【ラブライブ μ's物語 Vol.5】アナザー サンシャイン!! ~Aqours~ 作:スターダイヤモンド
『新歓』こと『新入生歓迎発表会』まで2週間弱と、時間はほとんどない。
それでも千歌は自信に満ちていた。
それは趣味として、1年近くもμ'sのマネをしてきたからだ。
一夜漬けの付け焼刃ではない。
彼女たちの歌い方までコピーできる。
今回、コンビを組むことになった曜に対する不安もない。
何度も『練習』に付き合ってもらってきた。
元来運動神経の良い彼女は、自分より先に『振り付け』を覚えることもあって、逆に教えてもらうこともあった。
そうしているうちに、自然と歌も覚えたようだった。
だから…「完璧に出来る!」…千歌はそう思っていた。
だが…彼女の中で誤算があった。
それは『2人で一緒に』パフォーマンスをするということが、まったく頭に入っていなかったのだ。
つまり…ひとりひとりの単体であれば歌って踊れるものの…2人となると、その位置関係や距離感をどうするのか…そういうことが抜けていたのだ。
試しに踊ってみるが、何度やっても離れすぎたり、ぶつかったりしてしまう。
また自室に大鏡があるわけではないので、横に並ぶと振り付けのタイミングが合っているのかどうか、そういうことの確認すらできなかった。
スマホを使って録画をしてみても限界がある。
1日…正確に言えば…ダイヤに承認を得たその日の放課後の2~3時間…練習して、千歌はようやくそのことに気が付いた。
「誰か、コーチが必要だねぇ…」
そこで白羽の矢が立ったのが…
「ごめん!家がお隣というよしみで…私たちの練習に付き合って!!」
「えぇ~私が!?」
誘われたのは桜内梨子だった。
「見てて『そこ、ズレたよ!』とか、そういうのを伝えてくれるだけでいいから」
「お願い!」
曜からも頭を下げられた。
「う、うん…まぁ…見るだけなら…」
「うわぁ!ありがとう!助かるよ。じゃあ、今日から…」
「私はちょっと部活に顔を出すから…今日は8時くらいからでもいい?」
「え、えぇ…」
「まぁ、梨子ちゃんは移動時間ゼロだから、全然問題ないよね」
「…って千歌ちゃんが言うセリフじゃないでしょ?」
「へへへ…」
こんなやり取りを経て、CANDYの練習には、コーチとして梨子も合流することになった。
「ひとつね、気になることがあるんだけど…」
千歌の部屋で練習している2人に梨子の言葉を投げ掛けた。
「気になること?」
「ステージの大きさって把握してる?」
「ステージの大きさ?」
「うん…あ、余計なことかも知れないけど…」
「それって大事?」
と千歌は無邪気に訊く。
「どうだろう…2人だとあんまり関係ないのかな?…でもやっぱりステージの大きさによって、距離感とか変わると思うの。小さいとこならいいけど…大きいステージで真ん中でこじんまり踊っても…寂しく見えるっていうか…」
「なるほど…それは確かに見栄えは良くないね」
曜はその様子を頭の中でイメージしながら呟いた。
「つまり、ステージの大きさによって、距離を縮めたり、離したりする…ってこと?」
千歌は両腕を前に伸ばして『前、ならえ』をすると、その幅を狭めたり拡げげたりした。
「うん…」
「さすが!ピアノをやってるだけのことはある!ステージ経験者は違うねぇ」
「別にそういうわけじゃないけど…」
「じゃあ、明日、ステージの大きさを測ってみよう!」
…ということで、その週末の土曜日…の午後。
午前中、部活の練習があった曜は、昼食を取ったあと…バスを使わず、自転車を漕いで…『練習場所』…千歌の家の近くの浜辺へとやって来た。
そこにいたのは千歌と梨子。
砂浜には大きく長方形の線が描かれていた。
「いやぁ、ご苦労!ご苦労!」
自転車を降りると、曜は2人の下へと歩いて近付いていった。
「これがステージの大きさ?」
「あっちが客席のつもり」
と千歌は海を指さした。
「『春の海…ひねもすのたり、のたりかな』…って詠いたくなるわね」
曜は波間に目をやると、眩しそうに呟いた。
「はい」
頷く梨子。
「ステージから見る景色も、こうやってキラキラして見えるのかな」
「普通、客席は暗いものだよ」
「あっ、そっか!」
てへ…と舌を出す千歌。
「でも、あながち間違いじゃないかもしれません」
「ん?」
「アイドルのライブとかであれば、ペンライトの光の波が、会場いっぱいに揺れてますから…あ、もちろんピアノの会場ではそんなことないですけど」
「だよね!μ'sのライブとか見てても、すごく綺麗だもんねぇ…」
「少なくとも、新歓では無理だけどねぇ。客席を暗くして…なんてことは出来ないし」
「そうか…そうだねぇ…。まぁ、それはそれとして…こうやって見ると、ステージって結構大きいかも」
「普段、意識しないもんね」
「でも…さっき曜ちゃんが来る前にひとりで踊ってみたんだけど…この中で練習するとイメージが沸くっていうかなんていうか」
「そりゃあ、部屋の中で練習するよりは」
「この大きさに馴れなきゃいけないんだね」
「それじゃ、始めますか!?」
「よし!頑張るぞ!」
「おー!」
2人は靴を脱ぐと、梨子のカウントに合わせてステップを踏み始めた。
「はぁ…疲れた…もう、立てない…」
千歌はしりもちをつくように、ドサッと座り込んだ。
「なんで曜ちゃんはケロッとしてるの?」
「ケロッとはしてないよ…砂の上で踊るのは負荷が掛かるから、余計疲れるよね。いいトレーニングになったかな?あっ、梨子ちゃんも長い時間ありがとう」
「いえ…家に居てもすることがないので…」
「でも、お陰で2人で踊る感覚が掴めてきたよ」
「はい、すごく良かったです」
「これなら本番もバッチリだね?」
「ダメだよ、気を抜いちゃ。千歌ちゃんの悪い癖だよ。まだあと1週間あるんだから、細かいところまで合わせないと」
「ひょえー!曜ちゃん、厳しい…」
「職業病?なのかな。高飛び込みは、踏み切ってから入水まで、一寸の狂いも許されないから」
「そうだね…」
「じゃあ、今日はこれで帰るよ」
「自転車に乗って?」
「当たり前でしょ?置いて帰るわけにはいかないでしょ…」
「そうだけど…凄い体力だなって!」
「千歌ちゃんも、少しは走りこみした方がいいんじゃない?ワンステージでへばってるようじゃ、とてもμ'sにはなれないぞ!」
「う、うん…考えておくよ…。えっと…じゃあ、明日は自主練ということで」
「ヨーソロー!!」
「ばいばい」
「またね!梨子ちゃんも」
「はい、また来週」
曜は自転車に跨り、颯爽と海岸線の道を走っていった。
「本当にありがとう」
と、改めて梨子に礼を言う千歌。
「ううん、本当、気にしないで」
2人は家へと歩き出した。
「千歌ちゃん…」
「ん?」
「楽しい?」
「えっ?」
「あっ…その…見てて、結構ハードだな…って思ってたんだけど…」
「う~ん…ハードだよ!」
「でも、顔がすごく楽しそうだから…」
「楽しい!すごく楽しいよ!そりゃあ、体力的にはキツイけどさ…でも、ずっとμ'sみたいになりたい…ってマネをしてて…それをお披露目できるんだ!って思ったら、そっちの方が上回っちゃうよね!」
「うん、そうだよね…」
「それにね…」
「それに?」
「大好きな曜ちゃんと一緒にできるんだよ。こんな嬉しいことはないでしょ?」
「…羨ましいなぁ…」
「えっ?」
「あっ…ほら、好きなことを見つけて、好きな人と、好きなことに打ち込める…って贅沢じゃない?」
「梨子ちゃんは、そうじゃないの?」
「私?」
「ピアノは?」
「ピアノか…」
「?」
「…今は……」
「今は?」
「あっ…なんでもない!今の言葉は忘れて!」
「梨子ちゃん?…」
「それより、頑張ってね!時間があるときは練習付き合うから」
「うん!ありがとう」
「じゃあ、今日はここで…」
「…って言っても、窓を開ければ会っちゃうんだけどね」
「うふふ…そうだね…」
そんな会話をして、千歌と梨子は家の前で別れた。
…μ's…
…START:DASH…
…どうしてだろう…
…ずっと避けてきたハズなのに…
…どんどん深みにハマっていく気がする…
気付けば梨子は、彼女たちがこれまで何度も何度も繰り返し聴いていた曲を、ピアノで奏でていた。
「あれ?このメロディー…」
隣の家の…彼女の部屋の窓を挟んで向こうにいる少女…は、その心地よい音色に、しばし耳を傾けていた。
…梨子ちゃんのピアノ…
…初めて聴いたけど…
…なんて素敵なんだろう…
すぐにも窓を空けて、声を掛けようかと思ったが、ジャマをしては良くないと千歌は自制し、その音色に聴き入った。
~つづく~
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