…先輩』だって」
ほら言われた!…と曜は千歌の顔を見た。
しかし
「でも、先輩!って感じしないんだよね。そもそも学校に来てないし」
と、千歌はまったく意に介さず…という様子で言う。
「だとしても、絶対に他の人の前で言ったらダメよ…って…あら、曜ちゃんも一緒だったの?」
「こんにちわ」
曜はペコリと頭を下げた。
「忙しそうだねぇ」
と千歌。
「そう思ったら手伝ってよ。そこのボンベ、こっちに運んで!」
「まったく、人使いが粗いな…」
「昔から言うでしょ?『立ってるモノは親でも使え』…ってね!」
そう言って彼女は、悪戯っぽく笑った。
彼女たちが訪れたのは…とあるダイビングショップ…だ。
そこに…『松浦果南』…がいた。
実測値で言うと、訪ねてきた2人よりも5㎝ほど背が高いのだが…そのスタイルのせいか、もう少し上背があるように見える。
「しかし、相変わらずのナイスプロポーションだね!羨ましい限りだよ」
ひとしきり仕事を手伝ったあと、千歌が呟く。
ピッタリとしたウェットスーツに身を包んだ彼女は…身体のラインが露わになっていて…毎回それを見る度、千歌は羨ましそうにそう言う。
「そうかな?あなたたちの方がエッチじゃない?胸の大きさだって、私と変わらないし…曜ちゃんなんて、いつも競泳用水着だし」
「私は先輩と違ってチビだから…それに水着で外には出歩きませんし」
と曜は苦笑する。
「果南ちゃんみたいにクビレのあるウエストになりたい…」
「なら、千歌…朝、一緒に走り込みする?」
「えっ?…えっと…それは…遠慮しようかな…」
千歌は、あはは…と笑ったあと
「…果南ちゃんの胸のサイズ、絶対逆サバだよね?どう考えても私と一緒ってあり得ないんだから」
と曜の耳に囁いた。
「…それより、何かあった?」
果南はショップの中に2人を招き入れる。
「うん…まぁ…」
「?」
「あのさぁ…生徒会長ってどんな人?」
「ん?生徒会長?…ダイヤのこと?」
「うん…黒澤ダイヤさん…」
「ダイヤがどうかした?」
「実は…」
と、千歌は今日の顛末を果南に話した。
「なるほど…」
一通り話を聴き終わった果南。
彼女は表情を崩すことなく、そう呟いた。
そして
「スクールアイドル…千歌がねぇ…」
と唸った。
「何かおかしい?」
「ううん…別に…。あなたがそれに夢中になってる…っていうのは、前から聴いてたから、私はそんなに驚かないんだけど…生徒会長は…ダイヤはあまりに突然のことでビックリしたんじゃないかな?」
「そうかなぁ?何か異常に拒否反応を示してたように見えるけど」
「スクールアイドルがどういうものかは、知ってると思うんだよねぇ…その上で…あなたの本気度を確認した…ってことはない?」
「そういえば『ラブライブを目指すのか?』って訊かれたっけ?」
「それで千歌はなんと?」
「いや…そこまでは考えてない…と…」
「それかもね!?…やるからには中途半端はやめなさい…そう言いたかったのかも」
「う~ん…そうなのかな…」
「そうしたら、もう一回、あなたの本気を伝えてみたら?」
「私の本気?」
「そう。どうしてあなたがスクールアイドルになりたいのか…どういう風になりたいのか…ダイヤはああ見えて、すごく情熱家なんだよ」
「情熱家?逆に凄く冷たい人かと思ってたけど…」
「見た目がああだし、口調もああだから…誤解されやすいんだよねぇ…。でも、そうじゃなければ、好き好んで生徒会長なんてしないわよ」
「確かに…」
と曜が頷く。
「そっか…ただ『やりたい』じゃなくて…『どうしてやりたいか』『どうなりたいか』…それを訴えれば、ちゃんとわかってくれるかも!ってことだね?」
「保証はできないけど…」
「うん!ありがとう!やっぱり果南ちゃんに相談して良かったよ」
「そう?まぁ、健闘を祈るわ」
果南はそう言うと表情を崩した。
「さて、それはそれとして…」
と少し間を空けて千歌。
「?」
「果南ちゃんは、いつから学校に来るの?このまま、ずっと休んでたら、留年しちゃうんじゃない?」
「そうね…そこは上手くやるつもりだけど…お父さんの回復状況次第かな?もうすぐ復帰出来ると思うんだけど…」
「何か手伝えることがあったら言って下さい。泳ぎと体力なら先輩にも負けないですから」
「曜ちゃん、ありがとう…。『手伝って』って言うと、すぐに逃げ出す誰かさんとは大違いだね」
と、果南は千歌の方を向く。
「はて、なんのことやら…」
千歌は、その視線を避けるかのように顔を背けた。
「そうそう…手伝って!って言えば…私の家の隣に越してきた娘がさ…あ、うちの学校の生徒で、私たちと同い年なんだけど…海に潜りたいようなことを言ってたんだよねぇ。今度、連れてきてもいい?」
「もちろん!」
果南は親指を立てて、千歌に答えた。
「付き合わせちゃってゴメン…」
ダイビングショップを出た2人。
千歌は手を合わせて、曜に「ありがとう」と感謝を意を表した。
「ううん、全然…」
「部活…行かなくて良かった?」
「うん、大丈夫…。ほら、今、ちょっと調子が悪くって…気分転換も必要かな…って。悪い時はとことん悪くなっちゃうから、たまにはリセットしないとね」
「ならいいけど…負担になるようなら、やっぱり悪いなぁ…って」
「心配しないの!千歌ちゃんが珍しく前向きなんだもん。こんなこと、今後、一生無いかもしれないでしょ?だから、ちゃんと手伝ってあげるよ」
「ははは…」
「あれ?」
千歌の乾いた笑いを遮るように、曜は首をぐるりと後方に向けた。
「ん?どうかした?」
「今、反対方向を歩いて行った人…」
「えっ?」
「生徒会長じゃない?」
「あっ…」
彼女たちは、海沿いの道の…陸側を歩いていた。
その反対方向を…既に後ろ姿しか見えないが…間違いなく曜の指摘した人物が遠ざかって行く。
「どこに行くんだろう?」
「どこ…って…ここを歩くってことは先輩のとこじゃない?」
「生徒会長が?果南ちゃんのとこに?」
千歌と曜は、しばし彼女の行き先を見送った。
「果南さんはいらっしゃいます?」
千歌と曜の想像通り、ダイビングショップを訪れたのは、ダイヤであった。
ごめん、ちょっと待ってて…と部屋の奥から声がする。
少しして、ウェットスーツからパーカーのセットアップに着替えた果南が出てきた。
「あら…噂をすれば影…」
訪問者を見て、果南は思わず呟いた。
「はい?」
と怪訝な顔をするダイヤ。
「ううん…何でもない。それよりどうしたの?ここに来るなんて珍しいじゃない…」
まぁ、座って…と果南は、ショップ内の椅子に腰掛けるようダイヤに促した。
「相談事があって参りましたわ」
「鞠莉と仲違いでもした?」
「!?」
「別に驚くことじゃないわよ。あなたの相談…って言えば、十中八九そのことなんだから…」
「さすが果南さんですわ」
とダイヤは帽子を脱ぐ仕草をする。
「それで…何を揉めているの?」
「…揉めているという程のことではありませんが…実は、今日、下級生からスクールアイドルをやりたいとの申し出がありまして…」
「へぇ、そうなんだ…」
と表情を変えずに返答する果南。
…こういうのをニアミスっていうのかしら…
しかし心の中では軽く笑みを浮かべていた。
「私はそれを却下したのですが…鞠莉さんは問題ないと…」
「ふ~ん…そう…私も別にいいと思うけどな…。ダイヤにそれを止める権利はないんじゃない?」
「果南さん!?」
「ダイヤの気持ちもわかるけど…それは『その娘』たちには関係ないことでしょ…」
「鞠莉さんにも同じことを言われましたわ」
「でしょ?それで『私たちの過去』がどうこうなるものでもないんだし…」
「…それは理解しているつもりです…。私もその時はつい感情的になってしまい…反省しています」
「なら、別にそれでいいじゃない」
「ですが…鞠莉さんが賛成している理由はそれだけではないと思うのです!!」
「ん?」
「あの目は…何かを企んでいますわ」
「…」
「果南さんならわかるハズです。鞠莉さんが何かをしようとしている時の…雰囲気と言いますか、空気と言いますか…目がワクワクしているのです」
「あぁ…あれか…。そうね…いつも突然、思いもよらぬ行動をするから…それは確かに不安かもしれないけど…」
「はい」
「でも…やっぱり、それはそれ、これはこれ。『やりたい』と思っているなら止められないわ。ダイヤが逆の立場だったら、理由もなく却下されて納得できる?」
「…」
言葉に詰まるダイヤ。
「…ってこと」
「…かしこまりましたわ…」
「はい、これで一件落着!!」
果南はパチン!と手を叩いた。
「最後にひとつ、よろしいでしょうか?」
「どこかで聴いたことがあるセリフね」
「その娘たちがスクールアイドルをしている姿を…果南さんは直視できまして?」
「…」
今度は果南が口ごもった。
「私は正直、自信がありませんわ」
「ダイヤ…」
「以上です!」
「あっ…うん…」
「あと…これは別件ですが…」
「?」
「いつまで学校を休むつもりで?」
「…そうね…それはもう少し…」
「まさか、このまま留年なんてことはないですよね?」
「ど、どうかな?…あり得るかも…」
「許しませんからね!!果南さんが後輩になるなんて、そんなこと許しませんから」
「いいじゃない。どうせダイヤは卒業しちゃうんだから…一緒に通うわけじゃないんだし」
「いいえ!何があっても3人一緒に証書をもらうのです!」
ダイヤは机を叩かんばかりの勢いで、椅子から立ち上がった。
「3人?」
「もちろん、私と果南さんと…鞠莉さんですわ」
「…そこで鞠莉は関係ないでしょ?…」
「いえ、そういうワケにはいきません!」
「ダイヤ…」
「約束は約束。それはしっかりと守ってもらいますわ。…それとも…このままおかしな誤解を与えたまま、一生を終えるつもりですか?」
「そうは思っていないけど…」
「ご家庭の事情は理解しておりますが、早く学校に戻ってきてください!毎日毎日、果南さんのノートを取るのも大変なのですから」
「そうね…感謝してるわ」
「では…あまり長居して、お仕事の邪魔をするのも悪いので、私はこれで失礼しますわ…」
「うん、わかった。気を付けて…」
果南は一緒に外に出ると、ダイヤの姿が小さくなるまで見送った。
~つづく~
この作品の内容について
-
面白い
-
ふつう
-
つまらない
-
キャラ変わりすぎ
-
更新が遅い