第十二話『異国』
学校は楽しかった。学ぶ喜びを知らない彼女達にとっては何もかも新しく新鮮だった。
彼女達の教えでは女性は勉強するべきではないという古い教えもあったが、きっとそれは間違いだったのだろう。少女達は同じ学びの宿で互いに学びあう。時には喧嘩もあったが、学校での時間は紛れも無く幸せだと自負できる瞬間だった。
だが幸せの時間は長くは続かない。教育は罪だという教えに忠実な者達によって学び舎から無理矢理連れ出され、行く当てもない旅に連れ出されるも友達と励ましあって過ごしてきた日々は彼女達の辛うじて
連れ去られた先で好きでもない男と結婚させられ望まぬ子供が生まれたが、それでも生まれてきてくれた子供は可愛かった。
短かく、けして幸福だと思う人は多くないその人生を振り返りながら、少女はその手に抱える。背中に背負っていた我子が母を止めようと泣き始める。
「大丈夫だよ、ママはずっと一緒だから」
彼女の唇はわなわなと震えている。それでも精一杯声を振り絞り、わが子へ優しく声を掛ける。殉教者になれば自分達は救われるのだろうか。そう独りごちて、彼女は旅立った。
◇◇◇
魔法少女の国【Magical Girl State】通称MGS
その歴史は浅く、S国にあったとされる過激派組織をある魔法少女が乗っ取ったとも言われ、
魔法の国から離脱し魔法の国に対して反政府的な魔法少女が現地で魔法少女を集め建国したとも。
組織のトップや幹部が魔法少女であることだけが知られている。
当初魔法の国は事態を重く受け止めておらず、交渉に何名かの魔法少女を派遣したのだったが、その全員がMGSの人質になってしまい魔法の国は手をこまねく。
人質の解放の為に要求を聞くべきだともテロリストの要求など突っぱねろとも。魔法の国が対応に困っているとMGSはある映像を動画サイトに公開した。
一瞬陽気にも聞こえるBGMが鳴り始め人質の魔法少女とテロリストの魔法少女が映し出される。人質の側に居たテロリストの魔法少女が言葉を呟く。
【神の名の下、処刑する】
人質になっていた魔法少女は怯えている。
動画の最初のうち、処刑を任されている魔法少女は刃物を手に持ち感情の無い目でカメラに目線を向けていたが、神への祈りが終わると同時にテロリストは魔法少女を見据えていた。
無慈悲に見つめながらつめより、テロリストの少女が刃物をじりじりと人質に突きつけ引いていく。人質の魔法少女の首元から赤いしずくが溢れ出る。
魔法少女は首を切られても少しの間は生きていたようだったが、時がたつにつれ次第に瞳から光が失われていく。
息絶えた魔法少女の変身が解けるが、構わずテロリストの少女は首を切り続け、胴から離れた首はまるで神への供物のように捧げられ、テロリストはただ神へ祈る。
真っ黒な画面に切り替わり魔法の国への宣戦布告とも取れる文章が表示されていた。
MGSの所業を目の当たりにした魔法の国の上層部は問題解決を急がせる。
S国の軍と協力しテロリスト鎮圧に力を注ぐが、思いのほか効果は得られず政府軍も政府軍で、反政府軍との戦いとテロリストとの3つ巴の戦いに苦戦していた。
泥沼の混迷を極める戦いに終止符を打つために、魔法の国はMGSを内部から崩壊させるべくスパイをもぐりこませる事にした。
その候補として白羽の矢が立ったのがスノーホワイトだった。
◇◇◇
【ぽん! 魔法の国は人使いが荒いぽん! いきなりスノーホワイトの初仕事がやってきたと思えばいきなり海外ぽん!】
ファヴは憤る。
魔法の国は常に人材が不足しており、ファヴは長年魔法少女のスカウトをこなしていた実績から魔法の国から一定の信頼を得ていたが、今回のクラムベリーの事件で報告義務を怠った事や、事件を未然に防げなかった事などの責任を追求され窮地に陥る。
だが同時にスノーホワイトという逸材を見つけた事への功績も認められ、ある種法規的な措置をもってファヴはマスコットとしての仕事を引き続きこなしていたのだったが、やはり魔法の国にしてみれば危険なマスコットであることに変わりはなく、初仕事がいきなり海外の紛争地域というありさまだった。
スノーホワイトは困っている人がいるのならと海外での危険な仕事を了承し飛行機に
「本当に魔法の国の人が困ってたから」
【スノーホワイトってば甘いぽん、でもそれがスノーホワイトのいい所だぽん】
ファヴは電子で造った飴を舐めながらスノーホワイトと一緒に飛行機が目的地に到着するのを待っていたのだが、当のスノーホワイトは機内の声に気付き立ち上がり飛行機の窓を覗いて中の様子をうかがっていた。
【スノーホワイト急にどうしたぽん?】
「飛行機の中で沢山の悲しい声が聞こえたから」
【もしかしてこの飛行機ハイジャックされてるぽん?】
ファヴは覆面をし銃を持ったハイジャック犯の様な人物を見つけスノーホワイトに注意を促す。
話し合いで解決できないかとスノーホワイトはファヴに相談するが、ファヴは黙って左右に身体を動かしているだけだ。
二人はどうか墜落しないよう願いながら雲行きを眺め尾翼に座り飴を口に放り込む。放り込んだ飴が溶けきりそうになったその頃合に飛行機は空港に着陸する。
【ぽん? 近くに魔法少女がいるぽん】
ファヴが自身のレーダーにかかった魔法少女の存在を口にした刹那、見慣れぬ魔法少女が現れハイジャック犯に要求を突きつけたのである。
魔法少女は黒衣を纏い表情は窺えないがその声色は甘美で透き通った聞き心地の良いものであった。
「飛行機のハッチを開けて大人しく出てこい」
するとハイジャック犯達は何の要求もせず、ただ魔法少女に従うように降りはじめ、降りて来たハイジャック犯に魔法少女は大人しくするように言い放ち、その足で飛行機の中に乗り込む。魔法少女の声が機内に広がり中に居た人々を安心させ何事も無かったかのように彼女は降りて来る。
ハイジャック犯達は魔法少女を待っているかのように隊列を組み微動だにせず機外で佇む。
魔法少女はハイジャック犯達を厳しく叱るように声を荒げて諭そうとしている。ところがハイジャック犯の一人が魔法少女に詰め寄り掴みかかろうとしたのだ。しかし魔法少女は掴みかかってきたハイジャック犯を一蹴し逆に組み伏せた。
組伏された犯人から湯気のようなものが発生し苦しみ始める。
周りのハイジャック犯達はまるで懇願するように止めてくれと魔法少女にすがりながら許しを乞う。魔法少女は組み伏した相手を解放し次は無いぞと警告した後、飛行機に目を配らせる。
事の次第を見守っていたスノーホワイト達は一人でハイジャック犯を制圧した魔法少女と目が合ってしまう。スノーホワイトは微笑みながら手を振り魔法少女に駆け寄っていく。ファヴの制止する機械的な声が響いた。
スノーホワイトは見知らぬ魔法少女に挨拶をするが、相手は訝しむ様な顔つきで身構える。ファヴが通訳を買って出て間に立ち話をすすめ敵意がない事を伝える。
「お前見慣れない魔法少女だな、MGSの者か?」
ファヴを通して黒衣の魔法少女から質問をされスノーホワイトは
ファヴがどうするべきか考えようとしているとスノーホワイトはそそくさと車に同乗し、運転席にいる魔法少女によろしくお願いしますと言い顔をほころばせる。
「お嬢ちゃん命知らずだな、気に入ったぜ」
運転席に座する魔法少女はまるで映画に出てくるようなハンドル捌きで車を鮮やかに運転し荒路を飛ばして行く。
ハンドルを握る魔法少女はまるで観光案内のように昔はここは綺麗な場所だったとか、ここには学校があった等スノーホワイトに自身の思い出話を語り始める。そしてその思い出の風景がMGSによって破壊されたことや政府軍は見て見ぬふりをして見捨てた事も。
ハンドルを握ると口数が増えるのだろうか運転中の魔法少女は饒舌でスノーホワイトに対し子供におどけた話をする大人のように振舞う。
後部座席に座ったスノーホワイトは話を聞きながら激しく揺れる車の中をまるでゆりかごの様に感じ嬉々としながら瞳を輝かせ、ファヴにも同じ景色を見せようと端末を手に取り楽しみながら束の間の愉快な時間を楽しむ。ファヴは表情こそ無機質であったが旅をどこか楽しんでいる様子で車内は埃っぽい空気に似合わないみずみずしい笑顔と笑い声で包まれていた。
「肝が据わってるな。俺はハードボイルドって言うんだ、お嬢ちゃん名前は何ていうんだ?」
【スノーホワイトだぽん!】
名前を聞かれたのはスノーホワイトだったがファヴが間に立ち説明を始めていた。ついでにファヴ自身の事も説明し表情は機械的だがスノーホワイトの相棒だという事を誇らしげな顔で話ている。
可愛らしい相棒だなとハードボイルドは顔をほころばせながらファヴの頭を撫でる、なでられたファヴは前見て運転しろとぶっきらぼうな返事をしていたがスノーホワイトにはそれがファヴなりの照れ隠しなのだと分かり、ハードボイルドと同じようにスノーホワイトもファヴを撫でる。ファヴは呆れつつもスノーホワイトのなでかたの方が優しいと感想を述べる。その事が面白かったのかハードボイルドは運転が疎かになりそうなほど笑いつられて車内は賑やかになる。
「スノーホワイトいい名前だな! そうか白い雪か、しばらく見てねえなあ……」
ハードボイルドは遠い場所を見つめるように窓の外を見つめ一人ごちた。
◇
朽ちかけ忘れ去られたような建物が狭くひしめき合った場所にたどり着き、運転席に座っている魔法少女ハードボイルドが車から降りスノーホワイトの座る後部座席のドアを開け目的地に着いた事を告げる。
「ここが俺達の
愛嬌のある声でスノーホワイトをアジトへ案内しはじめる。ファヴは警戒しているようだったがスノーホワイトは先導のハードボイルドに悪意が無い事を
建物の中に入ると外の朽ちかけた印象そのままに冷たい
「安心しろこいつはMGSの者じゃない、俺が保護した魔法少女だ」
魔法少女という言葉に屈強な男達がたじろいでいた、その様子は大人の男であるはずの眼前の男達がまるで子供のように怯えている。
「ここに居る奴らはMGSの魔法少女に仲間を殺されているから魔法少女という存在自体が恐怖であり憎い存在なんだよ……って辛気臭くなっちまうからこの話はやめだ」
ハードボイルドは部屋へ案内しリーダーを連れてきて会わせるから待っていろと言い残し部屋を立ち去る。
しばらくすると精悍な顔つきの男性が部屋に入ってき自分がこの組織のリーダーだと自己紹介をするがスノーホワイトには彼の別の声が聞こえており、つい口を滑らしてしまう。
「おかえりなさいハードボイルドさん」
スノーホワイトの言葉を聞き誤魔化そうとするが表情を変えず笑顔のままのスノーホワイトに根負けし意を決したように照れくさそうに。
「俺の正体に気付いたのはお嬢ちゃんが初めてだよ」
そう言いながら
「男の魔法少女は滅多に居ないらしいな」
スノーホワイトはハードボイルドの言葉を肯定しながら自分の友達にも男の子で魔法少女している者がいると話す。ハードボイルドは自分以外にも居るのかと少し驚きつつも笑う。
「改めましてだな俺はハードボイルド。能力は触れた相手を茹で上がらせちまう力だ。お嬢ちゃんも空港で見ただろ? そしてこの組織のリーダーで魔法少女だ」
手を差し出し握手を求めるハードボイルドの手をスノーホワイトは笑顔で握り返す。
「やっぱりお嬢ちゃん肝が据わってるぜ、躊躇いも無く俺と握手するなんてよ」
ハードボイルドは口調とは裏腹に嬉しそうな笑顔を見せ、そして次に真剣な面持ちに変わる。
「悪いことは言わねえ、お嬢ちゃんは部外者だろ今すぐこっから手を引いた方がいいぜ」
向こうでは女性は男性と握手しない教えになっていますがハードボイルドはわざと握手をして相手がこちらの文化圏の人間ではない事を確かめています