魔法少女育成計画-dogma-   作:闇と帽子と何かの旅人

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第十四話『生路』

 スノーホワイトは車の中でスヤスヤと、吐息をたてて眠っている。

 その様子を、運転中のハードボイルドは時折確認し、揺れの少ない走路を選び走っていた。

 ファヴは運転のサポート(道案内)をしながら、(ハードボイルド)と会話を弾ませている。

 

 【今日の運転は荒くないぽん】

 「そりゃ、嬢ちゃんが寝てるからな」

 【ゆっくり走って、約束の時間に間に合うのかぽん?】

 「そこはお前のナビが良いからな、この分だと三度目のお祈りの時間には着くかもな」

 【それって昼過ぎってことぽん? もっと急いでぽん!】

 

 ファヴが運転を急かしていると、スノーホワイトは目を覚まし、ファヴとハードボイルド達の喧騒に飛び込んでゆく。

 

 「嬢ちゃん。目覚めはすっきりかい?」

 「おはようございます、おかげさまで。ハードボイルドさんも運転お疲れ様です」

 

 労いの言葉をかけスノーホワイトは、ハードボイルドに飴を手渡す。受け取ったハードボイルドは、ハンドル片手に飴を口の中に入れ、機嫌良く話を続ける。

 

 「妖精も、嬢ちゃんぐらい気が利けばいいのにな」

 【ぽん? 飴が欲しかったのかぽん?】

 

 そうじゃねえよと苦笑し、飴を噛み砕く。

 

 「嬢ちゃんも起きたことだし、そろそろ飛ばしていくぜ」

 

 先ほどまでと違い車の揺れが激しくなるが、スノーホワイトは変わらずの様子で、遊園地の遊具に乗ってるかの如く愉しくわらう。

 魔法少女の国、通称MGS。どのような組織か、実態は空を掴むようで要領を得ない。

 わかっているのはメンバーが皆、魔法少女であることだけ。

 MGSのアジトの前に到着し、これから向かおうという場面で、車の中でファヴが、その国の説明を今一度していた。

 

 「つまりだ、俺達は今からそこに入国しにいくってわけだ」

 

 もちろん入国審査は厳しいし、パスできなければ首だけが勝手に入国しちまうかもな。そしたらこの妖精(ファヴ)とお揃いだと、豪気に笑う。

 ファヴは冗談じゃないぽん、と憤りを見せるが、相手にするのも疲れると判断し、話題を戻す。

 

 【どんな風に潜入するぽん?】 

 「そうだな、嬢ちゃんを手土産に俺がMGSに入るわ」

 【ぽん? スノーホワイトを売るのかぽん!?】

 「なあに心配いらねえ、それに嬢ちゃんは、この作戦で行くのに不満は無いみたいだぜ」

 

 ファヴはまさかといった様子で、スノーホワイトの方を覗き見る。

 

 「はい、それで問題ありませんよ」

 「よしじゃあ、決まりだな! 行くぞ」  

 

 何とも軽い。重要な事がぽんぽんと進んでいく様子に、ファヴは少し置いてけぼりを食らいそうになる。スノーホワイトが、大丈夫だよと囁きながらファヴを撫でる。

 そうすると、不安が一蹴され、晴れやかな気持ちになったファヴは――

 

 【覚悟を決めていくぽん!】

 

 ファヴは一番乗り気でアジトに向かいながら、今度は建物の説明を始める。

 建物は荘厳。硬い質感の石造建築物は、S国の文化遺産にも登録されているほどの歴史を持つ。

 

 【結界の類の魔法もないぽん】

 

 観光に来たのかと、錯覚しそうになるほどの、饒舌な案内から一転。建物に罠が仕掛けられて無い事を報告する。

 アジトの入り口にたどり着くと、そこには魔法少女が佇んでおり、スノーホワイト達に一瞥をしていた。

 

 「はじめまして、魔法少女の国へようこそ。入国希望の方は?」

 

 MGSの魔法少女が出迎える。物腰の柔らかい口調。だが、それとは真逆の、ツギハギの手術跡。第一印象はそれに眼を奪われるが――それが終わると、次に押し寄せるのは違和感。看護服に身を包んではいるが、纏った服はボロボロで、栗毛色のボサボサの髪や目のクマも相まって、不健康さを醸し出している。

 

 「俺が入国希望のハードボイルドだ、よろしくな」

 「よろしくどうも、ではこちらへ」

 

 顔色の悪い魔法少女は、スノーホワイトをじっと見つめた後、特に拘束もせず、ただ案内を始める。行動に訝しさを感じたハードボイルドは、疑問をぶつけた。

 

 「えらく無用心なんだな」

 「私はただ客人を、お待ちして連れて行く、ただそれだけですから」

 

 ハードボイルドは仕事熱心な事だと笑いに伏す。

 

 「それにしても約束の時間より1時間も早く来ちまったが大丈夫か?」

 

 ハードボイルドは、約束の時間より早く到着し、相手の様子を見るつもりだった。一時間前に現れたのにもかかわらず、案内係の魔法少女は、表情一つ変えない。ハードボイルドは、まるで機械か何かが案内してるのかと、勘違いしてしまいそうになっていた。

 

 ――これならあの妖精のほうが人間味があるぜ。

 

 そう呟きそうになるのを堪えながら、相手の返答を待つ。

 

 「私は予定より早く行動するのが好きなので、ここで待っていただけですよ。お気になさらずに。それより、そちらの方……」

 

 案内役の魔法少女は、スノーホワイトへ視線を移し、なにやら口ごもる。

 その様子に気付いたスノーホワイトは笑顔で、これからお世話になります、と朗らかな声色で話した後、ファヴが通訳をし場を和ます。

 

 「肝が据わってるだろ、この嬢ちゃん」

 「……肝がというより、これから起こる事が分かってないのでは?」

 「そりゃあねえな、こいつは魔法の国の魔法少女だぜ。まあ害は無さそうだけどな」

 

 それよりも、とハードボイルドは話題を変えるように、MGSのリーダーについて質問をはじめる。

 

 「それで、ここのリーダーってのはどんな奴なんだ?」

 「お会いになれば分かるかと」

 

 淡々とした事務的な案内で、広間の前にたどり着くスノーホワイト達。

 広間の中では、なにやら大きな声が響いており、ハードボイルドは慎重に中の様子を伺う。

 

 「今居られるのは、お二人の前に来られたお客様ですね。気にせず中に入りましょう」 

 

 特段気にする様子も無く、案内役の魔法少女は歩みを進める。

 険悪なムードの中をハードボイルドは、警戒を強めスノーホワイトの手を握り、慎重に歩を進める。

 前方から聞こえた激しい怒鳴り声はどうやら、先ほど案内役が口にした客人(、、)と呼ばれる魔法少女二人に向かって、最奥に居るローブの魔法少女が放っている模様だ。

  

 「弁解があるのなら言ってみろ、それとも怖くて声も出せないか?」

 

 表情こそローブを纏っていて見えないが、ローブの魔法少女の声色は相手を威圧するように発せられ、座っている二人組みの魔法少女に問いかけていた。

 

 「私達はスパイではありません!」

 

 意を決したように座っていた魔法少女の一人が立ち上がり弁明をする。

 だがローブの魔法少女の後ろから、ひょいと出てきた小さな白黒の魔法少女が言葉を告げる。

 

 「うそつき」

 

 立ち上がって弁明をしていた魔法少女の全身が光り始め、恐怖に怯えた魔法少女はその場から崩れ落ち、命乞いを始める。

 その様子に、二人組みのもう一人が口を開く。

 

 「こいつはスパイなんかじゃない! 私達は魔法の国とは関係ないから、解放しろ!」

 

 特段縛られた様子でも無い魔法少女は、解放しろと声をあげる、その怯えるように発せられた声は無慈悲な声で遮られる。

 

 「こっちもうそつき」

 

 嘘をついたと言われた、もう一人の魔法少女も全身が光り始める。

 

 「違う! 嘘じゃない! 頼む、本当なんだ信じてくれ、こいつだけは……」

 

 震えて声も出せない魔法少女と違い、無謀にも弁明を重ねる。

 その言葉を嘘だと見抜かれても、尚続ける。

 弁明をする少女の全身は輝きを増し、最期は消え去り、そこには砂が舞い落ちる。

 

 取り残された、先に光り始めた魔法少女は、輝き消え失せてしまった仲間の立っていた場所に縋りつき、その場に残った砂を拾い集めようとする。

 

 ――集めども、集めども、砂は掌から零れてゆく。

 

 声にならない悲鳴を上げ、涙だけが止め処なくあふれ出す。

 そして、輝きを増した少女もやがて砂に変わり果てる。

 

 ――先客の魔法少女達は二人共砂に変わり、散っていった。

 

 一部始終を見ていたハードボイルドだったが、魔法少女達に臆する事無く。

 

 「マジックショーにしては過激すぎだな。子供には見せられねえ」 

 

 と、淡々とした口調で、しかし命を懸けた戦場だと認識し、近付いてゆく。

 その気迫に白黒の魔法少女は、ローブを纏う魔法少女の後ろへ隠れる。

 間を慌てて取り持つ案内役の魔法少女。

 

 「こちら正午に会う約束をしていた魔法少女達です、少々早いですが、お連れしました」

 

 紹介されたハードボイルドはよろしくな、と挨拶をした後、質問を口にする。

 

 「それでどいつがここ(MGS)のリーダーなんだ?」

 

 ローブの魔法少女が質問を肯定するかのように、ハードボイルドと対峙し、問い返す。

 

 「お前か、この国に入りたいという魔法少女は」

 「ああ、手土産も持ってきたぜ」

 

 そう言いながらスノーホワイトの方へ顎を(しゃく)る。

 

 「あいつ(、、、)が魔法の国の魔法少女か、こっちへ来い」

 

 ローブの魔法少女はスノーホワイトを呼びつけ、スノーホワイトも応じ、ローブの魔法少女の方へ歩いてゆく。

 ファヴが警戒しながらスノーホワイトを紹介し、スノーホワイトはにこやかに、笑いかける。

 

 「先ほどの光景を見ていて動じないのか、他の魔法の国の魔法少女はもう少し人間味があったぞ」

 

 スノーホワイトの様子を見て、ローブの魔法少女も警戒を崩さない。

 ローブの魔法少女はそのままスノーホワイトへ質問を始める。

 

 先ほどと同じように。

 

 「スノーホワイト、お前は何の用があってここに来た?」

 

 スノーホワイトは淀みなく答える。

 

 ――皆さんの力になりたくて。

 

 ローブの魔法少女は、己にしがみ付いている白黒の魔法少女に問うが、返って来た言葉は予想外だったようで――

 

 「うそついてないよ」

 

 白黒の魔法少女は覗き込むようにスノーホワイトを見つめ、ファヴが慌ててスノーホワイトを止めようとしたが、スノーホワイトもローブの魔法少女に近付く。隠れている白黒の魔法少女を同じような体勢で覗き込み、笑顔で挨拶を始める。

 

 「こんにちは、あなたのお名前を教えてもらえませんか?」

 

 白黒の魔法少女は目線を同じにし、話しかけてくるスノーホワイトに興味を持ったのか、ローブの魔法少女に隠れるのを止め、スノーホワイトの前に姿を現す。

 

 白黒の魔法少女はとても小柄で、1mほどの身長に、闇を連想させるような漆黒の髪に、白磁のように真っ白な肌。吸い込んでしまうかのように、全てを見据えている瞳は色素が無く、血の赤さだけが際立ち、非常におどろおどろしい。

 真っ白いワンピースに、真っ黒なボタンが縫い付けられたシンプルな服を身に纏い、足元は左右で白と黒の色違いのタイツに包まれており、足先にリボンのあしらわれた靴、白いリボンの方は黒い靴で、黒いリボンの方は白い靴と、色が目まぐるしい自己主張を発している。

 

 

 「わたしはリアリィ、スノーおねえちゃんはどこからきたの? どうしてここにいるの? そのとんでるいきものはなあに?」

 

 リアリィと名乗る白黒の魔法少女は、目を輝かせながらスノーホワイトに質問責めをする。

 沢山の質問にたぢろぎながら、返事をするスノーホワイトとファヴ。

 

 リアリィは返事の一つ一つに大はしゃぎし、更なる質問を止め処なく繰り返す。

 その大量の質問に、スノーホワイトは笑顔で丁寧に答えてゆく。

 

 【質問が多すぎるぽん、通訳するファヴの身にもなって欲しいぽん】

 

 どこか人間味のあるファヴの愚痴に、スノーホワイトは苦笑しつつ、困っているようなので助け舟を出す。

 

 「リアリィさん、お近づきのしるしに飴をどうぞ」

 

 そう言われ差し出された飴を受け取って包みを剥がし、リアリィはまるで宝石を見るかのように飴を覗き込む。

 

 「きれい! これはなに?」

 「食べ物ですよ、口の中に入れて溶かすものです」

 「こんなにきれいなたべものがあるんだ!」

 

 はじめて目にした食べ物を口に運び、更に表情は愉しく綻ぶ。

 おいしさとたのしさを混ぜ合わせた声は、飴を含んだ口から発せられる。

 

 「スノーおねえちゃん、あめおいしい! もっとちょうだい!」

 

 元気に飴を催促するリアリィ、その様子にスノーホワイトは笑顔で飴を手渡す。

 手渡されたリアリィは、その足で飴をローブの魔法少女に渡そうとする。

 

 「ジェーンおねえちゃんにも! あめおいしいよ!」

 

 ジェーンと呼ばれたローブの魔法少女は一度遠慮したが、リアリィの根に負けたのか素直に受け取り、顔を覆いかぶさっているローブを捲り上げ、口の中に飴を放り込む。

 飴を受け取り食べた様子を見ながら、リアリィは感想をまだか、まだか、と瞳で訴えかける。

 

 「確かにおいしいな、リアリィ」

 

 ジェーンは破顔の表情でリアリィを見つめ、その様子をスノーホワイトはもとより、ハードボイルドも優しい眼差しを向けていた。 

 

 「飴でご機嫌か、可愛い所もあるじゃねえか」

 

 ハードボイルドの言葉に、ジェーンは少しむっとした表情(かおつき)に戻る。

 

 「別にそこまで、ご機嫌なわけじゃない! ただ、リアリィが笑ったから、私も嬉しくなっただけだ」

 

 リアリィの前だからか、素直な感情を露にするジェーン。

 

 「嬢ちゃんたちは、笑った顔の方が可愛いぜ」

 「そういうお前こそ、笑った顔はさぞかし可愛いんだろうな。その布を取って見せろ」 

 

 ジェーンは突然ハードボイルドに掴みかかろうとするが、子供をあしらう様に避けられる。面白がったハードボイルドは腹を抱え笑う。

 

 「何が可笑しい!」

 「いや、お前さんさっきまで、泣きそうなほど悲しい顔をしてただろ? 嘘でもいい、笑ってれば心は少し楽になるからな」

 

 嘘という言葉にリアリィが聞き返す。

 

 「わらうのにも、うそはあるの?」

 【愛想笑いっていうのがあるぽん。そんな事する位だったら、普段からファヴみたいに愛くるしい顔になればいいぽん】

 「へんなのー。でもおねーちゃんたちは、ほんとうにわらってるね」

 「そりゃあな、嘘ついたら嬢ちゃんに痛い目合わされちまうからな!」

 

  リアリィの魔法を知っても、恐れる事もなく対峙している魔法少女に、ジェーンは少し驚き、同時に淀んでいた気分が晴れやかになる。

 

 「リアリィとにてるね、ファヴのいろー」

 

 リアリィはファヴを見て、自分の格好と同じ色合いなのを気に入った様子で、スノーホワイトの周りをちょこまかと目まぐるしく動いている。

 

 「ファヴ、スノーおねえちゃん。いっしょにリアリィのへやであそぼー」 

 

 リアリィはそう言いながら、スノーホワイトの手を引っ張り自分の部屋に連れて行こうとする。

 スノーホワイトは少し困ったような笑顔で、ハードボイルドを見るが、遊んできなと一言伝え、まるで子供を見送るかのような、優しい眼差しでスノーホワイト達に視線を向ける。

 

 「あんたんとこのお姫様は、どうやら手土産(スノーホワイト)を気に入ってくれたみたいだな」

 「スノーホワイト……不思議な奴だ、リアリィに対してあんなに自然に接するなんて」

 「そうだな、嬢ちゃんは困ってるお前達を、本気で助けたいと思っている、本当に不思議な奴だよ」

 「ハードボイルドお前はどうなんだ、この国に来た目的はなんだ?」

 

 ジェーンはハードボイルドに問いかける。ハードボイルドはいつも通りの口調ではおどけつつ。

 

 ――大統領にでもなろうかと。

 

 ジェーンは呆れを通り越して失笑する。

 

 「お前のバカさ加減なら、なれるかもしれないな」

 「そりゃどうも、それより歓迎パーティは開いてくれるんだろうな? 何なら俺の車で、買出し手伝ってやるぜ」

 

 まったく、と口から漏らしながら、信用できん、とジェーンは呆れ、ハードボイルドの監視も含めて買出しに同行すると告げる。

 

 「ハードボイルド、ご自慢の車とやらに案内しろ」

 「お姫様を乗せるような車じゃないが、それでもよければ」

 

 車に乗り込み街へと繰り出す二人。車の中でジェーンは、窓を開け遠ざかる魔法少女の国のアジトを見ている。

 

 「なんだ? もうホームシックか?」

 「家なんかとっくに捨てたよ……」

 「家族はいないのか?」

 「私が生まれたときに母さんは死んだ、父さんは……」

 「仲が悪いのか!」

 

 ハードボイルドは笑いながら、ジェーンの話を途中で遮ったので、ジェーンは苛立ちながらも愚痴をこぼす。

 

 「仲はどうなんだろうな……頑固で真面目な人だったから、喧嘩ばかりだったよ」

 「喧嘩するのは仲の良い証拠だろ、というわけで俺とも仲良しだな」

 「あのなぁ。父さんの事は嫌いじゃないが、お前の事は嫌いだ。その舐めた態度が気に食わない」

 

 ジェーンは運転しているハードボイルドの方に顔を向け問い返す。

 

 「そういうお前こそどうなんだ? あまり親に好かれるような奴には見えないぞ」

 「俺も親は居ねえよ。このご時勢だ、居る方が珍しいんじゃねえか?」

 「そうか……お前も色々大変なんだな。魔法少女の国に来たからには、食い物には困らせないから安心しろ」 

 「そりゃあ太っ腹で。まあこの姿(魔法少女)なら、いくら食べても腹は出ないがな」

 

 ハードボイルドは自分の腹を叩きながら笑う。ジェーンは蔑むような視線を向け、再び窓の外に顔を向けようとするが。

 

 「そういや、お前は好きな食べ物とかあんのか?」

 

 ジェーンは好物を聞かれ、お菓子を思い出し、一つだけ答える。

 

 「そうか、俺の大切な奴もそいつが大好物でな」

 

 ジェーンの答えに、ハードボイルド懐かしみながら返事をするが、その目は寂しげで、先ほどまでの笑い声は鳴りを潜め、車の駆動音が車内に響き渡る。

 

 「そいつは死んだのか?」

 「生きてるのか死んでるのかも分からねえ」

 「同じ好物を持つ者同士だ、生きているといいな」

 「気を遣わなくたっていいぜ、あと俺もそれ大好物なんだわ」

 「お前はもう二度と食べるな」

 

 再び車内にはハードボイルドの笑い声が木霊し、砂漠を車は駆け抜ける。

 

 

◇◇◇

 

 

 部屋につれられたスノーホワイトは、リアリィと一緒にファヴを観察していた。

 

 「ファヴくるくるまわってー」

 【ぽん? まわるのかぽん】

 

 リアリィに言われた通りファヴは回転を始める。

 鱗粉のような物をキラキラとはためかせるファヴに、リアリィもまた目をキラキラと輝かせる。

 

 「ファヴはお利口ですね」

 「リアリィもファヴといっしょにいたいなー!」

 

 リアリィのおねだりにスノーホワイトは少し困りファヴに相談すると、意外にもファヴは快諾。

 魔法の端末を出してとリアリィに言い、リアリィはポケットにしまっていた人形の形をした魔法の端末をファヴに見せる。

 

 「これでいいのー?」

 【それでいいぽん】

 

 スノーホワイトの持っている管理者用の端末から、リアリィの端末にファヴがデータを転送する。一度スノーホワイトの端末からの立体映像が消え、リアリィの端末からファヴの姿が映し出された。

 

 【これでいつでもファヴと会えるぽん!】

 「良かったですねリアリィさん、ファヴもありがとう」

 「わーい! でもスノーおねえちゃんのところのファヴはどうなったの?」

 

 ファヴは今一度リアリィの端末から姿を消しスノーホワイトの端末から出てくる。

 

 「あー! リアリィのところからいなくなっちゃった……」

 

 悲しそうな表情をするリアリィを目の当たりにし、スノーホワイトとファヴは顔を見合わせる。

 スノーホワイトの意思がファヴに伝わったのか、今度は二つの端末から同時に出現。

 

 「リアリィさん、リアリィさん、ミテミテ」

 「あ! ファヴがいる!」

 

 ファヴがやれやれと、ため息をつきながら愚痴をこぼす。

 

 【まったくファヴ使いが荒いぽん!】 

 

 二台の端末から発せられるファヴの声は、いつもより少し愉しそうな(キモチ)に。

 

 スノーホワイトとリアリィが穏やかな時間を享受していると、部屋の外から笑い声が響く。

 声の主は楽しそうにしていらしたのでつい、と断りを入れながら部屋へ入り、良かったと笑顔をスノーホワイト達に向ける。

 

 ――さきほどはどうも。スノーホワイトは声の人物に微笑み返す。

 

 スノーホワイトの視線を追い、リアリィも部屋に入って来た、看護服の魔法少女へ声をかける。

 

 「あ! メディカおねえちゃん!」

 「盗み聞きしてました」

 「あー、いけないんだー! でもしょうじきなのはいいこと!」

 「リアリィはスノーホワイトさんと仲良くなったんですね」

 「うん! スノーおねえちゃんと、ファヴと、ともだちになったよ!」

 

 リアリィはスノーホワイトの手を握りながら、スノーホワイトは愉しそうな、その手を、はにかみながら握り返す。ファヴも繋いだ手の上に乗って、跳ねながら、ぽんぽん、と口ずさむ。

 

 ――まるで仲良し姉妹のようですね。メディカは慈しむように見守る。

 

 「メディカおねえちゃんもあそぼー!」

 

 誘われたメディカも混ざり、楽しい時間は過ぎ去ってゆく。

 遊びつかれたリアリィが、スノーホワイトの膝の上で眠り、吐息をたてていた。

 

 「スノーホワイトさん、リアリィに懐かれちゃいましたね」

 

 あいくるしい姿はとても愛おしいと、スノーホワイトは述べ、母のような表情で、リアリィの頭をなでるスノーホワイト。

 

 「ところでスノーホワイトさんは、日本から来られたのですよね」

 

 メディカは突如日本語で、スノーホワイトに語りかける。

 

 【ぽんっ!?】

 「慌てないでファヴ」

 

 ファヴは日本語を話すメディカに驚くが、対照的にスノーホワイトは驚きもせず、ただうなずく。日本から離れた遠い国で、同じ国の人に出会えるのは嬉しいと、メディカはスノーホワイトを抱きしめる。

 

 「びっくりさせてごめんなさい、でも本当に嬉しくて」

 

 スノーホワイトはメディカの頭も、リアリィと同じように撫でる。

 ファヴは状況を整理し、落ち着くと、疑問を思い浮かべたようで、首を傾げる。

 

 【びっくりしたぽん! でも、メディカはどうしてこの国にきたぽん?】

 

 ファヴの問いにメディカは、抱きしめたスノーホワイトから離れ、スノーホワイトの瞳を見つめ語り始める。

 

 「私は元々NPO団体に所属する看護師として、この国に来ました」

 

 でも、と言いながらメディカは突如立ち上がり、クルンと一回転し。 

 

 「何故か魔法少女になっちゃいました」

 

 そう言ったかと思うと、往来の魔法少女のようなポーズを取り、照れた笑顔をスノーホワイトへ向ける。

 

 【さっき玄関で案内してくれた時と、今のメディカは別人みたいぽん】

 「冷たい態度を取ってしまってごめんなさい。最近はお客さんが来ても、あまり良い事が無かったから」

 

 メディカは辛そうな表情を抑えている様子だったが、その様子にスノーホワイトはメディカの手を握りしめる。

 

 「これは?」

 「飴です、トテモ美味しくて、気分が良くなりますよ」

 「ふふふ、何だか大阪のおばちゃんみたいですね、飴で元気を出せなんて」

 

 メディカは飴を握り締めながら失笑を始める、楽しそうな笑い声が部屋に響き、眠っていたリアリィが起きてしまう。

 

 「メディカおねえちゃん? なにかあったの?」

 「飴を貰って思わず笑ってしまったの。起こしてごめんね」

 「あめおいしいよね!」

 

 リアリィは再び飴を催促するような瞳でスノーホワイトを見つめる。

 しかしメディカがリアリィに優しい口調で釘を刺す。

 

 「リアリィ、駄目ですよ。そろそろ晩御飯の時間ですから」

 「えー、あめたべたかったのに」

 

 しょんぼりとうな垂れるリアリィにスノーホワイトは提案する。

 

 「晩御飯の後でみなさんと一緒に食べるのはどうでしょう」

 

 リアリィはスノーホワイトの提案には素直に頷き、今度は晩御飯が待ちきれないと、元気に立ち上がった。

 建物の外から車のエンジン音が近付いてき停止する、その音につられリアリィが駆け出して行ったので、慌ててスノーホワイトも一緒に出迎えにゆく。

 

 「嬢ちゃんたち出迎えご苦労だったな!」

 「おいしいものたくさんある?」

 「リアリィ、沢山あるから慌てなくて良いからな」

 

 ジェーンはしゃがみ、リアリィと目線を合わせ頭を撫でる。

 

 「今から料理だからな、慌てたってまだ食事は出来ないぜ。嬢ちゃんたちは待ってな。買出しついでに料理も作ってやるよ」 

 

 ――楽しみにしながら待ってます。

 スノーホワイトはリアリィの手を握り広間へ足取り軽やかに向かう。

 

 「子供同士ってのは仲良くなるのが早いもんだ。機嫌損ねないようにうまい飯作ってやるか」

 「ああ、まかせた」

 「何言ってんだジェーン、お前も一緒に作るんだぞ」

 

 ハードボイルドはスノーホワイトとリアリィを見ながら優しげな口調で話す。

 そのままの口調で諭しながら調理場へ抵抗するジェーンを連れて料理に取り掛かる。

 率先して料理を始めるだけはあり、ハードボイルドの手際は目を見張るものだった

 

 「料理、上手いんだな。大口を叩くだけある」

 

 ジェーンは綺麗に包丁を使うハードボイルドを感心しながら見つめる。

 

 「一人が長かったからな、自然と身に付いちまった。というかお前さん、その包丁裁きは芸術家にでもなりたいのか?」

 

 ハードボイルドに指摘され、顔を赤くするジェーン。

 

 「仕方ないだろ! 料理なんてほとんどした事が無いんだから」

 

 ったく、しょうがねえ。そう口にしながらも、ハードボイルドはその手をとって、包丁の使い方をジェーンに教える。

 

 「こ、こうか?」

 「そうそう、そのまま手の隙間に包丁を入れるんだ」

 「流石にそれはおかしいのは私だって分かるぞ、リアリィつれてこようか?」

 「おいおいやめてくれよ、そんな事したら晩飯が砂焼きになっちまうぜ」

 「真面目にしろ」

 「じゃあお湯でも沸かすか」

 

 そう言い、ハードボイルドは水を張った鍋に手を当てる。

 すると瞬く間に鍋から湯気がのぼり始めた。

 

 「魔法も便利なもんだろ」

 

 魔法を生活に使う。ジェーンにとってはあまり考えもしなかった事だったので、その光景に少したじろぐが、そのぐらい私だってと息巻く。

 言葉通り、ハードボイルドの魔法を見て何か思いついたのか、ジェーンは包丁を置いて集中し始める。

 すると置いてあった食物が、無数の見えない刃で切り刻まれてゆく。

 切れ味のいい魔法にハードボイルドは感心するが、次の瞬間置いていた包丁に見えない刃が当たり、ハードボイルドのすぐ側を飛んでゆく。

 

 「それで(、、、)料理してたら、家から追い出されそうだな」

 「練習すれば上手くなる」

 「練習し過ぎて、家壊すなよ」

 

 料理を終え、アジトのメンバー達に料理の皿を配ってゆく。

 一緒にリアリィも手伝いを始め、意気揚々と料理を配る。

 

 「スノーおねえちゃんいっしょにたべよー!」

 

 リアリィは自分の料理とスノーホワイトの料理を、布を引いた床に配置しながら、楽しげにスノーホワイトの隣に座り顔を綻ばす。

 

 「たべるときはね、かみさまにあいさつするんだー!」

 「嬢ちゃんは、嬢ちゃんの国のやり方で良いぞ」

 「では、お言葉に甘えて。いただきます」

 

 各々が食べ物に感謝の言葉を捧げる。

 料理の作者であるハードボイルドは率先して料理を口に運ぶ。

 自身の料理に舌鼓を打ちながら、リアリィに話しかけていた。

 

 「どうだ俺の作った料理は、食べやすいだろ」

 「うん、のみやすい!」

 「えらいなリアリィ、でも食べる時はきちんと噛むんだぞ」

 

 ジェーンの小言にハードボイルドは、少し呆れながら小言を返す。

 

 「お前の包丁捌きのせいで、噛むほど野菜の形が残ってないぞ」

 

 ジェーンは少しムッと口を膨らまし不機嫌そうになるが、リアリィのおいしいという言葉と笑顔が返って来たので、つられて皆笑顔になる。

 

 和気藹々とした食事にスノーホワイトも満足気。

 ハードボイルドは食事中もいつもの調子で、先ほどのジェーンとの買出しの時に、起こった出来事を話し始めていた。

 

 「それでよ、買出しに行ってた時なんだが、こいつ、村の子供に先生って呼ばれてるんだぜ」

 「おい、それは秘密にしろって言っただろ」

 「いいじゃねえか、別に悪口でも何でもねえ、お前のいい所話してるんだからよ」

 

 気の良い話を食事中にするのはこの国の文化のようで、ハードボイルドの軽やかな語りは食事に追加された華の役割を遺憾なく発揮している。

 

 「さっきも言ったように、暇な時に村の子供に勉強を教えてるだけだ」

 

 ジェーンは褒められるのにあまり慣れておらず、少し照れている様子で内容を肯定しつつも、身に余る評価だと辟易している。

 

 「お前さんもこの前まで、学生だったんだろ? それなのに偉いな」

 「偉いか……父の反対を押し切って無理に学校へ通ったのは良いが、結局大して学ぶ事もできず、そして仲間達と魔法少女の国を作ったものの」

 

 ジェーンは悔いているような口調で自分達の状況を口にする。

 

 「上手くいかない事を若いうちに学べたんだ、必ず糧になる。国を作った経験なんて、ほとんどの奴は真似すらできないぜ」

 

 だがよ。とハードボイルドは、ふと思った疑問を口にする。

 

 「魔法少女の()って言うには、人が少なすぎる気がするぜ。学校の奴等が集まってるならもうちょっと多いんじゃねえか?」

 

 ハードボイルドの疑問にジェーンは、食器を持つ手を震わせながら答える。

 

 「ここ(魔法少女の国)は帰る場所の無い奴等の、寄る辺なんだ、魔法少女になれなかったみんなは……」

 

 ――生き残り、魔法少女になった者達に、帰るべき場所なんて無いと。

 

 か細い声で言い終えると、震わせていた手の力が抜け、コトン。と、木製のスプーンが床に落ちる。

 そして、悲しそうな顔で天井を見上げるジェーンに皆、声を掛けようか迷っている中、リアリィは口を開き――

 

 「たべるときは、たのしいじかんにしないと、いけないんだよ!」

 

 可愛くも、食事の時間を大切にしろと諭す。

 

 愛らしい正論に背中を押されたのか、ハードボイルドはジェーンに嫌な思いさせたことを謝るが、ハードボイルドの謝意を気にも留めずジェーンは少し虚ろな表情で。

 

 ――なあ、私の事嫌いになったか?

 

 周囲の者はジェーンの質問の意図がわからず、困惑していたが、リアリィだけは首を横に振り。

 

 「ううん、リアリィはジェーンおねえちゃんのことだいすきだよ!」

 

 よどみの無い言葉。屈託の無い笑顔で、ジェーンに向き合う。

 その答えにジェーンは少し口元を綻ばせる。

 

 「そうか……わたしも大好きだよ、リアリィ」

 

 よかったですねと、スノーホワイトがリアリィの頭を撫でる。

 

 「あとスノーおねえちゃんもだいすき! それからそれから」

 

 リアリィはひとりひとり、アジトにいる魔法少女たちの名前を呼び、大好きだと伝えて回る。

 絆された空気の中、MGSのメンバーからジェーンに感謝の言葉が沸き起こる。

 

 ――リーダーがいなければとっくに野たれ死んでいた、茫然自失の自分達を救ってくれたのは紛れも無くリーダーだ。魔法少女という得体の知れないモノになっても、人間らしさを失わなかったのはリーダーのおかげだと。

 

 ジェーンは恥ずかしそうにしながら、変な空気にしてしまったと皆に謝った後、夜風に当たってくると言い残し、いつの間にか姿を消す。

 賑やかだった晩餐は終わりを迎え、各々散らばり始める。

 リアリィとスノーホワイトは、食事の後始末を仲良く楽しそうにおこなっており、ハードボイルドはカードゲームを取り出し、MGSのメンバーたちと残ったパンを賭けて勝負をして、賭け事も意外と楽しいだろと、良く無い吹聴しながら楽しそうに遊んでいた。

 

 片づけを終えても戻ってこないジェーンの事が、リアリィは気になるようで、探しに行くと言い出し、リアリィとハードボイルドとスノーホワイトの三人で、アジトの周りを探し始める。

 

 「夜風は身に染みるねぇ」

 「さむいのー?」

 

 いやいや、これはな。と、しゃがみこみ視線を合わせながらリアリィに説明を始めるハードボイルド。

 二人を優しく見守っているスノーホワイトの端末に連絡が入る。

 

 「アッ、吉岡さん」

 『スノーホワイト無事でなによりです、そちらは順調でしょうか?』

 「今は魔法少女の国の皆様に、良くしてもらっています」

 『なるほど、実は魔法の国(こちら)の方でも動きがあったので、それを伝えようかと』

 

 吉岡の説明は簡潔だった、魔法の国が、MGSに平和的な解決を前提とした交渉を、明日にも始めたいと言うのだ。

 そして和平への足がかりとして会談を、と。

 

 【唐突過ぎるぽん、魔法の国はMGSを無くす方針だったんじゃないのかぽん?】

 『そうですね、ですが魔法の国も、一枚岩ではないのです』

 【それに、急かすには何か理由があるぽん?】

 『MGSに対して少々、外交部門が腹に据えかねていまして』

 【どうして外交部門がぽん?】

 『いつぞやの投稿動画で首を切られた魔法少女が、外交部門の者だったというわけです』

 

 ファヴの疑問に淡々と答える吉岡。

 

 『この件で魔王パム(、、、、)が動くと、先ほど魔法の国内部で決まりました』

 

 ――魔王パム。

 

 その名前を聞いて知らぬ者が居ないほど、魔法の国では有名な魔法少女である。 

 ファヴはその名を聞き、身震いをしながら自身の覚えている記憶を引き出す。

 

 魔王塾なる戦いの場を設け、選び抜かれた武闘派(ツワモノ)の魔法少女達が集い、魔王パムに指一本でも触れれば合格という、極めてシンプル(簡単そう)な催しを度々開いているにもかかわらず、誰も合格が出来なかったという。

 

 いや、正確には一人だけ合格者が居たと思い返す。

 音楽家(クラムベリー)だ。

 

 あれは確かファヴ自身も協力して、隙を突いての合格だったかと、古い思い出を手繰り寄せる。

 しかしそれは、あのクラムベリー(、、、、、、、、)をもってしても、あの手この手を駆使して触れる事が精一杯だったという事。

 

 他にも大小様々な噂話が尾ひれを付けて飛び交っているが、スノーホワイトに関わらせたくない魔法少女である事に違いなかった。 

 

 『ただ他の部署では、外交部門の独断に近い形を認めるのは遺憾だという声があり、それでこちらは、こちらで和平交渉をという流れに』

 

 表情こそ変わらないが、心の中が青ざめてゆくファヴ。

 通話口での吉岡の言葉も耳に入らないほどだ。

 そんな様子のファヴにスノーホワイトは、助け舟をだすよう話を続ける。

 

 「MGSの方々も争いは望んでないので、会談を設けるのは私も賛成です」 

 

 スノーホワイトは明日の会談に意欲を見せるが、吉岡はスノーホワイトに、別の用件を済まして欲しいと伝える。

 

 『スノーホワイトには会談自体ではなく、会談をスムーズにする為の下準備をお願いしたいのですが』

 

 吉岡の言う下準備とは至極簡単な事だった。

 

 「リアリィさんをですか?」

 

 その内容にスノーホワイトは思わず聞き返す。

 機械越しの通話で相手の本心がわからない以上慎重にしろと、先日の電話の後ファヴから注意されていたからだ。

 

 『ええ、彼女の魔法は会談という場には不向きです。殊更、和平交渉という場では』

 【同時にスノーホワイトも会談から遠ざけるつもりかぽん?】

 

 ファヴが会話に混ざり、吉岡へ質問をぶつけた。

 

 『ファヴ。(スノーホワイト)の事が心配ですか? ですがこれはスノーホワイトの為でもあるのです。どうかご理解を』

 

 まぁまぁと、スノーホワイトは両者を宥めるように間に割って入り、ファヴの考えを尊重しつつも心配は要らないと笑い、吉岡の提案を承諾する。

 スノーホワイトがそういうのならと、ファヴもそれ以上は不満事を口には出さなかったが。

 

 ――本当に魔法の国(、、、、、、、)の判断なのかぽん?

 

 ファヴの心の声は、心配事ばかりが木霊していた。

 

 「吉岡さん。下準備の件は任せてください」

 『頼もしい返事でこちらも助かります、幸運を祈ってますよ』

 

 ドウモ。と伝え、スノーホワイトが通話を切ろうとした時、背後から声をかけられる。

 

 「嬢ちゃん、また魔法の国の奴と連絡か?」

 「はい。これからの予定を、吉岡さんと話していた所です」

 

 切ろうとしていた端末の通話口から吉岡の声が響く。

 

 『ハードボイルドさん、明日魔法の国とMGSの会談が開かれる流れになりました、引き続き力を貸してくださると助かります』

 

 ――会談ねぇ。

 

 と、ハードボイルドは一瞬、怪訝な表情になっていたが、スノーホワイトの眼を見て、賛成と言う、ただし俺も会談には同席させろと、一言付け加えて。

 用件を伝えた後ハードボイルドは、表情を誤魔化すように夜空を見上げる。

 

 「ジェーンには俺から伝えてくるわ。それより、リアリィの嬢ちゃんが遊びたがっていたぜ、行ってやりな」

 

 促され、スノーホワイトがアジトの方へ視線を送ると、そこでリアリィとメディカが手を振っていた。

 

 「わかりました。ジェーンさんへの説明、お願いしますね」

 

 ハードボイルドへ笑顔を向けた後、スノーホワイトはリアリィ達の方へ向かう。

 だがファヴは踵を返すかのようにふよふよと、ハードボイルドの方へ舞い戻ってくる。

 

 【ハードボイルド】

 「なんだ? 早く行ってやりな、リアリィの嬢ちゃんはお前にも懐いてんだからよ」

 【魔法の国の動向が怪しいから、気をつけたほうがいい】

 「んな事伝えに戻ってきたのかよ、分かってるって。あとお前は語尾にぽんって付けたほうがいいぞ」

 【折角忠告してあげてるのに、その態度はなんだぽん!】

 

 へいへいと呟き、ハードボイルドは微笑しながらファヴに手を振る。

 

 「ファヴもこっちきてあそぼーよー!」

 

 アジトの前からファヴに聞こえるように叫んだリアリィの大きな声がしたので、ファヴは再びスノーホワイトの方へ漂ってゆく。

 

 「お前もスノーホワイトの嬢ちゃんをちゃんと守ってやれよ」

 

 リアリィの生気に満ち、はつらつで大きい声とは対照的に、優しさが染み込んだ、柔らかな小声でハードボイルドはそっとファヴに言葉を投げかける。

 

 ――言われなくても。

 

 と、少々憤ったカオを(ぷんぷん)しながら、ファヴがスノーホワイト達の下へ戻ると、スノーホワイトはファヴに優しく手を差し伸べ撫で始める。

 その行動を見たリアリィも真似するように、一緒になって手をファヴの上にかざし始めた。ファヴは立体映像なので直接触れるわけではないのだが、それでもファヴの曇った心は晴れやかになり、いつもの様子でポンポンと跳ね回る。

 

 二人と一匹の様子にメディカは口元を緩めながら呟く。

 

 「スノーホワイトさんは、雨夜の星を見渡せるような素敵な方ですね」

 

 メディカはこうも続ける、そこにあるはずなのに誰にも見えない、曇り空の星々を見渡せる事の出来るスノーホワイトは、曇りをも照らす光のような存在だと。

 そういう例えもあるのかとファヴは驚きつつも、メディカの言葉を肯定するかのように頷くが、当のスノーホワイトはあまり嬉しそうではなく、嬉しいお言葉で恐縮ですがと、前置きしながら。

 

 ――例え見えない星を見渡せても、手が届かなければ意味がないと。

 

 そう言い放ったスノーホワイトの脳裏には飴と笑顔が似合う少女(ねむりん)が浮かぶ。

 

 スノーホワイト達の難しい言葉が分からないリアリィは、きょとんとした顔をしていたが、突如莞爾(にっこり)と笑みを浮かべ、スノーホワイトにしゃがんでとお願いをする。

 言われるがまま、しゃがんだスノーホワイトの頭にリアリィの手が届く。

 

 「もし、とどかなくても、おねがいすればとどくよ!」

 

 どこか誇らしげに、しかしトテモ心強い笑顔にスノーホワイトはスクワレル。

 

 

 

 ハードボイルドは遠目にスノーホワイト達を眺め、口元を綻ばせながら、誰も居ないはずの場所で突如声をあげる。

 

 「ジェーンそこにいるんだろ?」

 

 ハードボイルドの背側にある岩陰から月夜に照らされた影が揺れ動き、ジェーンはなぜわかったと、不満げな顔をしながら姿を現す。

 

 「目瞑っててもわかるぜ、リアリィの嬢ちゃんがよく見えるところに居ると思ったからな」

 

 ジェーンは少しいたずらっぽい口調で。

 

 「お前も意外と良く周りを見ているんだな。目が飾りじゃなくてよかったよ」

 

 そりゃどうもと、ハードボイルドはおどけながら。

 

 「明日和平の会談だってよ、魔法の国との」

 「和平? 今更どういう風の吹き回しだ?」

 「奴さん達も、お前等をこのままにする訳にはいかないんだろ」

 「魔法の国の使者と名乗る奴なら来た事があったな、確か最初は」

 

 ジェーンは以前の出来事を話し続ける。

 最初は友好的な態度を取り、あたかも味方であるかのように振舞っていたが、MGSのメンバーへの処遇に関して質問をした所、ある者は口を堅く閉ざしたり、またある者は軽い口が器用に動いていたと。

 

 「不用意な言葉を口にした奴は、リアリィの魔法で砂になったがな。口が堅い奴はワタシがこの手で……」

 

 そう言い淀み俯くが、すぐに顔を上げて暗い笑みを浮かべるジェーン。

 

 「リーダーってのは大変だな」

 

 ハードボイルドから返って来た言葉は、ジェーンの予想していたものと違い、気遣うような言葉だった。

 

 「私が……恐ろしくは無いのか?」

 「逆に聞くけどよ、俺が怖がりに見えるか?」

 「馬鹿にしか見えないな」

 

 ハハッと一笑しジェーンの瞳を見据えるハードボイルド。

 

 「ちげえねぇ」

 

 やれやれといった(あきれた)顔でハードボイルドを見つめ返す。

 

 「なあ、お前達を信じても良いのか?」

 

 ジェーンの質問に対して返事はなく、静寂が押し寄せる。

 

 「お前の事だから信じろと、軽い口調で言うものと思ったんだがな」

 

 長い沈黙の時間に耐え切れなくなったジェーンが先に口を開く。

 その様子にハードボイルドは交渉事には向いてねえなと言いつつ。

 

 「俺は俺の好きなようにやるだけ、サプライズがあったほうが楽しいものさ」

 

 ハードボイルドはいつもと違う口調で言葉を紡ぎだし、手を振りながらアジトへと戻っていく。その後ろ姿をジェーンは不思議そうな顔で見つめ、ひとりごちる。

 

 「答えになってないだろ、馬鹿」

 

 深い夜の静寂に言葉は掻き消されていった。




 魔法少女図鑑

・ハードボイルド 触れるものを熱くさせちゃうよ!

 いつも飄々とした、変身前が男性の珍しいタイプの魔法少女。 
 ある目的がありMGSへと潜入する。

・ジェーン 見えない刃で切り裂いちゃうよ!

 MGSのリーダーで、面倒見が良く不器用な面があるが、心の優しい少女。 
 行き場の無いMGSの仲間達を憂いている。

・リアリィ うそつきはゆるさないよ!

 トテモ小さい魔法少女。彼女の前でウソをつくと、体が光り輝きやがて砕け散る。
 但し魔法が掛かっても砕け散る前に、術者が死んでしまえばその限りではない。
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