チェルナーは走る。どこまでも。
ある日、チェルナーの耳に話が飛び込んできます。
N市に住んでいるファミリーの一人が、白い魔法少女に助けられたんだって。
チェルナーはファミリーの
白い魔法少女の下へ、お礼を言いに旅立ちました。
だけれど大変! 肝心の白い魔法少女の名前を聞くのを忘れてしまったのです!
それでもチェルナーは持ち前の明るさと元気で、N市にたどり着きました。
さあ! いよいよ、白い魔法少女探しかと思われたのだけど。
「いい匂いがする! おなかすいたから、ごはんにしよう!」
あれ、どうしたのチェルナー。白い魔法少女を探すんじゃなかったの?
風のように走りだし匂いの場所へとやってきたチェルナー。
そこは公園で、どうやらみんなに無料で、食べ物を配っているみたい!
「たくさんありますからねー並んで待ってくださいね」
テントのような場所で、笑顔で鍋をかき混ぜている、シスターのような魔法少女と、その隣には、黙々と皿に料理を盛り付ける魔法少女がいました。
ふたりの魔法少女は並んで仲睦まじそうに、炊き出しに来た人々へ食べ物を施しているよ。
チェルナーは行列を飛び越え、料理のもとへ、ひとっとび!
「おいしそうな料理チェルナーにもちょうだい!」
行列を追い抜いてバタバタと現れた小さな魔法少女に、シスター服の魔法少女はびっくりしてしまいますが、隣の魔法少女はいたって冷静で。
「ちゃんと並ばないとやらないぞ」
凛とした声でチェルナーを咎めます。
「おなかすいてるの! チェルナーにもちょうだい!」
周囲の人もチェルナーのわがままに困った顔をしてしまいます。
冷静な魔法少女が順を追って説明するのですが、チェルナーにはそんなむずかしい事はわかりません。
「チェルナーにくれないの? おこるよ!」
どんどんほほ膨らまし、今にも怒ってしまいそう。怒ったチェルナーは誰にも止められない!
このままじゃ大変!
中々進まない行列を不審に思ったのか、最後尾の方に居た少女が駆け寄ってきます。
「何やってんの?」
砕けた口調の少女は中学生ぐらいでしょうか?
事情を説明する魔法少女の二人に、中学生ぐらいの少女が名案があると耳打ちします。
「ごにょごにょ」
その光景に当のチェルナーはぽかんと顔を呆けていて。
相談事が終わったのか冷静な魔法少女は、お皿にすこしだけ盛り付けはじめ――
「おかわりに来るの待ってるから」
ぶっきらぼうにそう告げチェルナーにお皿を手渡します。
チェルナーは貰った食べ物をすぐさま口に運ぼうとするのですが、中学生ぐらいの少女に最後尾まで連れて行かれてしました。
「ここらで見かけない顔だけど、魔法少女だよな。何しに
チェルナーは先ほど貰った食べ物をもぐもぐと口に含みながら少女の質問に答えます。
「ん、チェルナー魔法少女を探してたんだった!」
やっと目的を思い出せたねチェルナー。
「ここらへんにいる白い魔法少女をおしえて!」
「白い魔法少女? たぶんそれだったら今は」
少女は病院への地図をチェルナーに描いてあげます。
とっても親切な人だね。
「ここにいけばいいんだね! わかった!」
チェルナーは食べ終わったお皿に小さなひまわりの種を乗せて少女に渡します。
そして――すたこらさっさと走っていきました。
「これ……ひょっとしてお礼?」
残された少女は困った顔をしてしまいましたが、後ろからやって来た、顔見知りのホームレスと貰ったひまわりの種で、会話に花を咲かせます。
「どうした、ひまわりの種なんて持って? ビールに合うぞ、飲むか?」
「まだ未成年だぞ」
「じゃあ、おっちゃんにくれよー」
「やらない、これは私が貰った物だ」
そういって少女はひまわりの種を口に頬張ります。
お味の程は?
「なかなかいけるな、行列待ちにちょうど良い」
よかったねチェルナー! ひまわりの種喜ばれたよ!
走って行ったチェルナーは今頃どうしてるのかな?
あっ! チェルナーもどうやら病院に着いたみたい!
あれ? でも白い服をした人が一杯いて、どの人が白い魔法少女か分からなくなっちゃった!
病院の待合室をちょろちょろと探していると、人にぶつかりそうになっちゃう!
よそ見しちゃあぶないよ、チェルナー。
「お前ひょっとして魔法少女か?」
チェルナー! 誰かが声をかけてきたよ!
「見かけない顔だなお前?」
声をかけてきた人は、お腹が膨らんでるよ。たべすぎで病院へきたのかな?
「チェルナーは白い魔法少女を探してるんだー」
「白い魔法少女? たぶんアイツだよな」
「知ってるのか?」
「おう! 多分アッチの病棟の……」
一生懸命お姉さんが説明してくれますが、チェルナーには難しかったみたい!
ちょっと困ってしまった、お姉さんは頭をかきながらも、俺に付いて来いと言わんばかりの笑顔をチェルナーへ向けました。
「せっかく病院へ来たんだし、俺も見舞いがてら行ってみるか」
優しいお姉さんが病室まで案内してくれることになったよ!
よかったねチェルナー!
道すがらチェルナーはお姉さんとお話をします。
「お前のおなか大きいな」
「赤ちゃんが産まれるんだよ、今日もその検査でココに来てたんだ」
お姉さんのおなかは食べ過ぎじゃなくて、赤ちゃんだったみたい!
「子供が生まれるのか! ファミリーは大事だな! おまえもファミリーのリーダーになるのなら頑張れ!」
「お、おう。お前の所にもリーダーが居るのか?」
「チェルナーがファミリーのリーダーだからな!」
チェルナーは胸を張りながら、誇らしそうに自慢します。そしてこの病院にもファミリーが居ると告げて。
「病院に居るって、そっちへ見舞いに行かなくていいのか?」
心配そうな顔をするお姉さん。
チェルナーは不安を一蹴するほどの元気な声でお返事をします!
「怪我してたファミリーは、白い魔法少女に助けられたんだ。だからファミリーは大丈夫だ! それにここにいるからな!」
チェルナーは指差しながらネズミのファミリーをお姉さんに見せます。
「ファミリーってネズミかよ!」
お姉さんはチェルナーに紹介されたファミリーに、ちょっとびっくりしてたけど、笑ってくれました!
仲良く一緒に歩いている内に、ついに目的の病室の前へたどり着きます。
お姉さんは白い魔法少女なら、ここに居ると思うと言って、立ち去っていきました。
「案内してくれてありがとね!」
お礼ちゃんと言えたね! 偉いよチェルナー!
元気に病室の中へと、飛び込んでいくチェルナーでしたが。
「ったく、何で私があんた達のゲームに付き合わなけりゃなんないのよ!」
「ババアの」「リハビリ」
「うっさいわね! あんた達だって、そんなに歳変わんないでしょ!」
「またヒスったな」「更年期かな」
「たま、そこ違う」
「え? ごめんなさい!」
「大丈夫。私も前は、わからなかったから」
病室の中に沢山の人がいたので、思わずキョロキョロしてしまいます。
どうやら部屋では遊んでいる人たちと、勉強してる人たちがいるみたい!
でも魔法少女は居ないみたいだよ?
「チェルナーおなかすいた! 食べ物ないか?」
「あんた誰よ?」
「敵襲か!」「姉ちゃんマジエマージェンシー」
あっ、チェルナーの悪い癖が出ちゃった!
おなかが、また減っちゃったのかな?
チェルナーの突然の登場で、遊んでいた大人の女性三人は、びっくりしてしまっているけど、勉強をしていた女の子二人は、そこまで驚いてはいなくて。
「お菓子ならこれ」
「あ、たまのおやつ……」
一番小さくて落ち着いてる子が、チェルナーにお菓子をくれたよ!
お菓子もらえてよかったねチェルナー!
「おいしいな! チェルナーにお菓子くれてありがとな」
「あんた何しにココに来たの?」
お菓子を食べてるチェルナーに、ベッドの上で横になってる、一番偉そうに振舞っている女性が話しかけました。
「そうだった! チェルナーは白い魔法少女を探してるんだー」
チェルナーの発した、白い魔法少女という言葉を聞いた瞬間。部屋に居る5人の様子が変わります。
「あんたスノーホワイトの知り合い?」
「スノーホワイトっていうのか。チェルナーはスノーホワイトに、お礼を言いに来た!」
そう言ってチェルナーは、病室内をキョロキョロと見渡すけど、どこにも白い魔法少女が見当たりません!
どこにいるのだろうと、部屋をぐるりと見渡し、後ろを向いたチェルナーの前に、知らない魔法少女が現れました。
「スノーホワイトはどこだ!」
「げ、アカネ。あんた病室で安静じゃなかったっけ」
突然現れた魔法少女について、部屋にいるそっくりな二人の女性が、楽しそうに説明を始めます。
「アカネ元気そうになったじゃん」「ていうか前から元気有り余ってたじゃん」
「確かスノーホワイトのおかげで」「隔離治療から解放治療になったんじゃなかったっけ?」
「前よりましになったけど」「スノーホワイトに今度は執着し始めたし」
「「まじクレイジーだよね」」
悪口にも似た説明だったけど、当のアカネには、ひゅーひゅーと何処吹く風。
「そうか」
「いや、そうかじゃないでしょ! この前も言ったわよね? スノーホワイトは海外に出張中だって」
「そうか」
「スノーホワイトいないの?」
アカネと呼ばれた魔法少女は、そうかと言いながら、どこかに通り過ぎて行きます。
ちょっと怖い人だったね。
それよりも、チェルナーピンチだよ! 肝心のスノーホワイトが仕事で海外へ行ってて居ないみたい!
「そういえばチェルナーだっけ? あんたスノーホワイトに礼って何かあったわけ?」
「チェルナーのファミリーが助けられたから礼に来たんだ」
そういいながらチェルナーはごそごそと、ふところから何かをとりだします。
「病室に何連れて来てんのよ!」
「助けられたチェルナーのファミリーだ」
お姉さんに怒られちゃった。でもチェルナーはそんな事気にしません!
「ハハッ」「お姉ちゃんまずいって!」
「たま、よそ見しない。勉強」
「ごめん、ねずみさん可愛いからつい」
みんなチェルナーの一挙手一投足に興味津々だね!
怒ってたお姉さんは呆れちゃったみたいだけど。
「まったく、相変わらず変なのに好かれるわねアイツ……でも今、スノーホワイトは居ないわよ」
せっかくお礼を言いに来たのにと、チェルナーは少し残念そうにしながら、しょげてしまいます。
リーダーとして筋を通さなければいけないのに、チェルナーは考えるのが苦手なので、とりあえず大きなひまわりの種を齧ります。
「よう! 変な奴筆頭!」
威勢よく病室へ挨拶がてらの軽口を投げ、ほうきに乗った魔法少女が現れます。
病室の窓ガラスを叩くので怒り顔の女性が仕方なく窓を開けました。
開いた窓からそのまま飛び移るように、づかづかと室内へ入っていきます。
「いきなりのご挨拶ね、トップスピード。何の用?」
「お見舞いに来てやったぜ。っていうか全員人間の姿なんだな、そっちのネズミ連れてる動物の格好したのもルーラの仲間になったのか?」
ほうきを持った魔法少女の言う通り、部屋の中にはチェルナーと、ほうきを持った少女以外は、魔法少女らしき格好の少女はいません。
「誰も来てくれなんて、頼んでないわよ! それにそいつは仲間でも何でもなく、ただの客よ!」
「客ねぇ。お、ゲームしてんのか? 俺も混ぜろよ!」
突然現れた魔女のような魔法少女トップスピード。
トップスピードは病室に居る全員に軽い挨拶をした後ゲームに参加します。
「そこのネズミ連れたの! 一緒に遊ぼうぜ!」
チェルナーも呼ばれてるよ!
ほうきを持ってる魔法少女の一声で、病室内の空気はとても愉快な空気に変わります。
踊っちゃいそう!
「これどうやるのー?」
初めてする遊びにチェルナーは興味津々!
勉強中の少女たちも集中できなかったのか、一緒に遊び始めます。
「ようスイムスイム! 怒りんぼのおばさんに怒鳴られたらいつでも相談に乗るぞ」
「大丈夫。それより赤ちゃん元気?」
「おう! 今日の検診でも、腹の中で大暴れだったからな。我が子ながら末恐ろしいぜ」
「えっ? あんた子供いたの?」
「あ、ルーラには言ってなかったっけ」
遊びながらの会話は弾みます。みんな楽しそうだね!
「それにしても、ルーラは何でまだ入院してるんだ?」
「別に好きで入院してるんじゃないわよ」
怒ってばかりのお姉さんは、入院してるから機嫌が悪いのかな?
早く元気になれると良いね。
「あれか、サボりか。結構やるじゃん」
「あんたと一緒にすんな! この病院が魔法の国の関連施設で、それの調査をやってんのよ」
どうやら怒ってるお姉さんは入院しながら、魔法の国の仕事をしているみたい。
すごい頑張り屋さんなんだね。
トップスピードは何か感心したような顔をした後すぐさま、いたずらをする子供のような表情になり。
「甘いなルーラ。隙あり!」
意表を突き、ゲーム内でルーラを圧倒します。
でも横で見ていた一番小さな女の子は、表情変えずにトップスピードに注意してるよ。
「トップスピード卑怯」
当のトップスピードは、ケロりとした悪びれない笑みで――
「いいんだよ遊びなんだから」
清々しい態度のトップスピードに双子の女性が賛辞を惜しげもなく送ります。
「騙まし討ちとか」「まじクール」
お話をしながらゲームでも大暴れするトップスピード。
一気に病室内のみんなとも打ち解けていきます。
一方ルーラと呼ばれる女性は、双子の言葉に怒り出し大変!
その様子に、おろおろする中学生ぐらいの少女のおやつを、チェルナーはいただいていました。
「このおかし美味しい! もっとちょうだい!」
「たまのお菓子……」
「おー、ちび共お菓子が欲しいのか」
トップスピードは突如お菓子を取り出し見せつけます。
「優勝商品だ」
提示された商品に病室内は大盛り上がり。
チェルナーは慣れないコントローラーを握り、たたかいに挑みます!
戦いの舞台はレースゲーム。
「あんた達なんて魔法使ったら一発なんだから!」
その言葉に、トップスピードが冷めた表情でルーラへ注意しています。
「魔法使ったら、即失格な」
どうやら魔法は使っちゃダメみたい!
チェルナー我慢できる?
「むむむ、チェルナー曲がれなかった!」
「そこ飛べば良い」
「俺がぶっちぎり!」
「どいつもこいつも私をコケにしやがって!」
皆で仲良くゲーム大会!
でも結果はトップスピードに敵う者がおらず。優勝商品はお預け、チェルナー残念だったね。
「走りはゲームでも俺が一番だな! 優勝したから商品も俺が好きに使うぜ」
トップスピードが独り占めするのかと、おもわれましたが。
「よし、このお菓子は皆で食べようぜ!」
「あんた割とまともな事言うのね」
「たま、泣いてる」
「ババアのヒスで」「可哀想」
何はともあれお菓子が食べれてよかったね!
◇
「スノーホワイトはいつ戻ってくるの?」
お菓子を食べながら、チェルナーマウスは再びスノーホワイトの行方を尋ね始めました。
「スノーホワイトは不穏分子の調査で海外に行ってるから、もうしばらくかかるんじゃないかしら」
「不穏分子? って何だ?」
笑いながら聞いていたトップスピードも少し気になったようで、疑問を投げかけます。
度重なる質問にルーラは呆れた顔でため息をついた後に、難しい話だと付け加え語る。
「
「やけに詳しいなルーラ」
「私の所属する人事部の方でも話題になって、それにスノーホワイトにまわってくる仕事なんて気になるでしょ」
スノーホワイトの話をしているルーラはどこか優しそうな表情をしていました。
それにしてもルーラと、トップスピードが話を遮る。
「前に会った時より丸くなったよな。っても体型の話じゃないぜ、なんかこう馬鹿になったっていうか」
「あんた喧嘩売ってんの?」
ルーラの表情が一変。眉間に皺を寄せてトップスピードへ不満そうな顔を向けています。ですがルーラに追い討ちをかけるかのように、双子が悪態をこれでもかと飛んできて。
「ババアの皺を増やすぐらい怒らせるなんて、トップスピードも口が悪いんやね」「お姉ちゃんのマウスほどじゃないんやで」
双子は息を吐くように毒づきにショックを受けたのでしょうか、ルーラの表情が曇っていきます。
「チェルナー、あんたってもしかしてチェルナー・マウス?」
「チェルナーはチェルナーだよ!」
魔法の国では、そう呼ばれてたかもとしれないと付け加えるチェルナー。
要領を得ない答えでしたが、ルーラには、その答えが頭にこびり付いていた、謎を氷解させうるには十分だった様子。
「ねえ、トップスピード」
「なんだよ? 改まってこっちみて、表情固いぞ」
「チェルナーやアカネ、あと私達が魔法の国でなんて呼ばれてるか知ってる?」
「なんて呼ばれてんだ?」
「クラムベリーの子供達」
ルーラの発したクラムベリーという名前にチェルナーマウスのひまわり色の脳細胞に衝撃が走り、耳をふさぐように丸くなり怯えている様子。
元気いっぱいだったチェルナーマウスの表情が曇ったように、病室の雰囲気は変わりはじめ――
「俺は話しでしか聞いてないけどさ、かなり暴れまくってたんだろ? それの子供とか普通に嫌だな」
「それにはトップスピードと同感だわ」「ノーセンキューだわ」
「私達と言ったけど、そこにスノーホワイトは入ってないのよね」
「なんだ、スノーホワイトだけ特別か? ちなみに、なんて呼ばれてんだ?」
何か二つ名でもあるのかとトップスピードは聞き返すのでしたが、ルーラは口にするのも憚りたいといった表情で、首を横に振るだけ。
チェルナーは、その話がなぜだか気になる様子。
ふさいでいた耳をぴょこんとたてて、ルーラの方へ頭を傾けています。
怯えていた魔法少女が、話を聞きたい素振りを見せたので、ルーラもしぶしぶ語り始める。
スノーホワイトはクラムベリーの所業を明るみした事や、試験での事情聴取の場において、魔法を行使した際の問題で忌み嫌われ、魔法の国でこう呼ばれてると。
――音楽家の忌み子。
「今はスノーホワイトが悪目立ちしてるから、私達の方には注意がいってないようだけど、魔法の国の上層部から目を付けられるのも時間の問題よ」
「俺達が、あの試験を突破したからか?」
「それもあるけれど、ここだけの話、スノーホワイト。あの子は上層部に命を狙われてるのよ」
チェルナーは驚いた様子で、恩人のスノーホワイトの命が狙われているという、恐ろしい話を聞いてしまいヒマワリの種を落としてしまう。
「スノーホワイトはだいじょうぶなのか?」
チェルナーが珍しく難しい会話に参加するので、つられるように、たま達子供組みも心配そうな表情でルーラを見つめています。
「たまたちも危ないの?」
「そうならないように、何とかしてる所よ」
「ルーラ頑張って……」
「たまにも何かできる事があったら言ってね」
考え事を始め、黙りこくるルーラの魔法の端末から、静寂を裂く着信音が流れはじめます。
「こんな時にだれ――」
端末に表示された名前を見るや否やルーラは電話をかけてきた相手に怒鳴るように言葉をかけるのでした。
「スノーホワイト! あんた中東に入ったきり連絡無かったじゃない! 今何してるの? 無事なの?」
罵声を浴びせるような勢いで紡がれている言葉でしたが、その言葉の端々には心配する気持ちが隠しきれていないようで――
「あれは、ルーラ喜んでるな」
「ババア、デレてるな」「そのジャンルはきついわ」
「うっさいわね! 電話の邪魔するんじゃないわよ!」
取り乱しているルーラを部屋に居る人たちが微笑ましく見守っています。
『ルーラさん、連絡が遅くなってすみません』
ご心配くださりありがとうございますと、スノーホワイトはルーラに感謝を伝えます。
「別に心配で言ったわけじゃない! 大概にしろ! それよりいつ戻ってくるの?」
通話越しなので、スノーホワイトは心を聴いているわけでも無いのに、ぶっきらぼうなルーラの問いに返す言葉はとても穏やかで。
仕事に一段落がついたのだけど、これから祝賀会に参加するのでまだかかりそうだと。
ルーラとスノーホワイトの通話は、疎遠になっていた母子が無事を確かめ合い安堵する一幕のよう。
不思議な関係のルーラとスノーホワイトを垣間見て、チェルナーマウスも全国に居るファミリーの事をぼんやりと思い浮かべて居ました。
『――ところでルーラさんは』
人事部に在籍していますよねと、先ほどまでとは違いスノーホワイトの話の雰囲気が変わる。
「ええ、そうだけど。急にどうしたの?」
疑問に思いながらもルーラは肯定し、なぜそんな事を尋ねたのかと理由を問い返す。
スノーホワイトの返事はいたって簡潔でありながら、心のこもった言葉――
『助けたい人が居ます』
しかしその人は自身の手の届かない所に、連れて行かれてしまうだろうという事態で、ルーラの助けが欲しいと。
電話越しで表情は分からない。けれどもルーラにとっては懐かしい言葉。
スノーホワイトと敵対していた時に、構わず救いの手を差し伸べてきたあの日のように。
誰にでも手を差し伸べる、分別の付かない子供のようなスノーホワイトが、自分を頼ってきてくれた事にルーラは嬉しさがこみ上げる。
「あんたは厄介事ばかり持ってくるわね。ファヴにかわってくれる?」
ルーラがファヴと話がしたいと言うと、すぐさま愛想の塊のような声が端末から響いてきます。
【呼んだかぽん? ルーラ久しぶりぽん】
「挨拶はいいから、そっちで起きた事を順序良く説明してくれないかしら?」
ファヴから語られる異国の情報は、規制のかかったモノではなく、ありのままのカタチで伝えられる。
和平会談を狙ってS国の軍が動いた事、S国の軍用ヘリに魔法の国製の結界が搭載されていた事、交渉に来ていた魔法の国の者達が到着するや否やヘリが立ち去った事。
ファヴは憶測だけど、と付け加えながらも。
魔法の国内部でS国の
ファヴから提供される様々な情報という名のピースを、ルーラは人事部で入手していたモノとをつなぎ合わせてゆく。
ルーラの脳裏には一番考えたくなかった最悪の展開がよぎる。
――既に魔法の国はスノーホワイトを消す為に動き出していたのだと。
結界まで持ち出しているとなれば、逃げ道を封じられる恐れもあり、遠い海外に居るスノーホワイトを、このままでは救う手が無いと考え、ルーラはファヴに至急帰国するように伝える。
「スノーホワイトを連れて、さっさと帰ってきなさい」
【それは無理そうぽん】
「あんただって、その国に長居するのが危険ってわかってるでしょ?」
【これからスノーホワイトは宮中晩餐会ぽん】
「そんなもの断ってきなさいよ!」
【心配はわかるぽん、もう手は打ってあるから安心するぽん】
ルーラの心配を他所に、ファヴは晩餐会に出席する魔法少女は、スノーホワイトだけだと淡々とした口調で説明する。
【どういうこと? とか言いそうだから先に説明してあげると、今回のテロリスト壊滅の功労者であるスノーホワイトは今やS国では英雄扱いぽん。少しぐらいわがまま言っても許されるぽん】
魔法の国代表として
【ルーラには帰国までに、魔法の国の内側を調べて欲しいぽん】
ファヴは続ける。
【もちろん一筋縄じゃいかないのはわかってるぽん。けれどもルーラの魔法なら可能ぽん】
今やルーラは、同期一番の出世頭だとファヴは太鼓判を押す。
気味の悪い世辞は要らないと、ルーラは辟易しながら話題を変えてゆく。
「今クラムベリーの子供の一人が
――チェルナー・マウス。
そう名乗った少女がスノーホワイトにお礼を言いに病室へ来ていると告げる。
電話の向こうでスノーホワイトとファヴが、何やら会話を始め、ファヴにかわって再びスノーホワイトが電話に出る。
帰国次第チェルナーに会いに行くので、待っていてもらえるように頼んでおいて欲しいと。
「チェルナー、あんた時間はあるのかしら?」
「チェルナーは食べ物を探して忙しいんだー!」
チェルナーの顔を見て話していたルーラは、病室に居るトップスピードの方へ急に顔を向け、お菓子を沢山買って来て欲しいと頼み込み頭を下げる。
いつもの命令口調ではなく、普通に頼みごとをしてきたルーラに少々面食らってしまいますが、すぐさまケタケタと少し下品な笑い方をしながら。
「はいはい、女王様は子守りで大変だな」
晩御飯の材料のついでで良いならと言い放ち、箒に跨って颯爽と病室の窓から飛び去っていきました。
◇
なんだか難しい話だったけど、チェルナーわかったかな?
「たま、ひまわりの種の乗ったお菓子おいしいなー!」
嬉しそうに頷くたま、皆で食べるお菓子が美味しいのはわかったみたいだね!