双葉家の備忘録   作:maron5650

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超常現象プロダクション
1.生まれてくれて、ありがとう。


「いやー……。」

 

べちゃりと床に倒れ伏し、情けない声をあげる。

 

「騒いだなぁ……。」

 

周囲に散らばるクラッカーのテープ。

トランプ。オセロ。占いの本。その他諸々。

家にある、ありとあらゆるもので遊び倒した証拠が散乱していた。

 

「仁奈ちゃん、寝ちゃったみたい。」

 

いかにも誕生日らしい三角形の帽子を被り、鼻眼鏡をかけたきらりが顔を出す。

騒ぎ疲れた仁奈を、お隣であるきらりの家に運んでいたのだ。

こいつめちゃめちゃ楽しんでやがるな。

私も人のこと言えないけど。

 

「……そ。」

 

のそりと起き上がり、仁奈が寝ている部屋へと向かう。

きらりには、前もって言っておいた。

だから彼女は。私が何処に行くのかも聞かないし、付いてくることもない。

 

仁奈が一通り楽しんで、笑って、騒いだ後。

疲れ果てて、眠ってしまった後。

目が覚めて、少し冷静になった時。

 

きっと仁奈は、泣いてしまう。

 

 

 

 

「起きてる?」

 

こんこん、と、扉を叩く。

反応は無い。

単純に寝ているだけなのか、そうでないのか。

これが普段と同じ日だったのなら、私は素直に帰ったのだろう。

 

合鍵を取り出し、ドアノブに差し込む。

軽く手首をひねると、カチャリと音が鳴った。

仁奈をここに運んだ時。きらりは、鍵を持っていなかった。

 

「仁奈。」

 

真っ暗な部屋の中。

ぽつんと取り残された布団。

真ん中が、膨らんでいた。

 

「……楽しかったね。今日は。」

 

その隣に腰を下ろし、あぐらをかく。

仁奈は寝たふりを決め込むようだった。

 

「まあ、誕生日だからね。

楽しいし、面白いし、だから笑っているもんさ。

今日は、そういう日だよ。」

 

布団の上から、優しく仁奈を撫でる。

その中の塊は、少しだけ震えていた。

 

「でもさ。

それだけじゃなきゃいけない、なんて。

そんなわけでも無いと思うんだ。」

 

頭らしい部分を手ざわりで感じ。

そこにぽんぽんと触れながら。

仁奈が、責められていると思わないように。

慎重に、言葉を選ぶ。

 

「みんなで遊べて楽しかった。

祝ってもらえて嬉しかった。」

 

仁奈の震えが大きくなっていく。

私はその震えを撫で続ける。

 

「でも。ママが居なくて寂しかった。」

 

びくり、と。一際大きい反応。

……ああ。やっぱり、杞憂ではいてくれなかった。

 

「こんなにも楽しくて、こんなにも嬉しくて。

でも、ママが居ないのが悲しくて。

だって誕生日は、親に祝ってもらうものなのに。」

 

仁奈は、優しい子だ。

優しいから、隠してしまう子だ。

誕生日は楽しいものだから。

そんな日に泣くなんて、おかしいことだから。

あってはいけないことだから。

 

「それでいいよ。隠さなくていい。

だって、楽しかったのも本当なんでしょ?」

 

手のひらの下の塊が、何度も揺れる。

ここで頷いてくれるから。

やっぱり仁奈は、優しい子だ。

 

「だったら、いいよ。

なんでママじゃないのって。

声を上げて泣いたっていい。

我が儘を言ったって、いいんだよ。」

 

その身を覆った掛け布団を、ゆっくりと持ち上げる。

優しく。緩やかに。仁奈を傷付けないように。

 

「……ほら。おいで。」

 

仁奈は抵抗することなく、殻を引き剥がされた。

泣きじゃくった顔が、こちらを見ていた。

私が両手を広げると、仁奈は腕の中にそっと収まった。

 

「ねえ、仁奈。」

 

貴方を泣かせてしまった日だけれど。

それでも私は、今日を嬉しく思うんだ。

祝いたいって思うんだ。

数年前の今日。貴方が生まれた日なんだよ。

生まれてくれた日だからさ。

 

 

 

 

 

「生まれてくれて、ありがとう。」

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