魔法少女育成計画-dogma-   作:闇と帽子と何かの旅人

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魔法少女育成計画
第一話『Prelude』


 ……ブウーーンーーーブウーーンンーーーー……。

 

 病室にマナーモードにしていた携帯のバイブ音が鳴り響く。

 おもむろに少女は携帯を手に取り、画面を付け確認する。

 どうやら最近プレイをしているソシャゲの告知みたいだ。

 

 開いてみると、唐突にマスコットキャラが喋りだす。

 

 【おめでとうございます。あなたは魔法少女に選ばれました】 

 

 ああ、この甘美な声……マスコットのファヴから再生される機械音に、小雪はゲームにはまっていたのだ。

 

 チャカポン……チャカポン……

 スマホの音が病室にこだまする。

 

 どうやら魔法少女に選ばれたと言うのはゲーム内の事ではなく。

 現実に起きている事だとファヴは説明を続ける。

 

 【君は魔法少女に選ばれたぽん】

 

 突如スマホの画面から飛び出すマスコットキャラクターに驚く素振りを見せる小雪。

 

 【そんなに驚かないでぽん!】

 

 一瞬スマホを落としそうになるが、強く握り締めていたおかげで、スマホこそ落としはしなかったものの、先ほどよりは小雪の気持ちは少し落ち着いていた。

 

 【いいから変身するぽん!!】

 

 マスコットキャラに促されるように変身を――

 

◇◇◇

 

 【ポン? 上手く変身できたぽん!】

 

 鳴り響く声に目を覚ますと、そこに私は居なかった。

 

 アルコールの匂いが鼻につく、ここは病室なのだろう。

 辺りを見渡すと見慣れない風景に着慣れない服。

 柔らかい絹のような素材で出来た白いその服は、まるでおとぎ話に出てくる少女のような格好であった。

 そこから伸びる細く華奢な腕や足も、服に劣らぬほど白く柔らかい。

 

 「何だこのウツクシサ」 

 【どうしたぽん? スノーホワイト】

 

 突然スノーホワイトと呼ばれる。ふと目の前を見る。そこには小さな人形が喋りかけていた。

 一瞬自分がおかしくなり夢でも見ているのかと思い、強く目をつぶりもう一度目を開く。

 しかしそこにまだソレは居た。

 

 【ぽん? そこに窓があるから自分の姿を見てみるといいぽん!】

 

 人形に促されるまま病室の窓を見ると、私が居た。

 見慣れない顔、触れると感触がある。

 

 【どうぽん? 魔法少女に変身した子はみんなそうぽん。見慣れない姿に驚いて当然ぽん! 君は魔法少女になったんだぽん!】

 

 現実が夢のようだった。私はどうやら魔法少女といふモノになってしまった。

 

 【あ、そうだぽん。さっそく魔法少女達のチャットに参加すると良いぽん】

 

 【スノーホワイトが魔法の国に入国しました】

 

 促され見慣れぬ機械を渡され、人形の言う通りに操作する。

 チャットルームに入ると、画面に見知らぬきらびやかな服を着た少女達が居た。

 

 【新しい魔法少女を紹介するぽん!】

 

 人形が開口一番に私を紹介する。スノーホワイト。

 何度か言われた名前【スノーホワイト】それが私の名前のようだ。

 

 「おぉ~。わたしは~ねむりんだよぉ。あめあげる~」

 

 ねむりんと名乗る少女に飴を渡されたので、私は口に含もうとしたが止められる。

 

 「あ~……あめって言うのはアイテムでね~人助けをするともらえるんだぁ」

 

 ねむりんからの贈り物に私は戸惑うが彼女は笑顔を見せる。 

 

 【ぽん! あめを集めておくと良いポン! 近々イベントも始まるから楽しみにしてて欲しいぽん】

 

 チャットルームの奥にはピアノが置かれていて奏者がいた。

 奏でられたピアノの音色はとても心地の良いものだった。きっと演奏する者の心が反映されているのだろう。

 

 「あの娘はね~くらむべり~って言うんだよ~」

 

 ねむりんはそう彼女を紹介する。くらむべり~という少女。

 遠めに見ても美しい魔法少女だった。異国優美な彼女にピアノはとてもよく合った存在だ。

 

 演奏に聞きほれながら、ねむりんと会話をする。

 

 「へ~……スノーホワイトちゃんは入院してるんだね~」

 「魔法少女になったせいか、身体も気分も軽くなったよ」

  

 重い話をしていたが、彼女は嫌味のまったく感じさせない人の良い笑顔を見せ、話に付き合ってくれていた。きっと育ちの良い娘なのだろうと私は思った。

 

 ふと音楽が鳴り止む。ピアノのほうに視線を向けると、奏者のクラムベリーがこちらに一瞥をした後に消えていった。

 

 「ログアウトしたんだねぇ~。私もそろそろ寝ようかなぁ」

 

 ねむりんはそう言うと、大あくびをしながらバイバイとつぶやき消えていった。

 

 静まり返ったチャットルームで一人たたずんでいると人形が話しかけてきた。

 

 【スノーホワイトはログアウトしないぽん?】

 

 きっと私がここを出たくなかったのは、まだこの夢の中に居たかったからであろう。

 

◇◇◇

 

 あくる日の朝。

 寝ずにただ己の存在を誇示し続けるように、スノーホワイトはそこにたたずむ。

 

 【おはようぽん? ずっと寝ずにいるのはさすがに身体にわるいぽん!】

 「人形を抱いて眠ってればよかったのかな?」

 【ぽん? だっこしてくれるのかぽん?】

 

 人形は実に愉快な反応を見せてくれる。昨日の夜から夜通し、この人形に魔法少女というモノについて教えてもらっていた。

 ここN市と呼ばれる街で魔法少女を【スカウト】している事。 

 魔法少女は魔法が使える事や、心や身体が強化され普通の人間よりは遥かに優れた存在になる事など。

  

 【スノーホワイトの魔法は困っている人の声が聞こえるぽん!】

 

 私は困惑していた。困った人の声が聞こえるのならそれは、自分の声が真っ先に聞こえてきそうだと思ったからである。

 

 【どうしたぽん?】

 「大丈夫だよ。あなたも困った事があったら私に言ってね」

 【スノーホワイトは優しいぽん! やっぱりファヴの目に狂いは無かったぽん!】

 

  話をしている内に、この人形からは可愛らしい姿をして愛嬌のある仕草や話し方をしてはいるものの、その裏側にとても深い暗闇を感じ……それはまるで私を映す鏡の様に思えた。

 

 【そういえばスノーホワイトは変身を解除して寝ないぽん? もしかしてさっきの説明わすれちゃったぽん?】

 「大丈夫……ただ、変身を解除したら、何も聞こえなくなってしまいそうで」

 

 それは本心だった。

 

 【それは大丈夫ぽん! 確かに解除すると魔法は使えなくなるけど、ファヴはいつでもいるぽん!】

 

 それは表情のわからない人形だったが、私には笑顔のあいくるしいモノに見えた。

 

 【ラ・ピュセルが魔法の国に入国しました】

 【ぽん! ラピュセルおはようぽん!】 

 

 突如部屋に現れた魔法少女は、騎士の様な格好をし、トカゲのような尻尾を持っていた。

 

 「ごめん昨日は来れなくて! その子が新しい子?」

 

 一瞬その魔法少女の私を見る目が驚きの表情になるが、すぐに柔和な笑顔になる。

 

 【そうだぽん! スノーホワイトっていうぽん! 教育係として面倒見てやって欲しいぽん!】

 「これからよろしくねスノーホワイト! 私はラピュセル!」

 

 ラピュセルと名乗る魔法少女は人懐っこい笑顔をこちらに向ける。

 純粋なその瞳は、きっとその少女が、まだ何も絶望を知らないからであろうと思った。

 

 よろしく。と、ただ挨拶を交わしただけの、ふと見つめ合う短い瞬間がまるで、私にとって十数年の眠りから醒めた、おとぎ話の姫の気持ちにさせるのであった。

  

 【ぽん! 今日の晩に重大発表があるから絶対に遅れないで来て欲しいぽん!】

 

 人形が感情の無い声で喋りだす。色の無い声だった。

 

 【ラピュセル、今日はちゃんと遅れないでぽん!】

 

 人形から念をおされるラピュセルを見て、私はただ微笑ましく思い。同時に、はからずも笑みがこぼれていた。

 

 その情景に私の心は困っていた。

 

 「スノーホワイト! 良かったら後でN市の一番高い鉄塔の上で会わない?」

 

 嬉々とした表情のラピュセルから誘いを受ける。

 無邪気に、まるで子供が公園に行きたいと母にねだるように。 

 

 私はかぶりを縦にふり、会う約束をした。

 

 「また後でね!」

 

 そう言ってラピュセルはログアウトしていた。

 

 画面から目を離し一呼吸おいて、病室を見渡す。

 魔法少女になる前の私は、きっとここから出られなかったであろうと思いにふけり。

 ふと、ベットの脇にスケッチブックが置いてあるのに気付いた。

 

 そこに描かれていたのは子供の描いた絵で、きっとその子が好きなものを描いて、しまっていた宝箱のようなものだと直感した。

 大切にされていたであろうスケッチブックのページをめくり、読みほどいていく。 

 沢山の絵が描かれていた。これは少女の家族だろうか。これは少女の友達だろうか。様々な絵に私は何かを懐かしむ、そんな気持ちにさらされた。

 

 大切なページを一つ一つめくる。それは記憶を紡ぐ映画(シアター)のようで、つい見入ってしまう。

 ふとページをめくる手が止まる。一際丁寧に描かれた愛らしい絵が、私の眼前に映し出されている。

 

 そこに描かれていたのは魔法少女の姿の私だった。

 

◇◇◇

 

 私はN市の鉄塔とはどこにあるのか人形に尋ねていた。

 

 【ぽん? N市の鉄塔ぽん? それなら、窓から見えるあそこだと思うぽん!】

 

 人形に促され窓の外を見る。外の景色が広がるそこに遠めに見ても大きいであろう、赤い鉄塔がそびえ立っていた。

 

 私は施錠されていた窓を開ける。その瞬間、外の空気が流れ込み病室に涼やかな空気が入りこむ。

 きっと鳥や雲のような存在は、いつもこの新鮮な空気に触れているのかしらん、などと子供のような無邪気な気持ちになり、私は窓から外へ飛び立った。

 

 

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