ルーラは激しく揺れる鉄塔から放り出される。
身一つで投げ出されたが不思議と恐怖を感じてはいなかった。
先ほどまでの味わった事の無い恐怖から解放され、むしろ安堵していた。
それにスノーホワイトとの戦いには負けたが、結果的にキャンディを奪取するという、当初の目的は達成できたのだ。
「落としたら承知しないわよ!」
ミナエルユナエルはルーラに駆けつけ空中で彼女の身体を支える。
鉄塔から落とされたルーラは仲間に支えられながら鉄塔から離脱し、拠点を構えている廃寺にたどりつく。
拠点にたどりつくや否や戦利品の分配を始める5人。
スノーホワイトの端末から奪ったキャンディは、スイムスイムの端末に移動していた。
今回の戦利品は2000個のキャンディ。これの数字は、寺にいる五人の中で一番キャンディを所持していたルーラのキャンディ数の倍だった。
さっそく五等分にして分けようという仲間の言葉をルーラはさえぎる。
「あなた達と何で平等に分けなければならないの? 今回の働きに応じて分けるわよ」
ルーラは取り分の半分は自分の物だと主張する。
そして残ったキャンディのもう半分を働きの良かったスイムスイムに渡し、後の雀の涙ほどの残ったキャンディを、ラピュセル足止めに失敗した三人の魔法少女たちに分配した。
「失敗した部下に施しを与えているのよ。文句は無いわよね?」
そう言い放ち自分の部下たちを睨みつけるルーラ。
それに逆らえる者はその場には居なかった。
(……ヒスババア)
心の中でミナエルユナエルの二人はつぶやいた。
ここに心の声が聞こえる魔法少女が居なかったのがルーラにとってせめてもの救いだった。
◇◇◇
ラピュセルはひたすらスノーホワイトに謝っていた。
キャンディを奪われてしまった自責の念に、ラピュセルは駆り立てられていた。
悲しみや怒りを見せているラピュセルを横目に、当のスノーホワイト本人は笑顔だった。
「なんで……襲われて飴を奪われたのに、スノーホワイトは笑ってられるの?」
ラピュセルはスノーホワイトに疑問をぶつけ、尋ねていた。
「飴が欲しいって、困っていたから」
鉄塔の下に投げ捨てられていた端末を覗き込み、相変わらずの笑顔で彼女は答える。
スノーホワイトから返って来た言葉に、ラピュセルは更に困惑していた。
もしかすると、先ほど落下する時に頭でも打ったのかと心配するが、スノーホワイトは大丈夫だよと言い放ち笑っていた。
目の前に居るはずのスノーホワイトを何処か遠くに感じる。
それでも、ラピュセルはスノーホワイトを守ると心に誓ったのだった。
これ以上大切な人が遠くに行ってしまわないように。
◇◇◇
廃寺に拠点を置く魔法少女達。ルーラを除く、ミナエルとユナエル。たま。スイムスイムの四人はスノーホワイトから奪ったキャンディを確認していた。
【3万5000個】
スイムスイムの作戦は成功していた。
あとはコレをルーラ。スノーホワイト。ラピュセルの三人を除く残りの魔法少女に分配するだけだ。
ミナエルユナエル達は、これを配っちゃうわけ? もったいなくない? など不満を言っていたがスイムスイムは気にせずに端末を操作する。
たまはこの割り算がよくわかっていないようだった。
これから魔法少女が引き算されていくのも、多分たまはわかってないのかも知れない。
仲間にキャンディを配り終える。次は他の魔法少女達だ。
寺を飛び出し、残りの魔法少女を探すのにはファヴの力を借りる。
ファヴはこういう時に役に立つ。他の魔法少女との仲介役。
ファヴを通して連絡をしていれば多少訝しまれるだろうが、話し合いの場すら設けてもらえないという、最悪の事態は避けれるはずだ。
手始めにシスターナナとウィンタープリズンの所に行き、キャンディを渡す。
シスターナナは感謝し喜ぶ。シスターナナの傍らに控えていたウィンタープリズンは、スイムスイムを警戒しているようだったが、こちらに争いの意志が無い事をファヴを通じて事前に通達していたので、不要な諍いは起こらなかった。
その後も魔法少女達にキャンディを渡す。
やはりファヴを使っての交渉はスムーズに事が運ぶ。
スイムスイムはそう思いながら残るトップスピードとリップルの二人にキャンディを渡しに向かう。
スイムスイムはトップスピード達と落ち合う約束をしていたのだが、トップスピードは一人でやって来た。
「リップルは?」
なぜ居ないのかという短い質問にトップスピードは沢山の返事をする。
「あいつとはこれから落ち合う予定だから、俺の箒に乗ってけよ! ところで今日も、お前一人なのか?」
以前にもスイムスイムはトップスピードと関わり合いがあった。
その時はルーラとの約束を遅刻しそうだったので、トップスピードの箒に乗せて貰った事があったなと、スイムスイムは思い出していた。
「今日はキャンディを渡しに来ただけ。ルーラは居ない」
聞かれた事に説明をするスイムスイムにトップスピードは構わず喋りかける。
「なんだお前今日はパシリか! ルーラのやりそうな事だなー」
そう言いつつトップスピードはパシリではなく、おつかいの方が近いかなどと思いながら談笑していたが、スイムスイムは気にも留めず箒に乗り、リップルの居る場所まで案内をしてもらっていた。
ふとスイムスイムが口を開く。
「赤ちゃん元気?」
トップスピードは以前にスイムスイムに話したことがあった。
自分のおなかに赤ちゃんが居る事を。そのことを覚えていたのかと、感心しながらトップスピードは答える。
「そりゃもちろん元気に決まってるだろ! なんてったって俺の子だぜ!」
よくわからない自信だったが、トップスピードは言い切る。
そうこうしている内にリップルとの合流場所にたどり着く二人。
「……チッ」
開口一番に舌打ちをするリップルを気にも留めずに、これからキャンディを渡すと説明するスイムスイム。
「なんでまたキャンディなんか渡しに来たんだ? ルーラも変な事考えるんだな」
トップスピードが疑問に思いながらも端末を差し向ける。
渡し終えるとサンキューとお礼の言葉が返ってきたが、気にせずリップルの端末にも同じ個数のキャンディを渡す。
「んな怖い顔すんなってリップル! 俺らには良い事尽くしなんだからよ」
トップスピードは場を和ませようとしているのか、作業中も話しかけていた。
全ての作業を終え、帰ろうとするスイムスイムに声をかけるトップスピード。
「帰りも送ってってやろうか?」
首を横に振りそのまま帰ろうとするスイムスイムに、ルーラによろしくなと言うトップスピードの声が遠くに聞こえていた。
◇◇◇
すべての魔法少女の端末にキャンディを渡し終え、帰路についていたスイムスイムの目の前にスノーホワイトが現れた。
「私の手助けは要らなかったみたいですね。みんなに飴を渡す事、きちんと出来て良かった」
突然話しかけるスノーホワイト。まるで今までの行動を見てきたかのような言動に、警戒しながら対峙するスイムスイム。
「この前、困っていたみたいだから」
スノーホワイトは笑顔のまま話し続けている。
スイムスイムはおかしな事を言うスノーホワイトを睨みつけながら尋ねる。
「何が言いたいの?」
その問いにスノーホワイトは笑顔で答える。【助けたい】と。
自分を襲った相手を助ける? スイムスイムは理解できなった。
ただ眼前の少女が無邪気な笑顔をこちらに向けていた。
それは例えるなら母親が赤子に向けるような、もしくは赤子が母親に向けるような……
そんな敵意も悪意も無い。ただ純粋な笑顔は、スイムスイムにとって理解できるものではなく、足早に立ち去ろうとするスイムスイム。
「ルーラによろしくと伝えてくださいね」
スノーホワイトのそんな声が届く。先ほどのトップスピードと同じような言葉なのに、スイムスイムには、まったく違う別の言葉に聞こえていた。