双葉家の備忘録   作:maron5650

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8.輿水家の大掃除

「大掃除を、します!」

 

「おー!」

 

幸子の号令に、仁奈は勢いよく返事をした。

 

 

 

 

 

夏休みが始まってから、数日が経過。

両親を失った……失っていた幸子は、親元を離れ寮に住んでいた小梅と共に、2人で共同生活を送っていた。

幸子に1人暮らしをするだけの能力が無かったから、というわけではない。

実際、両親の幻覚を見ている間、幸子は1人で生活していたのだから。

小梅を家に招き入れた理由は、単純に幸子が寂しいからだった。

 

同棲を始めて、早速問題が訪れた。

家があまりにも広いのである。

ただでさえ、元々3人で暮らしていた家であるというのに。

裕福な家庭であったが故か、豪勢な一軒家なのだ。なんと3階建て。

 

両親が居なくなってから、幸子は必要最低限のスペースに対してのみ家事を行なっていたようだった。

トイレ、風呂、キッチン、リビング、廊下、各々の部屋、その辺りだ。

つまり。この家の大部分が、それはもう長いこと手付かずなのである。

 

流石に家の全部を常日頃から完璧にするのは不可能だが、半年に一度くらいは大掃除をしよう。

話し合いの末にそう決めた幸子と小梅は、芳乃に助力を求めて事務所へとやってきた。

するとそこに丁度全員、主に仁奈の宿題を見るために居たので。

今日のノルマを終わらせた後、こうして大掃除のために幸子の家へと向かったのだ。

 

 

 

 

 

『あたしも手伝った方がいいかな。』

 

2人ずつに班を分けて部屋を掃除していると。

小梅と仁奈が担当している部屋の空中に、メモがふわふわと浮かんだ。

 

「でも、仁奈ちゃんが視えないから……危ないんじゃない?」

 

それを見て、小梅は難色を示す。

幽霊が視えない仁奈が居る空間で、「あの子」が作業をするとなると。

不慮の事故が発生する確率が高いのではないか。

 

「……「あの子」おねーさんが、見えればいいんでごぜーますか?」

 

小梅の言葉に振り返り、メモを見た仁奈が尋ねる。

 

「そう、だけど……何か、いい案、ある……の?」

 

仁奈の表情に「そんな簡単なことでいいのか」と書いてある。

仁奈は自らの胸をばしんと叩き、幸子のように自信満々に答えた。

 

「らくしょーでごぜーます!」

 

 

 

 

 

「仁奈ちゃん、そっちは大丈夫そうですか?」

 

それから少しして。

杏と班になった幸子は、自分達の担当分がひと段落ついたので、他の班の手伝いをすることにした。

最も近かったのが小梅と仁奈の班だったので、まずはこちらの様子を見に来たのだ。

 

「…………。」

 

背中にかかった幸子の呼び声に、仁奈は作業の手を止める。

しかし、それだけだった。

返事をすることも、振り返ることもせず、ただ佇んでいる。

 

「……何か、壊してしまいましたか?

仕方ないですよ、これだけ物が多いんですから。壊れやすいもののひとつやふたつ。」

 

その様子を見て幸子は、仁奈が陶器か何かを壊してしまったと推測する。

これを見られたら怒られてしまう。だからといって隠すのはいけないことだ。

そうやって、どうしたらいいか分からなくなっているのだと。

 

「それより、怪我はありませんか?

手を切ったりとかは──」

 

幸子は仁奈の無事を確認しようと、その肩に優しく触れる。

そのまま引き寄せるようにして、仁奈にこちらを向かせた。

そして、幸子は仁奈の顔を見る。

 

「──、」

 

そこには、何も無かった。

キグルミのフードを被った頭には、頭が、身体が存在しなかった。

まるで頭の形のように膨らんだフードの裏地が、虚無が、幸子を見つめ返していた。

 

幸子は立った状態のまま、仰向けに倒れる。

完全に気絶していた。

 

……一部始終を後ろで見ていた杏は、ポケットから携帯を取り出す。

 

「ねえ、「あの子」がキグルミ着てるだけなのに幸子が気絶したんだけど。」

 

『「あの子」ちゃんがキグルミ着てるからだと思うよ?』

 

とりあえずソファかベッドにでも運ぼうと、杏はきらりに助力を求める。

「あの子」でも運ぶことはできるだろうが、途中で幸子が目を覚ます可能性を考えると、あまり良策とは言えない。

 

この後トイレから帰ってきた小梅が「何故そんな面白い場面を見逃してしまったのか」と小1時間落ち込むのだが、これはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

「私、とんでもないことに気がついてしまったかもしれません。」

 

班員のほたると共に部屋の掃除をしていた茄子が、床を拭く手を止めて呟いた。

 

「私が願ったら、埃を全部一箇所に集められるんじゃないでしょうか。」

 

「……あっ⁉︎」

 

その手があったかと言わんばかりに驚愕し、窓を拭いていたほたるは新聞紙を手から落とした。

 

「……“家中の埃が全部、この中に集まりますように”!」

 

茄子は70リットルのゴミ袋を広げ、声高に叫ぶ。

すると、次の瞬間。

 

「……出来ましたね。」

 

「出来ちゃいましたね……。」

 

空だったゴミ袋は限界の8割ほどまで膨らみ、中には埃がぎゅうぎゅうに詰まっていた。

 

喜びよりも前に、微妙な空気が辺りを包む。

これ、最初からやっていれば数秒で終わったのでは?

今までの私達の苦労、無駄だったのでは?

 

「……ラッキーですねっ!」

 

「……ラッキーです! はい!」

 

そんな考えを振り払うように、2人はラッキーと連呼し続けた。

頬を伝う冷や汗は、いつまでも止まってはくれなかった。

 

 

 

 

 

「……なるほどー、その手がー。」

 

気絶した幸子の元へきらりが行った後、1人で黙々と作業をしていた芳乃は。

家全体が茄子の気に包まれ始めたのを見て、全てを悟った。

 

その後。

定期的に茄子が訪れるという形で、輿水家の問題は無事解決した。

 

 

 

 

 

『本当に貰ってもいいの? これ。』

「ゆーじょーのあかしでごぜーます!」

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