『うん。何処からどう見ても、立派なお姉さんだ。』
お母さんはそう言って、私を姿鏡の前に立たせた。
そこに映るのは、髪を2つに結んだ私の姿。
「お姉さん」。その響きが嬉しくて。
お姉さんで居続ければ。頼りになる人であり続ければ。
お母さんを、喜ばせてあげられるかな。
そんな考えを、まだ捨てられない私は。
本当に、子供だ。
「へー、交流会ねえ。」
私は胡座をかき、その上に仁奈がちょこんと乗っている。
朝の身支度は、私の仕事。
右手に持った櫛で髪をとかしながら、仁奈の言葉に相槌を打っていた。
きらりは私達より早く起き、人数分の食事を用意して、もう学校に行っている。
「そーです! かきゅーせーに色々教えてやるですよ!」
仁奈は目を輝かせて意気込む。
いつものように適当に聞き流しながら、寝ぼけた頭は違うことを考える。
私も高認とか取っとくかな。確かあれ16歳以上だったよな。
現状アイドル業で十分食ってける気はするけど。
目の前の少女のせいで、適当に生きていくわけにはいかなくなったし。
万が一を考えると、なぁ。
「……ん? 下級生?」
髪をすく手と将来についての思考が止まる。
交流会って、別の学校の同学年とかじゃなくて、下級生と?
「そーです! 仁奈はおねーさんになるですよ!」
私の疑問に、嬉しそうに仁奈が返す。
おねーさん。おねーさん、か。
そっか。そういえば。
私がヘアゴムを貰ったのも、仁奈くらいの身長の頃だったっけ。
「じゃあ、おめかしをしなきゃね。」
私は櫛を持っていない方の手を後ろに回し、雑にヘアゴムを引っ張る。
髪は抵抗することなくするりと滑り、やがて解かれた。
きらり美容師による丹念なお手入れの成果だ。
お陰で髪を洗うのにやたらと時間がかかるけど、こういう時は便利だなと思う。
「ちょっと、引っ張るよ。」
仁奈に似合うのは、どんなだろうか。
頭の中でいくつか試してみる。
私と同じのは……んー、なんか違うな。
じゃあ……、これか。
あまり痛くないように、仁奈の髪をまとめる。
手早くヘアゴムを回し、完成。
「……よし。」
ツーサイドアップ。
頭の中で描いた通り、仁奈にはよく似合っていた。
姿鏡に仁奈を立たせ、言葉を贈る。
「うん。何処からどう見ても、立派なお姉さんだ。」
仁奈が私に、私達に。求めていることは、親の代わり。
それはどれだけ頑張っても、代わりでしかない。
私達は仁奈の親にはなり得ない。
仁奈が本当に求めているものには。絶対に。
「仁奈、おねーさんでやがりますか!?」
でも。何をどうしたって、偽物でしかないのなら。
せめて、本物よりも幸せに。
「うん。ばっちり。」
ごめんね。
私があげられるのは、こんなものしかないけれど。
それでも、私がもらった幸せだから。
せめてこれを、仁奈に贈ろう。
「やったー! ありがとうごぜーます!」
間に合わせでいい。有り合わせでいい。
応急処置で構わない。
もっと綺麗なものがあったら、捨ててくれたっていい。
だから。それまでは。どうか。
隣に居るのが私でも、どうか許してほしい。
笑顔で手を振る仁奈に、行ってらっしゃいと返す。
いつか私も、お姉さんになれるかな。