ルーラは過去に自分を裏切った部下達と連絡を取り合っていた。
スイムスイム。ミナエル。ユナエル。たま。
ルーラにとっては恩を仇で返されたような因縁深い者達でもある。
単身ルーラは廃寺に乗り込む、寺の中では相変わらずたまが勉強をしている横でミナエルユナエルの二人が騒ぎながら遊んでおり、スイムスイムだけが廃寺にやってきたルーラに気付き出迎えにくる。
「ルーラ……生きてた」
スイムスイムの開口一番のセリフは得体の知れないものだった。
「おかげさまで生きてるわよ、あんたたちも息災ね」
息災という言葉がよくわからないといった感じでスイムスイムはルーラに聞き返す。
たまもビクビクしながらよくわかっていないようだった。
「ようするにあんた達も元気にやってるわね、っていいたかったのよ!」
語気を強めるルーラにミナエルユナエルの二人は言葉を挟む。
「またババアがヒスった!」「ヒスった!」
ルーラはあからさまな挑発を無視しスイムスイムと向き合う。
ルーラの先ほどの説明に合点がいったのかスイムスイムはルーラと言葉を交わす。
「元気にしてる」
スイムスイムがルーラに放った一言が沈黙を誘い寺の中で反響する。
寺の重い空気が側で睨みつけている像のように、ずっしりとのしかかって来そうな、そんな沈黙を破ったのは意外にもたまだった。
「ルーラさん……この前はどうも……」
ルーラはたまの方へ視線をむける。たまは怯えながらルーラと視線を交わす。ルーラは微笑みながらたまにお礼を言う。
「たま。この前は助かったわ」
この不可思議な行動に。たまはもとより。ミナエルユナエルは空中でひっくり返りながら驚いていた。
「ババアがお礼言ってる!」「明日は大雨やね」
お礼を言うだけでこんな反応をされるとは。
苦笑いをしながらルーラは以前の自分を省みていた。
きっとスノーホワイトが居なければこんな事に気付く事も無く死んでいただろう。
雰囲気の変わったルーラにスイムスイムは質問責めのようにルーラに尋ねていた。
なぜルーラがここに来たのか、ルーラは今は何をしてるのか。
そしてスノーホワイトは息災かと。
ルーラは問いに対してきちんと答える。今度は対等な者として。
今はスノーホワイトと共に居て、ここに来たのは協力を要請しにきたと伝える。もちろん今度は対等な立場だとも。
様子のおかしなルーラにスイムスイムは怪訝な表情をしながらミナエルとユナエルに視線を向ける。
「変身してない、ルーラは本物」
淡々とした口調で確認をする。ミナエルとユナエルがいたずらでルーラに変身し自分をからかっているのではないかと思ったからだ。疑惑の目を向けられたミナエルユナエルは抗議をしていた。
「「誰が好き好んでババアに変身するか!」」
二人は息をそろえて言い放つ。もっとも人物に変身できるのは妹のユナエルの方だけなのだが。
スイムスイムは二人の抗議を無視しながらルーラについて語り始める。
ルーラはお姫様。ルーラは偉い。ルーラのいう事は絶対。
そんなルーラに憧れていた。そんなルーラになりたかった。
スイムスイムは感情を吐露するように言葉と思いを紡ぐ。
「相変わらずあんたは変に物覚えが良いわね」
だがそんなスイムスイムの言葉を遮りながらルーラは訂正する。
「結局、そのルーラはあんた達に裏切られたじゃない。所詮その程度だったってことよ、それに私はお姫様って柄じゃないわ」
ルーラはばっさりと今までの自分を否定する。
「確かにババアだもんねー」「どっちかって言うと女王様?」
ミナエルユナエルは相変わらずはしゃいでいる。
「そうね女王様っていうのはいいわね。姫を教育する、今はそんな気分よ」
ミナエルユナエルはルーラに肯定的に捉えられ困惑していた。
「うげえ、ババアに賛同された」「お姉ちゃんマジブルー」
ルーラの言葉はスイムスイムにはよくわからなかった。
だが一つだけ分かった事がある。
自分が憧れたルーラは変わってしまったのだと。
ルーラは付け加える、対等な立場なら女王も、お姫様も沢山居ていいのだと。
「だって沢山あるでしょ? お姫様の物語」
スイムスイムの心は揺れている。
ルーラを変えてしまったのはスノーホワイトだろうか。
ルーラをもってして姫と称されるスノーホワイトにスイムスイムは一度救われていた。
だとしたら変わったのはルーラだけでは無いのかもしれない。
「ルーラ、スノーホワイトに会わせて」
ルーラはスイムスイムに条件を出して会わせてやると約束する。
おとぎ話のように甘い夢を見るのは子供だけの特権だろうか。
◇◇◇
スノーホワイトはファヴを通じ脱落者が発表される日にクラムベリーとの約束を取り付ける。
ルーラは何やらここ数日忙しそうにしており、スノーホワイトには心配しないでといい残し、ルーラはどこかへ出かけていった。
スノーホワイトとクラムベリーはその日の夜に落ち合う約束をしていた。
N市内では二番目に標高の高い船賀山にある山小屋で。
隣の病室の茜にその類を伝え病院を抜け二人は山小屋へ向かう。
月夜に照らされた小屋の前に到着する。道中獣道や崖崩れのあとがあり、常人にはたどり着くのは難しいような道を通ってきたアカネとスノーホワイト。
アカネは音楽家に会えるという事でいつに無く目が据わっていた。
夜の山は冷える、それは体の冷えなのか、はたまた心が冷め切ってしまったのか。
それを知りうる者はここには居ない。
山小屋に入ると人影が3つ。スノーホワイトは声を聞いていたので誰が居るかは分かっていた。
小屋に居たのはミナエル、ユナエル、たまの三人だった。
「ほんとに来たねスノーホワイト」「お姉ちゃんの読みどおりやね」
二人の天使は予定通りと語りながら嬉々としていた。
たまはスノーホワイトを見て安堵しているようだったが、スノーホワイトの横に居るアカネを見て萎縮する。
「音楽家はどこだ?(お前達は誰だ?)」
一人、今にも斬りかかりそうな雰囲気のアカネにスノーホワイトは飴を渡し説明する。
ルーラさんのお友達です、と言いながら更に付け加えるように呟く。
「ルーラさんが困っていたのはこれだったんですね」
スノーホワイトは合点がいったような表情をしてから、すぐにいつもの笑みを浮かべる。
アカネは小屋にクラムベリーが居ないのが分かるといつものように叫びながら走っていく。
その様子を小屋に残された4人の魔法少女は見送る事しかできなかった。
突然の事で困惑していたがミナエルユナエルはいつものように悪たれをつく。
「あれどうしよう」「別にいいんじゃない? 引き止めろって言われてるのスノーホワイトだけだし」「だよね」「さ、スノーホワイト! 今日こそ人気投票の雪辱を果たすからね!」
賑やかなミナエルユナエルはスノーホワイトに啖呵を切り宣戦布告をする。
だが当のスノーホワイトは人気投票というのは何かと分からず問い返す。
ミナエルユナエルは端末を取り出しスノーホワイトに説明をしていた。
「まとめサイトっていうのがあって、これが私とユナエルの記事!」「見てみて、これお姉ちゃんと私の動画」
ミナエルはまとめサイトにのっているピーキーエンジェルズの記事を見せ。
ユナエルは動画サイトにアップロードされたピーキーエンジェルズの動画を見せる。
それぞれ見せられた物をみてスノーホワイトはお二人共すごいですと、賞賛する。
「話のわかる奴やね」「スノーちゃんマジスマート」「そうそうこの動画撮ったの。たまなんだよ」
盛り上がりの輪から遠い場所に居た、たまは突如話を振られ当惑する。
「私はただ……動画を撮っただけで……」
謙遜するなとミナエルとユナエルがたまの頭を撫でる。
スノーホワイト達は楽しそうに会話をする。
ミナエルユナエルはたまにビデオカメラを持たせて意気揚々としていた。
そんな三人を慈しみを持った笑顔で見つめるスノーホワイトだったが、先ほどからしている外の声が気になり扉を開けようと立ち上がる。
外に出ようとするスノーホワイトの目の前にたまが慌てながら立ちふさがる。
たまはスノーホワイトにお願いをする。
ルーラが戻ってくるまで私達と、この小屋に居てくださいと。
スノーホワイトは瞳を潤ませ今にも泣き出しそうなたまの声を聞き、手を差し伸べるのだった。
◇◇◇
ルーラとスイムスイムは小屋から少し離れた場所でクラムベリーを襲う予定だった。
スイムスイムにはスノーホワイトを餌に協力を仰いでいた。
闇夜に潜み不意打ちでルーラの魔法でけりをつける。
もちろん鉄塔の付近でのラピュセルとの戦闘を鑑みるに、クラムベリーにはこんな安易な作戦が通用する相手では無い事は百も承知だった。
ルーラはスノーホワイトが気がかりだった。
クラムベリーとスノーホワイトを引き合わせてはならない。
スノーホワイトは戦う気が無く、クラムベリーは話し合う気など無いからだ。
だがそんな計画は突然大声を叫びながら走ってきたアカネによって脆くも崩れ去る。
「お前は病院の」
アカネにとって知った顔のルーラに声をかけただけだったが。
ルーラにとっては大事な作戦の場に現れた野生動物のような対処に困る人物だった。
スイムスイムは突然現れたアカネを見ながら誰と疑問に思い、ルーラの答えを待っているようだった。
「音楽家はそこか」
アカネは周囲を見渡し突如刀を振り下ろし斬りつける。
辺りの木々はゆっくりと、まるで斬られた事に気付かない。
通行人に道をあける雑踏の人々の如く、アカネとクラムベリーとの間の視界が広がる。
その開けた先に音楽家は佇んでいた。
「こんばんは、皆様おそろいで。スノーホワイトはどこでしょうか?」
クラムベリーはスノーホワイトがその場に居ない事を不思議に思いながらも対峙する。
スイムスイムとルーラを睥睨しながらも、クラムベリーにとって予想外の人物だったアカネに驚きはしなかったものの興味深そうにしている。
ルーラは焦っている。クラムベリーの場所は魔法の届く距離よりも遠く、視界も開けてしまい、奇襲も失敗した。
スイムスイムはルーラにどうするのかと指示を仰いでいたが、ルーラにとってこの状況はとにかく頭の痛い状況であった。
頭痛の種であるアカネは闇雲にクラムベリーと斬り合いをしている。
クラムベリーは音速の刃でアカネに向かい衝撃波を飛ばす。
アカネはその衝撃波を刀で受けきり反撃に移るが。
クラムベリーもアカネの魔法を知っていたので木を盾にしたり、衝撃波で視界を悪くし応戦する。
アカネの魔法は視界に捉えたものに向かって刀を振り下ろし斬撃を飛ばす。
クラムベリーは確かそんな感じだったかと思い出しながら笑う。
傍目には二人は討ちあいを楽しんでいるようだった。
「試験の時よりもいい動きになっていますね、相手を殺すためだけに刀を振るうのはきもちがいいでしょう」
ルーラはアカネに挑発まじりに話しかける。
だがアカネはそんな言葉に耳を貸さずただ音楽家に刀を振るう。
ルーラやスイムスイムはアカネよりも後方におり、戦いの様子を見ながらクラムベリーの隙をうかがっていた。
スイムスイムはルーラに自分を盾にして近付かないのかと尋ねる。そんなスイムスイムの提案をルーラは一蹴する。
「いい? この作戦は誰かが死んだら元も子もないのよ! 前に説明したでしょ!」
ルーラは怒っている。その怒りは以前なら馬鹿な部下への叱責だっただろうが、今は違う。
協力してくれている魔法少女の身を案じていた。
ただ、
ルーラにとっての想定外の事態は更に増えることになる。
突如アカネとクラムベリーの間にスノーホワイトが舞い降りたのだ。
比喩や幻想的な言い回しなどで無く本当に舞い降りたスノーホワイトはクラムベリーに会釈をする。
ルーラは空を見上げる。
ミナエルとユナエルの二人がスノーホワイトを送り届けていた事が分かった。
相変わらず作戦の一つもこなせないのかと憤りそうになるが、背後の気配に気付きルーラは視線をうつす。
そこにはたまが立っていた、しかもビデオカメラを回している。
ルーラはもう笑うしかなかった。スノーホワイトを守ろうと立案した作戦だったが、当のスノーホワイトが一番危険な場所に突然現れたのだ。
ルーラは意を決する。たまに声を掛ける、同じくピーキーエンジェルズにも。
ミナエルとユナエルはどうせルーラがまた怒り出すのではないかと思い怪訝な顔をしていたが、話を聞き面白そうだと案外素直に乗ってくれた。
◇◇◇
「皆でPV撮影?」「それまじやばくない?」「人気1位と2位の魔法少女の合作とか」「世界も狙える大作やね」
話しの中でスノーホワイトの発案を聞きミナエルユナエルの二人は楽しそうに賛同している。
たまはここに居ないと怒られるよと心配していたが、スノーホワイトに諭される。
「たまさんはルーラさんの事が心配なんですね」
たまは心臓が飛び出るかと思った。
ルーラは怖い人だった、以前も作戦を失敗し怒鳴られた。だが見捨てられはしなかった。
見捨てられる前にルーラをたま達は見限ったからだ。
先日廃寺に現れたルーラはそれでも許すと言い、今回の作戦の協力をしてくれと頭を下げたのだった。
スノーホワイトがクラムベリーに狙われている。だから守る為に力を貸して欲しいと。
人の為にルーラが働くとはたまは予想できなかった。
たまの頭は鈍く、いつも誰かに怒られていた。
たまにとって頭を下げる経験は多かったかもしれなかったが、下げられた経験は無かった。
それまでとうって変わって優しげな表情をするルーラの事がたまは心配でならなかった。
それは最後に会った時、ルーラの目がたまの亡くなる前の祖母と同じ目をしていたからだ。
スノーホワイトの言葉にたまは涙を浮かばせながら、ルーラが心配だ、助けてあげて欲しいと。声にならない声がスノーホワイトに届く。
◇◇◇
舞い降りたスノーホワイトにクラムベリーは待ってましたと会釈をする。
アカネはスノーホワイトが突然現れたので邪魔そうに見ていたがスノーホワイトから飴を貰い、とりあえず口に含んでいた。
「クラムベリーさん。またお会いできましたね、お近づきのしるしです。どうぞ」
そう言いながらクラムベリーに飴を渡そうとするスノーホワイト。
クラムベリーは受け取る仕草をしながらスノーホワイトへ不意打ちをする。
しかし寸前何故か何も無い場所でスノーホワイトはよろけ、飴を落としそうになり体制を変えていた。
クラムベリーの拳は先ほどまでスノーホワイトの顔があった場所の空を掴んでいた。
続けざまにしゃがんでいて無防備なスノーホワイトに拳を振り下ろそうとするが、アカネがクラムベリーに刀を振り下ろす構えに入っていた為、クラムベリーは咄嗟に地面を衝撃で吹き飛ばしアカネとの間の視界を遮る。
「音楽家!(スノーホワイト無事か?)」
アカネの心配する声にスノーホワイトは悲しげな表情で飴が落ちちゃいましたと嘆いていた。
クラムベリーはあたりを見渡す、眼前にスノーホワイト。その奥にアカネ。
距離は離れているがルーラと天使の姿をした魔法少女が一人。
そして地中からは3人の心臓の鼓動が聞こえる。7人の魔法少女を相手にクラムベリーは笑みを浮かべる余裕さえあった。
しかしクラムベリーはスノーホワイトの行動を訝しむ。なぜ戦わない。
スノーホワイトはクラムベリーの攻撃を全て予測し行動している、それほどまでの強さがありながらなぜ。
クラムベリーが疑問を口にしようとした、その矢先スノーホワイトが答えていた。
「クラムベリーさんと仲良くなりたくて」
スノーホワイトのその一言にクラムベリーは苦笑する。
いつぞやファヴが説明していたスノーホワイトの能力は困った声が聞こえる。だったが、これは困ったように声が聞こえるではないのか、あとで文句を言ってやろうかと思っていると。
【ぽん? クラムベリーは間違ってるぽん、ファヴは嘘は言ってないぽん!】
突如ファヴがクラムベリーに喋りかける。スノーホワイトの端末からファヴが出てきていた。
突然響くファヴの無機質な声にクラムベリーは一瞬怯む。
直後地中からスイムスイムが現れクラムベリーの足を掴むが、その程度の奇襲ではクラムベリーは驚かない。
衝撃波を地面に向ける、結果スイムスイムの体は吹き飛ばされ近くの木に激突する。
あまりにも相手と近過ぎたせいか致命傷を負わすには少し威力が足りなかったかとクラムベリーは少し残念そうな顔をしながら。
自身もその衝撃を利用し間合いを取る。しかし背後から予期せぬ声を聞く。
ルーラの
身動きの出来ない体で視線を移す。奥のほうにルーラはまだ居た、しかし自身の背後にもルーラは居た。たまの魔法で地中から地上へのぼりルーラは魔法を掛けていたのだった。
ルーラは近くで倒れているスイムスイムを心配しながら姿勢を維持する。
「なるほど、あちらのルーラは偽者ですか。私としたことが視覚に頼りすぎましたね」
ルーラ魔法により身動きが取れなくなったクラムベリーは内心狂喜していた。
ここからどんな逆転劇をしようか、この状況でスノーホワイトはどう動くのか。
クラムベリーの紛れもない喜びの声にスノーホワイトはただ一言。
「クラムベリーさんが楽しそうでよかった」
意図は分からない、スノーホワイトと端末から浮き出るファヴは同じ表情をしている。
【ここで毎週好例の脱落者発表ぽん!】
ファヴの空気の読めない声に、その場の魔法少女全員が視線を集める。
ただ一人スノーホワイトは笑顔で佇んでいた。
【今週の脱落者はクラムベリーぽん】
無慈悲な声は静まりかえった山の中を更なる静粛に近づける。
【いやー残念ぽん。長い付き合いのクラムベリーにはもう少し頑張って欲しいと思ってたぽん】
深い静けさの中ファヴだけは相変わらず感情の見えない声で話している。
クラムベリーはファヴが何を言っているのか良く分からなかった。
他の参加者と違い試験の管理者であるクラムベリーは殺し合いに参加はしていたものの、自身をキャンディ争奪の戦いからは除外していた。
【気付いていないぽん? クラムベリーは管理者の権限を剥奪されているぽん】
まるでファヴはクラムベリーの言いたい事を見透かすように言葉を吐きつける。
嵌められた。クラムベリーはそう直感する。
誰に? ファヴに? スノーホワイトに? 魔法の国に?
クラムベリーはスノーホワイトとファヴを鬼気迫る目で見つめる。
強敵と戦い破れ死ぬのならとのかく、このような謀殺はクラムベリーにとって到底認められる幕引きではない。
ファヴの目的とクラムベリーの目的は一見合致しているように思えたが、その目的は違い、結局の所クラムベリーはファヴに利用されているに過ぎなかった。
【すぐに死ぬわけじゃないぽん……頭を冷やしてろ】
ファヴは冷酷に言い放つ、その表情はいつもと変わらず無機質だ。
スノーホワイトはクラムベリーとファヴを交互に見て耳を傾けている。
ルーラは魔法を維持するための姿勢に疲れを見せていたが、作戦が上手く言った事に安堵している。
遠方でミナエルユナエルはたまと撮影しながらはしゃいでいた。
「魔法少女スクープやね」「動画サイトでNo1のアクセス数やね」
たまはカメラを回しながら、おどおどしている。手ブレが酷い事だろう。
アカネは音楽家もあっけないと呟き、刀を鞘にしまっていた。
スイムスイムは一人攻撃を喰らい木にぶつかって気を失ってはいたが命に別状は無いようだ。
「スノーホワイト、貴女が何者なのかよく分からないのですが、教えてはいただけないでしょうか」
クラムベリーはスノーホワイトに尋ねる。
なぜ直接戦わないのか、なぜファヴを懐柔したのか、なぜずっと笑っているのか。
「私が戦うと困るって言ってたから、そしてファヴと私はただの友達ですよ」
答えとしてはクラムベリーの満足のいく物ではなかったが、スノーホワイトという魔法少女を理解するには十分な内容だった。
そう、理解できないという答えだけがクラムベリーの中に存在していた。
身動きの出来ないクラムベリーに飴を渡してスノーホワイトは嬉しそうにしている。
「スノーホワイト、ファヴと付き合いの長い私からひとつ忠告です」
老婆心ながらと付け加え、クラムベリーはスノーホワイトへ忠告する。ファヴは危険だと。
スノーホワイトは、クラムベリーの心からの忠告に謝意を示す。
そんな中、クラムベリーの言葉にファヴは変わらぬ無機質で残酷な笑顔で答える。
【ぽん? ファヴはスノーホワイトを騙したり
スノーホワイトはファヴの頭を撫でている。
ああそうだったか、クラムベリーは合点がいった。
この
自分とファヴの関係を思い出しながらクラムベリーは走馬灯のように思いを馳せていた。
木々のざわめきが聞こえる。ふとスノーホワイトは振り向く。
先ほどスイムスイムがぶつかった木が倒れようとしていた。
スイムスイムは変身が解けており、生身の状態で木をまともに喰らえば無事ではないだろう。
そしてその様子を見ていたルーラの心の声がスノーホワイトには聞こえていた。
「いけない」
スノーホワイトが制止するのを聞かずにルーラは駆け出していた。
ルーラの体は勝手に動いていた。
ルーラ自身魔法を止めてしまえばクラムベリーが動く事は理解できていた。
しかしスイムスイムを見殺しにすることは出来ない。
位置的に間に合う魔法少女はルーラしか居なかった。
魔法の解けた瞬間クラムベリーは辺りへ衝撃波をくりだす。
たまは穴の中に落ちたが無事でミナエルユナエルも一緒に穴に潜っていた。
「台風中継より悲惨やね」「こんな時も冷静なお姉ちゃんマジリスペクト」
いつも通りふざけあっているミナエルユナエルを見てたまは、ほっとしていた。
アカネに庇われスノーホワイトは無事だった。
身を挺して庇ってくれたアカネに感謝をしながら、スノーホワイトはルーラの方へ視線を向ける。
ルーラは考える前に体が動くなんて馬鹿のすることだと自嘲していた。
変身が解け小学校低学年ぐらいの少女を庇いながらルーラは自分の馬鹿さ加減に呆れて笑っていた。
クラムベリーの一撃からスイムスイムを身を挺す形で守ったのはいいものの、まともに喰らってしまったのだった。
ルーラは
スイムスイムが難しくない漢字がわからないと言った事やローマ字が読めなかった事。
物覚えが良いのにもかかわらず普通なら知っている事を全然知らなかったこと。
まるで走馬灯のように昔の事を思い出す。
子供なら仕方が無いか。そう思いルーラは
スイムスイムが目を覚ます、ルーラは無事を確認し安堵し、いつものように悪たれをつく。
「馬鹿……目覚めるのが遅いのよ、お姫様じゃないんだから……」
スイムスイムに重なるようにルーラ倒れていた。
クラムベリーが最後に放った魔法の轟音に
彼女は自身が気を失い変身が解けているのにまず驚き。
そしてその姿をルーラに見られた事に再び驚く。
ルーラの教えは絶対だ、姿を見たものを生かしてはおけない。
だがその教えに行動を移そうとした矢先目の前のルーラがルーラではなくなっていた。
「ルーラ?」
ルーラの変身がとけ
寄りかかってくる体からは血が出ていて
スノーホワイトは駆けつけスイムスイムに大丈夫だからと諭す。
たまやミナエルユナエルも駆けつけ息を詰まらせる。
魔法の力を失ったクラムベリーは満足げな表情で倒れていた。
◇◇◇
病室は賑やかだった、スイムスイムとたまが一緒に勉強している。
時折たまはスイムスイムに間違いを指摘されるが楽しそうだった。
ミナエルユナエルは病室のテレビにゲーム機を繋げ遊んでいた。
「私の勝ちやね」「お姉ちゃんワンモアチャンス」
そして自分の病室をたまり場にしている馬鹿達を微笑ましく見ていた。
そして理解する、あの戦いは終わったのだと。
あの後の顛末をルーラはスイムスイムから聞いた。
スノーホワイトはミナエルユナエルにルーラを運ばせて病院へ連絡したのだと。
ファヴ曰くこの病院には魔法の国の息がかかっており、魔法少女専門の医者も居るのだそうだ。
九死に一生を得たルーラだったが不満は沢山あった。
この魔法少女選抜試験はクラムベリーが暴走して引き起こしたものだという。
事前にファヴとスノーホワイトは魔法の国と連絡を取り、あの戦いのあった夜の日付の変わりをもって試験を終わらしている。そしてクラムベリーは魔法少女としての資格を剥奪されていた。
「まったく、魔法の国も仕事が遅いのよ! さっさと試験を終わらせていればこんな怪我しなくて済んだのに!」
病室に
「ババア傷口開くぞ」「お薬の時間やね」
ミナエルユナエルは楽しそうに笑いあっている。
ルーラは怒る気も無くし不満そうに窓の外を見つめる。
スノーホワイトとファヴはクラムベリーを魔法の国に引き渡し、魔法の国に正式に魔法少女として認められたのだという。
生き残った魔法少女達はみなスノーホワイトの同期として魔法少女になったが、魔法の国とはあまり縁が無いようだった。
◇◇◇
岸辺颯太は夢を見ていた、それは魔法少女になった夢だった。
その夢の中で大切な幼馴染を守る為に彼は戦った。
しかし敵を倒す事ができず敗れてしまった。
醒める事の無い夢、大切なものを守れない悲しい夢。
そんな夢を眺めるだけのつまらない夢。
ふと声が聞こえる。振り向くとそこには眠たげな魔法少女が居た。
「夢を見るのはいいことだよね~」
岸辺颯太は間の抜けた魔法少女の声に戸惑う。
「騎士の魔法少女かぁ。かっこよくて可愛いねぇ」
眠たげな魔法少女の賞賛に岸辺颯太は照れる。
「でも、お姫様を守る為に散っちゃうなんて悲しいなぁ」
そうだ! といい、眠たげな魔法少女は少年に語りかける。
「君がお姫様になるのはどうかなぁ?」
少年は困惑した、そんな趣味はない、そう言いたかったが、なぜか断言できなかった。
「冗談だって~、でも君が命を張ってスノーちゃんを守る必要はないよぉ。そんな事を
眠たげな少女の言葉は岸辺颯太の心に深く刻まれる。
さあそろそろ目覚めようか。眠たげな少女に手を引かれる。
「待って! 名前を教えて!」
そう問いかける少年に笑いながら眠たげな魔法少女は答える。
覚えておいてね、ともったいぶりながら。
君を助けた魔法少女は。
「スノーホワイト」
目を覚ました岸辺颯太は久しぶりに見る窓から差し込む太陽の光に目がくらんでいた。
無邪気な子供のように岸辺颯太は傍らで眠っていたスノーホワイトの手を握り返す。
◇◇◇
スノーホワイトは病室で眠っている、夢の中で事の顛末をねむりんに話していた。
「ねむりん、終わったよ」
夢の中でスノーホワイトは独り話をしている、唇を震えさせながら。
ねむりんを助けれなった事。(心が泣き喚く)
ラピュセルが怪我をして今も眠っている事。(泣き叫ぶ声は誰も聞こえない)
ルーラが入院してしまった事。(胸は苦しくなる一方だ)
スノーホワイトは悲しいお話ばかりでごめんねと付け加える。
スノーホワイトの目は湿っていた。泣いていたのだろうか?
目をこするように手を動かす、暖かい感触にぶつかり、振り向く。
「……アッ……ねむりん……」
ねむりんは優しき慈母のように微笑み、スノーホワイトを抱きしめていた。
【次回予告】
魔法の国に所属したスノーホワイトは空を駆け巡る!
しかし乗ってきた飛行機(尾翼に無賃乗車)はハイジャック犯に占拠されていた!?
助けようにも窓を開けたら墜落してしまう!どうするスノーホワイト。
次章【魔法少女育成計画jihad】お楽しみにぽん。