現在の時刻は午後五時。学校から帰宅した俺は最近ハマっているゲーム「まどか☆マギカポータブル」をプレイしていた。
ちくしょう、またかよ…あと一撃で倒せたのによォ…
ゲームが下手くそな俺はシャルロッテが倒せずにイライラが溜まっていた。
シャルロッテを倒すために攻略サイトを覗いていると部屋のドアをノックもせずに親父がズカズカと中に入ってきた。
「よォ千裕。柿ピー切らしててさぁ。ワリィけどコンビニまでひとっぱしり行ってきてくんね?」
親父は俺に千円札を渡してきた。
「んじゃあ頼んだわ~。」
俺はまだ返事もしてないのに親父はケツをボリボリかきむしりながら部屋から出ていってしまった。
ったく…またこのパターンかよ…。
親父には頻番にパシリの如く使いを頼まれるのでこんなやり取りには慣れてしまった。俺は理不尽な命令にも愚痴をこぼすことなく学ラン姿のままコンビニへ向かう事にした。
ゲームで連敗しイライラが溜まって気分転換に散歩でもしようと思ってたから使いを頼まれるのはタイミングが良かった。
心地よい風を感じながら閑静な住宅街を歩いていく。
数分歩いた所で道端に花束が添えられてある場所を通りかかる。
俺はそこで足を止めて座り手を合わせた。
「母さん、今日もボクは元気に親父のパシリをこなしてますよ……。」
ここは昔、オレの母が通り魔に殺された場所だ。この道を通りかかった時は必ず手を合わせるようにしている。
あれからもう九年も経ったのか……あっという間だったな……。
母を殺した犯人に復讐するため、これ以上大切な人を奪われないようにするために空手を身に付け誰よりも強くなると決心した幼い頃の記憶を思い出す。
ここにいるとあの時抱いた感情が蘇ってきてとても懐かしい気分になる。
しばらくたそがれていたいが、遅くなる訳にもいかないので再びコンビニへ向かう事にした。
しかし歩きだそうと足を踏み出した瞬間俺の体に異変が起きた。
「ぐ……ぐあああ!クソったれ……何だってんだよ……!」
とつぜん尋常じゃない頭痛が襲ってきた。電流でも走ってんじゃないのかと思うほどの激痛。
俺は耐えられず頭を抱え込む。
いきなりどうしたってんだよ……ッッ!やべえ……このままじゃ……。
長く続く激痛で頭の中が真っ白になり目まいが起こる。意識はどんどん遠のいていき体の力が抜けて俺は気を失ってしまった。
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「……うぐっ……いてて……どこだ……ここ……。」
目を覚ました俺は体を起こし辺りを見回す。気を失う前は住宅街にいたハズなのに目を覚ますと周りの風景は薄暗い殺風景な工事中の部屋に変化していた。
「どうなってんだよ……どこだよここ……。」
とりあえず自分が今どういう状況に置かれているのかを確認すべく寝ぼけた頭をフル回転させる。
そしてある事に気付いた。
自分が今立っているこの場所はまどマギの一話の舞台になったショッピングモールの改装中フロアだ。
まどかとキュウべぇが出会った物語のハジマリの場所。そんな場所に何故、自分が立っているのか理解できなかった。
一瞬、自分は夢でも見てるのかと思ったが空気、景色、全てがリアル。間違いなく現実のものだ。
………………………
理解不能な出来事に思考がついて行けず俺はボーっと立ち尽くしていた。
しばらく立ち尽くしていると遠くで何かを噴射するような音が聞こえた。その音で我に返った俺は音がした方向を確認する。
誰かがこちらに向かって来てる……まさか……
何者かがコチラに走って来る音が聞こえる。とりあえずダンボールの後ろに身をひそめた。
足音がどんどん近くなってくる。
俺の予想が正しければ今こちらに走って来てる二人組は……。
「なによあいつ。今度はコスプレで通り魔かよ!つか、なにそれ。ぬいぐるみじゃないよね。生き物?」
「わかんない、わかんないけど、この子を助けなくちゃ!」
俺の予想は的中した。さっき走り去っていた二人組は間違いなく鹿目まどかと美樹さやかだ。
どうやら俺は本当にまどマギの世界にやって来てしまったようだ。
未だにこの空間が夢ではなく現実であることが信じられない。しかし現実である以上事実を受け入れなければならない。
まどかとさやかが怪我を負ったキュウべぇを抱えて走っていく。しかしアニメ通りに魔女結界が発動した。
周りの空間はファンタジーな世界へと変貌し、髭を生やした綿菓子のような使い魔たちがまどかとさやかを囲んだ。
俺は使い魔たちに見つからないように身を潜めた。まどかとさやかは接近してくる使い魔たちに怯えてその場に立ちすくんでいた。
しかし何も心配する事はない。もう少しすればアニメ通りにマミさんが助けに来てくれるハズだ。
身を潜めて使い魔たちがに襲われるまどか達の様子を傍観する。使い魔たちの魔の手はどんどん接近している。
大丈夫だ……そろそろマミさんが助けにやって来る。マミさんが……マミさんが……。
あれ……?遅すぎやしないか……?アニメだととっくに来てるハズだぞ……。早くしねえとマシでシャレになんねえぞ……。
もしかしたらこのまま助けにこないんじゃあ……。
不安に襲われ冷や汗が頬を垂れていく。まどかとさやかは壁際まで追い詰められていた。
鋭利なハサミを持った使い魔たちはどんどん距離を詰めていく。
駄目だ!このままじゃ間に合わねえ……!やはりここは俺が……ッッ!
腰を持ち上げ足を一歩踏み出す。しかし二歩目の足が出ない。
魔法少女でもない一般人の俺が行ったところで……あんな化け物どもに勝てる保証はあるのか……?下手すれば何も出来ずに殺されるだけじゃねぇか……。
死を想像した瞬間、体中が震え出す。恐怖で足がすくみ動けなくなる。
大丈夫だ……俺なんかが動かなくてもマミさんがそろそろ来てくれるハズだ……。
まどか達の姿を確認する。まどか達と使い魔の距離はかなり縮まっていた。もってあと数秒だろう。
もはや絶対絶命の状況だ。
「クソったれ……何やってんだよ俺……。」
空手を身に付けて強くなったハズなのに……結局、母さんの時と同じじゃないか……俺は目の前で人が殺されていくのをただ見守る事しかできないのかよ……。
臆病な自分に反吐がでた。
唇を噛み締め、拳を強く握り締める。
クソったれが……俺は……俺は………ッッ!!
使い魔はまどか達との距離を詰めた。追い詰められたまどかとさやかは恐怖で足が崩れ落ちる。
使い魔が鋭利なハサミを振り上げる
「きゃあああああああああ!!」
振り上げたハサミは容赦無くまどかに襲いかかる。
鋭利なハサミがまどかを貫こうとした瞬間だった。
「セイッッ!!!」
数々の大会で敵を叩きのめしてきた高速の廻し蹴りがまどかを襲おうとしていた使い魔を粉々に粉砕した。
「おい、お前ら、俺から離れんじゃねえぞ!!」
前方にいる使い魔の大群に向かって構えをとり戦闘態勢に入る。
「俺はもう……目の前で人が死んでいくのを見たくないんだよッッ!!!」
恐怖に支配された空間で化け物達との戦いの火蓋が切って落とされた