魔法少女育成計画-dogma-   作:闇と帽子と何かの旅人

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第十三話『旅路』

 ハードボイルドは警告する。

 表情こそ布で覆われていて見えないが、唯一隙間から覗き見れる瞳は、人を射殺せるほどの鋭さを持ち合わせ――警告が冗談ではない事が伺える。 

 だが表情とは裏腹に、部外者であるスノーホワイトを、この国の内戦に巻き込みたくはない。

 そんなハードボイルドの優しい心が、スノーホワイトには、ひしひしと伝わってきていた。

 

 「力になりたいんです」

 

 スノーホワイトは素直な気持ちを伝える。

 警告しても意志が変わらない様子を見たハードボイルドは、頭を抱えながらも笑い始める。

 

 ――敵わねえな。

 

 小さく、そう呟きながら。

 

 「嬢ちゃん。気持ちはわかったが、助けるって言っても、具体的な作戦とかはあるのか?」

 

 ハードボイルドの言葉に、スノーホワイトは困り顔をしている。少しの間、静寂が続く。

 その静けさを打ち消したのはファヴの声だった。

 

 【ぽん! スノーホワイト、電話だぽん】

 

 電話の主は吉岡だとファヴは付け加える。

 吉岡は魔法の国の人物で、今回のS国行きの仕事を依頼してきた張本人でもあり、直接現地に赴いてはいないが、サポート役を買って出ている。

 だが吉岡とスノーホワイトは、何度か電話越しの会話をした事はあるが、直接(、、)会った事はない。ファヴは吉岡という人物の胡散臭さを感じて、スノーホワイトに注意するように言ってはみたものの、あまり気に留めていないようである。

 

 ファヴが吉岡を訝しむ理由。

 それはクラムベリーの試験が終わった直後、魔法の国に呼ばれた時の事である。

 会議室には各部門の管理職が連なり、事件の取調べと、魔法少女の面接も兼ねての威圧的な面談。ファヴとしてはクラムベリーと行っていた事に関しては、なんら弁解する気も無く、自身が処罰(初期化)されようとも、スノーホワイトが魔法少女の資格を剥奪されないように庇うつもりであった。

 調査に来ていた各部門の管理職達は、ファヴの思惑通り事件の責任は、ファヴやクラムベリーにあるとの見解で、スノーホワイトは事件の被害者として扱われていた。

 ファヴとしては例え自分が初期化()されても、新しい自分(正しい電子妖精)なら、またスノーホワイトと仲良くやっていけるだろうと踏んでおり――罰を受けいれた咎人が如く、断頭台に立たされた気持ちでスノーホワイトを見つめていた。

 

 それがいけなかった。

 

 スノーホワイトはファヴの心に残る気持ちを聞いてしまう。

 そんな気持ちで自分を助けようとする友達(ファヴ)を、スノーホワイトは見捨てることなどできない。スノーホワイトはファヴと共に、魔法少女として仕事がしたいと具申する。

 

 しかし、新人の魔法少女の意見など一蹴される。逆に管理職の人間が、スノーホワイトの魔法に疑問をぶつける。

 困った声が聞こえる。これはどういう魔法なのかと、嘲笑のようにも取れる質問が飛び、各部門の者達も同調する形でスノーホワイトへ視線を向ける。

 

 その場に居た魔法の国の者達は、スノーホワイトの魔法を見誤っていた。

 

 大方ファヴが御し易い魔法少女を見繕い、クラムベリーから乗り換えたのだと。

 スノーホワイトはそうですね、と一呼吸置いた後、管理職である魔法少女で外交部門の二人組みに話しかける。

 

 「そちらの上司の方が困っていらっしゃるようなので、あまり困らせないであげてください」

 

 一瞬、場が静まり返る。話しかけられた外交部門の二人以外、他部門の管理職達は、何が起こったのかさえ理解できない。ただ外交部門の二人は身に覚えがあるようで、声が大きくなる。

 

 初対面のはずのスノーホワイトに、外交部門の二人は関係を見破られた。

 弱みを握る者(部下)握られる者(上司)

 

 その後もスノーホワイトは、各部門の魔法少女達の困った(、、、)声を聞き、解決方法を提案する。

 最初はスノーホワイトの力があれば、派閥争いに優位に立てるといった、希望的な考えを持っていた魔法少女も居たが、矛先が自分達に向くと、その声も静まり返り、会議は終りを迎えた。

 結局その場に居た全員が、スノーホワイトに困った声(弱み)を聞かれてしまい、誰一人スノーホワイトに逆らえなくなったのである。

 

 ファヴの決死の覚悟は、守ろうとしたスノーホワイトに、ファヴ自身が守られることにより徒労に終わる。

 

 そして会議で魔法の国の各部門は、スノーホワイトの危険さを理解し、どの部門もスノーホワイトが所属する事に難色を示す。

 そんな折、所属がそのまま保留となったスノーホワイトに、救いの手を差し伸べたのが吉岡だった。会議室を出た直後、突然魔法の端末に連絡が入り、あなたの力が必要ですと、一方的な協力要請。タイミングが良過ぎるのもそうだったが、吉岡は話し合いの時も直接対面する事無く、全て魔法の端末での通信によるもので済ませていた。

 スノーホワイトの魔法を、理解しすぎているとファヴは直感し、あまりスノーホワイトと関わらせたくないと思っていたのである。

 

 『スノーホワイトさん。仕事は順調そうでしょうか?』

 

 吉岡のビジネスライクな会話に、スノーホワイトはこたえる。

 

 「無事たどり着きました。これから魔法少女の国に向かうところです」

 

 二人のやり取りをハードボイルドが覗き込み尋ねる。

 

 「嬢ちゃん誰と話してるんだ?」

 

 魔法の端末は電話のようにも使え、国を越えての通話も問題無い。

 ファヴは説明口調でハードボイルドに言いながら、今スノーホワイトは仕事の話で忙しいぽんと、落ち着きが無い。

 

 「へぇ、便利なもんだな、魔法の端末ってのも」

 

 ハードボイルドは、はじめて見るかのように、まじまじとスノーホワイトの手に持っている端末を見遣る。

  

 【ぽん? ハードボイルドは端末もってないぽん?】

 

 持っているには持っているがと言いながら、出された端末は愛らしいぬいぐるみの様な魔法の端末で、ハードボイルドはぬいぐるみに、ごめんよと呟きながら、ぬいぐるみの腹を開くように端末の画面を取り出しファヴに見せる。

 

 「こんなもんでよ、なんだかぬいぐるみが可哀想なんで、あんまり端末は使ってないってわけだ」

 

 愛らしいぬいぐるみの腹を抉るのは気が引けるという、口調に似つかわしくないセリフにファヴは内心呆れていたが、その心の温かさが魔法少女に選ばれた理由でもあるのだろうと臆度し、同時に奇怪な魔法の端末を用意した、まだ見ぬ人物の所業に悪寒が走る。

 

 スノーホワイトは吉岡と話しつつ、横目でファヴとハードボイルドの二人の掛け合いを、甘美なる一時のように愛おしく感じ取っていた。

 電話口では吉岡に現在の状況を話し、ハードボイルドという魔法少女と行動を共にしている事などを伝えると、吉岡はハードボイルドと話がしたいと言う。

 ファヴは通訳を買ってでて、ハードボイルドの辺りを(ぐるり)としている。

 スノーホワイトはハードボイルドに端末を手渡し電話を代わリ、ハードボイルドは電話の向こう側の人物に警戒しながら対応を始めるが。

 

 『はじめまして、ハードボイルドさん』

 

 吉岡はスノーホワイトと話していた時とはうって変わって、ハードボイルドに合わせ言語を変えて話す。

 

 「よぉ、魔法の国のお偉いさんが俺に何の用だ?」

 『先ほどスノーホワイトからあなたの話を聞きました、信頼できる方だと』

 

 吉岡からの言葉を聞いて、スノーホワイトの方へ頭を振り睨み付けるも、スノーホワイトは首を傾げ、笑顔でハードボイルドを見つめているだけである。

 ファヴがハードボイルドの横で聞き耳でも立ててるかのように浮いていたが、通訳の必要は無さそうだと判断し、所在なくスノーホワイトに寄り添う。

 

 「なるほどね、嬢ちゃんの魔法で俺が魔法の国の御眼鏡にかなったてわけか」

 『こちらも人手が足りませんので、協力関係を築ければと思いまして』

 「魔法の国と協力ねえ……あんたらの良い様に扱われて、用が済んだらポイってか」

 『何か魔法の国について誤解をしていらっしゃるようですね、では言い方を変えましょう。スノーホワイト(、、、、、、)に力を貸していただけないでしょうか』

 

 吉岡のスノーホワイトへの執着のようなものが垣間見れる頼みは、ハードボイルドのツボにはまったようで、ハードボイルドは豪快に笑いながら依頼を快諾。

 

 「あんたの魂胆はわかったぜ。俺としても嬢ちゃんは死なせるには惜しいからな」

 『話の分かる方で助かります。ではスノーホワイトには私から伝えておきますので』

 

 話し合いはどうやら良い方向に進んだ様子。ハードボイルドは意気揚々としながらスノーホワイトへ端末を返す。

 再び通話に出たスノーホワイトに吉岡は、ハードボイルドに付いて行き、手伝うよう指示を出す。

 表情や感情は電話越しなので伺えないが、吉岡は平素変わらぬ口調で話をしており、二人の通話は吉岡の、それではお気をつけて、と言う無機質な会話で締めくくられた。

 

 【これからどうするぽん?】

 

 通話が終わった直後発せられたファヴの疑問に、ハードボイルドはそうだなと考えを巡らせながら答える。

 

 「古い知り合いに会いに行こうと思ってな、嬢ちゃん達も付いて来い」

 

 アジトを後にするスノーホワイト達、アジトの内部にいた他の反政府メンバーは相変わらず怪訝そうな表情をしており、不満や絶望といった、声にならない声をあげていて、そんな様子のメンバーに、ハードボイルドはやれやれといった感じで声をかける。

 

 「おめえら揃いも揃って魔法少女より少女だな、下見てるんだったら落とした玉でも拾っとけ」

 

 活を入れるようにハードボイルドは声を荒げ、メンバー達は突如声を荒げた魔法少女の声に驚いていたが、彼らにとって、どこか親しみの持てるハードボイルドの言葉は、魔法少女への恐怖を和らげる。

 先ほどまで、生気を感じさせないほど疲れきった反政府メンバー達が立ち上がり、ハードボイルドへ言葉を投げ返す。

 

 ――お気をつけて。

 

 精悍な顔つきをした戦士達が仲間を見送る。

 戦士の言葉を背に二人の魔法少女はアジトを後にし、来た時のように、改造車へと乗り込み、魔法少女二人と一匹の電子妖精がS国首都へ乗り付ける。

 スノーホワイトは車を降り、街の中へと繰り出そうとするが、ハードボイルドに制止され、布を渡される。 

 

 「嬢ちゃん、その服だと目立つからコイツを被ってな」

 

 ありがとうございます、とお礼をいい慣れない手付きで布を被る。

 途中ハードボイルドが手伝っていると。

 

 【ハードボイルドは世話焼きさんぽん】

 

 ファヴが表情こそ変わらないが、笑いながらハードボイルドにちょっかいをかける。

 

 「世話焼きで悪かったな。世話の焼けるガキを見てるとほっとけねえタチなんだよ」

 

 賑やかな一行はその足で、首都にある政府役人の執務室へと飛んでゆく。

 二人は軽やかに高層階の建物のベランダにたどり着き、ハードボイルドが建物のベランダから部屋の中へと飛び込む。

 

 「邪魔するぜ」

 

 ノック代わりの挨拶とでも言わんばかりの速さで役人の横へ辿り付く。

 部屋の中には一人の役人がデスクに座り本を読んでいたが、デスクから見て真正面のベランダにいるスノーホワイトや、真横に居るハードボイルドに気付くや否や、驚きの表情を隠せないでいた。

 

 「賊か!? 何が目的だ?」

 

 そう慌てなさんな、ハードボイルドは敵対する意志は無いと説明しながら、親しみを込めて話しかけた。

 

 「せっかく古い友人が遊びに来てやったってのに、少しは喜べよ」

 

 役人はハードボイルドを凝視するも、知らぬ存ぜぬといった様子で。

 

 「お前達の事など知らぬ。人違いではないのか?」

 

 中々要領を得ない会話が続き、ハードボイルドは少々苛立ち気味に言葉をまくし立てる。

 

 「ハマーの町でケツを撃たれたお前さんを介抱してやったのを、覚えてねえとは言わせねえぞ」

 「それはお前が後ろから撃ってきたんだろうが! って……まさかお前」

 「今は魔法少女やってるんで、そこよろしく」

 

 ウィンクを決め、旧友と熱いハグを交わすハードボイルド。

 役人は旧友が見知らぬ姿で、訪問して来た事への違和感もさることながら、魔法少女として現れたことに最早驚くのを諦めたようである。

 

 「お前……何故魔法少女に?」

 「人形拾ったらなっちまったよ。それよりお前、魔法の国の魔法少女をMGS(魔法少女の国)に売ってるだろ」

 「それを聞いてどうする気だ? 強請りなぞせんでも、金がほしいなら援助してやる」

 「いや、そんな事を頼みに来たんじゃない」

 

 どういう事だと疑問に思う役人をよそに、ハードボイルドは意を決し、ある頼み事をする。

 

 「俺をMGSに売れ」

 

 役人は目を丸くし、口を開けたままハードボイルドを見つめる。

 

 「お前……死ぬ気か?」 

 

 ハードボイルドはそんな旧友の心配をよそに、軽口を叩くかのように自らの意思を伝える。

 

 「命より大事な用事があるんだよ」

 

 役人は口を震わしただ一言、わかったと言い、MGSとの連絡を始める。

 連絡が終わった役人は椅子から立ち上がり、ベランダにいるスノーホワイトにも聞こえるような大きな声で連絡が上手くいった事を伝え。 

 

 「魔法の国の魔法少女を捕らえたから、MGSの仲間に入れて欲しいと伝えた、後はお前達が好きにしろ」

 

 明日の正午に約束を取り付けた、と付け加えながら。

 用件を伝えた役人は椅子にふんぞり返りながら、ハードボイルドにこれは貸しだぞと言い、貸しは必ず返せよと旧友に別れの言葉を伝える。

 

 恥ずかしさがあるのかハードボイルドは、そそくさと先ほど入った窓の方へ踵を返す。

 

 ――ありがとよ。

 

 ポツリと呟いた口元は誰にも見えないが、スノーホワイトには聞こえていた。

 ハードボイルドは、さてと。と言い、背伸びをしながらスノーホワイトの手を握る。

 

 「嬢ちゃん、これから魔法少女の国へ旅行と洒落込もうか」

 

 もちろん片道切符だけどなと、ニヒルな口調でおどけながら。

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