双葉家の備忘録   作:maron5650

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5.本物よりも幸せに

『うん。何処からどう見ても、立派なお姉さんだ。』

 

お母さんはそう言って、私を姿鏡の前に立たせた。

そこに映るのは、髪を2つに結んだ私の姿。

「お姉さん」。その響きが嬉しくて。

お姉さんで居続ければ。頼りになる人であり続ければ。

お母さんを、喜ばせてあげられるかな。

 

そんな考えを、まだ捨てられない私は。

本当に、子供だ。

 

 

 

 

 

「へー、交流会ねえ。」

 

私は胡座をかき、その上に仁奈がちょこんと乗っている。

朝の身支度は、私の仕事。

右手に持った櫛で髪をとかしながら、仁奈の言葉に相槌を打っていた。

きらりは私達より早く起き、人数分の食事を用意して、もう学校に行っている。

 

「そーです! かきゅーせーに色々教えてやるですよ!」

 

仁奈は目を輝かせて意気込む。

いつものように適当に聞き流しながら、寝ぼけた頭は違うことを考える。

私も高認とか取っとくかな。確かあれ16歳以上だったよな。

現状アイドル業で十分食ってける気はするけど。

目の前の少女のせいで、適当に生きていくわけにはいかなくなったし。

万が一を考えると、なぁ。

 

「……ん? 下級生?」

 

髪をすく手と将来についての思考が止まる。

交流会って、別の学校の同学年とかじゃなくて、下級生と?

 

「そーです! 仁奈はおねーさんになるですよ!」

 

私の疑問に、嬉しそうに仁奈が返す。

おねーさん。おねーさん、か。

そっか。そういえば。

私がヘアゴムを貰ったのも、仁奈くらいの身長の頃だったっけ。

 

「じゃあ、おめかしをしなきゃね。」

 

私は櫛を持っていない方の手を後ろに回し、雑にヘアゴムを引っ張る。

髪は抵抗することなくするりと滑り、やがて解かれた。

きらり美容師による丹念なお手入れの成果だ。

お陰で髪を洗うのにやたらと時間がかかるけど、こういう時は便利だなと思う。

 

「ちょっと、引っ張るよ。」

 

仁奈に似合うのは、どんなだろうか。

頭の中でいくつか試してみる。

私と同じのは……んー、なんか違うな。

じゃあ……、これか。

あまり痛くないように、仁奈の髪をまとめる。

手早くヘアゴムを回し、完成。

 

「……よし。」

 

ツーサイドアップ。

頭の中で描いた通り、仁奈にはよく似合っていた。

姿鏡に仁奈を立たせ、言葉を贈る。

 

「うん。何処からどう見ても、立派なお姉さんだ。」

 

仁奈が私に、私達に。求めていることは、親の代わり。

それはどれだけ頑張っても、代わりでしかない。

私達は仁奈の親にはなり得ない。

仁奈が本当に求めているものには。絶対に。

 

「仁奈、おねーさんでやがりますか!?」

 

でも。何をどうしたって、偽物でしかないのなら。

せめて、本物よりも幸せに。

 

「うん。ばっちり。」

 

ごめんね。

私があげられるのは、こんなものしかないけれど。

それでも、私がもらった幸せだから。

せめてこれを、仁奈に贈ろう。

 

「やったー! ありがとうごぜーます!」

 

間に合わせでいい。有り合わせでいい。

応急処置で構わない。

もっと綺麗なものがあったら、捨ててくれたっていい。

だから。それまでは。どうか。

隣に居るのが私でも、どうか許してほしい。

 

 

 

 

 

笑顔で手を振る仁奈に、行ってらっしゃいと返す。

いつか私も、お姉さんになれるかな。

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