クラムベリーは部屋の中でファヴと会話を交わす。
今週の犠牲者が0だった事。何者達かが意図的に最下位の魔法少女をを二人作った事。
そしてその何者達はすぐにわかった。
ファヴによるとスノーホワイトとルーラの二人がキャンディを同じ数にしていたという。
クラムベリーはこういった事態は想定していた。
しかし一度敵対していたスノーホワイトとルーラが、結託するというのが腑に落ちなかった。
【ぽん? どうしたぽんクラムベリー?】
ファヴはいつものように感情の無い声でクラムベリーに話しかけている。
「少し気になる事がありまして、なぜスノーホワイトとルーラなのかと思い」
クラムベリーは率直にファヴに問うていた。問いに対してファヴは相変わらずの声で答える。
【仲直りしたんじゃないかぽん? 友情要素は正しい魔法少女に必要かもしれないぽん】
ファヴの答えに歪な笑顔を見せるクラムベリー。
「正しい魔法少女ですか……」
部屋には音も無い。
ただ端末から浮き出るファヴの無機質な微笑みだけがクラムベリーの顔を照らす。
◇◇◇
あくる日もスノーホワイトとルーラとラピュセルの三人は街で人助けをしている。
三人は自分達の得意な形で各々作業を分担していた。スノーホワイトは困っている人を探し。
ルーラは争いの仲裁や困っている人にアイディアを授けていた。
ラピュセルは騎士は体を張るのが仕事と言わんばかりに遅刻しそうな人を連れて走ったり、重い物を持ち上げていて、魔法は使わずに問題に対処をしている。
時折ラピュセルはルーラに対し自分の方がスノーホワイトの役に立ってると張り合い。
ルーラはルーラで、そんなラピュセルをからかいながら楽しんでるようにも見える。
スノーホワイトはそんな二人の様子を微笑ましく見守りながら、時折飴を手渡している。
人助けも一段落し三人は因縁のある件の鉄塔の上に集まり、会話を交わしていた。
「これだけ沢山のキャンディを集めたら今週は安心かな」
ラピュセルが端末を確認しながら呟く。
だがルーラはその言葉には賛同せず問題を提起する。
「忘れたの? キャンディを奪いに来る輩が来るかもしれないのよ?」
どの口で言っているのだろうとラピュセルは喉から出かけていたが口にはせず黙っている。
ルーラの投げかけた問いにスノーホワイトは迷いもせず答える。
「飴が欲しくて困っているのなら、その人も助ければいいんですよ」
スノーホワイトの言葉に二人は呆れつつも、しょうがないという感じであった。
「どんな事があってもスノーホワイトの事は私が守るから、今度こそ絶対に」
ラピュセルは前回の事をいまだ悔やんでいるのだろう言葉を発するその口に力みを感じさせる。
二人の微笑ましい光景を見ながらルーラは別の事態を危惧していた。
他の魔法少女がキャンディを奪いに来るだけならまだ良い。
問題は殺しに来た場合だ。ラピュセルはともかく、ルーラやスノーホワイトは戦闘能力のあまり無い比較的打たれ弱い魔法少女だ。
もしこのままキャンディ争奪に生き残る事ができたとして、殺し合いではそうはいかない。
ルーラの不安を読み取ったのかスノーホワイトはルーラに声をかける。
「大丈夫ですよ、戦いを起こせなくすればいいんですから」
スノーホワイトは軽々と言ってのけるが、ルーラにとっては意図がわからず困惑する。
それでも笑顔を絶やさずスノーホワイトはルーラを見ている。
きっと不安を解消しようとしているつもりなのだろうとルーラは思うことにした。
「まあ……今は3人で行動するのが一番の防衛策ね、数が多ければそれだけ相手も手を出しづらいだろうから。後は先に潰す事も考えないといけないのだけど、スノーホワイトはそういうのはやる気がないんでしょ?」
呆れた顔をしながらもルーラはスノーホワイトの意見を尊重する。
「まったくお人好しね……三人で対処できない敵が現れたら逃げる事優先よ! 生きてればキャンディの数では私達が勝ってるのだから」
敵が現れたときの方針を決めて二人に説明をするルーラ。
協力と言う対等な関係であるものの作戦の立案などをするのがやはり性に合うらしい。
ただルーラは逃げろとは言ったものの、その通り上手くいく保証も無く、ただの願望に近い。
そしてルーラが気がかりにしているのは3人の中で戦力の大半を占めているラピュセルがスノーホワイトを守る事に必死になっているところだった。
敵と相対した時に無理しなければよいのだが。
もちろんその原因を作ったルーラにとってこの問題は少々頭の痛いところではあるのだが。
「ルーラさんもお人好しですね」
場が静まる。ラピュセルは困惑してルーラがお人好しという言葉を疑問に思っている顔だ。
スノーホワイトの一言に背筋を凍らせるルーラ。常に心を読まれている。
相対して分かった事だが、敵でも恐ろしいが例え味方でも油断の出来ない相手。
ルーラはラピュセルの方に視線を移し話しかける。
「ラピュセル、あんたも心の中覗かれても良いよう利口な事を考えておくことね」
照れ隠しだろうか。年長者からのアドバイスのように言い放ち切り抜けようとするルーラ。
それに対してスノーホワイトは笑顔で、ラピュセルは一生懸命心の中を読まれないように頑張ってるんですよと言い放つ。
「ラピュセル……あんたも大変ね」
日も暮れラピュセルはそろそろ帰らないとと言い、明日はスノーホワイトの入院している病院で落ち合うことを約束して帰宅の途につく。
「ラピュセル約束だからね!」
スノーホワイトの口からは明日も会うことへの約束だろうか。
大げさだとは思いつつもラピュセルは騎士としてその約束に応える。
キット守る……そう心に誓い、鉄塔の下に降り立つ。
ラピュセルはスノーホワイトとルーラに向かい手を振り帰路へつく。
ルーラとスノーホワイトは手を振り返す。
「……キット守るか……」
スノーホワイトはラピュセルの声を聞き届けひとりごちながら、ルーラと一緒にたまり場になっている病院への帰路についていた。
◇◇◇
一人帰宅すると言ったラピュセルは今だ鉄塔の近くで佇んでいた。
「そろそろ姿を現したらどうだ?」
周囲に声を発しラピュセルは近くに居る何者かに話しかける。
すると何者かは先に声をかけられた事に喜びを隠さず嬉々として言葉を返していた。
「お気づきでしたか、さすがですね。それでこそ見込み甲斐があるというものです」
突如現れ意図のわからない発言をする魔法少女に対しラピュセルは落ち着き払っている。
キャンディ狙いだろうか、それとも命を狙ってきたのだろうか。
ラピュセルは相手をじっくり捉え鞘から剣を取り出し名乗りを上げる。
「我が名はラピュセル! スノーホワイトの守る騎士だ!」
名乗りをうけ、それを戦いの承諾と判断しクラムベリーも名乗りを上げる。
「私は森の音楽家クラムベリー、あなたと戦うのを心待ちにしていました」
ラピュセルは殺気を感じ咄嗟に剣で身を隠す。鈍い衝撃が剣を通して手に伝わってくる。
挨拶代わりの何かを防いだラピュセルにクラムベリーは喜びを隠せなかった。
「素晴らしい! 魔法少女三人を相手に一人で勝ったと言うのは本当のようですね」
ラピュセルは得体の知れない相手だと直感する。
スノーホワイトをここから遠ざけて正解だったと確信しながら剣を構えクラムベリーを睨む。
見たところクラムベリーとは距離が開いている、先ほどの衝撃は魔法だろうか。
もしラピュセルがただの騎士なら間合いをとるのは余りにも不利な状況だが。
ラピュセルは違う魔法少女だ、己の武器を巨大化させ相手に近付かなくとも渡り合える。
剣を巨大化させ一気にクラムベリーへなぎ払う。
しかしクラムベリーはラピュセル渾身の一撃を避け懐に入り込む。
ラピュセルは落ち着いて剣の大きさを戻し切っ先をクラムベリーへ向ける。
「なるほどそれがあなたの戦い方ですか、剣を自由自在の大きさに変えるというのは中々戦いに向いた能力ですね」
しかし、と付け加えクラムベリーはラピュセルの戦い方を指摘する。
「先ほどから躊躇っていらっしゃる、相手を殺すことに」
ラピュセルにとってもクラムベリー指摘はわかりきっている事だった。
自分は騎士だ、そう言い聞かせ姫を守る為には手を汚す事を覚悟しなければならない。
だがいくら魔法少女になり精神面で強くなったと言えど
いや普通よりも優しい、何よりも
何があってもスノーホワイトを悲しませるわけにはいかない。
どんな事をしてもスノーホワイトを守らなければいけない。
騎士としてというより幼馴染として、そんな事は頭では理解しているが体が動かない。
クラムベリーは研ぎ澄まされた体術でラピュセルを防戦一方に追い詰める。
「なるほど、あなたは人を殺したことが無いのですねラピュセル。しかしそんな生ぬるい考えではこの試験は生き残れませんよ? それこそスノーホワイトを殺してでも生き残る覚悟でないと」
クラムベリーはラピュセルへ語りかける。試験を通して魔法少女は成長していく。
今は躊躇っているかもしれないが成長する事でクラムベリーの期待する強敵になってくれるかもしれない、そう考えての助言のつもりだろうか。
ラピュセルにとってもクラムベリーを放置しておくわけにはいかない状況になった。
もしここで退けばクラムベリーはスノーホワイトを殺しにいくだろう。
そう直感した。もはや
「クラムベリー! 貴様はここで私が討つ」
決意の表しなのか鞘を空高く放り投げ、クラムベリーに切りかかる。
クラムベリーは笑みを浮かべながら距離を取り目に見えない
だがラピュセルも剣を変化させ自身を囲み、その衝撃波から身を守る。
見えない攻撃だが相手の
サッカーで鍛えられた洞察力で相手の動きを読み応戦していく。
防戦だけでは無く。
ラピュセル自身覆っていた剣を巨大にさせ相手を押しつぶすような攻撃も行う。
そんなラピュセルの攻撃もクラムベリーは簡単に躱していく。
「その剣は厄介ですね……ではこれならどうでしょうか」
クラムベリーは飄々とかわしながら反撃にうつり、剣を構えた手を狙った攻撃を繰り出す。
ラピュセルは躱す事も出来たが、あえて剣を弾かせた。
剣を失ったと思わせ、自分に視線を集める為に。
剣が地面に落ち金属音がこだまする、クラムベリーは無防備になったラピュセルを仕留めようと衝撃波を出そうとするがその攻撃はラピュセルに届かない。
先ほど空高く放り投げた鞘を巨大化させクラムベリーを鞘の中に閉じ込める。
「クラムベリー! 勝負は私の勝ちだ!」
ラピュセルは勝利を声高に宣言する。
しかし閉じ込められた鞘の中でクラムベリーは笑う。
「まさか鞘も巨大化するとは、しかし鞘の中に閉じ込めたのは失敗ですね、鞘で押し潰せば本当にあなたの勝ちだったのに」
鞘の中のクラムベリーの表情は見えないがそれでもラピュセルの優位に変わりは無い。
しかしクラムベリーは並大抵の魔法少女ではなかった。
鈍い音と共に鞘の下の地面が抉れる、ラピュセルは地面から出てくるであろうクラムベリーへ剣を突きつけようとするが。
「ラピュセル!」
突如後方からスノーホワイトの声が聞こえラピュセルは振り向く。
その直後ラピュセルの体は鉄塔へと吹き飛ばされ叩きつけられる。
吹き飛ばされながらラピュセルはスノーホワイトの事だけを考えていた。
「小雪……守れなくてごめん……」
交わした約束に対しての謝罪だろうか、懺悔ともとれる声は消えそうなほど小さい。
鞘の下から這い上がり埃をはたき落としながらクラムベリーはとラピュセルへ近付く。
「少々汚い手ですがこれもまた一興、やはりあなたにとってスノーホワイトが弱点のようですね」
スノーホワイトの声を作りだしてラピュセルの注意を引く、純粋に戦いを楽しむクラムベリーだったが凌ぎを削りあい後一歩のところで勝利する、そういった駆け引きが一番の楽しみでもあった。
鉄塔に叩きつけられたラピュセルは気を失い変身が解け
「男の魔法少女ですか、これは珍しい」
それは多くの魔法少女を見てきたクラムベリーにとっても驚くような珍しい光景だった。
「尚更残念ですね。スノーホワイトという枷があるから、あなたは綺麗な騎士であろうとしたのでしょうね」
クラムベリーはラピュセルの強さを認めながら同時にその弱さを惜しむ。
そして何かを思いつき歪な笑みを浮かべる。
魔法少女になりきれていないから。そう結論し
踵を振り上げ
何かを踏み潰すような音が辺りに響く。
それは音楽家が奏でた騎士の
愉悦に浸り、満面の笑みで岸辺颯太を見下ろすクラムベリーに声と足音が届く。
「クラムベリーさん」
クラムベリーは足音が聞こえ後方へと視線を向ける。
かなり距離の離れた後方にスノーホワイトが居た。
クラムベリーは音を操る魔法少女だ、その音が聞こえる範囲は
だがスノーホワイトもどうやらその普通の領域から外れているようだった。
「まさか本当に来ていたとは」
近付いてくるスノーホワイトに少し驚きながらも向け衝撃波を放つ。
並大抵の魔法少女なら自分の首と体が離れてから気付くぐらいの速度だ。
突然スノーホワイトはよろけ体勢を崩す。首に向けて放つ音速の刃は空を切る。
偶然だろうか、続けてよろけた相手に向かってまたも音速の斬撃を放つがスノーホワイトは地面に落とした飴を拾っていてまたも避けられる。
偶然にしては可笑しい、クラムベリーは新たな強敵の出現に狂喜していた。
「はじめましてスノーホワイト、私は森の音楽家クラムベリー。こうしてお会いするのは初めてですね」
クラムベリーは新たなる敵に名乗りを上げる。
スノーホワイトはただ笑顔ではいと答え、お近づきのしるしに飴をどうぞとクラムベリーに手渡す。
命知らずなのかはたまた、攻撃しない事がわかっていたのか。
スノーホワイトは無防備にクラムベリーに近付き話をする。
「クラムベリーさん今日は退いてくれないでしょうか?」
突然の停戦の申し出だった、クラムベリーは最初は拒否するつもりだったが乱入者が現れる。
クラムベリーは耳を澄ませる、物陰から心臓の音が聞こえる。
物陰に隠れた何者かがこちらを見ている、隙をうかがっているのだろうか。
「ルーラさんコソコソしないで、サアサア一緒に話し合いをしましょう」
スノーホワイトが隠れていたルーラに話しかける。
クラムベリーは逡巡する、ルーラのほうに攻撃をすればスノーホワイトに隙を見せることになる。
しかしその逆も然り。そんな風に考えていると遠くの方から救急車の音が聞こえる。
なるほどと呟き、勝負に水を差されるのはこちらとしても本望ではない。
クラムベリーはスノーホワイトの提案を受け退く事を決めた。
「邪魔が入りそうなので今日の所は帰ることにします、また後日お会いしましょう」
足早に退いていくクラムベリーに手を振るスノーホワイト。
そんな様子を見て気が気じゃないとルーラは物陰から出てきていた。
「あんた何でそんなに余裕なのよ! もう少しで殺されるところだったのよ!」
ルーラの心配は当然だった、直前までラピュセルと死闘を繰り広げていたその辺り一帯は悲惨な状況であり、なおかつ当のラピュセルも重症を負って倒れている。
「救急車呼んでおいたから、あとはこの馬鹿がくたばらなければいいのだけど……」
ルーラは意識を失ったラピュセルに近付くがその惨状を見て絶句する。
下腹部から大量の血を流している、助かるかどうかも心配どころではあったがなにより、抉られた場所に驚き青ざめそうになる。
ルーラには分かり得ない痛みだろうが想像はつく。
例え生きながらえたとしてもこの少年は死んでしまう、そう直感した。
スノーホワイトは衣服に血がつくのを厭わずラピュセルに寄り添い抱きしめていた。
誰も何も言わない静けさ、救急車の音だけがこだまする。
スノーホワイトはどんな声を聞いているのだろうか。
ルーラはただ二人を心配していた。